幼なじミーク   作:アオ

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 ハッピーミークがトレーナーに誕生日を祝ってもらうお話。


後日談No.1:お兄さんとの誕生日会

 私とお兄さんが再開して、数か月が過ぎた。

 お兄さんに見てもらいながら、一生懸命トレーニングして、レースで結果を出す。

 トレセン学園に通うウマ娘にとって、それは当たり前のことだけど。

 私にとっては、その全てが幸せで。心が満たされて。

 普通なら辛いと感じるトレーニングも、全然苦じゃなかった。

 

「はぁはぁ……どう、でしたか……?」

 

「完璧だよ。むしろ、指示した俺が参考にしたいと思う走りだった」

 

「えへへ……」

 

 お兄さんと会えなくなっている間、私は自力でイメージを掴む練習を続けた。

 その努力と、お兄さんが残してくれた知識のお陰で、私はこうしてトレセン学園にいる。

 しかも、今はお兄さんが傍にいて、今までのようにアドバイスをしてくれる。

 自分で言うのはどうかと思うけど、今の私に負ける要素が見当たらなかった。

 

「この調子なら、次のレースでも間違いなく一着だな!」

 

「はい……()()()()()がいてくれるなら、私は……絶対に、勝てます……!」

 

 実際、私は既に何度かレースに出場しているけど、その全てで一着を取った。

 そのたびに、観客席から凄い歓声が聞こえてきたけれど。

 私の心に一番響いたのは、やっぱりお兄さんの嬉しそうな笑顔だった。

 私が一着でゴールすれば、必ず駆け付けて、こう言ってくれる。

 

『おめでとう! よく頑張ったな! 流石は俺の愛バだ!』

 

 この言葉を聞くだけで、走った後の疲れなんて一瞬で吹き飛んでしまう。

 むしろ、そのまま続けてレースに出ても一着を取れると本気で思うほど。

 私がここまで自信を持てるようになったのは、お兄さんがいつも褒めてくれたお陰。

 お兄さんがいなかったら、私はきっと……ここまで強くなれなかったから。

 

「……何度走っても、あの子に勝てないのよね」

 

「見た感じ、トレーニング内容も私達と変わらないみたいだけど……」

 

「○○トレーナーが敏腕なのか、ミークちゃんが天才なのか……」

 

「両方でしょ。どっちか片方だけじゃ、あそこまでズバ抜けた走りは出来ないって」

 

「ふふっ……また、トレーナーが噂されてます」

 

「それを言うならミークだって」

 

「……私は、天才なんかじゃない。トレーナーがいてくれるから、トレーナーが私を導いてくれるから、実力を発揮することが出来るのに」

 

「いや、ミークは間違いなく天性の才能の持ち主だ。それは俺が保証する。むしろ俺の方こそ、敏腕だなんて持てはやされるような人間じゃない。あくまでミークが少しでも走りやすいよう、未熟なりに一生懸命サポートしているだけで」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ふふっ」

 

「……ははっ」

 

「やっぱり、私達……似た者同士ですね」

 

「あぁ。噂された時は、いつもこうやって……お互いを褒めることしか考えないもんな」

 

 お兄さんが微笑む。その顔はほんのりと赤くなっている。

 きっと、私がお兄さんのことを褒めたからだと思う。

 そして私も、少しだけ顔が熱い。理由はもちろん、お兄さんに褒めてもらえたから。

 そんな私達だからこそ、二人三脚で、一心同体で頑張って。

 どんな時でも、一緒にいられる仲になることが出来た。

 

「よし、そろそろ切り上げるか」

 

「はい。お疲れ様です、トレーナー……それで、あの……今日は……」

 

「……忘れるはずないだろ? だって、今日は……な?」

 

「えへへ……♡」

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

(ここに来るのも、もう何回目だったっけ……)

 

 トレーニングを終えた後、私は外泊届を出して、お兄さんが住んでいる寮の部屋までやって来た。

 トレーナーがウマ娘の寮へ足を運ぶのは、寮長の許可が必要で。

 ウマ娘がトレーナー寮へ足を運ぶのも、管理人の許可が必要になる。

 本来、ウマ娘がトレーナー寮へ出向くのは、珍しいことだけど。

 私は何度も通ったから、いつしか管理人さんは私の顔を見ただけで通してくれるようになった。

 

「……ん」

 

 お兄さんの部屋の前までやって来て、インターホンを鳴らす。

 すると、十秒も経たない内にドアの鍵が開かれて、中から大好きな人が現れる。

 

「いらっしゃい。今日も時間通りだね」

 

「はい……トレーナーと一緒に過ごす時間は、長い方が良いですから」

 

「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。さぁ、どうぞ」

 

「お邪魔します……」

 

 ドアの中に入ると、私が大好きな香り……お兄さんの香りが漂ってくる。

 最初に来た時は、あまりに良い香りだったせいで一瞬だけフワフワした気持ちになったほど。

 今ではもう慣れたけど、それでもこの香りに飽きることはない。

 

「……()()()()の香り、好きです」

 

「あはは……自分では分からないんだけどさ」

 

 お兄さんがドアを閉めたのを確認して、私は呼び方を『トレーナー』から『お兄さん』に戻す。

 これは、お兄さんと二人で話し合って決めた約束みたいなもの。

 公私混同を避ける為にも、普段はお兄さんのことを『トレーナー』と呼ぶ。

 最初は少し寂しかったけど、流石に学園でも『お兄さん』と呼んで甘える訳にはいかないから。

 でも、逆に言えば……お兄さん以外に誰もいない状況なら、思いきり甘えても良いということ。

 

「……やっぱり、こっちの呼び方の方が安心します」

 

「俺だってそうさ。ずっと、お兄さんと呼んでもらってきたからなぁ」

 

 お兄さんの腕を、優しく抱き締める。こうすると、お兄さんの温もりを肌で感じられる。

 トレーナー寮の中だからこそ、普段は我慢しているようなことも出来る。

 学園内では出来ないことでも、今は……今だけは、周りを気にせず出来るから。

 

「ここに座ってて。今、ケーキを持って来るから」

 

 お兄さんはそう言うと、台所に向かって行った。

 お兄さんの部屋は凄く片付いているけれど、机の上だけは資料で散らかっている。

 初めてここに来た時、『整理整頓が得意なんですか?』と聞いてみたら、お兄さんはこう言った。

 

『俺、あまり趣味らしい趣味がなくてさ。それこそ、ミークのことばかり考えて勉強し続けてきたから。私物は最低限の物があれば十分事足りる。今の俺にとっては、ミークの為に頑張ることが趣味……いや、違うな。生きがいみたいなものだ』

 

 その言葉だけで、お兄さんがどれだけ私のことを想ってくれているかが分かった。

 お兄さんは確かに、打ち込める趣味はないのかもしれないけど。

 そこへ向ける熱意を全て、私に向けてくれていた。

 そして私も、これまで努力してきたのは……全部、お兄さんと会う為だったから。

 こんなところも似ていると思うと、凄く嬉しくなった。 

 

「よし、出来た。お待たせ、ミーク」

 

「あ……」

 

 お兄さんが持って来たケーキには、小さなろうそくが一本飾られていた。

 それでいて、板チョコには小さく『お誕生日おめでとう』と書かれている。

 文字が白いから、多分ホワイトチョコかな。

 

「改めて……十六歳の誕生日、おめでとう」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 そう、今日は私の十六度目の誕生日。

 こうしてお兄さんの部屋にやって来たのは、二人で誕生日会を開く為。

 提案したのはお兄さんで、私もそれに賛同して。

 何週間も前から、ずっとこの日を待っていた。

 お兄さんに、祝ってもらいたかったから。

 

「本当はもっと豪勢なお祝いをしたかったんだけどさ……情けない話だけど、まだ安月給で……」

 

「いえ、そんな……こうやって二人きりで静かに祝える方が、落ち着きますから」

 

「ミーク……」

 

「それに、公園で毎日会っていた頃を思い出せるので……むしろ、こっちの方が私達らしくて良いと思います」

 

「……そう、だな。この方が、俺達らしいか」

 

「はい……ふふっ……」

 

 お兄さんが微笑んで、私もつられて笑ってしまう。

 あぁ、お兄さんの笑顔は何度見ても癒される。

 あの頃よりも凛々しく、格好良くなったけれど、根本的な部分は変わっていない。

 私が大好きになった、優しくて温かいお兄さんそのもの。

 そんなことを考えていると、お兄さんが部屋の照明を消した。

 ろうそくに灯された火が照らす僅かな明るさと、ぼんやり浮かんだお兄さんの顔しか見えなくなった。

 

「――――♪」

 

「……!」

 

 すると、お兄さんがあの有名な曲を歌ってくれた。

 正式な曲名は知らないけど、誕生日を祝う時には必ずと言って良いほど歌う曲。

 その歌声は、一般的に綺麗なのか、それとも外れているのかは分からないけれど。

 少なくとも、私には大好きなお兄さんが歌ってくれているというだけで美声に聞こえた。

 

「……はい、ろうそくの火を消して」

 

「……すぅ~っ、ふぅ~!」

 

 私が軽く息を吐くと、ろうそくの火は一瞬で消えてしまった。

 そして、辺り一面が暗闇の世界へと移り変わる。

 お兄さんの顔が見えなくなって、少しだけ不安になったけれど。

 それに気づいてくれたのか、お兄さんはすぐに照明をつけてくれた。

 

「これでよし、と。それじゃ、一緒に食べよっか」

 

「はい……いただきます」

 

「いただきます」

 

 真っ白なショートケーキで、上には板チョコとイチゴが盛り付けられている。

 その大きさは、一般的なバースデーケーキと比べて小さいけれど。

 私とお兄さんにとっては、むしろこれくらいの大きさが性に合っている。

 

「……美味しいです」

 

「それは良かった。じっくり時間をかけて選んだ甲斐があったよ」

 

 無暗に規模を大きくしたり、サイズを大きくすれば良いという訳じゃない。

 少なくとも、私はこうやってお兄さんと静かに、ささやかに過ごす方が幸せを感じられる。

 もちろん、盛大かつ豪勢な催しを否定するつもりはないけれど。

 私もお兄さんも、そういうのは……どちらかと言えば、苦手だったから。

 

「お兄さんの誕生日には、私がケーキを買って来ますね……?」

 

「無理しなくて良いさ。学生なんだから、お金は極力貯めて……」

 

「むん……私がしたくてするんです。お兄さんは、素直に私からの好意を受け取ってくれればいいんです」

 

「……分かった。じゃあ、お願いしようかな?」

 

「はい……!」

 

 私ばかり、お兄さんから受け取るのは不公平だから。

 私だって、お兄さんに自分の愛を伝えたいから。

 お兄さんの誕生日……忘れたことはないけれど、後でカレンダーに印をつけておかないと。

 絶対に、お兄さんのことを喜ばせる。必ず、お兄さんを満面の笑みにしてみせる。

 今日、お兄さんが私にそうしてくれたように。

 

 

 

 

 

 

 

 ●

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 ケーキを食べ終わった後、私とお兄さんはソファに座っていた。

 もちろん、二人で隣り合って。体と体が触れる距離で、寄り添い合って。

 何も言葉を交わさないまま、ただ時間がゆっくりと過ぎていく。

 でも、私もお兄さんも、何も言わずとも分かっていた。

 この時間も、私達にとっては……至福の一時だということを。

 

「…………」

 

「……お兄さん?」

 

 そう考えていると、お兄さんが何やら机の引き出しを漁り出した。

 もしかして、やり忘れていた仕事があったのかもしれない。

 もしそうだとすれば、邪魔する訳にはいかないから、私は別室で……

 

「はい、誕生日プレゼント」

 

「……え?」

 

「いや、どうして驚いてるの? まさか俺がプレゼントを用意してないと思った?」

 

「だって、プレゼントはさっき……」

 

「……あぁ、ケーキのこと? あれは誕生日会のお約束みたいなもんさ。プレゼントとは別だよ」

 

(お兄さん……私の為に……)

 

「と言っても、そんな高い物は買えなかったんだけどな……ごめん」

 

「そ、そんな……! むしろ二つもプレゼントを用意してくれて、凄く嬉しいです……!」

 

 私はお兄さんに誕生日を祝ってもらえただけで、本当に嬉しかった。

 それに、一緒にケーキも食べられたから、もう十分だったのに。

 まさか、サプライズプレゼントまであったなんて……嬉しすぎて、ドキドキが止まらない。

 

「開けても、良いですか……?」

 

「もちろん」

 

 私はお兄さんから差し出された、小さな袋を手に取る。

 そして、袋の先端部分を縛っているリボンをゆっくり外していく。

 リボンを解き終えると、中には二つの小さな物が入っていた。

 

「……これって、花柄のヘアピンと耳飾り?」

 

「あぁ。他のウマ娘はみんな、色々な飾りを付けてるだろ? だから、ミークにも付けて欲しいと思ったんだ」

 

「…………」

 

「俺の自慢の愛バの……俺の最高の恋人の可愛さを、綺麗さを、言葉では言い尽くせないほどの魅力を、周りに知ってもらいたくて」

 

「お兄さん……」

 

 感激のあまり、上手く言葉が出てこない。

 こんなにも、大好きな人から想ってもらえていることが。

 こんなにも、大好きな人からの愛情を感じられることが。

 私は、本当に、本当に……幸せ者だと思う。

 

「……付けてみますね?」

 

「うん」

 

 お兄さんから貰ったプレゼントを壊さないよう、最大限の注意を払う。

 あまりに注意を払いすぎて、あるいは嬉しすぎて。

 手が震えてしまったせいで、最初は上手く付けられなかったけど。

 一分ほど時間をかけて、ようやくヘアピンと耳飾りを付けることが出来た。

 

「おぉ……!」

 

「どう、ですか……?」

 

「……やっぱり、俺の目は間違ってなかった」

 

「あの……?」

 

「自分の語彙力のなさを、これほど恨んだことはない」

 

「お、お兄さん……?」

 

「陳腐な表現で、本当に申し訳ないんだけど……凄く似合ってる」

 

「あ……!」

 

「いや、似合ってるというレベルじゃない。このヘアピンも、耳飾りも、ミークの魅力を引き立たせる為に存在したと言ってもいいほどだ」

 

「…………」

 

「もう凄く可愛いくて、綺麗で、もし今の俺がミークと初対面だったとしても、確実に一目惚れすると断言してもいい。もちろん、ミークの魅力は外見だけじゃないけどな」

 

「……♡」

 

 もしかしたら私、明日には死んでしまうのかもしれない。

 思わずそんな怖い想像が頭をよぎるほどに、私の心が幸せで満たされてゆく。 

 大好きな人が褒めてくれた。それだけでも嬉しいのに。

 こんなにも褒めてもらえたら、幸せすぎてどうにかなっちゃいそう。

 

「……ありがとうございます。大事にします……ずっとずっと、大事にしますから……!」

 

「……良かった。ここまで喜んでもらえると、俺も嬉しいよ」

 

「えへへ……♡」

 

 私はそのまま、お兄さんの肩に顔を乗せる。

 すると、お兄さんが私の頭を優しく撫でてくれる。

 お兄さんの大きくて少し硬い手が、私の頭を包み込んでくれる。

 時々、もう少し進んだ関係になりたいと思うことはあるけれど。

 それはまだ早いと、二人で相談して決めたことだから。

 でも、そんなことが気にならないくらい……私は幸せ。

 むしろ、これ以上の幸せを望むのは贅沢だと思うほどに。

 

「……大好きです、お兄さん♡」

 

「俺の方こそ。愛してるよ、ミーク」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、私はお兄さんと一緒のベッドに入って、一晩を明かした。

 お兄さんに添い寝してもらいながらだと、いつも良い夢を見られる。

 私が起きている時も、眠っている時も、お兄さんはいつも幸せを与えてくれる。

 そんなお兄さんのことが、ますます好きになって。

 同じくらい、私もお兄さんのことを幸せをしたいと思って。

 それ以来、私はお兄さんから貰ったヘアピンと耳飾りを毎日欠かさず付けている。

 理由はもちろん、プレゼントを付けた私の姿をお兄さんに見せて、笑顔になってもらう為。

 そして、これまで以上に力をつける私を見せて……喜んでもらう為。

 実際、耳飾りとヘアピンを付けた日から……私の実力が更に伸び始めたから。

 これぞまさしく、お兄さんとの愛の力……ぶい♡




 完結させた後に後日談を投稿していくスタイル。
 こちらで案を思いついたり、pixiv等で案を頂いた場合、不定期で番外編を投稿するかもしれません。
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