ありふれない異世界魔王道 作:パンプキン太郎
#2
突然教室に現れた魔法陣から放たれた眩い光に両手で顔を覆った俺は明らかに教室に居た人数よりも多い人のざわめきと視線を感じそっと閉じた目を開いた。
目を開いた先の景色はまるで異国の建造物が広がっていた。
後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれた巨大な壁画、大理石のような美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建造物、美しい彫刻の彫られた巨大な柱、天井はドーム状になっている。
異国の教会、大聖堂がふと脳裏に浮かぶほど荘厳な雰囲気の広間がそこには広がっていた。
俺を含め唖然としていたクラスメイト達は広間の最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。
あの時教室に居た全員が巻き込まれていたようだった。
俺は俺の傍に居た八重樫に目を向けた。
怪我はないようだったのでその事に安心しつつもこの状況で平静を保っている姿に感心を覚えた。
周りのクラスメイト達は不安、戸惑い、恐怖の
八重樫も不安の色が滲んではいたがクラスメイト達程ではなかった。
続いて数少ない友人であるハジメに目を向けると彼は俺と同じ様なこと考えていたのか白崎の安否を確認し何事も無かったようでホッと胸を撫で下ろしていた。
そこで俺とハジメは目が合いその現状を理解する為に恐らく現状を理解し説明してくれるであろうこの台座を取り囲む者達に目を向けた。
取り囲んでいた人達は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏い、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。
その内の一人である法衣集団の中でも特に豪奢で煌やかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が前に出てきた。
そして七十代とは思えぬその覇気に驚いたものの俺はそれ以上にこの老人から出ていた悪意の色に頭を抱えたのだった。
すると
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
イシュタルと名乗った老人は好好爺然と微笑んだ。
▷▶︎▷
場所は移り俺たちは大広間に案内されていた。
そこも煌びやかな装飾や壁紙、十メートルはあるだろうテーブルがいくつもある。
異国の貴族が晩餐会を行うような、そんな印象を受ける部屋だった。
上座に近い方に愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。俺やハジメは最後方だ。
ここに来るまでイシュタルが事情を説明し、光輝が持ち前のカリスマでクラスメイトを宥めたこともありここに至るまで大した騒ぎになる事はなかった。
それを見ていた愛子先生が涙目だったのは置いておこう。
全員が席に着席してすぐに広間に台車を押したメイドが数人入ってきた。
男子生徒は好奇心に負けメイドを凝視していた。
ハジメはオタクという事もあり異世界のメイドともあれば好奇心が湧かないわけがない。
あえて今こうしてメイドを凝視しないのはそんなハジメを満面の笑みを浮かべジッと見つめる白崎が原因だろう。
俺と言えば…追い出されるように有馬家に出される前の実家が金持ちというのもありメイドはそこまで珍しいとは思わなかった。
イシュタルはメイドが配った飲み物が全員に行き届いた事を確認すると話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そこからイシュタルの口から語られた内容はあまりにも身勝手で馬鹿らしい内容だった。
内容はこうだ。
俺たちが呼ばれたこの世界の名はトータス。
このトータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族だ。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
その中で人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
それが、魔人族による魔物の使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
本能のままに活動する魔物を使役出来るものなどほとんど居なかった。
例外はあれどせいぜい一、二匹程度のことらしい。そして今その常識が覆されたのだ。
これによってもたらされる答えは1つだ。
人間族の"数"というアドバンテージが崩れ滅びの危機に瀕しているということだ。
「勝手な……」
「識?」
「いや、なんでもない……」
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
エヒトとかいう神からの神託を思い出したのかどこか恍惚とした表情浮かべるイシュタル。
控えめに言って気持ち悪いがどうやらこの反応は珍しくないようだ。
人族の9割がエヒトを信仰する聖教教会の信徒だという。
この世界となんの関係もない子供を攫ってきて戦争をさせる神の意思に嬉々と従うこの世界の住人に危機感を覚えると同時にイシュタルに激しく抗議する者が立ち上がった。
愛子先生だ。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
「先生…!」
あまりにふざけた理由に俺も内心不快に思っていたが愛子先生の常識ある怒りの抗議に俺の中での愛子先生の株がぐんと上がった瞬間だった。
しかし、愛子先生の容姿などの色々な要因が怒りを感じさせないようにしてしまっているのが残念だ。
そんなぷりぷりと怒る愛子先生に対してイシュタルの放った言葉は生徒達を凍らせた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
その場は静寂に包まれた。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようにズーンと重くなる感覚を覚えた。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生は力が抜けたのかヘタリと椅子に腰を落とした。
生徒達は口々に元の世界に帰せと叫び始めた。
何も言わずに生徒達を見ていたイシュタルからは侮蔑の色が出ていた。