あの子から貰った…果たし状。食戟の実施に関しては一週間後ということになった。周りの人間はすごい騒いでいたがオレとしてはそこまで驚くようなことじゃない。逆に今までこういう風にオレの席次を奪おうというような奴が居な過ぎたのだ。
あの生徒ぐらい野心をむき出しで挑んでくれる方がいい。だけどあんな風な目をされたらわざと負けるような真似が出来ない。あの目をされて八百長のような真似をしたらさすがに…料理人としてダメだと感じた。オレにも料理人としてのプライドが残っていた事に驚いたものだ。
最近はあんまりそういう緊張感のある場所に自分を置くようなことはなかったから少し腕が落ちているかもしれない。という感じで今は第一調理室で料理を作っている。どんなお題になるかは知る由もないが、なるべく出来るだけの準備はしておきたい。オレに食戟を挑んでくれた人のためにな。
「そ、それにしても本当によろしいのですか!??」
オレが料理をしているところを食い入るように見ながら問いかけてきたのは…薙切えりな。遠月学園の理事長こと薙切仙左衛門の孫。神の舌(ゴットタン)を持つと言われている生徒。いずれは遠月十傑評議会のメンバーになることが約束されていると言ってもいいような人物。それは権力ではなく、料理の腕を見れば一目瞭然だ。
「別にいい。誰かに食べてもらった方がオレとしても有難い。食べて感想を教えてくれれば問題ない」
自分で料理を作って食べるのは簡単だが、やっぱり主観的になってしまうからな。誰かからの客観的な視点での感想が欲しい所だからな。
別に薙切えりなじゃなくてもよかったが、オレが第一調理室に付くと彼女も料理をしようとしていたのだ。そこでオレはお願いすることにした。ただそれだけ。
「あ、あの、天沢先輩に質問をしてもいいですか!??」
「別にいいよ。オレに答えられる範囲であればな」
「では…食戟をするという話は本当なのですか?」
「うん。本当だよ。中等部の子に食戟を挑まれてね。最近はオレに食戟を挑むような生徒はいなかったから個人的にはそういう生徒が出てくれているのは嬉しいな」
「…そ、そうなんですか……」
「うん。だから、キミも暇だったら見に来てくれると有難いな」
目立つことはあんまりしたくないが、食戟という一つのイベントはやっぱり盛り上がってくれた方がいい。観客は多ければ多い方が良い。
「ぜ、絶対に行きます!!!どんなことを差し置いても絶対にいくので!!!!」
「そ、そうか…」
急に食い気味に迫られたので少し後ずさってしまった。薙切えりなと言えば寡黙で自信過剰な人というイメージがあったが、そんな風なイメージを今のところは抱いていない。やはり人の噂という奴は信用ならないか。やっぱり面と向かって会ってみてその事を初めて知れるのかもしれないな。
その後も他愛もないような話をしている内にオレの料理は完成した。久しぶりに誰かに振舞うような料理を作ったな。その人が食べて感想を言ってくれるまでの緊張感というのはやっぱり慣れない。オレが作ったのは簡単なもので…オムライス。別に特段大きな工夫をした訳ではない。オレはいつも作っているオムライスを作った。
「それではお召し上がりください」
「は、はい。では食べさせていただきます」
そして薙切えりなはスプーンですくって口に運んだ。そしてオレは彼女が何だかの反応を示してくれるのを待つ。神の舌を持っている、彼女の感想であれば信憑性は高い。
「どうだ?」
「お…おいしいです!!私が作っている料理とは比べ物にならないほどに美味しい!」
「そうか…。それは良かった」
どうやら薙切えりなの舌にはあっていたようだ。それならオレの料理の腕もそこまで落ちていないということかもしれないな。
「あ、あの…おこがましいんですが一つだけお願いをしてもよろしいでしょうか?」
「なに?」
「い、いっかいだけでいいので私の料理を食べていただけませんか!??」
薙切えりなは立ち上がり、頭を下げている。まさかそんなことをお願いするために頭を下げて来るとは思いもしなかった。少なくともオレに食べてもらうために頭を下げてきた人は初めてだ。オレにはそこまでの価値はないと思うがな。
「頭を上げて」
「は、はい…」
「いいよ。今日はちょっと無理だけど、次の機会ならいいよ。それにオレに頭なんて下げない方がいい。オレにはそんな価値はないからな」
「いえ、天沢先輩にはそれだけの価値があります!!」
そんなことを断言されると思いもしなかったのでさすがに驚いた。
「そ、そうか…」
薙切えりなに対する認識を少し改めなくてはいけないな。
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