強キャラ転生したのに強くなれなかった。 作:一般通過推しと死に別れた人
最近やってたゲームでストーリー中盤に出てきた推しの強キャラに死なれたので初投稿です。
__光暦377年、魔族の侵略行為によって始まった『第四次人魔戦争』は膠着状態に陥っていた。
戦争によって、魔族、人族の両方に甚大な人的被害が出ており、両方とも長期間この状態を維持出来る程の能力は無いため、戦争の終結は近いと考えられていた…。
_Last Palladions プロローグより
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戦争によって放棄されたある廃都市の広場。
先程まで戦場だったそこには、一人の赤い髪の女が立っていた。
彼女の足元には魔族の死体がいくつも転がっており、その死体からはまだ赤い血が流れ続けている。白銀だった彼女の鎧はほとんどが赤黒く染まっており、彼女の武器であるハルバードの先端からはぽたりぽたりと血がたれていた。
「ライラック隊長!ご無事ですか!」
鎧に身を包んだ兵士達が広場へと集まってきて、そのうちの一人の男が彼女の方に走っていく。
「…私は大丈夫だ。被害状況は?」
隊長と呼ばれた赤い髪の女は、男の方に向くこともなく尋ねる。
「死者5人、負傷者21人です。」
「…そうか。」
彼女はそれだけ言うと立ち上がり、歩きだす。
その時、同じように鎧に身を包んだ若い男が女に駆け寄り、興奮したように、
「やりましたね、隊長!歴史的大勝利ですよ!!魔族軍3000が全滅したのに対して、こっちの死者は
とまくし立てた。しかし、女は足を止め、
「…違う、
そう言って、再び歩き出す。そして、兵士達が運んできた5つの大きな麻袋の前まで歩くと、そこで立ち止まり、黙祷を行った。
戦勝ムードだった兵士たちは黙り込み、そのまま女に続いて黙祷を行った。
しばらくして女は目を開き、
「…
そう呟いた。
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『Last Palladions(ラスト パラディオンズ)』というゲームをご存知だろうか。
通称はラスパラで、スマホやPCで遊べるタワーディフェンス型のソシャゲである。
防衛拠点に向かって進軍してくる魔物や魔族に対して、味方の部隊を配置し、防衛拠点を守りきってそれらを殲滅すれば勝ち、逆に防衛拠点が破壊されたら負けというシンプルなゲーム性でありながらも、濃密なストーリーと個性豊かなキャラクター、ゲーム初心者でも楽しめる、ほどほどの難易度のステージや、ゲーム上級者向けの高難易度ステージなどによって、かなりの人気を博したゲームである。
かくいう自分も大ハマリし、キャラガチャに課金したり、夜を徹してイベントを進めることもあったほどだ。
例えば、部隊には、剣などで武装した前衛部隊、配置コストの低い狙撃部隊、盾で敵をせき止める重装部隊、高火力で敵を焼き払う術師隊、部隊の回復を担う医療隊、馬や竜に乗り、移動の速い騎兵部隊など、様々な部隊があり、戦略を組んで、それらを使い分ける必要があり、ステージによっては配置制限なんかもあって、その程よい難易度と、戦略が上手く行った時の爽快感がすごく好きだった。
そして、このゲームに登場するキャラクターの一人に『ライラック・クライス』というキャラクターがいる。
主人公達とは別の部隊の隊長で、赤のロングヘアにキリッとした紅目、白銀の鎧を着てハルバードを武器にするカッコいい系のキャラクターである彼女は、ストーリー序盤から中盤まで、戦闘面でも基地面でも活躍してくれるいわゆるお助けキャラだった。
性格は真面目で几帳面、会話や感情表現が得意ではなく、基本的に無表情なのだが、ストーリーが進むにつれ、主人公と話せるようになり、ストーリー中盤で見せてくれる少し不器用な笑顔に惚れたプレイヤーも多くいた。自分もそうだった。
また、前衛部隊の中でも少ない範囲攻撃持ちであり、更に、所持スキルが結構強く、特に戦闘中の部隊のHP代わりになる"部隊人数"の減少量をほぼ0にしてくれるスキルが強力で、実装待ちで石を貯める人も少なくはなかった。
しかし、ストーリー終盤近くになって、彼女はあっさりと死亡した。
作戦中に突如現れたラスボスから主人公を逃がすために、彼女が足止め役として残ったのだ。
彼女のおかげで撤退に成功した主人公たちが、物資を迅速に補給し、戻るとそこには冷たくなった彼女が……というシナリオだったのだ。
ストーリー配信日には、それはもう多くのプレイヤーが荒れた。その日のTwi●terのトレンド一位は『何故殺したんだ運営』だった。
自分も荒れたプレイヤーのうちの一人だった。彼女が死んだステージだけ、何度もリトライした。完全勝利しても、イベントフラグが無いかストーリーを全部読み直しても、ネットで探しても、ストーリーを全攻略しても、どれだけリトライしようとも彼女は死んだ。
たとえストーリーを全攻略しても、彼女が復活するような展開は無かった。
結局、朝になるまでずっと彼女が死んだステージをリトライし続け、その寝不足のせいで信号無視のトラックに気付かず、自分は死んでしまった。
で、その後女神みたいな人と会い、何故か転生出来るということになって、自分は、彼女に転生したいと言った。その時の自分は、彼女の強さと自分の知識があれば、彼女がラスボスに殺されることは無い…つまり、『彼女を生かすこと』ができる!と考えたのだ。正直、浅はかにもほどがあるが、その時はそれが最善だと思っていた。
そして、自分は彼女に転生した。
転生した当初はとても喜んだ。イラスト化されてない、彼女の幼い頃の姿を見ることができたし、バカみたいに修行して、俺tueeee!出来ると考えていたからだ。
結局、その考えが変わったのは14歳の時、両親が魔物に喰われてからだった。自分は何も出来なかった。修行で強くなっていたはずの自分の渾身の一撃は魔物の鱗にかんたんに弾かれた。結局、近くの街にいた軍人たちが魔物を討伐するまで隠れていることしか出来なかった。
その後、身寄りが無い自分は軍に引き取られ、生活のために軍役に就くことになった。
自分は、彼女のように強くなれないのではないかという不安を打ち消すために、与えられた自由時間は全て鍛錬に費やした。
手の皮はいつも剝けて血が出ていた。
折った訓練刀の本数は両手で数えれ無くなった。
魔族の血や内臓を嗅いでも何も感じなくなった。
トレーニングに使っていたベットの鉄骨が折れた。
模擬戦で所属している基地の兵士には負けることが無くなった。
部隊の隊長を任されるようになった。
睡眠時間は2時間まで減った。
たまに血を吐いた。
そのうち、人とはあまり話さなくなった。
…そうして5年が経っても、自分は、彼女のように強くなれなかった。
任務の時にはいつも誰か死んだ。
自分にハルバードの使い方を教えてくれた人が。
魔物に両親を殺された時に自分を助けてくれた人が。
いつも告白しては振られるを繰り返して、部隊の皆を笑わせていた人が。
軍の給料でいつも賭け事をやっては半裸で廊下に捨てられていた人が。
部隊の副隊長×部隊員でBL本を描いて、副隊長に吊るされていた人が。
皆、自分のせいで死んだ。
結局、自分ではそもそも彼女にはなれないのだと気づいてしまった。自分が言っていたことは、最初から、無理な話だったのだ。
その時、自分は『彼女を生かすこと』を諦めた。
その代わりに、できるだけストーリー通りに進ませようと考えるようになった。
ストーリー通りに進ませることさえできれば、自分は犠牲になるが、他の人達は生き残らせれる。彼女…ライラック・クライスになれなかった自分にとっては考えうる限り最高の結末だろう。
なぜなら、口下手な自分と話してくれる友人や、前世で好きだったキャラクターたち、それに……
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「ライラック、今、少し良いか?」
考え事をしていた私の正面に一人の青年が座る。
「…あぁ、構わない。私の部屋に無言で入ってくる必要があるほどの用なのだろう?」
黒髪に切れ長の金の目、少し高めの鼻と全体的にバランスが取れた顔、細身ながらも筋肉のついた身体、少し背が高く、前世の自分が見たら発狂するような整った見た目の青年。
「お前がノックしても気づかないからだろ…いや、すまん。まずはこの間の廃都市での戦闘、お見事だった。死んじまった5人については…責任はあの作戦を発案した俺にある。彼らの埋葬と家族への連絡は済ませた。あんな作戦を出して、本当にすまなかった。」
彼は、悔しそうにそう告げる。違う、君のせいでは無いんだ。そう言おうとして、これが彼の気遣いだと気づく。
「…いや、もう自分の中でケリはつけた。…大丈夫だ。」
彼にできるだけ心配をかけないように、言葉を選んだつもりだったが、少し失敗したかもしれない。
「そうか…、すまん。」
あぁ、やはり失敗していたようだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、私の表情は変わらないままだ。
数秒の静寂の後、彼が口を開く。
「ライラック、お前に頼みたいことがある。」
彼の顔が戦場を指揮する指揮官の顔に変わる。
「ここの山峡に、魔族たちが拠点を建設中であることが昨日わかった。」
彼が地図を開き、場所を指で示してくれる。
「…それで?」
「ここは非常時の際の物資運搬路の一つで、ここに敵拠点を作られると厄介だ。だから、ここの制圧を頼みたい。」
向きなおった彼と私の目が合う。
「…わかった。私なんかでいいなら…全力を尽くそう。」
そう言うと、彼は、
「ライラック、お前は自分で思ってるよりも何倍も強い。頼りないかもしれんが、俺が保証してやる。だから、“私なんか”って言わないでくれ。な?」
そう言って軽く笑ってみせた。
「…そうか、なら君の期待に答えれるように、できる限りの努力をしよう。…作戦は任せたぞ、エリアス。」
「ああ、任された。」
そう言って笑う彼の名前は『エリアス・クローサー』。 ラスパラの主人公であり、私の初めての友達。そんな彼を守ることができるのだから。
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扉を閉じ、先程までの様子を思い出す。
『自分の中でケリはつけた。…大丈夫だ。』
「あんな、諦めた目をして…どこら辺が大丈夫なんだよ…。あのバカ…。」
そう呟いて、青年は扉の前から歩き去った。
主人公は目が死んでます。
…多分続きません。