幼なじミーク 作:アオ
実装されていない関係上、独自設定マシマシでお送りします。
また、物語の都合上、桐生院さんは登場しません。
幼い頃、私は何をしても周りの人より遅れを取ってばかりだった。
どんなに頑張っても、周りの人より悪い結果しか出すことが出来なかった。
もちろん、身体能力そのものは人間より高い。
でも、同じウマ娘同士だと……私はいつも、追い抜かされてばかりだった。
「ミーク、貴女はどうしてそうなの? 私と同じウマ娘なんだから、もっとしっかりしなさい!」
「……ごめんなさい」
「おい、母さん。それは言い過ぎだぞ。ウマ娘といっても、能力には個人差があるのは当たり前じゃないか」
「でも、私が幼い頃はもっと……!」
「…………」
人間のお父さんは、私のことを気遣ってくれたけど。
私と同じウマ娘のお母さんは、私に期待を抱いていた。
だからこそ、結果を出せない私はよく叱られた。
決して虐待されていた訳ではないけど、褒められたことより叱られたことの方が多かった。
(……私、ダメな子なのかな)
どんなに努力しても、結果に繋がらない。
それが辛くて、悲しくて、自分のことが嫌いになりそうだった。
もちろん、結果が出ないからと諦めることはしなかったし、やるべきことをしっかりこなそうとした。
それでも、私は平均にすら届かなかった。
そのたびに、お母さんからは何度も叱られた。
お父さんに慰められても、私はずっと暗い気持ちのままだった。
(なんで、出来ないんだろう……頑張ってるのに……)
今思えば、幼稚園に通っている頃は……まだマシだったかもしれない。
小学校に入学してからは、クラスメイトからも心無い言葉をかけられたから。
『どうしてそんなことも出来ないの?』
「……やめて」
『まだやってるの? もうミークちゃんだけだよ?』
「やめてよ……」
『ウマ娘の中では一番遅いんだね』
「やめてってば……」
虐められていた訳ではないけれど、私はクラスで少し浮いていた。
レースでも、勉強でも、私だけみんなに置いて行かれていたから。
どんなに頑張っても、みんなのペースについて行くことが出来ない。
「……貴女ね」
「…………」
「レースだけじゃなくて、成績も悪いだなんて……」
「……ごめん、なさい」
「はぁ……もういいわ。次は頑張りなさい」
「…………」
(これは、慰めてくれてる……訳、ないよね。きっと、私に呆れて……)
お母さんからの期待に応えられない自分が情けなくて。
お母さんからの冷めた視線が向けられることに耐えられなくなって。
私はいつも、門限ギリギリの時間まで……家に帰らなかった。
とはいっても、別に怖い人達と一緒にいた訳じゃない。
「…………」
(家に帰ったら、またお母さんに叱られちゃう……どうしよう……)
「……あっ」
(ここって、公園……? ボロボロで、誰もいない……)
学校の帰り道。一人になりたいと思った私は、いつもとは違う方向へ歩いて行った。
すると、十五分ほど歩いたところで……寂れて誰もよりつきそうもない公園を見つけた。
人間も、ウマ娘も、誰もいない。私一人だけでいられる場所。
「……そうだ」
(ここなら落ち着いて勉強したり、走れるかも……)
その日から私は毎日、この公園を訪れた。
ある時は日差しが照り付ける中で黙々と走り続けた。
ある時は雨が降り注ぐ中、壊れかけの屋根や椅子、机がある場所で勉強した。
当時の私にとって、本当に落ち着ける環境だった。
私のことをバ鹿にする人がいないから。
私のことを冷たい目で見る人がいなかったから。
でも、一人で出来ることには……やっぱり限りがあって。
「はぁはぁ……どうして、タイムが縮まらないの……?」
(何度走っても、上手く走れる
指導してくれる人がいないから、改善点が分からない。
応援してくれる人がいないから、モチベーションを保つのも楽じゃない。
自力ではどうすることも出来ない状況に、心を乱された。
「……どうすれば、いいの?」
他の人の力も頼れないし、頼ったところで手を貸してくれるとは思わない。
自分で努力しても、実力が全然伸びないし、どこが間違っているかも分からない。
汗と土だらけの体で、私が途方に暮れていた……その時だった。
「……ウマ娘?」
「え……?」
私は初めて『彼』と出会った。
「……誰、ですか?」
「あっ、いや、俺は……」
当時の彼はまだ中学生くらいだった。
でも、小学生の私にとっては、凄く大人に見えて。
しかも、こんな人気の少ない場所にやって来たから、一瞬だけ警戒した。
でも、その警戒もまた……一瞬で解けることになる。
「……その本」
「え?」
「それ、トレーナーになる為の……」
「あぁ、これは……そう、だな。俺はトレーナーを目指してる」
「…………」
「でも、その勉強が上手くいかなくて……なんか、嫌になっちゃってさ……」
「……勉強が、嫌に?」
「自分で目指したこととはいえ、頑張っても中々良い成績を取れなくて……ちょっと、一人で休みたいと思って……」
「……ここに、来たの?」
「…………」
彼は無言でうなづく。
トレーナー志望だと聞いて、私は彼に興味を持った。
それと同時に、私と彼は『似ている』と思った。
どんなに努力しても、それが結果に繋がらない辛さを知っているところが。
ボロボロの参考書と、少しやつれた彼の顔を見て……凄く、親近感を抱いた。
「……君は、ずっとここで走ってたんだな」
「……はい。でも、タイムが縮まらなくて……」
「…………」
「……えっと」
「あぁ、ごめん。その……まだまだ勉強中の俺だけどさ。ちょっとだけ、気になったところがあって……」
「気になったところ……?」
「試しに一回だけ、俺の言った通りに走ってみてくれないか? あ、嫌なら遠慮なく言ってほしい」
「…………」
初めてだった。誰かから『嫌味』を一切言われなかったのは。
初めてだった。純粋かつ冷静に、私の能力を見定めてくれた人は。
私の走りを見て、私が落ち込む姿を見て、手を差し伸べてくれる人がいる。
それが凄く……嬉しかった。
「……はい」
「いいのか?」
「今まで、私にアドバイスをしようとしてくれたのは……貴方だけだったから……」
「……そうか。じゃあ、まずは……」
だから私は、彼のアドバイスを信じることにした。
この人なら、たとえ結果に繋がらなかったとしても……私に幻滅しないから。
私のことを、応援してくれるかもしれない……そう思ったから。
●
「はぁっ、はぁっ……!」
「どうだった?」
「……縮み、ました」
「本当か!?」
「はい……さっきよりも、凄く……!」
(何、これ……こんなの、初めて……!)
彼に言われた通りに走ったら、見違えるほどに速くなった。
それこそ、彼のアドバイスが私の中でピッタリとはまる感覚を抱いたほど。
今まで思い浮かばなかった、速く走る
私は初めて、自己ベストを大幅に更新することが出来た。
「良かった……俺の意見が役立ったみたいで……」
「……ありがとうございます。貴方のお陰で、コツを掴めました」
「いや、俺は何もしてないって。君が自分の力で……」
「…………」
「……あの、そんなに見つめられると照れるというか」
「……どうして」
「え?」
「どうして、私にアドバイス……してくれたんですか……?」
「…………」
「さっき、勉強が辛くて……一人になる為に、ここへ来たって……」
「……自分でも、よく分からない」
「…………」
「でも、そうだな……君が一生懸命走っている姿を見て、刺激されたんだと思う。トレーナーになりたい、ウマ娘の役に立ちたいという気持ちが」
「……!」
「ありがとう。君のお陰で、失っていた自信を取り戻すことが出来たよ」
「いえ、こちらこそ……!」
やっぱり、彼と私は似た者同士だった。
彼のアドバイスのお陰で、私は折れかけていた心が蘇った。
ウマ娘としての、闘争本能……勝負に勝ちたいという欲求が。
そして彼も、私の走りが改善されたお陰で……勉強する気力が回復した。
「じゃあ、俺はこれで……」
「ま、待って……! あの、名前……」
「え?」
「名前、教えて下さい……! あっ、その、私は……ハッピーミークって、言います……!」
「ハッピーミークちゃんか……良い名前だな」
「そ、そう……ですか……?」
「少なくとも、俺はそう思ったよ」
「…………」
初めて、顔が熱くなった。
今まで、誰にも褒められたことがなかったから。
それが、初対面の人に……それも、名前を褒められるなんて。
恥ずかしくて、つい手で顔を覆い隠してしまった。
「……そうそう、俺の名前だったな。○○って言うんだ」
「○○、さん……ううん、何か違う……それより、もっと……」
「……ハッピーミークちゃん?」
「……お兄さん」
「……!」
「お兄さんって、呼んでもいいですか……?」
私にとっての、年上のお兄さんだから。
出来れば『お兄さん』と呼びたかった。
本名で呼んでも良かったけど、初めて私のことを応援してくれた人だから。
親しみのある呼び方をしたくて、少しだけ我儘を言ってしまった。
「……あぁ、もちろん」
「私のことも、ミークって呼んで下さい……!」
「分かったよ、ミーク」
「あぅ……」
自分で呼んで欲しいと言っておいてなんだけど、恥ずかしかった。
両親以外の人からは、今まで一度も呼ばれたことがなかったから。
でも、そのお陰で……お兄さんと、さっきよりも仲良くなれた気がした。
また顔が熱くなったけど、それ以上に……凄く、嬉しかった。
「お兄さん……明日も、来てくれますか……?」
「え? 明日って、ここに?」
「はい……私、放課後はずっとここで走ったり、勉強していて……あの、良かったら、もっと私のことを……見てくれると、嬉しいです……」
「…………」
(……我儘、言い過ぎちゃったかな)
これっきりの出会いにしたくなかった。
私のことを、初めて認めてくれた人だから。
絶対に、また明日……明後日も、明々後日も……会いたかったから。
そして、私の走りや勉強を……見てもらいたかったから。
「……うん、分かった。放課後ってことは、大体三時半くらいか……明日も、ここへ来るよ」
「本当……!?」
「ミークの走りを見るのは、俺の勉強にも繋がるからね。こちらこそ、よろしく頼むよ」
「ありがとうございます……!」
(やった……また、会えるんだ……お兄さん、会ってくれるんだ……!)