私の長い……   作:零っち

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私の長い……

長い間そこに居た気がする──

長袖じゃ少し暑くなり、ピアノを弾くことにも支障が出る初夏の校舎──

私は待っていた──いや

『きっとそこにいくから、まってて』

このメールを見て待っていた事を思い出したんだ───

 

 

「ん…ここ、は…?」

 

目覚めた時、私は見知らぬ天井を見つめていた。

見知らぬ天井ではあったが、漂ってきた独特の匂いでここが病院であることを理解した。

 

「そうか…助かったんだな…」

 

きっと理樹君と鈴君が力を合わせあの事故から救ったんだろう。

 

「──っ?!」

 

瞬間、私の胸に衝撃が走った。理樹君が鈴君と力を合わせている姿を思い浮かべてしまったからだ。

もしかしたら2人は特別な関係になってしまったのでは、と頭によぎってしまった。

 

「理樹、君…!」

 

我ながら情けなくも震えた声だ。いつものように声が出ない。

苦しい、涙が止まってくれない。あの世界で知った悲しみがまたぶり返してしまった。

 

「くそ…!」

 

本当に君は、私を狂わせる…

 

 

私や、他のリトルバスターズの女性陣は比較的軽いケガであったため、早期に退院することになったのだが、まだ、私は心の整理を済ませられないままだった。

私はどうすれば…

 

「…谷さん…るヶ谷さん…来ヶ谷さんってばっ」

 

「ん…あ、ああっ、理樹君。どうかしたのか?」

 

「もう~、だから、恭介達が帰ってくるまでにどうやって暇を潰すか考えようって言ってるじゃない」

 

「そうだったな、失敬した」

 

あ、危なかった…危うく声が裏返ってしまうところだった…。

くそ、私の気も知らないで…

 

「…なにかあったの?」

 

「む?」

 

「いや、なんだかいつもの来ヶ谷さんらしくなかったからさ」

 

「そうか?確かに少し考え事をしていたがそこまで心配するほどでもないだろう?」

 

いきなり核心をつかれた動揺を押し殺し、平然を装う。

 

「んー、そうなんだけどね…」

 

「はっはっは、なんだ?何かこのお姉さんに心配な点でもあったか?」

 

「いや…イジメとか、受けたのかな~…って…」

 

「っ!?」

 

イジメ…?そんな事、今は微塵も受けていない。

それは───あの世界であった事じゃないか。

 

「まさか、受けてるの?!」

 

先ほどの動揺を肯定に受け取ったようでもの凄い勢いで問いかけてくる。

 

「違う。………なぜ急にそんな突拍子のない考えが浮かんだのか不思議だっただけだ」

 

「なぜって…わからないよ。なんだかそんな気がしたっていうか…。前にイジメがあったって聞いたような…」

 

失ったはずの記憶の一部が不意に出てきているのか?

もしかしたら、今なら…今あの時の事を話したら…思い出してくれるのか…?

 

「理樹君…」

 

「来ヶ谷さん…?」

 

今なら…君は…

理樹君の肩を掴む。

 

「なにかの記憶違いだろうそんなもの。少し疲れてるんだ、きっと。今日は帰って休みたまえ」

「え、ちょ、ちょっと来ヶ谷さん?!」

 

回れ右をさせ背中を無理やり押して教室からでる。

 

「私も少し眠いしな。遊びについてはまた今度考えることにしよう」

 

「う、うん…」

 

「それじゃあまたな理樹君」

 

挙動不審な私を訝しむ理樹君からそそくさと逃げ帰る。

自室まで早足で帰り、制服にシワがはいることなど気にもとめずベッドで横になる。

 

「だめだな…私は…」

 

少し、理樹君に近づくのは控えようか…。

 

 

「理樹くーん、真人くんが退院するらしいよ~!」

 

「え、ほんとに!?」

 

「うん~。看護師さんから聞いた確かな情報だよ~」

 

「そっか、これでもっと楽しい遊びが出来そうだね」

 

あの日以来理樹君と少し距離をとることにしたのだが…皆理樹君と喋りすぎだろう!なぜそんなにも自然にいられるのだ?

私と彼女らでは何が違う?彼女らもきっとあの世界で理樹君といい仲になっていたはずなのに…なぜ私だけこんなに…

 

「どしたの?姉御?」

 

「葉留佳君。いや、少し考え事をな」

 

「なになに~?なに考えてたんっすか~姉御~?」

 

むぅ…少し面倒くさいのに絡まれてしまったな…。

いや、この際訊いてしまうか?正直マナー違反のような気がするが…

 

「葉留佳君は、あの世界の事をどの程度覚えている?」

 

「ほへ?えーと、なんで今更?」

 

確かにもうあの事故からしばらく経ってしまっている。

 

「深い意味はないが、訊いたことがなかったなと思ってな」

 

「んー、そうだな~。あんまり覚えてないんだよね~。ただ…」

 

「ただ?」

 

「お姉ちゃんと仲直り出来たのは理樹君のおかげっていうのは、なんか覚えてるんっすよね~、やははー」

 

そうか…。みんなは理樹君と付き合っていただとかの類の記憶は無いのか…。

私だけ、か…。

 

「ふむ、なるほど。私と似たようなものだな」

 

「へ~、姉御もやっぱり曖昧にしか覚えてないんだ~」

 

「うむ。なんだかある程度以上は霧がかかったように思いだせなくなる」

 

どの口が言うんだ。思い出すと悲しくなる。だから蓋をした。だが私は、断片的なものだが全て覚えている。自分本位にあの世界の歯車を狂わせた私自身の行為を、。

みんなが力を合わせて作り上げたものを私1人で壊そうとしたことを。

でも、そんな事は口が裂けても言えない。

こんな幸せを受けてはいけないと理解しているくせに、失うことが怖くて決して口に出せない。なんて卑しいのか。

私は………

 

 

それから数週間が過ぎた。

やっと真人少年と謙吾少年が退院でき、メンバー全員で喜んだ。理樹君も「これでもっと楽しく遊べるね!」と上機嫌だったが、その反面恭介氏の不在をより強く感じてしまっているようだった。

よく授業中物思いに耽り、窓の外をぼんやりと眺めていた。そしてその姿から私は目が離せなかった。

 

 

ある日、部室に理樹君と鈴君以外のメンバーで一緒に向かった。

部室に入ろうとした時に声が聞こえてきた。

 

『はるかは微妙だな』

 

ドアの向こうからいきなり聞こえた鈴君の声、そして言った内容に皆で目を合わせてしまう。

「え、何の話?私微妙?」

 

「……!」

 

葉留佳君が訊きながら部室に入っていくのをみて私たちもぞろぞろと入っていく。鈴君は少しびっくりしている。

 

「お菓子買ってきたよ~」

 

「すぐにお茶入れますっ」

 

「こまりちゃんなら許す」

 

「ふえ?」

 

お菓子を並べている小毬君にいきなり許可を出す鈴君。

先ほどのことも考えると

恐らく理樹君の彼女として、ということだろう。

 

「なるほどなるほど。鈴君は理樹くんのお節介な妹といったところか」

 

こんな会話をするということは鈴君は理樹君と付き合っていないのだろうかという想像が湧き、少し鎌をかける。

 

「なるほど。直枝さんもいい妹をもって幸せですね」

 

そんな私の考えを知ってか知らずか美魚君も乗ってくれる。

 

「いもうとか…………頼りない兄だな」

 

「いやそんなダメ出しされても…」

 

まんざらでもなさそうに言う鈴君。そして苦笑している理樹君を見て、現在2人の関係が恋人ではないことがわかった。

すると、私の心にのしかかっていた重りのようなものが少し、軽くなったような気がした。

 

「とりあえず、察しがいいくるがやとみおも合格だ」

 

内心で満足していた所にそんな言葉が飛んできた。

 

「それは光栄だな」

 

表情に動揺を出さないように必死に無難な答えを口にする。

私が理樹君の恋人として合格…?そんなわけがないだろう。私は一歩間違えれば理樹君も鈴君も──そして、クラスメイト全員を殺してしまうような行為を一時の感情に身を任せ、やったんだ。

だから私に、そんな資格は────ない。

 

 

現在、リトルバスターズのメンバー全員で修学旅行のやり直しという名目で旅行をしている。

まさか恭介氏が入院中に免許まで取っているとは思わなかったが。

 

今は深夜。雲がどんよりと漂って三日月の光だけがうっすらと差し込んでいる。

真っ暗で底の見えない海を見ながら思う。私は此処にいていいのだろうかと。

 

「私は、裏切り者だ」

 

こうやって今修学旅行のやり直しを行えるのはひとえに、理樹君と鈴君のおかげだろう。もちろん恭介氏や他のメンバーも助力をしたが。

───だが、私は違う。私だけは、ただただ邪魔をしただけだった。強さを与えなければいけなかったというのに、私は彼に“なんだか悲しい事が待っている気がする”という漠然とした記憶を植え付け、弱くしてしまった。

そんな私がこんな幸せを受けていいのか?

 

「来ヶ谷」

 

「…恭介氏か。なに用かな?」

 

「いや、ただ散歩していたらばったり出くわしただけさ」

 

全く、白々しいな…。

 

「そうか、なら散歩を楽しんでくれたまえ」

 

「おいおい…ったく、つれねえなぁ」

 

軽口に乗らない私の返事にうなだれながら頭を掻く。

 

「お前…まだあの時の事、気にしてんのか?」

 

「…………………」

 

沈黙を肯定と受け取ったようで、はぁ、と溜め息をもらす。

 

「お前は確かに俺の計算外のことをやった。…でもよ、それでも、こうやって今、皆生きてるじゃねえか」

 

「それでも…私のしたことは無かったことにはならない…」

 

皆が忘れても、私の中から消えることなんてないんだよ。

 

「…私は、ここに居ていいのか?」

 

気がつくとずっと心の中で自問自答を繰り返してきた質問をぶつけていた。

 

「当たり前だ」

 

恭介氏は迷うことなく即答する。

 

「お前も俺達の仲間、リトルバスターズのメンバーじゃねえか。…それにな、あの世界で理樹の行動をずっと見てきたから分かるが、お前の時が一番強情だったんだぜ?告白はやめとけっつってもやめねえんだから困ったよ」

 

そんなことがあったのか…。でも、そんな事は聞きたくはなかった…。そんな事を聞いてしまったら…また諦められなくなってしまう…。

 

「きっと、真人や謙吾、それに皆だって…「すまない恭介氏…1人に、してくれ…」

 

「来ヶ谷…」

 

「すまない…」

 

「最後に1つだけ言っておく。

お前が理樹に与えたのは悲しみだけなんかじゃ決してない。

じゃあな」

 

まったく、何もかも見透かしたように…やはり、苦手だ。

 

 

修学旅行のやり直しも無事終了(教師達と一悶着あったが)し、数日が経った。

 

「私は…何をしたいんだ…」

恭介氏との会話で余計に自分自身というものがわからなくなった。

ここ最近、ろくに眠れていない。今もこうして夜中に徘徊している始末だ。

こんな所を見つかりでもしたらまた教師と揉めることになるな。

…そしたら君は私の心配をしてくれるだろうな。なら、それも悪くない気もしてくる。

 

「ゆいちゃん…」

 

「小毬君?どうしたんだ?こんな遅くに」

 

後ろを振り返ると浮かない表情をした小毬君が立っていた。

 

「こんな時間に出歩いてる所を見られたら大変だぞ?」

 

自分の事を棚に上げた台詞だが、私なら最悪逃げ切れるからいいだろう。

 

「ゆいちゃんこそ何してるの?こんな時間に」

 

…どう答えたものか…

 

「…眠れないの?」

 

「いや、そういうわけではないが…」

 

何だ?小毬君は何か気づいてるのか?

 

「ゆいちゃん…何でゆいちゃんは辛そうなの…?」

 

「辛そう?はっはっは、何を言ってるんだ小毬君。皆でまた騒げるようになっておねーさんはとても楽しいぞ」

 

予想外の人物に指摘してされ、少し動揺したがいつも通りの私のように答える。

 

しかし小毬君は首を横に振り

 

「私ね、皆の楽しそうだったり嬉しそうだったり幸せそうな表情が好きなんだ…」

 

「それは知っているが」

 

小毬君の幸せスパイラル理論等は身内では有名だ。

 

「だからね、そうじゃなかったらすぐにわかっちゃうんだ…。ゆいちゃん…最近理樹くんを見る時いっつも悲しそう…」

 

「…………」

 

何故こういう所だけ勘が良いんだっ…

 

「ゆいちゃんはもしかして何か覚えてるの?あの世界の事…」

 

「――――っ」

 

ギリッと歯軋りの音が鳴る。くそ、最近こんな反応ばかりしてる気がする。

 

「理樹くんと何があったの?」

 

私は…どうすればいいんだ?この子に打ち明けるのか?だが、そんな事をしたら此処に、リトルバスターズに居れなくなってしまうかもしれない…

 

「ゆいちゃん…」

 

―――――私は…

 

「私は…覚えてるんだ…あの世界の出来事、そして理樹君と過ごした日々も…」

 

信じたい…皆を…やっと手に入れた私の居場所を…

もしかしたら恭介氏の言葉も少し影響しているのかも知れないが。

 

「私は理樹君に告白され付き合った…それから過ごす日々は穏やかで、幸せだった…私は彼が好きで、彼も私を好いてくれた…。

だが、終わりは近づいて来ていた…」

 

修学旅行当日―――世界のループが始まる日。

 

「だから私は世界の歯車を乱した…。皆が必死に理樹君と鈴君の為に保っていた物を…私が台無しにしようとした…まぁ、それも恭介氏が止めたが…しかし、私のした行為は許されるものじゃない!」

 

「ゆいちゃん…!」

 

私がそう叫ぶと小毬君の目に涙が浮かんだ。それにつられるように私の視界も歪む。

 

「だから!私はっ…これ以上の幸せを願ってはならんのだ!…どれだけ理樹君が好きだろうと!そのせいで辛かろうと!この想いを伝えるわけには、いかん…!」

 

「違うよ、ゆいちゃん…」

 

うつむき、足に力が入らなくなり崩れた所をそっと抱きしめられる。

 

「みんなゆいちゃんの辛い顔なんて見たくないよ…!ゆいちゃんの幸せそうな顔をみたいんだよ…」

 

「今も幸せなんだ…皆の輪の中に居られる事が…」

 

「違うの」

 

また首を横に振り、否定する。何が違うんだ?私のような裏切り者はこれ以上の幸せを願ってはいけない。そうじゃないのか?

 

「みんなあの世界で大切な者を手に入れれたんだよ…私はお兄ちゃんの事を思い出せたし、それで強くなれたよ。

はるちゃんはかなちゃんと仲直り出来たし、クーちゃんは故郷に戻らなかった時の後悔がなくなって、宇宙飛行士の夢も持てた。みおちゃんも自分自身への自信を持てるようになってよく笑うようになったよ。

でもね、ゆいちゃんは戻って来てから悲しみしか持ってないよ…」

 

「そんなことは…」

 

ない、とそこで言えなかった。そう思っているはずなのに…彼に喜怒哀楽の感情をもらって、恋も教えてもらったはずなのに…

 

「なんでゆいちゃんだけが空っぽで居なきゃ駄目なの?私は…ゆいちゃんの楽しそうな顔が見たいよぅ…」

 

うえぇーんと、私を抱きしめながら泣き声をあげ、嗚咽をもらす。

 

「…いいのか…?」

 

私は…これ以上を望んでも…

 

「こら!そこに居るのは誰だ?!」

 

遠くで懐中電灯を照らす人物が叫んだ。

 

「立て!走るぞ!」

 

泣きじゃくる小毬君を無理やり立たせて手を引いて走る。

見回りを振り切ったその足で寮に戻りうやむやのまま小毬君を部屋に送り届け逃げた。

…皆、望んでくれているのだろうか、本当に…。

 

 

 

「ここは…」

恭介氏が無事に退院を果たしリトルバスターズで修学旅行のやり直しや、小毬君の説得からしばらくが経った。季節は秋のはずだ。もっと細かく言うのならば今日は確か10月23日のはず。

───なのに、暑い。

目が覚めるといつの間にか放送室のピアノの前に座り、夏服を着ていた。

ここは、あの世界───理樹君を待ち続けた世界。

 

「なぜ、またここに?」

 

まだよく夢にみるこの世界ではあるが、これは明らかに夢じゃない。

 

「くそ…なんで今更…!」

 

此処にいるとあの時の記憶が嫌でも頭に流れ込んでくる。思い出すと悲しくなる。だから今まで強く思い出そうとはしなかったのに…。

 

「思い出させるな…!」

 

彼と恋人として過ごした日々を───

そして別れを───

 

───その刹那にハッとした。

今まで思い出していた記憶は、断片的なものだった。

2人で校舎から花火を見た時、彼から告白された時や、一緒に放送をした時、クッキーを作った時等。

そして、最も思い出す頻度が高かったのが別れの時だった。

別れといっても、ろくな別れ方など出来やしなかったが。

その別れる時の記憶もやはり断片的なもので、“悲しい”という事ばかりが浮かんできていた。

しかし、此処に来て映像的に流れてくる記憶では、私は別れの間際にこう言っていた。

『理樹君まだ、伝えていなかったことが一つあったんだ。……またキミと過ごしてこの気持ちを覚えていたら……その時は、きっと私から言うよ。……好きなんだって』

 

「意外と、バカなんだな…私、は…」

 

なぜ忘れていたのだろう。こんなに大事な事を。彼との、最後の約束だったというのに。

 

「理樹、君…ごめん、な…」

 

本当ならもっと早く言わなければならないことなのに、私が思い出さないように自分の記憶に蓋をしようとしたせいで。

恭介氏や小毬君にも迷惑をかけてしまった…

 

「言うよ、理樹君…」

 

此処からまた戻ったら、必ず───

 

それから久々に晴れやかな気分でピアノを弾いて時間を潰していると、急に目の前が暗転し、また目が覚めると、自室のベッドの上だった。

 

「戻ったか」

 

ベッドから身を起こし、カーテンを開ける。

今日も空は晴れ渡っている。

 

 

その日の放課後、リトルバスターズの練習を始める前に新メンバーが加入することを理樹君から皆へと伝えられた。

なんとその人物は笹瀬川君だった。どうも理樹君と何かがあったらしいが、おそらく、あの世界に関係ある事が起こったのだろう。

まあ、それはいいとするが、なんだ2人とも仲良さげに…。

 

 

 

「理樹君」

 

「ん、なに?来ヶ谷さん」

 

「今日の放課後、そうだな…誰も居なくなった頃にこの教室に、来てくれないか?」

 

今日、約束を果たす───あの時の約束を──。

君は忘れてしまっているだろうがな。

 

「え?うん…いいけど…」

 

「そうか、それではな」

 

「え、ちょっと来ヶ谷さん?」

 

何の用かも告げずに去る私を呼び止めようとする理樹君だったが、正直もう心臓が早く動きすぎてその場に入れなかったのだ。

 

「でも、今日言うよ」

 

 

今日の授業はずっと上の空だった。いや、休み時間もだが。

まだかまだかと待っていた放課後も気づけばあっという間に訪れていた。

もう、夕焼け空だ。

 

 

空を見ていると、ガラガラと、教室の扉が開く音。

振り向くとやはりそこには理樹君が居る。

 

「来ヶ谷さん」

 

彼の声が耳を通り、鼓動が早まる。今からすることを思うとさらに加速する。顔も真っ赤に染まっていくのが自分でも分かる。

つい顔を隠したい衝動に駆られるが、なんとかその手を口元にやり、顔を伏せることで押し止める。

 

「来ヶ谷さん、何のよ───「好きなんだ…」──え、それって…」

 

彼が何の用か問い終わるまでに告げる。今日呼び出した答えを。

やはり、戸惑うよな…。

 

「恋してる方の、好きなんだ…」

 

言った…言えた…やっと、君に正直な気持ちを伝えられた。向こうでも出来なかったことだ。

 

「来、ヶ谷さん…」

 

「理樹君…?」

 

名前を呼ばれ、伏せていた目を上げると───泣いていた。

 

「唯湖さん…」

 

「こ、こら!名前で呼ぶな!」

 

なぜ急に下の名前で呼ぶのだ?!

 

「…まだ、だめ?まだ、未来の旦那さまにはちょっと届かない…?」

 

思わず目を見開いた。

それは、向こうでした会話じゃないか…!

 

「理樹君?…思い、出したのか?」

 

私の問いに静かに首を横に振る。

 

「ううん…でも、自然と言葉が出ちゃったよ。まだ、僕未来の旦那さまにはなれないのかな?ってさ」

 

「それは、プロポーズか?」

 

あの世界でもしたことのある会話。

 

「うん。そのつもりだよ」

 

「───っ!?」

 

しかし、答えは違った。あの時理樹君は照れただけだったが今回は恥ずかしげもなく肯定したのだ。

 

「私で、いいのか?私なんかで…?」

 

「ううん、唯湖さんじゃなきゃ嫌なんだ」

 

私も、涙が止まらなくなる。しかし、今度の涙は辛いものじゃなかった。

 

「そうか…なら、私と付き合ってくれないか…?」

 

「こちらこそだよ…唯湖さん」

 

こうして、私の長いようで短い片想い──いや、両想いなのか?要するに、私の恋はひとまず一区切りを迎えた。

後日、恭介氏を筆頭に散々冷やかしを受けるのは、また、別の話───

 

 

 

 

 

 

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