「……なんだか下がうるせえなぁ」
ベットに横たわってた体を起こしカーテンを開ける。日は既に登ってしまっていた。重い瞼を開きながらドアを回し廊下に出た後、あくびをしながら階段の手すりへと手を伸ばす。
「おリリネット、何騒いでんだ……」
一階に降りた彼の目に入ったのはビール缶片手に机へ突っ伏している男と、それに向かって話しかける小柄で金髪の少女だった。
「あ〜‼︎スタークやっと起きた。甚爾が来てるよ‼︎」
先程まで机に体を投げ出していた男が、握っていた缶から手を離し欠伸をしながらスタークと呼ばれた男に声をかけた。
「よう、邪魔してるぜ」
なんら悪びれる様子のない彼にやっぱりかという感じでため息をつく。
「……来るんなら前もって言ってくれ。急に来られてもツマミがねぇだろ」
「別にそんなもんいらねぇよ。酒の肴になる話なんていくらでもあるじゃねぇか」
そんなのは些細なもんだと言いながら、彼は二人分の酒をグラスに注いでいく。
「やっぱりお前には敵わねぇな」
「何言ってんだ。12年前の大一番はお前の勝ちだったじゃねぇか」
口下手なお前じゃ無理だろうよと笑う彼にうるせぇよと返すスターク。その目は何処か遠くを映しているようだった。
「アレから12年か……あそこかもしれねぇな。歯車が変わっちまったのは」
「おい、なんか言ったか?」
聞こえなかったからなのか不思議そうな顔をした彼に対し、スタークは頭を振った。
「なんでもねぇよ……甚爾」
「あぁ?護衛任務だ?」
電話の主はその内容が意外だったのか気怠げにレスポンスを送る。
『お願いするよスターク、彼は私の目標には必要な人材なんだよ』
「……はぁ、わかったよ。で、誰を守ればいいんだ?」
その答えを待ってましたという様子で彼女は顔を綻ばせた。
『護衛対象は禪院……いや、今は伏黒だったね。君も噂は聞いたことがあるんじゃないかな?呪術師殺しのこと』
それを聞いた彼は横たわっていたソファからズリ落ちそうになり端を掴んだが……その努力も無駄に終わる。
「何言ってんだ……とうとう頭がイカれたか?」
『イカれたとは失礼だね……前に言ったじゃないか、私の目標のことを』
側から見るとイカれているように見えるのは彼だと思うが、その体勢を気にしない様子で会話を続ける。
「どんくらいの期間、そいつを守ればいいんだ?」
『天元様の件は知っているだろう?それに対して甚爾君が動いてるみたいでね……少なくともそれが終わるまでかな』
予想よりめんどくさそうな依頼だと思ったのか、彼は片手を上げ頭を振った。
「了解した、終わったら伝えるよ」
『報酬は君の通帳に入れておくよ、10億位でいいかな?』
その答えに納得がいかないような表情で彼はため息を吐いた。
「それだけじゃ足りねぇな……この前良い店があったんだ、そこ奢ってくれ」
『フフ、やっぱり君には敵わないな。いいよ、友達なんだからね』
「……だな、詳細は後で送ってくれ。今から向かう」
そう言う彼の声はいつもより少し明るい感じがした。
「おいスターク、何にやけてんだ?」
「うるせぇよリリネット、それより今から向かうとこが出来た」
バチコーンっと彼女の頭から鈍い音が響いた。
「何するんだよ⁉︎痛いだろーー」
憐れリリネット、これも彼にとっては照れ隠しの一種なのかもしれない。
「騒いでんじゃねぇよ、今から出発するって言ったろ?行き先はお前が前から行きたいって言ってたところ……沖縄だ」
また懲りずに別作品を投稿……これは最後まで行きたい