特殊な料理人   作:主義

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憧れの存在

あたしは小林竜胆。あたしにとって…天沢久遠は憧れの存在。絶対に超えられない人で近づくことすらも躊躇うような料理人。天沢先輩を初めて見たのはあたしが中等部三年の時。それまで天沢先輩のことを噂で耳にすることはあっても料理をしているところも見たことがなかった。

 

 

その日は…高等部三年生とその当時はまだ高等部一年生だった、天沢先輩が食戟をやるということで学内は一気にその話題一色になった。誰もが三年が勝つことを疑わなかった。だって三年ということは少なくとも過酷なサバイバルを生き残った生徒なのだから。

 

 

あたしは他の奴らも誘って皆で見に行った。

 

 

それがあたしの転機となった。結果を言ってしまうと天沢先輩の圧勝だった。天沢先輩、本人は決して喜んでいる感じではなく、表情を動かすこともなかった。まるで当たり前かのように。

 

 

あたしは…天沢先輩に憧れた。あたしだけじゃなくて…司も冬輔、もも、綜明の全員が天沢先輩に憧れた。あの圧倒的で誰も近づかせなくて、勝利を搔っ攫う姿に。あたしだってそれなりに自分の料理に自信はあったけど、その自信が全て吹っ飛んだ。あたしなんてまだ全然なんだ。

 

 

その時のあたしの感情は一言で『最高』だった。自分が頑張ってもたどり着けないようなところに天沢先輩は立っている。絶望する奴もいるかもしれないが、少なくともあたしたちはそんなことなかった。確かに今は全然、雲の上のような人だけど、いつかその雲にちょっとだけでも手が届くように頑張ろうと。

 

 

そこで天沢先輩にあたしのことを認めてもらうという目標が出来た。

 

 

―――――――――――

 

授業から終わって司と昇降口から出ると…もう日が沈みかけていた。時間はあっという間で初めて天沢先輩を見た日から二年ぐらい経った。天沢先輩と居られるのもあと数ヶ月……と考えていると昨日のことがふと頭をよぎった。

 

「それにしても、司」

 

 

「なに?」

 

 

「よくあんなこと提案したな」

 

 

「まあね。成長するには一番早い手段だしね」

 

そう口にする、司の横顔は少し笑っている気がした。たぶん、司もあたしと同じことを考えていたのだろう。

 

 

「それは…新入生、それとも…」

 

 

「それともの方かな。確かに新入生に馴染んで欲しいというのは本当だよ。やっぱり自分たちもそうだったけど、中等部と高等部とじゃ全然違うからね。だけど……ね」

 

 

「…面白い事するなぁ~あとは天沢先輩がどういう決断を下すか」

 

 

「却下されたら仕方ないけど、もし、承認してくれたらこの機会を逃す気はないよ」

 

確かにあの案が採用されればあたしの目標にも近づけるかもしれない。

 

 

「それはそうだな。あたしも…精一杯やるつもりだし」

 

残された時間を有効に使わないといけないしな。あたしが天沢先輩の口から「美味しい」と言ってもらうためにはやっぱり自分の料理の腕をもっと上達させないと。

 

 

「そう言えばさ」

 

 

「今度はなに?」

 

 

「…ももが天沢先輩と一緒にお昼を食べたんだってさ」

 

 

「え、え……ど、どう…」

 

司は動揺し過ぎて言葉が紡げていない。司が動揺しているところなんて滅多に見れないから面白い。

 

 

「なんか…いつも十傑で集まっている部屋があるだろう?」

 

 

「…う、うん」

 

 

「そこに、ももが忘れ物をして取りに言ったら一人で先輩が昼食を食べていたんだって。そこでなんか成行き的に一緒にご飯を食べられたんだってさ。ももの奴、珍しくとっても嬉しそうだったな」

 

『もも』も天沢先輩に憧れている一人。それに天沢先輩はあまり人に興味がないのか、木久知先輩以外とは話しているところをあんまり見たことがない。

 

 

これはあたしたちが話し掛けないのも悪いんだけど、あたしたちであっても数えられるぐらいしか話したことはない。もちろん、十傑の集まりでの議論とかならあるけど、普通に会話をしたことは本当に少ない。だから、『もも』もあんなに嬉しかったんだろうな。あたしだって司だって…そんなことがあったら嬉しい。

 

 

「じゃあ…あの部屋にいけば俺も」

 

 

「かもな」

 

そしてその後は…司と来週にでも行ってみるかという話をしてその日は別れた。

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