GATE - アークス 彼の地にて、斯く戦えり 作:睦月透火
帝国は日本と敵対関係にある。
しかし帝国第三皇女ピニャは、イタリカの街……そして日本へ赴いて実感してしまった。
日本との軍事力における圧倒的な差、そしてその先に待つであろう確定した未来を……
このまま日本との戦争を続ければ、間違いなく帝国は滅ぶ……
絶望に満ちた未来を回避すべく、ピニャは日本との講和を目指し奔走する。
……しかし、誰もまだ理解していない。
この世界には既に、
あの晩から一夜明け……
ピニャ殿下の屋敷で再び目覚めた僕は、昨日の事を改めて考えていた。
(あの時の感覚……そしてあの痕跡……。少なくともシミュレーションじゃない……間違いなく、ダークファルス系統のフォトン反応が記録されていた。なら、あの時……僕は「深淵なる闇」に影響されていたのか……?)
かつて、アークスは「深淵なる闇」と呼ばれる存在を不倶戴天の敵として戦っていた……
「深淵なる闇」とは、全宇宙を滅びに向かわせる究極の存在……
その大元は、ヒトの怠惰の果てに生み出された「
宇宙の全ての事象を演算し尽くし、その全てを余さず記憶している「アカシックレコード」……
その究極的な演算能力を利用するために、ヒトが自らの手でアカシックレコードを模倣しようとし、数え切れぬ失敗を繰り返し、なお諦めず……いつしかその狂った執念が生み出してしまった、極悪の根源……
正しく理解する為には大いに説明不足だが、そこまで語るには世界が違う。
この世界では「ヒトの悪意で狂った究極存在」という程度で十分だ……
トリニティは今回の「日本人奴隷」騒動で、自身の奥底で無意識のうちに溜め込み封印していた“負の感情”が精神を激しく揺り動かし……それに堪え切れず暴走してしまったのだ。
アークスの力の源である「フォトン」とは、使い手の精神に多大な影響を受けるもの……この症状もアークスシップにある医療施設へ定期的に通う事で治療できるのだが、根治には莫大な時間を要する上、
(あの時……感情の沈静化が追い付いていなかった。それだけ彼女に対する扱いを嫌悪したという事か……)
文化レベルや常識の違いを考慮すれば、仕方ない事ではある。
郷に入っては郷に従え。と諺にもあるように……
……だが、感情はそう上手く処理など出来ない。
(老練や古参の者ならば、多少なりとも自制が働いたはず……まだまだ青いな、僕も……)
数日後、イタリカ経由でアルヌスに帰還した僕らを待っていたのは……
「テュカの様子が変だって……?」
「……はい。数日前の地揺れの後から……以前にも、日暮れ時に誰かを探す彼女を見かける事はありましたが、夜には宿舎へ戻っているのを確認しているので」
テュカは昼間こそいつも通りに仕事をこなし、日暮れ時に奇行こそあるものの目立った不調も見られなかった……しかし、最近の彼女の奇行は目に余る状態であり、日暮れ時には発作のように焦燥感に駆られて誰かを探し回り、寝食すら忘れてしまう……
『……最悪だ……もしかすると、手遅れの可能性もある』
僕のこの言葉に、さすがの伊丹さんも押し黙ってしまう。
原因といえばもちろん、件の炎龍騒動なのだろうが……この事態に発展したのは間違いなく自分たちの行動の結果だ。
「…………」
僕らも黒川さんも任務で帝都に出向いていた為、アルヌスには彼女を気に掛けてくれる人物が居なかった……と、悪化の要因はすぐに合点が行く。
『コレは明らかに、彼女の状態の把握不足です……せめて、ランガに様子を伺う位させておけば……』
「それを言うなら、根本の責任は連れて来た俺にある……目の前の事に感けて、テュカの状態を軽く見ていた」
トリニティも伊丹も、自分がもう少し何かしら手を打っていれば……と自分を責めるが、そんな事をしても解決になどならない。
「……俺が何とかする」
そう言って立ち上がり、席を後にする伊丹……トリニティと黒川は、そんな彼の背中を見送るしか出来なかった。
その翌日の昼下がり、アルヌスの街中を笑顔で伊丹さんの手を引くテュカを目撃した……と、ランガから報告を受けた。
『……で、それがさ……』
武器の手入れをしていた僕に、ランガが耳打ちしてくる。
その言葉に、僕は思わず素っ頓狂な声を上げるしか無かったのだった……
・
・
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(……崩壊しつつある己の精神の保護を他人に求めた結果、伊丹さんを自分の父親と認識した……か。)
アルヌス常駐の医者から告げられた現状……
テュカの精神状態は既に崩壊寸前……その回復と保護を無意識に肉親へと求めるのは正常な推移だが、彼女の肉親は既に他界している。それ故、近しい人物……背格好が似ており、自身の知己の人物を父親と“思い込む”事で、辛うじて精神崩壊を避けたのだと言う。
(何とも不思議すぎる光景だが……彼自身はどういう思いなのか……)
伊丹さんには悪いが、シエラに彼の過去を探って貰った……その結果、彼も過去に家族間の問題を抱えていたらしい。
詳しくは分からなかったが、学生の頃には既に家庭崩壊の域であった……との事である。
(誰しも、辛い過去を抱えている……か)
自らの目でテュカの状態を見るため、僕自身も、休暇を取って彼女の側に居る伊丹さんを遠くから見る……
『……向き合わなきゃいけない時は来る。でもせめて、今だけは……』
炎龍討伐は既にアークスとして僕が請け負っており、自衛隊側にも連絡してある……しかし、件の炎龍自体が今も活動しており、被害が更に広がるのなら……
(計画を早めなきゃいけないな……)
その日の夜、後宮での銃乱射事件で救出した日本人……望月紀子さんが部屋を訪ねて来た。
「貴方が……私を助けてくれたんですよね……?」
『……ええ、事実としてはそうなります』
含みのある言い方だが、此方としては半ば暴走状態であったのだから、推移を正しく認識できていなかった立場としては“暴走の結果でそうなった”としか言えず、言葉に迷った……そこへランガが機転を利かせてこう続けてくれた。
『マスターってば、貴方が捕らわれているのにすっごく怒って、全員ブッ飛ばしちゃったんですよ〜』
ケラケラ笑いながらそう言い、彼女に紅茶を出すランガ。しかし、望月さんの顔は最初こそ軽く笑っていたが、すぐに暗くなる……
「……まだ、検疫期間なんで……日本には帰れないし、あっちの家族とも……自衛隊の設備では連絡はできないって言われて……それに……あの時、離れ離れになった彼もまだ……」
彼女の一言に、僕はリィスの報告を思い出した。
『貴方と一緒に捕まった男性の行方ですか……』
「……はい」
リィスはあの時、奴隷となっていた日本人男性2人を発見したと言っていた……タイミングとしては、ちょうど園遊会の数日前。事を荒立てない為に、現状を維持しつつ彼等を保護する様に言っておいたが……その後はまだ報告を受けていないな。
『ちょっと失礼するよ……』
「あ、はい」
視線を彼女から外し、テーブルに設置していた簡易端末を起動……通信システムで、帝都に潜入中のリィスへ連絡を取る。
《ご主人様、この度はどの様なご要件で?》
『先週に受けた報告の進捗を聞きたい……保護観察対象の要人2名は今、どうしている?』
《御二方は現在、私が直接保護しております……ただ、手続きの際に揉め事が発生し、うち1名が私を庇って軽傷を負ってしまった為、自衛隊の方に協力を求め、治療を依頼しようとしていた所なのですが……》
どうやら2人とも無事らしい……しかし、揉め事で1人が負傷したとは、なかなか厄介な現場だった様だな。
『データには“鉱山奴隷”とあるな……』
《……はい。両名の作業中、例の地震が起きて落盤事故が発生し、咄嗟に私が救出したのですが……その一部始終を鉱山管理者が目撃し、私を雇おうとしてきたのです。勿論、丁重にお断りしましたが……》
淡々と応えるリィス……彼女は有能だし、誰に対しても温和に対応するメイドの鑑だ。その彼女が厄介事に巻き込まれるという事は……
『……大方、罠に嵌めて奴隷化する手筈だったという訳か』
《はい。その際に……その……私の背後に迫った男に要人の御一人が気付いて体当たりし、反撃に拳打を受け……その……腕を骨折して……》
目を伏せ、申し訳無さそうに続けるリィス……彼女の性根からのメイド気質が彼の負傷を“己の失態”だとしたのだろうが、僕からすれば、負傷した彼の行動は称賛に値するし、リィスを咎める理由にもならない。
『分かった……自衛隊側には此方からも一報を入れる。連絡が付き次第、要人の保護を自衛隊側に委譲。君は僕の代わりに殿下の護衛へ入ってくれ。以上だ』
《……は……い? あの……要人を負傷させた不手際の処罰は……》
『それは彼の勇気ある行動の結果だ。彼の行為は君を救う為であったし、事実君はそれに救われている……彼の名誉の負傷だ。君を処罰する理由にはならない……リィス・ステイヤー、任務を継続せよ』
《……了解しました》
心なしか安堵した様な返答を聞き、通信を終える。
通信の内容はオラクル言語なので望月さんには分からない……改めて伝える必要はあるが、良い報告には変わりないな。
アークス君の帰還できない弊害がコレですよ……
どうしろって言うんですか?
あと、テュカもヤバヤバ一歩手前。
唯一の救いは、原作で片方は死亡してた男性の日本人奴隷を2名とも救出に成功していた事でしょうか……
サラッと言うけど、落盤事故から二人とも救出……リィスさん有能過ぎるわ、タダでさえ体格小さいサポパなのに。
しかし、コレでは炎龍の件とテュカの件が繋がらない事に……話の流れ的にマズイのでは?
そりゃまた次回のお楽しみ♪
感想ヨロシクお願いします!
炎龍討伐は誰の主導で行う?
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アークス君
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伊丹
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テュカ達
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ヤオ