アシュリーとトモダチ   作:N・E・O

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第1話

ダイヤモンドシティの町外れ、近所では幽霊が出ると気味悪がられ、滅多に人が訪れることの無いこの大きな屋敷で彼女は一人で今日も目を覚ます。

 

「...おはようアシュリー」

 

誰に向けた訳でも無い目覚めの挨拶。

彼女自身、なぜこんな言葉を発するのかは分かっていない。

 

「...マジョルカスープ、今日は上手に作れるかしら」

 

彼女の名前はアシュリー、今は親元を離れこの屋敷で1人前の魔女になるための修行をしている。

この屋敷に来てそろそろ1年が経つがまだまだ覚えなければならないことは沢山ある。

マジョルカスープの精製も修行の一環であり、1人前の魔女になるためには欠かすことの出来ない課程の一つである。

マジョルカスープは薬の調合に必要なアイテムで回復薬や毒消し、はたまた毒としても利用できるなど、幅広い用途で応用ができる。より高度な技術を持つ魔女ならば大岩を持ち上げる程のパワーを手に入れられる薬や、風のように早く走れる薬、動物と喋れるようになる薬、死んだ者を生き返らせる薬を調合できるという...らしい。だがこの屋敷に来てからアシュリーはまだスープの精製に成功したことは無い。

今日はマジョルカスープ精製のため、屋敷内にある図書館から新しく見つけたレシピを試してみることにした。

 

「このレシピによると...これとこれと...あとはこのルウを入れてみれば良いのね、今回は上手くいくかしら」

 

グツグツ煮立つ鍋を見つめながら少女は考える。

今までのこの1年、1人でずっと魔法の修行をしてきた。

最初は一人でいるのが心細くて何度も涙を流した。

夜空に浮かぶあまたの星を眺める度に自分の故郷が恋しくて、何度も帰ろうと思った。

でも、自分の母親も同じようにこの屋敷で修行をして1人前の魔女になったという話を聞いていたから寂しい気持ちを押し殺して今日まで頑張ってきた。

でも私は...

 

「...?」

 

完成したのはマジョルカスープではなくクリームシチューだった。

今まで爆発したり変なスライムが生まれたりしたことはあったが、料理ができるのは初めてだった。

 

「...美味しい」

 

スプーンですくってひと口食べてみると口の中にまろやかな味が広がった。肌寒くなってきた今日この頃、暖かいクリームシチューは彼女の身に染みた。

 

___________________________

 

夢中で食べていたら鍋の底が見えていた。

アシュリーの背丈よりも大きい鍋だったが食べることが好きな彼女にはこれでも足りないくらいだ。

 

「でも、なんで...アシュリーはレシピ通りに...」

 

食べ終わったことで冷静になり、レシピ本をもう一度めくり直す。

 

「...美味しいシチューの作り方」

 

マジョルカスープの作り方だと思っていたが、実際は料理本だったことに気が付く。マジョルカスープ精製に行き詰まっていたため藁にもすがる思いで図書館の膨大な量の蔵書からレシピ本を見つけたが、まさか料理本だとは思ってもいなかった。

そんな自分を嘲笑するように彼女は自虐気味につぶやく。

 

「ふふっ、アシュリーったらバカねお母さ...」

 

無意識だった。

暖かいシチューを食べたことが、かつて故郷で母がいつも作ってくれたシチューを思い出させ、実家にいるような錯覚に陥ったのだった。

 

「な、なんで...涙が出るの...?」

 

気が付くと涙がこぼれて止まらなかった。

今まで押し殺してきた寂しさという感情がこぼれて止まらない。

きっと朝起きて「おはようアシュリー」と自分で言ってしまうのもかつて母がそうやって朝起こしに来てくれたからだ。

...1年が経ってすっかり1人にも慣れたと思っていたのに。

誰かに話を聞いて欲しい、誰かとおしゃべりがしたい。

10代の少女にとってそれは当たり前の欲求だった。

 

「なっ、涙も貴重な材料なんだから取っておかなきゃ...」

 

実は涙も魔法薬調合材料になると言われており、魔女の間では採取の対象である。

自分が涙を流したのは郷愁からではなく、材料を集めるためと解釈して彼女は寂しさを乗り切ろうとする。

 

「1人前になるためには涙なんていらない!話し相手なんていらないもん!!!」

 

そう叫ぶ彼女の髪は白く染まり瞳の色はより紅く染まる。

感情が高ぶった際や大きな魔法を使う際にはこの姿になるのだ。

 

「もういい!今日は寝るもん!!」

 

広い屋敷に彼女の心からの叫びが虚しくこだまする。

まだ日も出ているがカーテンを閉めてベッドに横になり、無理矢理寝付こうとする...が、予想に反してすぐに睡魔に襲われた。シチューを沢山食べたことで訪れる睡魔と、感情を大きく乱したことの疲れによるものであろう。

 

「誰か...」

 

薄れゆく意識の中、助けを求めるように少女は呟いた。

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