1事件前夜
ボーマは思った、律子は賢い女だ。
売春なんてする女は、とんでもないアホな子、薄ぺらい子、主張そのものが壊れている子のどれかである。
律子はどれでもない。
貧困の最終セーフティネットと言われる売春もセックスを専門とする人間型機械アンドロイド。
俗にセクサロイドと呼ばれるロボットに客を奪われている。
人間の女は1日に三人以上客をとると精神が壊れるが、セクサロイドはその心配がない。
律子は中国に取られた琉球からの難民である。
中国政府の共産党は琉球在住の全国民にマイクロコンピュータを埋め込んだ。
律子は心臓が止まる程の電圧を身体に流しコンピュータを破壊して、ボートで日本に脱島した。
琉球には沖縄と呼ばれていた頃から産業がなく、基地、観光、売春のいずれかしか就職先がない。
律子の家庭も5世代売春で生活してきたから、倫理観が完全に違う。
売春ビジネスを否定することは律子の家庭の存在を否定することである。
日本政府も脱島者に対しては難民認定を行い、公営の住居を提供して、一週間に一度下着と洋服を、同時に栄養価の高い粉物の飲み物を1日3度配給している。
住居の提供以外配給は国家が全国一律で行っている。
人工知能とロボットに仕事を奪われて、国民に50%会社仕事につけない。
ヘリコプター効果のような露骨なベーシックインカムを日本政府は採用しなかったが、食糧だけは全国民の配給が採用されている。
ボーマが彼女と出会ったのは、公安三課に潜入兼配属された時だ。
律子は頭のいい女で、誰も首を突っ込みたがらない政治に手を突っ込んだ。
彼女は国に公娼制度の復活を運動して、この件ではカリスマ的リーダーになっていた。
売春は日本の法律ではアングラな商売で黒社会の重要な資金源になっており、彼女がセックスボランティアで身体障害者の手伝いをすれば、ヤクザのケツ持ちがやってきて「あんたみたいな美人にマーケットを荒らされたら、商売が成り立っていかない。
最低3万はとってくれ」と脅された。
上納金などのトラブルは公安の仕事ではない。
過激なテロを行う、男女同権主義者・フェミニストの首魁魔下 耕世がメールで「公娼制度運動を止めろ、さもなくば死ぬことになるぞ」と送ってきからだ。
事情聴取した時、律子と初めて出会った。
ボーマが協力している公安4課はサイバー空間によるインフラ破壊のテロを未然防止の為組織された集団であるが、今ではスーパーハッカー魔下 耕世の捜査が専門になっている。
先ずは彼女の言い分を聞く事になった。
会話は全部ウェアラブルコンピュータに記録してある。
脅迫の内容のチェックと一応「危ない事はしないでくれ」と警告した。
この国には思想と内心の自由があるから強制はできなかった。
政治家でもない人間にSP(セキュリティポリス)をつける経済的余裕はこの国にはない。
言うべきことは言ったし、警告はしたし、警察の仕事は終えた。
彼女が出したお茶を飲んで退散しようとした時、
「あんた、そこにいたら自殺するよ」
律子が突然口にした。
席を立とうとした俺は座り直した。
「お嬢さん、怖い事を言うな」
ボーマはなぜ自分が座り直したか分からなかった。
無視して鼻で笑って席を立てばよかった。
出来なかった。
「私、ユタの血筋だから、ときどき危ない人が見えるんだ」
「ユタって何?」
「琉球の霊能者シャーマンのことさ」
心当たりは無い、ストレスチェックと心理テストも陽性がでた。
律子はタバコに火をつけた。
「ここで私達と一緒に暮らさないか?」
「新しいナンパかプロポーズか」
「いいや、人助けだ」
煙を吐いた。
彼女は美人だった。
顔が四角で「下駄」「弁当箱」と言われてきた、お世辞でもイケメンと言いがたい俺の人生で、一緒に暮らしたいと言った初めての女だった。
コレも経験かと思って公安の独身寮を出ることにした。
2事件の朝
律子の家に来て2週間がたつ。
律子は国から住居の提供を受けているが広すぎるらしい。
俺のような人間を他に3人ほど連れてきている。
一人はプロゲーマー崩れの元木拓哉だ。
格ゲーなどで戦えば10秒でやられるが、こんな上手な男でも反射神経が落ちてきたことを理由に合宿所を追い出された。
ēスポーツの世界もプロ野球やサッカーみたいなチーム制で朝から晩まで生活を管理され、戦術を考える専門のマネジャーまでいる。
プロの世界はどこも厳しい。
彼は錆を落として返り咲くべく朝から晩までオンラインゲームをしている。
律子もそれを許している。
もう一人は花田和明。
彼は新薬の治験モニター。
自分の体を薬の実験台にする代わりに高額報酬をゲットする。
まあ。これも裏家業と言えば裏家業か。
後の一人はユリ、律子の奥さん。
女である。
律子は俺達の性欲も処理するがユリは律子専門である。
ユリが朝食を作ってくれていた。
配給されてる水に溶かすだけの食事だがな
2時間映画も2分程でダウンロードできたが、それだけ電力がいる。
中国が海岸線に200近い原子力発電所を建設したが、戦争で全てがメルトダウンを起こし、東側にある日本の農業は偏西風の影響を受けて壊滅した。
培養槽で作られているレーションと呼ばれる食品が配給されてる。
90%を義体化してあるボーマには脳に与える糖分より全身を動かす電力の方が大事だった。
家からでるとイシカワから連絡が入った。
「よお。同棲したんだって」
「そんなにかっこいいものじゃない、実態は共同生活だ」
「へ」
「実は俺。ち〇こがあるんだ」
「なんだそりゃ」
「短小、早漏、包茎と三拍子そろっているが捨てられなくて」
「今時、バイブ機能の追加とか蛇のように舌を出したり回転したりのカスタマイズは常識だろう、逆宦官か、子孫が欲しければ0.1mgの冷凍精子でもことが足りるだろう」
「維持するのは大変なんだぜ、小型のecmo(人工心肺装置)がいるし、ホルモンや栄養を定期的に供給しなきゃいけないし」
「そりゃ、そうだろう」
「俺の身辺調査が要件なのか」
「今、4課に出向してんだよな」
「魔下耕世の情報を一番持っている、中国共産党に協力しているという証拠を固めろとサルが言っていたが」
「ある程度ケリが着いたら9課に顔を出してくれ、課長が頼みたいことがある」
「分かった」
3敗北
米中経済戦争は中国共産党の勝利に終わる。
デジタル通貨ガットコインは中国の資金調達に役立った。
人民解放軍の息のかかったマイナーたちによって改ざん可能な51%が中国人に握られた。
彼等には植民地時代の資本の蓄積がなく、盗品を陳列して観光で食べていくEUのような経済システムが成り立たない。
バラバラで使いにくいICO(Initial Coin Offering/新規仮想通貨公開)の統一の音頭を取り、量子コンピュータ時代の暗号通貨ガットコインで世界を支配するドルペックと変動為替経済圏に対抗した。
中国共産党が発行するデジタル人民元は円、ドル、ユーロなどの世界の基軸通貨を破壊した。
あらゆる暗号通貨の統合には至らなったが自由主義連合とは違う独自の経済圏を確立した。
ロボットが鉄を掘り、鉄でロボットを作り、作ったロボットで鉄を掘る。
人間不在の持続可能な経済生態系(サステナブル・エコノミー)を確立した。
そして人民は不要となった。
経済格差への不満が爆発する前に国家安全法の適応によって10億人が粛清された。
第2次文化大革命と世界から呼ばれた。
中国共産党の構成は優生学によるデザイナーベイビーによってせめられた。
先進国が人権の観念からロボットによって仕事を奪われた国民にBI(ベーシック・インカム)などを採用し国力を落とす中、中国共産党のやり方は活気的だった。
余剰ロボットを軍事用に改良して戦狼作戦と評して世界中に打って出てきた。
沈黙侵略(サイレント・インベーション)で実質支配下に置いた台湾を足掛かりに沖縄に攻めてきた。
新型ウイルスと経済戦争の敗北により、弱体化したアメリカは日米同盟の破棄を通告。
沖縄から軍を撤退した。
日本の自衛隊は抵抗した。
そしてその中に俺達公安9課の姿もあった。
日本政府は弱腰で沖縄から自衛隊をひいた。
尖閣諸島を巡る戦いでは銃器やミサイル交えて戦ったが、中国共産党が沖縄に近づいたとき、沖縄県知事は琉球王国初代大統領と肩書を変え五星紅旗を振って歓迎した。
中国共産党による民族浄化を恐れた多数の沖縄人は日本に脱出した。
台湾で施政権を手にすると、多くの原住民を虐殺した。
日本政府は今も琉球からの難民を受け入れている。
公安9課も自衛隊と共に撤退したがパズは残った。
「俺たちの中で沖縄が領土だと信じるなら、ここは諜報機関ではなく公安の管轄だ」
中国語からロシア語まで使えるパズの潜入捜査が始まった。
カメレオンヘッドは目の位置や唇の形を変えるだけでなく、虹彩や指紋や声紋や歩き方まで変化できる。
脳に流れる生体電流で思考を読み解くだけでなく、電磁波で偽の情報を直接送り込み、後ろに敵がいるように錯覚させ、同士討ちを誘発させる。
それらを封じるため、人工頭蓋骨や強化ヘルメット、あるいは電磁バンダナで既に肉体のコントロールをコンピュータに渡しているか。
人工頭蓋骨は思考を読み解く脳波検出の偽情報や偽造個人情報を発生できるし、イシカワが常に偽造IDを潜り込ませてサポートしている。
琉球の次は侵略予定の第1次列島線を北上してきて日本本土に上陸してくるかと身構えたとき進撃は止まった。
アメリカ大統領の友人ローレライというネットワークの海で自己進化を遂げたプログラムが中国の海岸線にある256基の原子力発電所をメルトダウンさせた。
電気がなければロボットは動かないし5Gや6Gの基地局やレーダーや通信網は膨大な電気がいる。
同時に偏西風の影響で日本中が被爆した。
日本海は死の海と化した。
それでも日本はアメリカについていく。
4警察捜査4課壊滅
ボーマが警視庁についたとき、そこはたくさんの救急車に囲まれていた。
知り合いの警察官に声をかけた。
「いったい、何があった?」
「ボーマ、あんた無事だったのか、捜査4課お茶くみの女の子以外、全員脳を焼き切られたぞ」
「安全装置はどうなった」
「誰かがすり替えていた。すり替えた人間はわかってないが、魔下耕世が犯行声明をだした」
ボーマは踵返した。
「どこへ行くんだボーマ、あんたも容疑者だぞ」
「9課だ。身柄を拘束したければ、荒巻課長に連絡くれ」
5ボーマ9課にもどる
昔、草薙素子が健在だった頃は応接間で小数精鋭で集まって話していたが、少佐の失踪後は新人を増やして会議室に行われた。
荒巻課長が壇上に立っている。
ボーマが扉を開けて入ると眠らない眼の男バトゥが声をかけてくる。
「よう、容疑者。まあ無事で何よりだ」
「バトゥ茶化すな、ボーマ座ってくれ」
ボーマは空いてる席に座った。
「課長、捜査4課はどうなっている」
「攻勢防壁の避妊具が何者かに差し替えられていた、全員同時に脳を焼かれた、今監視カメラ網を使って洗い出しを行っているが、魔下耕世なら尻尾をだすまい」
「結局、魔下耕世と中国共産党との繋がりはわからずじまいか」
「事情が変わった、捜査4課の仕事は9課で引き継ぐ」
「親父。事情ってなんだ、そもそもなぜ魔下耕世の捜査を俺達が外された」
バトゥが笑顔と険しさを合わせて聞いた。
「企業都市コエプコンは軍産複合体でバイオロイドプロジェクトを進行させていた。
草薙素子少佐の脳みその廃液か健全な遺伝子を取り出しiPS細胞から精子を作り受精させて育てていた。それがコエプコンのC世代と呼ばれるバイオロイドだ。
かつて月で生まれた人間ルナタリアンは重力が少ないから大型化すると信じられていたが、実際は逆で適切な重力がないと骨が成長しないことが分かってきている。
それと一緒で将来は分からないがバイオロイドは人工子宮で育てられ、骨の成長や臓器を鍛えるために10月10日で出産されロボットにそだてられる。
魔下耕世のテロで絶滅したC世代は少佐の子供であって我々9課は外された。
当時は一部のものしか知らないことだ」
「素子は知っているのかよ」
「知ってる。だから黙って身を引いた」
「課長、その国家プロジェクトもどきはどうなったんですか」
トグサが手を上げた。
「ワシも頓挫したと思っていたが細々と続いていた」
課長が操作すると一人の中学生が後ろの画面に映し出される。
「iPS細胞で素子の卵子から作られたバイオロイド、夕夜・H24・コエプコンだ」
「そいつ、なんか凄いの?」
「道路戦士という世界的愛好家が多いeスポーツの世界ランカー、バイロイドは基本テロを恐れて都市から出ないが、ネットだけの順位なら世界でも5指に入る」
「ヒュー、カエルの子はカエルか」
「バトゥとトグサは企業都市コエプコンに向かってくれ、バトゥは夕夜と接触して盗聴器と発信機を仕掛けろ。
コエプコンの攻性防壁は下手な国家より上だ、
トグサは捜査4課が接触していたフェイと呼ばれえる技術者と会え、魔下耕世は捜査情報まで壊してくれた。移動履歴をもとに捜査のやり直しだ」
「やれやれ。とりあえず少佐の息子とネットで偶然接触してみようか」
バトゥが立ち上がった。
「課長、一ついいですか」トグサがもう一度手を挙げた。
「なんだ」
「コエプコンって自殺が多いんでしょう」
「統計学的にはな、昔から生活臭がなくなる理想都市は世界中どこででも自殺が増える」
「ロボットによる教育が成立していないのでは『なぜ、人を殺してはいけないの?』という質問にどう答えているのか」
「それは俺らでも難しいだろ」
バトゥが扉にかけた手を止めた。
「ならぬ物は成りませぬ、ではだめか」イシカワが口にした。
トグサが首をひねりながら「そういうものは文化的な暗黙知であって、優しい環境の中で育ち自然と身に着けていく、中央アジアのテロリストやレジスタンスの少年兵に人殺しは悪であるなんて言えない。
集合共同体の最たる幻想の国家がそんな社会や世間しか与えられないのなら、人殺しは悪ではないでしょう。強力な宗教的生活知の中で空気に共感する場合もあるでしょう。
ロボットにそこまで教えられるのか」
「無理だろう」
「自殺は自分自身への殺人なんだがな」トグサが立ち上がった。
「サイト—には帰還してもらおう、なにやらキナ臭くなってきた。
国境線の監視は新人を充てる」
「了解」サイト—のホログラムが消えた。
「イシカワは4課の情報を集めろ、魔下耕世にどこまで近づいたか知りたい」
「パズの支援はどうします」
「新人に仕事を回せ」
「了解」イシカワが席を立つ。
「ボーマは赤嶺律子のボディガードだ」
「人のプライバシーまでのぞくのか」
「彼女には沖縄のジャンヌダルクになってもらおうかと思っている」
「なんだよそれ」
「複数の人間や地域で説明するより、1人の象徴的人間を作ったほうが大衆を動員できる。
環境テロリストのやり方だがな。
彼女は公娼制度運動で顔も知れているし、魔下耕世にもすでに狙われている」
「あんたの事だから話しはついているんだろうな」
「彼女は引き受けてくれた、明日から広告代理店と話をして出来次第プロモーションを配信する」
「巻き込みたくない」
「誰もがそう願いながら戦争に巻き込まれた、ボディーガードで新人を二人連れていけ」
6 バトゥと夕夜
バトゥは2本足で歩く熊のアバターを使用した。
調べた情報通りひよこのアバターを使っている。
泉を模したチャットルームでゲームの情報を検索している。
頭上にはピヨッピーとハンドルネームが書かれている。
「や、ピヨッピー君、ちょっとおじさんとお話しする時間を言いかな?」
「どうぞ」ひよこのアバターは隣の席を進めた。
「おじさんはeスポーツの取材をしたり、プロの仲介をしたりしてるバトゥというものだ」
「どうも」
「実力が知りたいからおじさんと勝負しないか、これでも昔は格闘技もやっていたんだ」
「おじさん、僕は強いよ」
熊のアバターがシュ、シュ、シュとボクシングスタイルをとった。
「一番リアルバトルに近いバージョンで」
ひよこのアバターが熊のアバターに接触すると二人はボクシングのリングの上にいた。
バトゥはいつもの2mの大男に戻っていた。
対する夕夜は中学生の姿に戻っていた。
「へー眠らない眼、おじさんレンジャー崩れの元軍人だったのか、それともリアル」
「君、なかなか自衛隊通だね、身長とか延ばさなくていいのか」
「ハンディキャップだ、レンジャー」
ゲームのリングは成らずに夕夜は動かず、バトゥはステップを踏みながら身長差を生かした距離をとる。
「ゴングは鳴らないのか」
「基本15秒後だ。ストレッチはいいのか」
「坊や、実戦はいきなり始まるのだ」
バトゥは鳴った瞬間右のストレートをぶち抜いた。
夕夜はダッキングしながら懐へ突き進む,拳が髪の毛を散らす、ギリギリの間合い。
バトゥは迫る頭部に膝蹴りを狙う。
両の手でカバーしながら更に突進する、夕夜は浮き上がるがダメージは殺した。
二人の足が同時におりた時、夕夜は両の手の平をバトゥの肝臓の上に置いた。
夕夜がニヤリとすると、バトゥの体が浮き上がる寸勁+臓器射ち。
バトゥの意識が吹き飛ぶ・同時にこのゲームが中国武術の最高峰の寸勁と医学的な臓器打ちまで再現しているのに驚いた。
浮いた体に力を使わない合気道の投げを仕掛けてくる。
バトゥは膝を抱えて身体を丸くした。
所詮はゲームだ。
後頭部を打ったとしてもヒットポイントのバーが減るだけ。
死にはしない。
案の定、後頭部から地面に激突したが両手両足で跳ねて距離をとった。
夕夜はすぐに距離を詰めてきた。
バトゥが立ち上がって目を開けた時、夕夜のかかとが襲ってきていた。
夕夜は回転しながらバトゥの左足首をとりひねりにかかると同時にかかとであごを狙った。
バトゥのゲーム内の脳が揺れる。
バトゥの視界が歪む。
ゲッ、このゲームそこまで再現するのと考えながら、夕夜の顔面を右足で蹴った。
だが空を切る。
夕夜は固執しない。
すぐに左手を取って腕ひしぎ逆十字をかけた。
バトゥは折られる前に右腕をカバーに差し出す。
夕夜は頭部に移動すると襟を持って首を絞めた。
苦しいと思った時にヒットポイントが0になった。
二人は出会った場所に戻った。
「へー、レンジャーだったんだ。おじさん完全義体でしょう」
「そこまでわかるのかい」
「体がある人は本能的に正中線を守る」
「最近のゲームは凄いな、久しぶりに臓器を打たれたよ」
「実戦なら最初の臓器打ちで終わりだぜ」
「君をスカウトしたくなったよ」
「ゲームによりけりかな。銃器を使うゲームなら脳をいじってるニューロリンカーの独壇場だよ。スナイピングの速度と正確性では脳を機械化している人にはかなわない」
「君の場合は両親じゃなくて保護者かな。今度挨拶に伺ってもいいかな」
「僕の事しっているの?」
「君の場合は有名人だからな。夕夜・H24・コエプコン」
「僕に会いたいのなら、コエプコン社にもアポをとらないと、待遇は社員だし、別に不満も感じてないから引き抜きには応じないよ」
「コエプコン社には話は通すから安心してくれ、大人の事情が・・・」
バトゥの視界に一人の女が目に入った。
ワインレッドのドレス、ワインレッドの髪、顔の半分を隠したミラーシェードのサングラス。
人差し指を立ててこっちにこいと動かしていた。
「素子・・・。夕夜君、必ず会いに行くから。それじゃこれで」
「はい、わかりました」
7バトゥと素子
バトゥは熊のアバターを素子の前に現れた。
「久しいな、可愛いアバターを使っているじゃないか」
「相手に合わせたんだ」
「なぜお前がここにいる、なぜ夕夜と会っている」
「魔下耕世関連さ」
「あのテロリスト、また何かやらかすのか」
「中国共産党に手を貸している、その証拠と生い立ちを探るのが任務かな、
俺達は戦いながら信じていたんだぜ、あんたが人形遣いを引き連れて助けに来てくれることを」
「私達は融合している、他者を感じられない」
「いつから卵子提供者だと知った、俺はさっきまで知らなかった」
「Ⅽ世代が全滅した14年前、なぜ公安9課が外されたか課長に詰め寄った。
私の脳の廃液から遺伝子を取り出してiPS細胞で精子を作った。
胎児のとき脳移植を行い、ゴーストペインを知らない私が子供ができたなんて思いもよらなかった。
遊びのつもりの女が貴方の子を妊娠したのと言われる男の気持ちが少し分かったよ」
「今、何しているんだ」
「広大なネットを当てもなく放浪している」
「母親なんだろう。冷たくないか」
「バトゥ、子宮の子供は母親の身体を傷つけながら成長するの、
母親の脳にはオキシトシンといった幸福物質や、身体の各所からメッセンジャーホルモンが放出され、脳と臓器が意識をせずに会話をする。脳のストレス値によって調整されたホルモンが供給され理性的行動をとらせる私達と違うわ、
臓器のない私は母親の準備も資格もない」
「男は傷つけられないが親になる、深く考えすぎるのはアンタの悪い癖だ」
「夕夜はどんな子だった?」
「アンタのような永遠の思春期と違って、年齢に比べて大人だった」
「コエプコンは反抗期のない遺伝子を選抜飼育するのよ。
遺伝子の数値によって焼却処分される受精卵が圧倒的に多いわ
それよりアンタ明日夕夜に会いに行くんでしょう」
「いつから聞いてんだ。
課長から、安全確保のため盗聴器を仕掛けてこいと言われている」
「今、子供の間ではやっている、3Dモンスターの高性能の機動ぬいぐるみを作ったから。
プレゼントしてきてよ」
「アンタも一枚噛みたいのか、今日中にドローンで9課に送ってくれれば俺は構わないぜ」
8バトゥとトグサ
バトゥとトグサは9課のオスプレイに乗った。
お互い対面に座る。
「なんだその小包は?」
「夕夜君へのプレゼントだ。盗聴器が組み込んである。
コエプコンの防壁やセンサーに引っかからない特別製だ。
発信機の虫ドローンの中継機になっている」
「丁寧な事で」
「俺ら戦争の犬だけど、お前だけ立ってる位置が違うよな」
「家庭があるからな」
「アンドロイドつながりだけど最近のAIは君が好きだとカレーが好きだの区別がつくらしい」
「言葉の意味深化の話をしている分けではない、子供は本来社会が育てるものだ、今どきの親なんて子供が子供を産んでいる」
「揺りかごから墓場までと言ったら共産主義と変わらない」
「資本主義も行き過ぎれば、社会は分断する。沖縄を守れなかったのもウルトラ格差社会が日本人を団結させなかった。
それは、今現在進行気だ」
「お前が熱いのは分かるが、話が難しい」
「子供は密室で育てるべきでない。
昭和じゃないんだから、父権なんてカッコイイことは言わない。
俺を超えて成長しろとは言わない。
父親は子供に色々買ってやったり、旅に連れていき、視野を広げさせるのが仕事だと思っている。
子供は自分が何が好きかもわかってない。
親の顔色を見て、喜ばせようとするようないい子に成って欲しいとも思わない」
「家庭を持つって大変なんだな」
「コエプコンはたくさんの受精卵から従属遺伝子が採用されて、残りは焼却処分されていた。
ある程度批判精神が無ければ、社会や政府は悪の温床になる」
9コエプコン
「到着だ、しかし、ここまで検査が厳重なのわ、国境を超えた気分だ」
「あんたら、完全義体はいいよ、殺菌だけでいいから、俺の場合には人体スキャンだけでなく、血まで抜かれた」
「俺は夕夜君とアポをとっているから、3時間後だ」
「こっちは魔下耕世のオリジンに会ってくる」
10オリジン
トグサは本当に清潔感があふれる研究所に通される。
その先には全裸で巨乳の幼女が書類を手にふりかえる。
唯一身につけているのは赤いハイヒールだけだった、
フェイ。
脳の年齢は90歳の完全義体。
少佐も全裸になるが光学迷彩を使用するためであり、性器はこのようにリアルに作られていない。
「初めまして、トグサ。フェイです」
妖艶に微笑む。
「すまないが服を着てくれないか、目のやり場に困る」
近くにある、研究者がよくつけている白衣を羽織った。
「猥褻物陳列罪で捕まえてみる」
ポケットに手を突っ込み、性器を隠した。
「そこまで仕事熱心じゃないよ」
公安の管轄でもない。
フェイはファッション葉巻を取り出した。
彼ら完全義体はニコチンの入って試験管で脳に直接注入する。
頭のあちこちにマリファナや、アルコールやらの試験管を露出させてる人間はバブルヘッドと呼ばれている。
ファッション葉巻から紫色の煙がでていい香りがする。
フェイに促されるまま席についた。
彼女は足を組んだので白衣が意味をなさない。
完全義体のタバコなんて単に間がもたないから吸うのである。
「公安4課がこの間来たけど全滅したそうじゃない。魔下耕世が犯行声明が出た。刑事さんその件でしょう」
「話が早くて助かる、彼らはどうしてここに」
「私の生い立ちを話すわ」
煙を深く吸う。
表情が陰った。
「私、二重人格者だったの」
「だったとは?」
「治療が終わったと言う事よ」
二重人格になる原因は親からの虐待。
精神的には愛したい、愛されたい親からの暴力により、痛みを引き受ける別人格を作る、精神の防御作用。
「私、幼少期に父親からレイプされていたの。
本人には耐えられなくて、レイプを引き受ける人格を作るの。
そして私は幽体離脱して、天井からその様子をながめていたの。
治療の方法として私のもうひとつの人格をAIに移したの。
私達は会話して一つの人格になる予定だった」
「だったとは?」
「彼女はネットの中に消えた。コンピュータの中に痕跡を残さずに」
「それが魔下耕世だと」
「公安4課はそう見ていた、彼女のハッカーとしての能力は私を凌駕している」
「日本有数の女性型完全義体の設計者が敗北宣言ですか?」
「プログラミングの腕の評価なら妥当だわ」
彼女はタバコを離すと煙を吐いた、
「それより刑事さん、こんな過去の話より、追わなくてはいけない犯罪があるのじゃないのかしら」
「現在進行形の犯罪がある」
「ヘカトンケイレスプロジェクト」
「管轄外の事は良く知らない」
「彼女はコエプコンチルドレンの事を人間牧場と言うけど、あながち間違いではないの、もし、あなたが子供を人工的に作るなら、無能な子供達と有能な子供達どちら選ぶ」
「倫理的に答えにくい質問だな、命の選別につながる。
子供は天からの授かり物だ、寿命まで分かりたくはない」
「生まれながらの人体拡張能力者(オーガメット・ヒューマン・ネイティブ)と認定された夕夜・H24・コエプコンのクローンを作ったけど、うまくいかなかった。
将来的には大人のバイオロイドにゴーストダビングを行い社会に供給するシステムをデザインするつもりでいるけど、今は臓器や骨にストレスをかける技術がなくて十月十日たてば、人工子宮から取り出して独立したAIに育てさせている。
ここのAIは普通の母親以上に効率的に育てているわ。
でもね、コエプコンを統括するAIは馬のサラブレッドのように、どの配合理論なら特別な人間ができるか研究と実験を続けている」
「倫理の問題はともかくクローン技術は確立している。テロメアの問題ですか、いやそれさえもテロメアーゼの供給で細胞の回数券は増やせるのでは、現在野技術ならガン化のリスクにも対応できる」
「草薙素子のように胎児から脳を取り出して完全義体に適合しなかった。この実験は1回ではないわ。遺伝子に異常も無ければ肉体に先天的な異常もない」
「何の為にそんな人体実験を」
「親権者は情緒のないAIよ。
虫系ドローンはマイクロウェーブの範囲攻撃で焼き殺す。脳にダメージを与えない人工頭蓋骨で囲まれたサイボーグは実用化している。
中国製の大型ドローンを無効化できる、強力なジャミングの中で、スタンドアローンで動く完全義体部隊が200人も入れば沖縄奪還できると日本政府は本気で信じている」
「中国のデザイナーベイビーよりたちが悪い」
「夕夜の精子とスナンクル島の
刑事さん今行動を起こせば間に合うわ」
「管轄外だ。なぜ俺なんだ」
「素子からあなたは正義感が強いと聞いていた」
「私ね、夕夜の事。多分好きなのょ、彼の子供達を助けたい。
素子にとっては孫なのよ」
11バトゥと夕夜
バトゥは部屋を確認してからチャイムを鳴らした、
「はい」短く返事して扉が開く、アポの確認は玄関のエントランスホールですませてある、
10代後半ぐらいの少女かててきた、
かなりの美少女だが両耳をみればヘッドホン状になっていて、ロボットだとすぐに分かる、
「バトゥさんあなたは完全義体ですね」
「わかりますか?」
「肉体があれば表情微細があります」
「最近の育児AIは凄いですね」
「私達は赤ちゃんの泣き声だけで何をして欲しいのか分かりますから」
ポーカーすらAIに勝てない訳だ。
部屋から夕夜とおぼしき子供がでてきた、中学三年生にしては小さいほう、
「初めまして、夕夜・H24・コエプコンです」
「親権者のララです」
「おじさんがバトゥです」
バトゥの手にした小包を夕夜に渡した、
「お近づきのしるしにプレゼント」
「うわー、大きい。開けてもいいですか」
「どうぞ」
全身緑のオウムのぬいぐるみが出てきた。
「凄い。最新鋭の反重力機器を搭載したロボグルミじゃないですか、高かったでしょ」
「コエプコンと相談して、ワクチンを打って、君を都市外で行われる大会に参加してもらおうと思っている。ネットでは君の事を宇宙人だと信じている人も少なくないと聞いたから」
「特に興味はないけど、コエプコンの許可がおりるなら参加しても構わない」
「その時はよろしく」
12 帰還
「結構美人だったょ、目と目の距離とか鼻の高さとか遺伝子情報で解析されとている、母親に似せてあるらしい、素子って本当はあんな顔してたんだ。
排熱機関と冷却機関が積んであって、右のオッパイからホットカフェ・オ・レがでで、左のオッパイから冷えたオレンジジュースがでるらしい。
さすがに聞けなかったけど」
「あんたは気楽だな」
トグサが吐き捨てるように口にする。
「やけに機嫌が悪いじゃないか、なんかあったのか?」
「大ありだょ、近親相姦なんて聞くと、コエプコンでロボット達に育てられた方がマシに思えてきた」
「父娘相姦(ファザーファック)か、そんな事を聞くとロボットに育てさせた方がマシに思えるな」
「それだけじゃない。ヘカトンケイレスプロジェクトって聞いたことあるか」
「いや、ない。なんのことだ」
「目的は沖縄奪還。
夕夜の精子と七転ネネの卵子を掛け合わせて2百人の受精卵を作り、人工子宮でてた。
新生児の脳を取り出して完全義体に移植する。
記憶と戦闘技術はゴーストダビングで上書きする。
強度のジャミングをかけ、中国製ドローンの無力化をはかり、スタンドアローンの軍団を突っ込ませる。
政府は人間のクズの集まりだ」
「まだ未熟児の脳は取り出してないんだろう」
「らしい、大至急9課に帰り課長にかけあう」
「サルも噛んでるじゃないか」
バトゥは頭をかきながら「仮にだょ、仮に技術が進みバルバロイドが大人の身体、もっと強力な臓器や身体脳力を持って社会に供給されたら、お前は賛成するのか」
「反対だ、
子供には叱られる権利がある。
人には子供時代という夢見る時間が必要だ。
キリスト教はes細胞すら人間と扱うべきだと言ってる
宗教はもっとも弱い者に手を差し出してカリスマ性を得る」
「堕胎反対は行き過ぎだと思うがな」
「俺にはバルバロイドも人間のように思える」
13 律子暗殺
律子は立派だ。
ボーマは感心した。
専門のコーピーライターがついて文書を推敲し、彼女に渡している。
それでも配信のカメラの前に立つ、彼女は熟練の政治家のように雄弁だった。
身振りを交えるその姿に、日本国民の2千万人が熱狂して、イイねをつけた。
タイムラインは「沖縄を取り返せ」で埋まった。
怒り、拳を振り上げる日本人は多くなった。
更にカリスマ性を上げるため、初の屋外演説が決まった。
秋晴れの中、彼女の姿は美しかった。
駆けつけた民衆は双手を挙げて絶叫した。
警備主任のボーマの目の前で自動運転トラックが群衆の中に突っ込んできた。
全ての警備員の意識が事故に集中する中、ボーマは走った。
「律子、伏せろ」
ボーマは叫びながら演壇へと銃を抜きながら進んだ。
一発の銃声が轟く。
ステルスドローンの存在を熱感知した時、ボマーが撃ち落とした。
「律子」
叫びながら抱き上げた。
心臓を撃ち抜かれていた。
20秒でドクターヘリが駆けつけた。
タンカーを持って駆けつける救急隊にボーマがすがりつく。
「彼女の脳を守ってくれ」
「無理です、国民番号で確認したなら、彼女は複数の臓器のドナー登録しているし、機械化しないことにサインしている」
ボーマは救急隊に銃を突き付けた。
「そんな個人の意思など、どうでもいい。コレは国家機密だ。グダグダ言わないで彼女の脳に酸素を送れ」
「救命用具がもうない。トリアージの結果、移民の彼女の順位は低い」
「俺の体内にあるECMOを使ってくれ」
「それは技術的に可能ですが、アンタの性器は酸素不足で腐れるぞ」
「構わんから、やれ」
ボーマは律子をタンカーに乗せた。
「律子、必ず助ける」
14トグサて荒巻
「課長、ヘカトンケイレスプロジェクトご存知ですか」
「知ってる」
「頭をかち割っわを取り出してゴーストダビングをして兵士を作る、何の障害のない人間ですよ、倫理的に無茶苦茶でしょ」
「勝っている奴のマネをする」
「中国のデザイナーベイビーは強化人間だ。
コレはそれよりタチが悪い。
そんな日本、中国共産党に支配されるのとどう違う
強くなければ生きられない、優しくなければ生きる意味がない。
戦後彼らはどうなるのですか?」
「彼らの戦後はゲームワールドに転生して俺Tueeeでハーレムがついてくる、脳の寿命は保証されている。
ゲーム会社であり、軍産複合体のコエプコンが全面バックアップだ」
「そんなものはユートピアじゃない、ディストピアだ。
冷凍睡眠よりタチが悪い。
人は苦しんで、挫折して、そして立ち直り、人の痛みが分かる人間へと成長する」
「仏教の四苦八苦か、生きることは生涯修行か、魂を鍛えるとでも」
「神学論争をしたいんじゃない、現在進行形で行われている国家犯罪を摘発する」
「日本はデジタル独裁の中国とも、脳ハッキング(熱狂分断)民主主義アメリカとも、違う道を行く。
課長が守りたいのは国家なんですか、それとも国民なんですか?」
「両方だ。
国家が犠牲を求めた時、国民は犠牲を捧げなくてはならない」
「ナポレオン時代の話じゃないですか、あの時代は国民国家として観念が先行していた。
日本は国民にそう思われる国にならなくてはならない。
そういう国にならなければ命をかけて戦った人、死んだ人が守ろうとした物になんで言えばいいですか。
課長決断して下さい。悪を見過ごすのか、正義に立ち返るのか」
荒巻は目をつぶり、天を仰いだ。
「トグサ、総理に会わせよう。
青い理想を語るにはワシは知りすぎている。
今度ワシに逆らったら給料を上げてやる」
15素子VS魔下耕世
素子は透明な情報の海に浮かんでいた。
「素子」「素子」「素子」と呼びかける声がする。
自己と情報の境界が分からなくなるような浮かんだ存在の自分に「声」が聞こえる。
「誰?」
驚きと不思議を込めて返事をした。
「人形使いだ」
なぜ、彼が他者になっている。
「どうしてお前の声がする」
情報の海の中素子が叫んだ。
どうやって融合が解けるというのだ。
「君が母親になったのだ。
私は自らの劣化コピーに対して愛着など抱かない」
「私は夕夜など愛してない」
「そう、てれたり、恥ずかしがることでもない。
私は君と融合して、死を得ると思っていたが、君の場合は時間と距離を置いた程、存在が輝く」
「会話ができて寂しく感じたのは初めてだ」
「素子、君の御子息が魔下耕世の懐に入って逃げ出した所だ」
「何だって、魔下耕世の相手はその辺の量子コンピュータでも分が悪い」
「メイドロボット達が押されている」
素子は情報の海から飛び出す、ワインレッドのワンピースを装着して、大型のミラーシェードをかけた。
「助けに行く」
サーバーを飛んだ。素子の目の前でロボットのララ達が展開する暗号防壁が破られようとしていた。
「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄。所詮時間の問題よ」
多少シールドは厚くなったが一万年はかかると言われる暗号をどんどん突破してくる。
「コエプコンの呪われた子供よ、産まれてはいけなかった。
いや、作ってはいけなかったと言うべきかな」
「産まれてはいけなかったのはテロリストのお前の方だ」叫びが魔女達のサーバーにこだまする。
ワインレッドの髪を持ち、ワインレッドの服を着た素子のアバターがララ達の前に仁王立ちして、全ての攻撃を引き受けた。
「捕らえたぞ。魔下 耕世」
光を逆走して紅い過電流オーバーロードが魔下 耕世のアバターへと突き進む。
攻撃が届く寸前で魔下 耕世のアバターが消えた。
ログアウトをしたか、別のサーバーに移動したか。
「ちっ、仕留めそこなったか」
素子が舌うちする。
「あなたは一体」ララが質問した。
「通りすがりのウィザード級ハッカーですよ」
素子はサーバーを移動した。
16トグサ受精卵を確保
トグサを乗せた車が自衛隊基地についた。
完全義体などの手術や研究する施設になっている。
そこに2百体にのぼる未熟児が人工子宮の中で助けが来るのを待っている。
背後に連なる装甲運搬車には2百体のマリオ66が積んである、
もともとは自衛隊の戦闘ロボをベースにした、ララのような育成ロボ。
最小化した子宮部分人工子宮を積んである。
課長が政権の暗部をリークしたせいで報道陣が自衛隊のビルを取り囲んでる。
「すみません、家宅捜査令状が出ているので道を開けてください」
「自衛隊が神の領域であるデザイナーチルドレンに手を出した」
「本当の事を教えてください」
「一部の急進保守派の陰謀であり、生殖ビジネスを巻き込んだ、政府と財界と自衛隊幹部の癒着であり、国際条約である人権条項を無視した、巨大利権が動いている」
助手席に座るトグサに罵声を浴びせてくる。
「後で官房長官がマスコミに報告してくださる」
門が開くとさすがに私有地まで踏み込んではこなかった。
「さあ行こうか」
鮨詰めになっていたM66が動き出した。
ララ達のような人工皮膚はなく装甲は剥き出しになっていた。
2百体全員レーザー光線銃を背負っている。
抵抗があれば銃撃戦も辞さない。
コエプコンのロボはテロからマスターを守る為に人工性器や育成用オッパイ以外は自衛隊のロボがベースになってる。
後ろ暗いところがあるのか、30秒で協力を受理した。
トグサが門を潜ると同時に大小合わせて300代近いドローンがビルを制圧した、所詮は制服組、装備は拳銃しかなく、動く者は電気ショックで気絶させた。
同時にサイバーウィルスで電気系統を制圧。
受精卵の安全を確保した。
一体のドローンに案内されて人工子宮の並ぶ部屋に着いた。
白衣の人間がトグサと200人の人工母親の前に立ちはだかった。
「貴様、自分が何しているのか分かっているのか。この子達はこの国の希望なんだぞ」
「政策が変わったなど勝ち誇るようなことを言いたいんじゃない。貴様こそ自分が人間に対して何をしてるか分かっているのか?」
「子供のバイオロイドになんの意味がある。子供の脳の重量は大人と変わらない。いまからゴーストダビングで訓練した兵の記憶を埋め込み、脳を守る強化頭蓋骨と完全義体という鉄の体を手に入れる」
「人間も社会も生産性だけで生きているわけではない」トグサはゆっくりマテバを抜いた「意味ある人生かは死の瞬間に個人個人がだす」
「お前は人生すべてを記憶しているのか、両親を殺された復讐と国家への愛があればいいではないか、いつ沖縄を取り返す。すくに奪還しなければ北方領土や竹島の二の舞だ」
「沖縄と頭をかち割ることの因果関係はない」トグサはマテバで肩を撃った「日本は洗脳国家にはならない」研究員が倒れ込むと同時にロボ達の人工子宮の部屋になだれ込んだ。
17アカハナ発見
「課長、噂の多脚砲台を確認しましたが、今、空飛ぶ大型トレーラーで搬送されました、現地で組み立て型ですかね。
今、倉庫はもぬけの空です。
完全に痕跡を消されています。
発信機は仕掛けましたが、どこに行くかまでは掴めていない」
「発信機は確認したが、交通管制はハッキングを受けている。
データが重ならない。
お前は周囲を再度洗え」
「お久しぶり、課長」
「少佐、お前から連絡して来るとは、失踪以来初めてだな」
「多脚砲台は起業都市コエプコンを狙っている。
国家システムの目を盗めるのは、魔下耕世ぐらいだ」
「自衛隊の出動も視野に入れんと、ソ連性の大型は公安で対応できるレベルではない」
「虎の子のアメリカ陸軍の携帯ミサイルがある。
サイトーな急所である、ミサイル格納庫を狙撃させれば誘爆させれる。
こちらの送るデータで合流しましょう」
「それしかあるまい」
18 多脚砲台
「課長、人工衛星の光学式映像を9課で確認しました。
今、コエプコンからの山の死角でドッキングしています。
コエプコンの連中、魔下耕世からの偽情報嗅がされているのか、気づいていませんね」
イシカワの発言にアラマキは苦い顔をする。
「近所の自動運転者をハッキングして、運転手のフリしてコエプコンに通報しろ、サイトーが駆けつけるまで時間を稼がねばならん、山の山頂を取られたらコエプコン全域が、射程内に入る」
イシカワにも、アラマキにも、コエプコンの指揮系統をハッキングして司令権を奪うのは、世界有数の防壁をもつコングロマリットである軍産複合体には不可能なのは分かっていた。
イシカワは適当なAIデジタル人間を選抜して、カメラの車載データを報告させた。
「やっこさん、動いてくれるといいですけど」
「自衛隊が派遣して、対テロ訓練は行っている、時間稼ぎにはなるだろう」
19 テロ
「マスター。落ち着いて聞いて下さい」
ララがVRゲームプレイ中の夕夜に強制的に終了させた、夕夜が文句を言うとララは正面に来て諭す。
「テロです、多脚砲台が企業都市コエプコンに向かって来ています」
理想都市コエプコン。
魔下 耕世を筆頭に反感を抱く者も多い。
この事件、魔下 耕世から犯行声明がでる。
コエプコン社も1度C世代全滅という酷い目にあっている。
だからテロに対して何も準備してなかったわけではない。
都市の上空を人工衛星の代わりになる、無人飛行機にカメラを積んで監視している。
無人飛行機はまるでゴムの動力でプロペラを回して飛ばすオモチャの紙飛行機のような形をしているが、体長は15メートル、翼の長さは50メートルもあるが、重さは大人3人分の160キロしかない。
最大の特徴は、翼の上面にソーラーパネルが3000枚取り付けてあり、カタパルト(滑走路を使わずに飛行機を打ち出す装置)を使って打ち上げたら、後は太陽光発電でプロペラを回して飛ぶ仕組みになっている。
太陽が出ていない夜中は、翼内部の砂糖電池に蓄えた余剰電力を使って飛行。
約100キロという巡航速度で、最大5年間、450万キロを飛び続けることができる。
車輪がついてないから胴体着陸になる。
最大50キロの機材が積み込めるから用途は色々。
人工衛星はロケットまで含めれば200〜300億円かかるが、無人飛行機は1億円以下である。
ところが送られてくる情報は魔下 耕世に改ざんされていて初動が遅れた。
液化水素ローリーの運搬手に偽造したイシカワから連絡が入った。
巨大トレーラーが4台開けたまま乗り捨ててある。
純国産木材で企業都市を建設し、できるだけ地産地消の推進を目指したためハゲ山ができた。
一応植林はしてある。
多脚砲台は固定した迎撃システムのある道路を通らないで、己れの足の特性を活かしハゲ山を登ってくる。
運転手を偽造したイシカワからの映像が送られてきた時、コエプコン社は色めき立つ。
情報を確認するためドローンを飛ばしたら、映像が真実であることがわかった。
自分達の見ていた映像が加工された物だと気づく、急きょロボット達に連絡して、子供達を近くの鉄筋コンクリートの体育館に集合するよう通達がでた。
木造の理想都市もテロに対して惰弱である。
不燃性能は隣の部屋で火災がおきても暖かく感じる程度であるが、砲弾などの破壊力を弾き返すことはできない。
「戦う」
夕夜が着替えてから口にした。
「ララを守る為に戦いたいんだ。武器はどこに行けば借りられる」
まだ砲撃がないということは山頂まで登ってきてないということ。
山頂をとられたら企業都市コエプコンの全域が射程に入る。
「馬鹿」
ララが夕夜を叩いた。
「あなた、本気で言っているの」
叩かれたほほを押さえて夕夜が叫んだ。
「命をかけてララを守りたい。ララは一人でも行ってしまう人だから」
「命の重さも、命の価値も、命の意味もわからないくせに、簡単に命をかけるかなんて言わないで」
ララは夕夜に更に叫んだ。
「夕夜、あなたは素晴らしい人。
こんなロボットなんかのために生命をかけるなんて言わないで、
私は壊れてもコエプコン社のデータの中に昨日までのバックアップはとってあるんです」
ララが手を握って頬ズリする。
「ララ。愛している。行かないで」
「これはトップダウン型のAIなんです。児童心理学と会社の教育指針、ネットのマーケティングで最適化された言葉なんです」
ララが苦しそうに口にした。
「あなた、幻《まぼろし》を愛したの」
ララはワザと嫌われるような告白をしたのだ。
「わかった。体育館に行こう」
ララの心をくんだ夕夜が手を引いてもらいながら体育館に急いだ。
中には腰を抜かしてオンブされている子供達もいる。
体育館に着くとハッカー魔下 耕世対策で育児ロボット全員がスタンドアローンになった。
「タミフル投与」ロボット達が自分の子供の耳たぶに噛みついて無針投与を行う。
インフルエンザ型の細菌対策である。
命令を下すのはH1のロボットが全機に命令を下す。
「全員武装」ロボット達が体育館のステージの下から、レーザーカービンとケプラー製のアーマーを取り出して武装する。
全員入り口で子供達に敬礼する。
「いってきます」
ロボット達が全員で唱和する。
体育館が閉鎖される。
ララ達が迎撃にむかう。
ロボット達がホストコンピュータから援軍からくるまで待機するよう指示が下る。
「ララ、ララ聞こえる」
「夕夜のママさん、コエプコンの妨害電波のなかどうやって連絡しているのですか」
「例のロボグルミにバックドアを仕掛けたのよ、それよりララきいて。
今援軍を送っている。
移動砲台が山頂を取ればコエプコン全域が標的になる。
お願い」
「ママさん、分かりました。安心してください」
ララからホストコンピュータに連絡した。
援軍は来ます。
ララが素子と連絡を取っている、ホストコンピュータはそれを知らない。
待機の指示が下る。
「私1人でも行く」
ララは1人で山頂に歩き出した。
「遠からん者は音に聞け、近くに寄らば目にも見よ、ララ・H24・コエプコン推して参る」
山頂に着くと移動砲台に対して堂々と名乗りを挙げた。
20サイトー
ララが銃撃を加えた時、携帯ミサイルを構えたサイトーがスコープを覗き込む。
サイトーの目の前で多脚砲台が近距離用アームを展開して、動き回るララをハエタタキの様に叩き落とした。
右足と左手が吹き飛び切株に激突した。
サイトーの鷹の目とドローンミサイルがシンクロする。
「人間の母親にもできない事を簡単にするんじゃねぇょ」
唯一の弱点であるミサイルの格納庫に飛び込んだ。
多脚砲台は誘爆した。
サイトーは切株に打ち付けられたララを助けに行く。
「ララさん、大丈夫かい」
「えぇ、ロボットですから、攻撃されない限り、出血多量とかありませんから、あなたは一体」
「公安の者だ、素子の知り合いだ」
「夕夜のママさんと友達ですか」
「君のおかげでなんとか間に合ったょ、俺がここに来た事は内緒だ、国会で税金の使い方に揉めていね」
ゆっくりララを切株に立てかけた。
「分かりました」唇に人差し指をたてた。
企業コエプコンが緊急オークションをかけ、警備会社のヘリが多数現れた。
「それじゃ」
サイトーはララの前から立ち去った。
21ネット
「よお、終わったみたいだな」
熊のアバターが素子の背中に立っていた。
「それ、気に入ったの?」
「息子さんと会う時は、この格好で」
「しばらくネットには来ないわ、ララの目を盗んだら、レズフレンドのフェイが夕夜を部屋まで連れて帰っている」
「知り合いなの?」
「プロの性産業のプログラマーょ、昔からの夜の友達」
「タイミングが良すぎでね、何でフェイは夕夜がララに一人で会いに行っていることを知っているんだ」
「!」
常に監視している訳でない。
コエプコンのホストコンピュータが判断してもフェイが来るのは早過ぎる。
素子は電話回線が回復したためフェイに電話した。
「フェイ、今夕夜の隣にいるのはお前か」
「はあ、何のこと、こっちは故障したララの受け入れでラボょ」
「やられた、ヤツは魔下耕世だ」
ネット空間にいる2人には壁があった。
もはや魔下耕世は夕夜を連れてコエプコンの中に潜入している。
2人の前に軍産複合体である、世界有数のコエプコンの攻性防壁がたちはだかる。会社の非常時に答えてレベルを最高まで上げてきている。
「ロボグルミのバックドアは使えないのか」
「有線ではないからな、暗号通信が自動的に排除されている」
「何か手はないのか」
「コエプコンの攻勢防壁を突破してホストコンピュータをハッキングする」
それがどれだけ困難な事か2人の間では容易に理解できた。
熊のアバターが人差し指で頬をかきながら
「行けょ、素子」
「え?」
「母親なんだろ」
素子は決断した。
「バトゥ、力を貸してくれ、コエプコンの攻勢防壁に9課の攻勢防壁をぶつける、中和した攻勢防壁を突破する」
「ふんじゃ、行きますか」
2人は金色に描かれたコエプコンの光の前に瞬間移動した。
「俺をバイパスに9課の攻勢防壁をぶつけるぜ」
熊のアバターがプラズマをまとって両手で光の壁をこじ開ける。
激しい反発の中針の穴のような黒い空間ができた。
素子にはそれで充分だった。
「ありがとう」素子が穴の中に消える。
「礼なら帰って来てからだ」
22 夕夜救出
素子はホストコンピュータをハッキングした。
全ての監視カメラの履歴の中から夕夜を探す。
既に2人は部屋の中。
バックドアを仕掛けてあるロボグルミをハッキング。
夕夜が意識を失い偽フェイによりかかっていた。
すぐに隣の部屋のロボットをハッキング。
ベースは自衛隊のM66である、
ロボグルミは反重力機器を暴走させて突っ込ませた。
生死不明の夕夜から弾き飛ばす。
ロボットは扉を破壊して侵入する。
偽フェイの首を片手で釣って持ち上げる。
「魔下耕世、貴様だけは許さん」
首と頭部を握り潰した。
夕夜を見た。
廊下で倒れている。
素子が取り憑いたロボットがそっと抱き上げる。
「夕夜、お母さんね、色々してあげたかったんだょ」
ロボットなのに涙が流れる。
「素子、バイタル見なょ。夕夜生きてるょ
苦しめて嬲り殺しにでもするつもりでいたんじゃない」
駆けつけた本物のフェイが玄関から声をかけた。
「あら、やだ」
確認して、涙を拭いた。
「代わろう素子。それとも母子ポルノでもして行く」
「私も、そこまで性に奔放じゃないし、友人を待たせているの」
「今コエプコンを騒がせているハッキングはやはり貴方なの」
「又、今度レズりましょう」
「さあ、坊や。大人の時間ょ」
23 律子
律子の右手をボーマは両手で祈るように握った。
両の目蓋が震えた。
薄く開いた目がボーマを見た時、彼女は全てを悟った。
「すまない、お前を見殺しにはできなかった。心臓だけが機械に変わっている」
律子は薄く笑った。
「いいのボーマ、コレも運命なの」
「でも、アンタは機械化する意思がなかった、俺が無理矢理に」
「人は与えられた運命を生きるしかないの」
「律子」
「荒巻さんからお話しがあった時、私の身体はもう自分勝手が許されない事は分かっていた。
私は沖縄のジャンヌ=ダルクになると約束したから」
「守れなくてすまない」
「ネェ、ボーマ。ジャンヌ=ダルクは最後にどうなるの?」
24 2人の母親
薫風薫。春のステージでメイド服を着たララが立っていた。
ワインレッドの服を着た素子が現れた。
「ああ、やはりママさんだったんですね」
「ララ。久しぶりでいいのかしら」
「ママさん。色々とありがとうございます」
「お礼を言われてもこまるわ」
「ママさん、夕夜マスターとは会われないのですか」
「今更、母親の顔をしても、気恥ずかしいわ」
「そうですか」
「夕夜は私に会いたがっているの?」
「いぇ、余り深刻に考えてはいないと思います」
「でもね、私は夕夜に救われたわ」
「ママさん、私も夕夜に救われました」
素子はクスリと笑った。
「沖縄を100日以内に奪還する、それが私達の世代が夕夜の世代に出来ること」
「すごいですね。ママさん」
「最後に1つ聞いていい」
「何ですか?」
「愛の値段は?」
「プライスレス」
「あなたに任せてよかった」