レヴィア・クエスト! ~美少女パパと最強娘~   作:ちりひと

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087. 予選・中

「どうやら困っているようですな」

 

 審査員席。ルシアの隣に座る男、ファビウス将軍が言った。

 

 将軍はルシア側の人間である。ロムルスに対しマトモになって欲しいと願う人間であり、かつロムルスの事を評価してもいる。故に今回の画策には喜んで協力してくれた。

 

 レヴィアを落選させる。その為にルシアが行ったことは千妃祭への介入。

 

 これまでの調査でレヴィアの行動は筒抜けである。その調査をもとに試験内容を変更し、レヴィアを不利な状況に追い込む。正統派ともいえる妨害であった。下手なちょっかいは逆効果になりかねないと考えた為だ。

 

 これはロムルスがいないからこそ出来る手段だった。彼は試験内容を知っているし、内容を変更するよう動けば確実にバレる。バレた途端ルシアの試みは失敗となってしまう。

 

 しかし今、ロムルスは王都にいない。そしてロムルスが帰ってくるのは千妃祭当日か、よくて前日くらいだろう。その短い間に気づかれるとは思えないし、仮にバレたとしても一日二日ならのらりくらりとかわす事ができる。言い訳は既に考えてあるのだから。

 

 ルシアはレヴィアの方へと目をやる。試験開始の宣言があってもしばらく動かない彼女であったが、今は隣の女と共に調理台へと向かっているようだ。

 

 余った調理台……最後列にあるその場所に立ったレヴィア。早速とばかりに冷蔵庫の中の食材をあさり始める。しかし、それらを見て考え込んでいる様子。

 

(やはり料理は出来ないみたいね。他の者たちと違い、中々始めようとしない)

 

 レヴィア以外の千妃候補。彼女らは手慣れた様子で肉野菜を調理し始めている。レヴィアとは対照的な姿だった。

 

 確実に料理が出来ないレヴィアだが、念には念を入れる必要がある。故に試験内容だけでなく、グループメンバーをもルシアは厳選していた。ほぼ全員が料理及び他の二つの試験も習熟している人物を選んだのだ。

 

 因みに同じグループに放り込まれたレナはレヴィア同様確実に落とすつもりである。レヴィアの最初期からの協力者であり、かつ素行があまりよくない為だ。

 

「ぶ、ぶひー……。お、美味しいものが出てくるといいな」

「お腹へったー。ねえ、まだー?」

「パオロ殿下。今しばらくお待ちを」

 

 そして審査員。彼らもきちんと厳選していた。

 

 グルメな人物で知られるミトル伯爵。太った体は美食をむさぼって来た証。彼ならば容姿に惑わされず料理そのものを評価するだろう。

 

 次にパオロ。子供である彼は子供なだけあって素直だ。少々ワガママだが、それだけに美味しいマズイをはっきり言う。

 

 最後に女文官。ここ最近のロムルスの被害を受けまくり、泊まり込みで仕事を続ける苦労人。お昼前に帰宅するロムルスに対し、内心はブチ切れているに違いない。ついでにその原因たるレヴィアにも。

 

 ファビウス将軍と異なり、彼らには特に何も言っていない。しかしその心ゆえにレヴィアを落とす事はまちがいないだろう。

 

(これならば言い訳も聞くでしょう。試験の内容は変更したものの、審査は妥当なものだったと)

 

 ロムルスは優秀だ。裏工作に気づくのは間違いない。しかし審査に問題がなければ彼とてひっくり返す事は難しい。

 

 ただでさえ無茶をして集められている千妃候補。それらの中から選ばれた千妃が「やっぱり無しで」となればどうなるか。『優秀な跡継ぎを生み出す為』という前提は崩れてしまい、国の為だと我慢している者はこれまで以上に激怒するに違いない。国家は信頼を無くし、暴動にすら発展するだろう。それに気づかぬロムルスではないし、気づいた上で実行するほど愚かでもないはずだ。

 

(まあ千一人目の后にはするかもしれないけど……。とにかく千妃になる事だけは阻止しなければ。跡継ぎの母ではなく、他の后同様の存在ならわたくしでも対抗できる)

 

 レヴィアが寵愛を受けるのは最悪仕方ないとルシアは諦めている。受けられないような仕込みもしてはいるが、ここは安全策を取るべきだ。それに関しては後でもできるのだから。故にルシアは予選であるここでレヴィアを落とすつもりだった。

 

「しかし、彼女らも可愛そうですな」

 

 ふと、ファビウス将軍が呟く。見れば、彼は同情した感じで候補者を見ていた。

 

 確かに。ルシアは内心同意する。とはいえ、直接言葉に出す訳にはいかない。

 

「まあ……仕方ないでしょう。ご自分らでねじ込んだのですから、自業自得としか……」

「いやまあ、そうなのでしょうが」

「向こうから特別扱いを求めてきたので特別扱いはしてあげました。それで十分でしょう。加えて国家の為になるのですから、彼女らも本望なはずです」

 

 冷めた表情で冷めた声を出すルシア。が、内心可哀そうという思いはちょっぴりあった。いや、可哀そうなんて思うほど自分が恵まれている訳ではないのだが。成り行きによっては自分はもっと可哀そうな未来になりかねない。そしてその可能性は今のところ非常に高い。女として終わってしまうという。

 

「うわっ」

「なにアレ」

「すごっ」

 

 そんな自虐思考にルシアが陥る中、遠くから驚くような声。何だろうとそちらを見ると、候補者たちは全員同じ方向を見ており……。

 

 ――トントントントン!

 

 ――グツグツグツ。

 

 ――ジュワアアア……!

 

 その視線の先はレヴィアであった。ものすごい包丁さばきで野菜を刻み、沸騰していた鍋へと放り入れている。同時に別の野菜をフライパンへと投入し、揺らしながら炒める。時折食材が宙を舞うが、それはひっくり返す為に行われているようで、地面にはカケラも落としてない。

 

「あ、姉御すげぇ……」

「この程度は女子として必須技能なので……。むしろ周りの皆さまは何故できないんだろうと不思議です……」

 

 控えめな態度で全然控えめじゃない事を言うレヴィア。実際その手際は恐ろしく効率的で、複数の作業を同時並行で進めていた。

 

「うわっ。すげー」

「ほうほう! これは期待できそうですな!」

「た、確かに……」

 

 パオロ、ミトル伯爵、女文官も釘付けである。そのうちレヴィアはちょいちょいとパオロへと手招き。香ばしいニオイに釣られるように、パオロは彼女の元へと歩く。

 

「どうぞ。お腹空いてるみたいですから、味見です」

「お、おう……。う、美味ぇ! 何これ!?」

 

 炒め終えた一切れの肉をふーふーし、パオロの口へと放り込む。すると彼は驚いた表情をした。

 

「こんな味初めてだ! なあ、これ何て料理なんだ!?」

「うふふ、今は秘密。後でご説明しますね」

 

 口元に人差し指を立ててにこりと笑うレヴィア。その年上お姉さんっぷりにポーッと見ほれるパオロ。遅れてきた女文官が「で、殿下! 毒見もしてないのに!」と焦った様子で彼を引き戻していく。それを見ていたミトル伯爵は「いいな、いいな」と指をくわえており、レナは「あ、姉御すげぇ」と再び同じ言葉をつぶやく。

 

 どういう事だ。何が起きている。

 

 ルシアは混乱のさなかにあった。

 

 料理を人任せにしていたレヴィアと、料理が得意と言っていた他の者たち。なのにフタを開けてみれば前者が圧倒的に上手い。包丁さばきだけなら他にも上手いものはいるが、肉野菜を切り、湯を沸かし、料理に入るという直列的な動き。しかしレヴィアはその全てを並列に行っている。時間効率が段違いだ。

 

「ぶ、ぶひー。も、もう決まったようなものだね。ま、間違いなく彼女のが美味いよ」

「ミトル伯爵。どういう事ですかな? 確かに手際はいいようだが、味の方は……」

「あれは日常的に料理をしてる人の動きだ。ぼ、僕には分かる。ほ、他の人たちも料理は出来るみたいだけど、け、経験が圧倒的に少ない。たぶん普段から料理はしてないんだ」

 

 ミトル伯爵の言葉に、将軍は「むう。実戦経験者と新兵のようなものか……」と合っているような間違っているような例えを出した。

 

 そしてその言葉によりルシアも気づく。他の候補は『料理が得意』と言っていたものの、決して料理人レベルではない。家柄的に日常的に料理はしないだろうし、せいぜい花嫁修業レベルだろう。

 

 とはいえ、それでもレヴィアよりは上だと思っていた。誤算なのはレヴィアの腕そのもの。あれだけ上手なのに何故仲間に任せっぱなしだったのだろうか。

 

「あ、姉御。そんなに上手いのに、何でステラに任せっきりだったんすか? その腕なら自分で作った方が……」

「ええと……めんどい?」

 

 図らずもルシアと同じ疑問を抱いたらしいレナの問いかけ。そしてその答えはあまりにもヒドかった。尽くすべき夫に尽くすのがめんどい。だから他人の作ったものを自分が作ったと言って食わせる。正に悪妻であった。

 

「さ、出来ました。どうやら私が一番乗りのようですね。……女子力低っく」

 

 左右を見回し、ぼそりと呟くレヴィア。審査員席までは聞こえなかったが、近くの候補者にはしっかり聞こえたようで、候補者たちはひくりと目元を歪ませる。先ほどの「女子力は中身」発言に対する仕返しだろうか。

 

 お盆に皿を乗せ、レヴィアはいそいそと審査員席へと向かってくる。徐々に漂ってくる食欲をそそる香り。どんな料理なのだろうか。審査員たちは興味津々な様子だ。

 

「中華料理、異世界風味です。どうぞご賞味下さい」

 

 中華料理? 異世界? 料理のジャンルのようだが、聞いたことのない単語だった。ルシアだけでなく、他の者も同様な様子。

 

 内容はと言えば、平皿に盛りつけられた肉野菜にトロッとしたソースがかけられているもの。トマトとキュウリをスライスし、その上に茹でた鶏肉が乗ったもの。溶いた卵を使ったスープ。それぞれ日本において酢豚、棒棒鶏(バンバンジー)、中華風スープと呼ばれるものだ。

 

 異世界には存在しない料理。当然ルシアも見た事は無く、「大丈夫なのかしらコレ」と思う。しかし食欲をそそる匂いは本物であり、ルシアは思わず唾を飲んだ。

 

(いけない。如何に美味しそうでも相手はレヴィア。難癖付けて落とさないと……)

 

 そう考え、用意されていたスプーンとフォークを手に取る。幸いにも難癖をつける部分はいくらでもある。食べにくそうとか、あまり品が感じられないとか、王族の伝統にないとか。実際マナーが分からないので少し困る。

 

 まあ、なるべく上品に食べればいいだろう。そう考えたルシアはフォークを肉に刺し、口元へと運ぶ。

 

「あ、美味しい」

 

 甘さと酸っぱさが混じったような味。果物とはまた違った味わい。思わず素直な言葉が出てしまった。

 

「うまっ! うまっ!」

「…………」

「むう……。これは確かに唸らざるを得ない」

 

 ガツガツと貴族らしからぬ食べ方でかきこむミトル伯爵。無言で食べ続けるパオロ。渋い顔をしながらももくもくと料理を口に運ぶファビウス将軍。

 

「本当はもうすこし厚めのお肉を使った方が美味しいのですが……皆さまお腹が空いていたようなので、時短の為に薄切り肉を使いました。それと調味料はあくまで即席の代替品なので、本来のものとは少し味が異なるかも……」

「なにっ!? も、もっと美味しくなるというのかね!?」

「え、ええ。お時間さえ頂ければ……」

 

 ギラリとした眼差しでレヴィアを見る伯爵。その鬼気迫る姿にレヴィアはちょっと引いている様子。「是非作ってくれ!」と言う伯爵に「機会があれば」と大人のお断りをしていた。

 

「美味しかったぁ! ねえ、もっと無いの?」

「もちろんありますよ。……って野菜食べてないじゃないですか。ちゃんと食べなきゃ駄目ですよ。メッ」

「うっ。わ、分かったよ……」

 

 お代わりを要求するパオロ。しかし野菜を残していたのでレヴィアに怒られ、しぶしぶと食べる。ワガママなパオロには珍しい素直さだ。それもこれもレヴィアによるお姉さん的振る舞いによるものであった。

 

 ルシアは己の判断を悔いる。

 

(まずい……! 伯爵とパオロを呼んだのが裏目に出てしまった……! い、いえ、まだわたくしとファビウス将軍と女文官がいる。わたくしたちが結託すれば……)

 

「うっ、うっ……。久々の手料理だぁ。美味しいよぉ……!」

 

 が、その女文官は泣きながら料理を食べていた。

 

 これは一体。困惑するルシアだが、これには事情がある。ロムルスが仕事をぶっちぎった上に遠征に行ってしまった為、彼女の業務量はヤバい事になっていたのだ。徹夜は当然。家には帰れず、食事は片手間に食べられる味気ないものばかり。久々の温かい料理に感動してしまったのだ。

 

 ルシアは焦る。まずい。非常にまずい展開だ。いや、女文官とて正気に戻れば大丈夫なはず。きっとこちらの味方をするだろう。そうなれば三対二で、他の候補者が追い抜く事もできる。

 

 

 そうしてレヴィアより遅れること五分ほど。

 

「出来ました! 腕によりをかけた料理です! どうぞご賞味下さい!」

 

 別の候補者が料理を持ってきた。目新しさはないが、こちらはこちらで美味しそうである。意図せずレヴィアの料理を褒めてしまったので、次からはもっと褒めちぎろうとルシアは考えた。

 

 

 

 が、

 

 

 

「もういいや。俺、お腹いっぱい」

「ぼ、僕はもう少し入るけど、よ、余韻を楽しみたいな。悪いけどパス」

「ご、ごめんなさい。これ以上食べると太りそうなので……」

 

 パオロ、ミトル伯爵、女文官。お腹いっぱいに食べてしまった彼らは審査を拒否。本来であれば一口しか食べない予定だったのだが、予想外の美味さにスプーン&フォークが止まらなかったのだ。

 

 五名のうち三名が審査を拒否する事態。

 

 この瞬間、レヴィアの勝利が決定したのであった。

 

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