一色の後に姿を現したのは第六席の茜ヶ久保もも。
スイーツを極めている者やスイーツを好きな者の中に『茜ヶ久保もも』という名前を知らない者はいない。それほどまでに彼女の知名度は高いのだ。何よりも可愛いものを愛している彼女はいつも自分の追い求める、『可愛い』ものを作るのだ。
そんな彼女も他の者たちと同じで一番最初に天沢のところに行くのだ。
「お疲れさまです」
「お疲れ、茜ヶ久保さん。今日は急な呼び出しに応じてくれてありがとう」
「いえ、先輩に言われればももは絶対にいきます!」
「そう言ってもらえると有難いよ」
「当たり前です。ももは天沢先輩のことが大好きなので」
「オレなんかのことをそんなに好いてくれるのは素直にお礼を言う、ありがとう」
そして茜ヶ久保はポケットを探って、ラッピングされた小さな袋を天沢に渡す。
「あ、あの…スイーツ、作って来たので受け取ってくれますか?」
「ああ、ありがとう」
「先輩のためならももは頑張ります」
「こういう後輩が居てくれてオレは幸せ者だよ」
それからも少し話した後に茜ヶ久保は自分の座るべきところに腰下ろしたが、少し名残惜しそうでもうちょっと天沢と話したそうだった。
次に来たのは第三席の司瑛士。
二学年の中で彼はリーダー的な役割を担っている人物。少し弱気なところもあるが、自分の料理に対しての絶対的な自信と食材を最大限に活かす料理法で彼は第三席を与えられるまでになったのだ。
他の者と同じで彼も第一席が来ているのが分かると少し小走りで挨拶へと向かう。
「お疲れ様です」
「お疲れ、司くん」
「今回は僕の案を承諾してくださり、ありがとうございます!」
「いや、お礼を言うのはオレの方だよ。キミの提案のお陰で後輩たちに研鑽する場を与えられるんだ。オレの方こそ、キミに『ありがとう』と伝えないといけない」
「いえ、先輩のお陰です!!」
司は少し食い気味に言うので天沢は少し苦笑いを浮かべていた。
「そ、そうかい…」
その後も司の方から天沢に対して色々と話していた。そしてそろそろ終わるかなと誰もが思ったところで司は天沢に対してある質問をした。
「先輩は今回の月饗祭はどうするつもりですか?」
「どうするとは?」
「昨年は参加されなかったですよね」
司の言葉にこの場にいる天沢と木久知以外の全員に緊張が走った。
「まぁ…そうだね」
去年ももちろん、第一席として遠月学園のTOPに君臨していたのは天沢久遠。その彼が月饗祭に参加しなかったのだ。彼は一年生の月饗祭の時も第一席として君臨していたので今回の月饗祭は三回目。そのうち二回は月饗祭に参加していない。なので彼はまだ月饗祭に参加したことがないのだ。
「これはあくまで僕の意見なのですが、先輩には月饗祭に出て欲しいです!」
「そうなのか」
「はい、僕は天沢先輩に店舗を出して欲しいです」
天沢久遠がもし、料理店を出せばかなりのお客の数を叩き出すだろう。今まで一度たりともそういうことをしてこなかったことと、彼の料理の腕を考えればそれは必然だというしかない。
「まさか…司くんにそんなことを言われるなんてな」
「僕は天沢先輩のことを尊敬しているので出て欲しいです。先輩にも色々と事情があるのは理解しているんすが、それでも僕は先輩が月饗祭に出ているところを見たいです」
司瑛士が誰かの行動に対してここまで自分の意見を言うのは本当に珍しい。特に他人の行動なんて全然興味ないという感じの司瑛士が第一席の天沢久遠に意見を伝えた。
「なんで司くんが出て欲しいのかは分からないけど……今年は今のところ出る予定だから」
天沢久遠の発言にこの場にいる全員が目を見開いている。その反応だけでも天沢久遠が月饗祭に出ることのすごさを物語っている。
「ほ、ほんとですか?」
「今のところはね。一応オレも最後だし、ここは出た方がいいかなぁと思って」
「じ、じゃあ…本当に出てくれるんですね?」
「今のところは出る予定だ。もし、本当にオレが出ることになったら司くんや他の十傑のメンバーの力を借りることになるかもしれないからよろしくね」
「もちろんです。僕に出来ることであれば精一杯手伝わせてもらいます!」
「そ、そっか。それは有難いな」
そしてそれから暫くは司瑛士のテンションが高くて、天沢から離れなかったが時間が経てば落ち着きを取り戻していった。司瑛士も自分の座るべき椅子に腰を下ろした。
そして次に来たのは第五席の女木島冬輔だ。
ラーメンマスターと呼ばれるほどの実力者。身長が高く、体格が良いこともあって話し掛けずらいという印象を抱いている人もいるかもしれないが、とても気のいい人間だ。
女木島のような男でも来てすぐに天沢のところへと向かう。
「お疲れ様です」
「女木島くんもお疲れ様。それでどうだい?」
「はい、完成に近づいています」
「それはよかった。今でもオレで良かったのかと不安になるんでね」
「いえ、先輩でなければ意味がなかったので俺のお願いを聞き入れて頂きありがとうございます」
「いいって、オレも後輩と関わるのはあんまりないことだからさ。逆によくオレのことを誘えたね。オレって自分で言うのもなんだけど、すごく誘いずらいのに」
「どうしても先輩に頼みたかったので」
「そうか。少しでも女木島くんの役に立てたようならオレとしてもよかった」
天沢と女木島の会話の内容は本人たちにしか理解できておらず、他の者たちは皆首を傾げている感じだ。
「でも…先輩はすごいと思いましたよ」
「すごい?」
「俺の完成した料理を見ただけで隠し味まで全て当ててましたし」
「あ、あれならただの勘だよ。今まで何回も料理を作って来たし、見てきたからさ」
「そんなレベルの話じゃないと俺は思いますよ」
「そうかな、本当にただの勘なんだけど」
そしてそんな話をして女木島は自分の椅子へと戻っていった。
次は第十席の久我照紀。
四川料理などであればこの遠月学園の中でもTOPに近いほどの実力者。少しお調子者なところもあるが、その野心は遠月学園に在学する誰よりも高い。
もちろん、久我も挨拶に向かう。この挨拶は強制されているわけではないが、誰もが最初に挨拶に向かうのは天沢だ、別に挨拶せずに座ったとしても問題ないのにだ。それだけでも第一席の天沢久遠の偉大さが伝わるだろう。
「天沢先輩、お疲れ様です!」
「久我くんもお疲れさま……ってなんでそんなにかたいの?」
「いや先輩なので」
「司くんたちや木久知にはこんな風になっているところを見たことないが」
「せ、せんぱいなので」
「まぁ…オレはそれなりに怖いからな」
第一席こと天沢久遠の評判はそれなりに悪い。歴代の第一席の中でも一番と言って良いぐらいの評判の悪さ。その理由として学校行事に参加しようとしない態度などを含めて全てだ。
中には「天沢久遠が第一席になれたのは何かのイカサマがあったからだ」と主張する者もいるほどだ。でも逆に遠月十傑評議会のような遠月でも上から数えた方が早いぐらいの腕を持っている者は『天沢久遠』のことを尊敬している者が多い。理由は簡単で圧倒的な程の…腕前だ。遠月では料理の腕が全てだ。
「もっと肩の力を抜いてくれて構わない」
「そ、そうっすか…」
「久我くんってそんな感じだったか」
久我照紀の本能が天沢久遠に従わないとダメだと告げているのだ。天沢本人はそんなオーラのようなものを出しているわけではないが、久我はそれを敏感に感じ取っているのだろう。
「司さんみたいにはいかないですよ。だって天沢先輩はその司さんが尊敬している人ですから」
「そんなものかな」
そして久我は最後にもう一度挨拶をしてから自分の席に腰を下ろした。
最後の一人こと第四席の小林竜胆。彼女について説明するのはとても難しい。様々な顔を持っていて、好奇心の塊のような料理人だ。黙っていれば普通に美人だが、話すと印象もまた大きく変わるのも彼女の魅力なのかもしれない。
最後の彼女もまた第一席の天沢の元へと向かう。
「先輩」
「小林さん、ごめんね」
「なにが?」
「いや、キミのような人間は誰かに呼び出されたりするのを嫌いだろう」
「あ、そのことなら別に気にしていないですよ。それに先輩に会えるんなら私はどんなところでも行くんで」
「そう言ってくれるとこちらとしても有難いよ」
ここで話が切れるところだったが、天沢から小林に対して質問をした。
「小林さんは特殊な食材に精通しているって聞いたんだけど、本当かな?」
「まぁ、そうですね」
「それはよかった。ちょっと小林さんに頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
「いいっすよ」
「内容を聞かなくていいのか?」
「いいです。先輩の頼みならどんな難題でも必ずクリアしてみせるので」
「それは頼もしい。ではあとで連絡する」
「……へい、分かりました」
そして小林が席に付き、やっと全員が揃った。
このメンバーが遠月学園のTOP10。