花山薫とヒシアマゾン 作:叶本
それでも平気ですという人に限り是非お読みになられてください。
トレセン学園へ向かうウマ娘達はみんな視線を同じ方向へと向けていた。
その先には、巨大な体格を持つ男がいた
その男は白いスーツを着ており、身長はあのヒシアケボノをも超えるほどの大きさであり、何より目立っているのはその顔に刻まれた疵である。
その男は過去に開催されたあの最大トーナメントにて激戦を繰り広げ、さらに世界から集結した死刑囚の1人と戦い、勝利を収めた。
その歴戦の経緯が顔や身体に刻まれている男、その名は『花山薫』。10代にて組織暴力団花山組二代目組長、いわゆるヤクザの組長となり、彼の背中に刻まれている刺青、「侠客立ち」を完成させた伝説の男である。
そんな男がなぜトレセン学園などという極道の世界の正反対のような場所にいるのかというと…それはわからない。
花山薫はいつものようにシマにしている街を歩いていると、見知らぬ道があり、興味があったわけでもないのに何故か引っ張られるように歩いていくと、いつのまにかトレセン学園の校門の前に立っていたのだ。花山薫は思考が全く追いつけなかった。なぜここを通っていく女は尻尾や動物のような耳が生えているんだ?しかもその女たちの顔はあの刃牙の彼女である梢とは似ても似つかないほど顔のパーツが違うんだ?
すると、前の方から声が聞こえてきた。花山薫は湧き出てくる疑問を無理やり止め、前を見ると、向こうから緑色の服を着、同色の帽子を被った女性が近づいてくるのが見えた。
「おはようございます!花山薫トレーナーさん。」
「だ…誰だ…?なんで俺の名前を知っている?」
「あっ…すみません!申し遅れました!私、駿川たづなという名前です!よろしくお願いしますね。あれ?花山薫さん、こちらの新人トレーナー名簿には花山薫さんの名前が載っているんですが…。それにもう担当ウマ娘も決めてしまっていますし…。」
そういいながらしょんぼりとするたづなを見ると少し胸が痛くなってきた。花山薫は考えた。
(俺のシマにいつの間にできたのかは分からないが…とにかくシマの中にあるってことは確かなんだから協力ぐらいはしてやってもいいだろう。)
「…分かった。そのとれーなー?というのをやろう。」
花山薫はシマにしている街の人間を大切にしている。そのため、惜しみなく力を貸すこともある。花山薫にとって、今回のこともいつものことだ。
花山薫の発言を聞いたたづなは目を輝かせ、笑顔になった。
「本当ですか!?ありがとうございます!それでは担当ウマ娘を紹介させて貰いますね!その子が待っている場所に行きますので、花山トレーナーさんはついてきて下さい。」
たづなはそう言うと、後ろに振り向き、歩き始めた。花山薫をそれに続き、歩き始めた。そして何個かの質問をたづなにした。
「駿川たづな…だったな?その…ウマ娘ってのは何だ?」
「はい。ウマ娘というのはですね、今のウマ娘の祖先にあたる三女神からそのウマ娘の血が受け継がれてきた生物です。基本的に普通の人間と同じ身体の構造ですが、身体能力、ウマの耳や尻尾の有無などの違いがあります。これ以上説明すると長くなってしまうのでここまでにしますが、もっと深く知りたい!のであれば、図書館で歴史の本をお読みになられると良いですよ♪」
「なるほど…それと、とれーなーというのは何だ?」
「はい、トレーナーというのはですね、ウマ娘はレースに出場することがあるんです。そのために体を鍛えるのですが、ウマ娘個人だと自身の怪我に対する注意やトレーニングの内容の決定など、やる事が多すぎるため、トレーナーという職業の人をつけるんです。トレーナーの仕事は主に担当ウマ娘の管理ですね!怪我に注意したり、ウマ娘とコミュニケーションを取る事で絆を深めたりなど、たくさんありますよ。もし分からない事があれば他のトレーナーさんに聞くとよいですよ!この学園で有名なのは…沖野トレーナーさん…ですかね。少し変わった人ですが…力は確かにあります。ちゃんとウマ娘たちに真摯に向き合ってくれますしね。それと…東条ハナさん…南坂さん…黒沼さんなどなどですかね!他にもいますので、遠慮せずに聞いてくださいね!」
「そうこうしているうちに着きましたよ!え〜っと…ここらで待っていると言っていたのですが…」
たづなはそう言うと、あたりを見回し始めた。目の前にあるグラウンドを眺めていると後ろから声がした。
「へえ…アンタが私の担当トレーナーかい?」
「タイマンしがいがありそうだ」
褐色の肌…綺麗に輝くトパーズのような瞳の色…笑っている口から覗く八重歯…
「あっ!そこにいたんですね!探しましたよ〜」
「さて、花山薫さん。こちらがあなたの担当ウマ娘、ヒシアマゾンさんです!」
「よろしく頼むよ、トレ公」
「…ん。」
ヒシアマゾンというウマ娘からの挨拶をそっけない返事で返した花山薫はたづなさんに少し咎められた
「花山薫さん!その態度はダメですよ!もう少し親しみやすい返事をお願いします!」
「……よろしく頼む…。」
「まぁいいでしょう。ヒシアマゾンさん、花山薫さん。私はここで失礼させて頂きますね。他にもやらなきゃいけない仕事があるので♪それでは!」
そう言うと駿川たづなはそのまま校門の方へと駆けていった。残された2人に少しの沈黙が流れる…。そして最初に口を開いたのはヒシアマゾンだった
「アンタ…強いだろ?アタシには分かるぞ。」
「…。」
「黙ってないでなんか言いなよ。アタシちょっと寂しいよ。それほど強そうなんだ、何かすごいトレーニングをしてるんだろ?」
「…鍛えた事はない。」
「!?」
何を言っているんだ…?この目の前の男は?そんな体をしておいて「鍛えてない」ってのはおかしいだろッッ!!??
「いっ…イヤイヤイヤ〜〜…。アンタ、そんな体してるのに鍛えてないはないだろ?走り込みとか筋トレとか普通してるんじゃないのか?」
「体育の日には走ってるが…。」
「イミわかんないよッ!!!…はぁ…とりあえずトレーナー室へ行こう…。そこでお互い少し自己紹介をしようか。」
「分かった…。」
ヒシアマゾンと花山薫はトレーナー室がある場所へと向かっていた。そこにはプレハブハウスのようなものが並んでいた。花山薫は一つのプレハブハウスの前で止まった。そこにはドアの上に「スピカ」と書かれている板がかけられていた。
「スピカ…。」
「? チームスピカがどうかしたのかい?」
急に止まった花山薫に気づかずに進んでいたヒシアマゾンが戻ってきた。
「この『スピカ』ってのは何だ?」
「あぁ…何人かのトレーナーは複数のウマ娘を担当しているんだ。その際にチームとして登録するんだが、チーム名がないと始まらないだろ?スピカってのはチーム名なんだよ。ここには…確か…沖野トレーナーとサイレンススズカ…ダイワスカーレットとウオッカ、ゴールドシップだったかな?その5人がチームを組んでる。」
「沖野トレーナー…たづなから聞いた名だ。後で挨拶に行くとしよう…」
ヒシアマゾンはそんなヤクザに見えるような格好と外見で行くと不審者と間違われてボコボコにされそうだと思ったが言わないことにした。
「こっちだ。ここがアンタのトレーナー室だ。入ってみな」
「ん…。まぁまぁ広いな…。ドアは狭いが…。」
(160センチの私が大きいと思うドアが狭いって…)
「そこは仕方ない。そこにある机が会議用の机、隅っこにあるのがトレーナーの事務用の机だよ。そこの机にアタシとアンタの情報が載ってる書類があるから目を通しておいてくれ。特にアタシのはね。待ってな、お茶を用意する。」
「なるほど…ヒシアマゾンの書類は…こっちか…。」
「アタシもアンタのを見せてもらうよ。はい、お茶。」
そう言うとヒシアマゾンは2人分のお茶を机に置き、自分のお茶を啜りながら書類を手に取って目を通した。
ブーーッッ!!
ヒシアマゾンがさっき啜っていたお茶を吹いた。
「どうした…。ヒシアマゾン。」
「どうしたもこうもないよッッ!アンタ、そんな風貌で19とか…。しかもアンタヤクザじゃないかッッ!?」
「そうだが…何か悪いことでもあるのか…?」
「ヤクザって…ヤクザって…イヤ、学園が採用してるんだから文句は言うべきじゃないんだけどさァ…。ウゥ〜〜…。」
ヒシアマゾンは本来曲がったことが嫌いな性格、ヤクザが担当トレーナーという事実が少し受け入れられないが、学園が採用を決めたことなので口出しはできない。その事実にヒシアマゾンは悶えていた。そして出した結論は…忘れることだった。
「それよりヒシアマゾン…。この握力の数値って本当か…?」
「…ん?本当だよ。ウマ娘ってのはヒトよりも高い身体機能を持っているんだ。ヒトを軽々持ち上げることだってできるんだよ。」
「握力か…」
「もしかしてアンタ、握力に自信があるのか?」
「まぁ…握力が俺の特徴だったりはする…。」
「本当か!?少し勝負しても良いか?手と手を合わせて握り合うってのだ!」
「いいぞ。俺も少しウマ娘の力ってのを知りたい。」
花山薫は立ち上がり、ヒシアマゾンの前へと立った。そして手を差し出した。ヒシアマゾンも花山薫の身長に圧倒するも、前に立ち、差し出された手を握った。
「いちにのさんでいくよ!準備はいい?」
「…あぁ。」
「それじゃ…いち…にの…さんッッッッ!!!!」
ヒシアマゾンは手加減をして花山薫の手を握った。…ビクともしない。
手加減してもヒトにとってはまぁまぁ痛い力のはずなのに目の前にいる男は涼しい顔をしてこちらの顔を見ている。
手加減を少し解除して握り返した。リンゴを握り潰せるぐらいの力を出したが変わらずビクともしない。…なんなんだコイツは…?
「今度はこっちからいくぞ…。」
その声が聞こえた瞬間、身の危険を感じ、握力を手加減なしで最大まで強めた。しかしそれにも動じず、握り返された。
その時、ヒシアマゾンに痛みが走った。
「お゛ぉッ…ぬ゛ッ…!!」
変な声が出た。あまりの痛みに腰が抜ける。そして手を離された。わずか5秒の出来事なのにあまりの痛みで少し目が潤んだ。
「手加減したんだが…大丈夫だったか…?」
…は?イヤイヤイヤッッ!!ウマ娘の握力に勝てる時点でおかしいのにさらに手加減だって!?オカシイよッ!なんなんだよこの花山薫ってトレーナーはッ!!
ヒシアマゾンは目を少し擦って涙を拭うと笑みを浮かべて立ち上がった。
「アンタ…ホンっとに強いんだね…!気に入った!これからしっかりついてくるんだよ!トレ公!」
はたから見たら少々小物っぽいがそんなことはどうでもいい。目の前の男を本格的に私のトレーナーにするのが最優先だ。
「分かった…。これからもよろしく頼む。」
花山薫はそう言うと手を差し出してきた。握手の様子だ。ヒシアマゾンは手を握り、握手をした。
「……ヒシアマゾン、足震えてるぞ。」
「…あっ」