最近は色々と忙しい。学内でのこともそうだが、この時期は学外でやることも増えてきたというのが一番の理由かもしれない。遠月学園の第一席ともなると学外から料理を振舞って欲しいという話も増える。これは第一席になった日から変わらないことだし、別にそれは問題ないが、この春頃は特に学外での仕事が多いように感じるのは気の所為ではないはずだ。
まあ、その理由は分からないが、学外の仕事をあまり断る訳にもいかないので仕方ないが。
――――――――――――
オレが教室から外の景色を眺めていると木久知が話し掛けてきた。
「忙しそうですね」
「まあな、それはお前だって同じじゃないのか」
「私はあなたほどではありませんよ」
木久知はこう言っているが、かなり忙しいのだろう。目にクマも出来ているし、本人は必至にいつもと変わらないように振舞っているようにしているが、それでも隠せないものはある。
「お互いにそろそろ休みたいな」
「呼んでもらえるのは光栄なことですよ!」
「それはそうだが、これからもう少し忙しくなりそうだしな」
「なにかあるんですか?」
「昨日のことだ。あの案を採用しようと思っているんだ」
そう言うと、木久知も分かったようで少し驚いたような表情をしている。
「…あなただったら却下すると思ってました」
「まあ、オレが個人的に選ぶとしたら確かに却下していたかもな。だが、オレは一応、遠月学園の第一席でもあるからな。この学園のことを考えた時に採用するべき案は採用しないといけないからな」
昨日の『遠月十傑評議会』で後輩の子がある提案をされた。元々、『遠月十傑評議会』で話される議題はほぼ決まっている。決まっていないのに集まるなんてことはない。それぞれが学園の最高峰に位置している料理人なだけあって忙しい。忙しい合間をぬって参加する。
そしてそんな奴らは自分の発言はするが、提案をするようなことはなかった。
それを提案したのは……第三席の…つ、つかさ……くんだったと思う。名前が完全に覚えられていないけど、たぶん司くんであっているはず。まちがえてたら悪いが。
それで司くんが出した提案の内容は…連帯食戟。それだけであれば変わったことはなく普通の連帯食戟。だけど、司は連帯食戟と言った後に細かい説明を始めた。それは簡単に要約するとこうだ。
今回は普通の連帯食戟とは違い、三年生が一人、二年生が一人、一年生が二人…………それに中等部三年生の中から各グループ二人を選出して、合計六人。グループはくじ引きで行い、均等になるようにする。一年生にはなるべく参加してもらう感じ。合計二十組近くのグループを作ってトーナメント戦で勝ち上がっていき、一位の座を争う。
司くんの提案はかなり面白いものだと個人的には思ったりもした。
提案を受けようと今のところは考えている。新入生は高等部に進級したばかりでまだ慣れていない。上級生との接点も無ければ、先生たちに話し掛けるのも少し難しいかもしれない。だとしたら新入生が高校生活を楽しみ、研鑽を積める環境を提供するのが『遠月十傑評議会』の仕事。このイベントを機に新入生も少しは慣れてくれるかもしれないし、普段は接点を持てない上級生たちと接する機会は必ず彼らに良い作用してくれるはずだ。三年生はこのサバイバルの学校生活で生き残ってきた生徒だけがいる。そんな彼らの料理を間近で見られるのはそう多くないチャンス。それを見て、少しでもなにか感じとれればそれだけでも良い体験になるはずだ。
これが…第一席の判断としては正しいのではないか。オレとしては少し面倒だと感じもするが、司くんの提案を断る理由を探す方が難しい。今の時期はある程度、空いている時期。これがもう少し遅い提案だったら少し難しいかもしれないが、二学期や三学期よりもこの時期はイベントはない。それに十傑評議会としては研鑽できる場を与えるのも仕事のうちだしな。
「明日にでも理事長に報告しておく」
「そういうことなら私の方から全校に通達を出しておきましょうか?」
「いや、大丈夫だ。そこら辺もオレがやっておく」
木久知もかなり疲れている上にこれ以上、仕事を増やすのはあまり良いことじゃない。これはオレがやることを決めたわけだし、他の奴を疲れさせるようなことはしたくないしな。
「…あなたは本当に少し背負い過ぎじゃないですか?」
「そんなことはないと思うが…」
「もう少し、私を頼ってください。これでも私は遠月十傑第二席ですし、少しぐらいの疲れだったら大丈夫ですよ」
「…だが…」
「私としてはあなたの方が心配ですよ。あなたと話すようになってまだ1年ぐらいしか経っていませんが、私はそれなりにあなたのことを分かっている方だと思います。あなたは色々と抱え込んでしまうような性格なのでいつか倒れてしまうんじゃないかと」
「オレは大丈夫だ。そんな柔な体じゃないからな」
「それでも私は心配です。だから今回は私とあなたで仕事はちゃんと分担しましょう」
オレとしては別に一人でやってもいいが、今回は木久知も引く感じが全然しない。ここは木久知に手伝ってもらうという選択肢を取った方が良いかもしれないな。
「……わ、わかったよ。そうしよう」