何が起きたのかわからなかった。
理解したくなかった。
シロがわたしを庇って、いなくなって
それがどうしようもないくらい怖くて、悲しくて
今何が起きようとしているのかも
わからなかった。
それがイリヤが気を失う前に感じた全てだった。
「な、なに…?なにが起きてるの…」
美遊が驚愕と困惑の声を上げる。
その原因は
「イリヤスフィール!!」
イリヤであった。
シロエが消えた直後
イリヤが両肩を抱き体を曲げ俯いた。
全てに絶望したかのように
そこまでは理解できる。
大切な妹の消息がわからなくなったからだ。
しかしその後イリヤの背から膨大な魔力が噴出したのだ。
「こ、これは一体…!?イリヤさん!」
その膨大な魔力の影響か
イリヤの転身は解けルビーが強制的に弾き出された。
「うっ…あ…ぁ…」
それでも尚、イリヤから噴出する魔力は止まることはない。
そして
遠目でもわかる黒い影が粉塵の中より現れる。
セイバーである。
身体中の氷は先の一撃で完全に取れているが
頭から流れる血、左肩から右の胴への大きな切り傷から溢れる血
全てシロエがつけた傷であり、敵も重傷であった。
それでも尚、その威圧感は衰えずこちらへ向かってきている。
「くっ…」
美遊がサファイアを構える。
シロエがあそこまで削ったんだ。
ここからはわたしが…!
そう考えた時だった。
「
俯いたイリヤから声が発せられた。
「えっ…」
「イリヤさん…?」
「イリヤ様?」
突如発せられた声に困惑する三人
「
そう繰り返しながら上げる顔
そこにあったのはいつもの表情豊かなイリヤではなく
敵を何としても打倒する
それしか頭にないようであった。
そしてその方法を模索し
「どうやって…?
手段…?方法…?力…?」
たどり着く。
「ああ───そういえば
力ならここにあった」
そう言いポケットから『
するとカードを中心として魔法陣が形成される。
そして
「
そう呟くと同時光に包まれるイリヤ
「嘘…、どうして…?」
「これは…」
光が治まるとそこにいたのは
黒い胸当てと短パンを着用し
その上から赤い外套を身に纏い
左手に黒弓を持つイリヤの姿があった。
絶句する一同
それをよそにイリヤは右手に矢を三本投影し
敵へ向かって跳んだ。
イリヤは三本の矢を弓につがえてセイバー目掛けて打つ。
二本はかわし最後の一本は剣で弾くセイバー
そこにイリヤはセイバーの頭上より、その両手に投影した黒と白の双剣で
セイバーの左肩を切り裂いた。
「~!!」
奇しくもシロエと同じ箇所を切り裂かれたセイバーはたたらを踏み後退
が、すぐに立て直し両手で剣を握り
剣を横薙ぎに振るう。
イリヤはそれをバク転で回避
双剣を手放すと再び弓矢を投影
再びセイバーに向かって放つ。
セイバーはその矢を紙一重で回避するもその頬に新たな傷がつく。
そんな戦闘を目の当たりにした美遊は信じられない思いでイリヤを見ていた。
その理由は
(あの姿…あの戦闘能力…
彼女は今、完全に英霊と化している…!)
そうイリヤはカードを使い英霊の武器を展開したのではない。
英霊そのものをその身に卸しその戦闘能力を得ているのだ。
そのイリヤのカードの使い方に美遊は驚愕していた。
そしてそれはルビーとサファイアも同様であった。
「姉さん…あれは一体…?」
「…恐らくはあれがカードの正しい使い方なんでしょうね」
「でも協会ですら解析できなかったカードの使用方法をどうして…」
「…使い方を知っていたんじゃなくて
手順を飛ばして結果だけを導いた…?」
二人が冷静にイリヤの能力について分析をしていた
その時だった
セイバーの持つ聖剣が再び黒く輝き巨大化したのは
「あれは…!」
「まずい!宝具の二擊目…!」
そう。シロエを消息不明にしたあの一撃が再び放たれようとしていた。
「逃げてイリヤスフィール!!
いくら英霊化しててもあの聖剣には勝てな…」
焦る一同
しかしイリヤは右手を掲げ
「
投影魔術を発動。
現れた武器は
銀色の両刃を持つ綺麗な装飾をあしらわれた西洋剣
本来の姿の聖剣である。
目を見開く美遊をよそに
魔力を溜め始めるイリヤ
一触即発、そんな空気が流れる。
その時だった。
ドスッ!!!
そんな音がセイバーから響く。
音の正体は胸部
胸部から氷柱が三本
セイバーを背後から貫いていた。
「…ガッ、ハ」
吐血するセイバーと共に漆黒の聖剣に光が急速に失われる。
「…お返しよ。座に帰る前に持っていきなさい」
そんな聞きなれた声と共に現れたのは
「シロさん!」
「シロエ!良かった無事で!」
シロエであった。
かなりボロボロになってはいるが
五体満足で無事であった。
そしてイリヤの持つ聖剣から光が溢れ
「
溜めに溜めた魔力が放出された。
黄金色の光は周囲を破壊しながらセイバーを容易く呑み込む。
光が治まり残ったのは
『
そして糸が切れたかのように倒れるイリヤ
「イリヤスフィール!」
美遊がイリヤの下に駆け寄る。
それと同時にイリヤの胸からアーチャーのカードが排出される。
さらに
「シロさん!」
こちらもいい加減限界だったのか
セイバーのカードを確認後倒れるシロエ
服装も私服へと戻っている。
こうして長い夜は終わりを迎えた。