微睡みの中で母の夢を見た。
___魔法は誰かのために使う物よ。
いつかママがそう言ってた。
それがどういう意味かはまだ分からないけれども。
彼女が目を覚ました時には既に窓の外は夜になっていた。
満月の光が窓から差し込んでいる。
「...」
昔を思い出して柄にもなくセンチメンタルになってしまった。
しかし1人前の魔女になるためにはこんなことで悩んではいけない。
寝て落ち着いたのか、寂しい気持ちには踏ん切りを付けることができていた。
(明日からまた...)
そう心で呟いて再び彼女は眠りについた。
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それから数週間が経った。
アシュリーはあの日の出来事は忘れて魔法の修行に打ち込んだ。
だが、何回試みてもマジョルカスープの精製は成功しなかった。
「なぜなの...何が足りないの...?」
何も出来ないまま時間だけが過ぎていく。
このままでは1人前の魔女になることなんかできない。
焦りが彼女を包み込む。
「...久しぶりに外で修行してみようかな」
彼女にとっての外での修行とは箒に跨って空中を飛び回ることである。
魔女定番の移動方法である箒は自転車と同じで1度習得すればあとは感覚で飛ぶことができるので、その後に練習することなど殆どない。
正直に言うと気分転換のためなのだが、彼女のプライドが許さないのか、修行という体裁でそれを行うアシュリーであった。
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「...」
無言で満点の星空を駆け抜ける。
表情こそ変化は見られないものの、スピードを上げる度に心のモヤが晴れて行く気分の様だ。
そろそろ降りようかな...
そう思った矢先であった。
バサバサ!!!
「なに!?」
目の前にコウモリの群れが突如として現れた。
あまりに急な出現にスピードを出していたこともあり躱すことができず、コウモリの群れの中にそのまま突っ込んでしまった。
アシュリーは片手で箒を支え、片手で顔を庇う。
何匹か体にぶつかってしまい体がよろめいてしまう。
「くっ...」
なんとか体制を立て直し、地面に着地する。
「...ちっ」
背後へ飛び去るコウモリたちの群れを舌打ちをしつつ睨みつける。今度出くわしたらマジョルカスープの材料にしてやるとアシュリーは決意した。
「あら...?」
地面に1匹、翼の折れたコウモリが苦しそうにのたうち回っていた。
突然のこと過ぎて視認はできなかったが、スピードの出ていた箒の先端に翼が衝突し、折れてしまったと思われる。
「材料が手に入ったわ、外に出てみるのも悪くないわね」
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屋敷に帰ると実験動物室の檻の中にケガをしたコウモリを最低限の手当をして入れる。
この動物実験室では蛇やトカゲなどのマジョルカスープの材料となる生物の保管場所であるが管理が大変なために基本的に生育のための施設というよりかは外から捕まえてきた動物の一時保管場所として使用している。
「今日はもう眠いから出番は明日ね」
そう言って寝室に向かうのであった...が
「一応名前付けてあげる。そうね...赤い血が滴ってたからレッドなんてどうかしら、おやすみレッド」
ただの気まぐれなのか、物言わぬ動物相手であろうとおやすみを言う相手が欲しかったのかは分からないが、この出会いが彼女の運命を変えたのであった。