GATE - アークス 彼の地にて、斯く戦えり   作:睦月透火

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さすがに放置……はダメかなと思いまして。



第26話 再戦、炎龍の塒にて

 自衛隊の高機動車に同乗した事で道程の時間が大幅に短縮され、目的地であるエルベ藩王国領内に入ったのが昨日……

 

《それではご主人様、無事のご帰還をお待ちしております》

 

 リィスとの定期通信を終了し、車内から外を見る。前方に見えてきたのは鬱蒼と生い茂った森と、それを分断するように横たわった渓谷だ……

 

『着いたみたいだね……』

 

「あぁ、我が部族の生き残りはこの渓谷に隠れ住んでいる」

 

 頭上より遥か上方にまで伸びる巨大な森の木々が上空に対する目隠しになっており、確かに隠れ住むには最適だろう……食料や水の問題さえ無ければ、だけど。

 

「少し待っていてくれ、仲間に到着を知らせてくる」

 

 そう言い残し、ヤオは渓谷の急斜面を軽やかに降りていった……なる程、身体の使い方もなかなか上達した様だし、フォトンによる強化も上手く使っている、これも修行の成果かな。

 

(……さて、と……周囲に動体反応。数は9……上手く隠れているつもりだろうけど、僕には筒抜けだよ)

 

『……やれやれ、このタイミングで入れ違いになるとはねぇ』

 

「どうした、トリニティ?」

 

 伊丹さんの問い掛けに、僕は片手での自衛隊式ジェスチャーで包囲されている事を伝える。その瞬間伊丹さんの顔は真剣なものになり、銃のセーフティをコッソリと外した。

 

「……何者だ!?」

 

 その直後、声と同時に弓を此方へ向けながら接近してきたのは、3人のダークエルフ……

 別方向からも3人1組で四方に陣取り、僕たちは完全に包囲された形となる。

 

 僕は伊丹さんを後ろに庇いつつ手を上げ、声を張り上げる。

 

『僕らはある者に助力を請われて来た! ……“ヤオ・ハー・デュッシ”、この名に聞き覚えはあるだろう?』

 

 僕がヤオの名を出すと、途端に包囲した連中が困惑し始める……どうやら効果はあったみたいだ。

 

『炎龍の討伐……それがお前たち部族の悲願だと聞いている。我々は依頼を受けて此処に来た!』

 

 弓を下ろし、1人が僕の前に出てくる……警戒は解いていないが、確認の為だろう。僕も対応の為に前に出る。

 

 だが、このタイミングで予期しない乱入者も来てしまった……

 

「……っ?!」

 

「……? どうした? ……ッ!?」

 

『……なんて間の悪い……!』

 

 グゥギャアァァァッ!!

 

 あの時と同じ咆哮……運悪く眠っていたテュカも騒ぎに気付いて起きてしまい、伊丹は再び恐怖に怯える彼女に仇を討たせようとし始める。

 

「撃て、テュカ! アレが家族の仇だ!!」

 

「あ……あぁ……っ?!」

 

 これまで何も無かったのでテュカの事には目を瞑っていたが、いざココまで強要する様な伊丹の言動に、トリニティは止めようとするが、炎龍の攻撃に狼狽えるダークエルフ達も放置しておけず、火炎ブレス攻撃を受けそうになった1人を抱えてマーキングショットによるワープを利用し緊急回避。

 

 射程外に退避させた所で大剣に持ち替え、ヒーローソードPA《フラッシュオブトリック》からのジャンプキャンセルを2連続で繰り出し空中を高速移動、炎龍の意表を突いて至近距離に飛び込み、眼前で《ブライトネスエンド》を繰り出す事で、吐き出してきた火炎ブレスごと炎龍の頭部を薙ぎ払う。

 

『チィッ……浅かったか……!』

 

 反応できずに直撃したと思ったが、直撃にはできず浅く斬り付けただけに終わる。

 空かさず高威力のブレスが此方に飛んでくるが、僕は慌てず左手を前に突き出し、ブレスの飛来に合わせて気弾を横に移動しつつ放つ事で回避……そのまま重力に従って降下する。

 

 ダークエルフ達も弓矢で射落とそうとするが、その程度では毛程も痒くない炎龍はさらに火炎ブレスで彼等を追い立て、1人ずつ焼き尽くしていく。

 

(アイツ、愉しんでいるのか……この状況を……!)

 

 炎龍の動きが止まり、怯えているテュカを見つけると睨み付けながらも態とゆっくり動き、絶望に満ちた表情のテュカを嘲笑っていた。伊丹さんが炎龍に向けてグレネードを放った事で炎龍も危険を察知し、すぐさま逃げの体勢に入る。

 

『………………』

 

 また、目の前で命が消えた……また僕の頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

「………………」

 

 駄目だったか……という感じで伊丹さんはテュカを抱きしめ、レレイを呼んで再び眠らせる。

 やり方は推奨出来ないが、アレも一つの方法である事は理解している……強制するのはいただけないが、仇を討てれば精神的に少しは楽になるかもしれない……状況が許せば、にはなるが。

 

──────────

 

 その後、ヤオの部族の長老らに呼ばれ再度の確認を行った後、なんやかんやあって志願者達の案内を受けながら森の奥を抜け、僕らは火山地帯へと踏み込んでいた。

 

(地形とスキャンデータからすると、この先にあるのは休火山……炎龍の巣がこの辺りなら、炎熱対策をしておくべきか?)

 

 創作物然り、シミュレーター然り……古今東西、火を吹くドラゴンを相手にするのなら“炎熱”対策は必須だろう。

 アークスの肉体は、本人の体内を巡るフォトンによる防護機能で多少の熱ならば平気だし、少しの間ならマグマに足を踏み入れても軽い火傷で済む。しかし、伊丹さんをはじめ僕以外の人達はそんな事をすれば手足を永遠に失うか、その場で即死もあり得るのだから、対策はしておくに限る。

 

(直接攻撃に対しては、デバンドである程度軽減できるだろうけど、それでもテクターには及ばないからね……)

 

 支援特化クラスである“テクター”ならば、一般人でも驚異的な身体能力を一時的に手に入れられる位強力な補助テクニックを操れるが、生憎と僕のクラスはヒーロー……不得手が少ない代わりに特化には負ける、簡単に言えば器用貧乏……そんなクラスだ。

 

『……戦闘前に一度準備をしますから、先走らないで下さいよ』

 

「アークスの補助テクニックって奴か? 頼りにしてるよ」

 

 そんな頼りにされても、もし補助テクニックが僕の想定以下の効力しかなかったら、伊丹さんをはじめ全員を危険に晒す事になる……それだけは何としても避けたい。

 

『そう期待されても……相手にも依りますし、効力もどれだけあるか……』

 

「そん時は無いよりはマシ、と考えれるだけでもありがたいと思う事にするよ」

 

 まさか……ね。伊丹さんは、この状況を楽観視し過ぎているんじゃないか……?

 

──────────

 

「……ココだ。この奧に、ヤツの(ねぐら)がある」

 

 山道の道中、ロゥリィと伊丹さんが何やらやっているのを無視しつつ、僕は一足先に案内役のエルフが見つけたという、炎龍の住処の入口に来ていた。

 

(近距離レーダーじゃまだ索敵範囲外、か……気付かれずにもう少しは近寄れるかな?)

 

 この洞窟の奥がヤツの住処らしい……簡易的な電波探査をしてみたが、それほど入り組んではおらず洞窟自体もほぼ一本道らしい。これなら万が一でも退避しやすい筈だ。

 

『伊丹さん、僕は先に中を少し調査しておきます』

 

「あ、あぁ……助かるよ」

 

 何故かロゥリィに詰め寄られている伊丹さんにそう言い残し、案内役の男性ダークエルフには入口に待機して貰って、僕は洞窟内に入る……

 

 洞窟の中は薄暗く、光はあまり差し込まない。しかし、岩の中に光を放つ鉱石でもあるのか、壁面がぼんやりと光る場所もあり、真っ暗ではないようだ。

 

 そのまま奥へと進んでいく……レーダーには、遅れて伊丹さん達も洞窟内に入る様子が分かった。取り巻きや雑魚は居ないようだし、このまま先へ進もう。

 

 

 そう時間は掛からず、僕は洞窟の最奥へと辿り着く……そこは火山の火口に繋がっており、火口の壁面沿いに広がる足場で行き止まりだった。

 行き止まりとはいえその広さはなかなかのもので、足場の一番広い所なら20m近くはある。火口そのもののは恐らく直径200mくらいはあるだろう……

 

 奴はちょうど出掛けているようで、この場には居なかった。

 その後伊丹さん達も合流してきたので、いざ決戦となった場合のシミュレーションをしてみよう。

 

 最も厄介なのはあの長い尾……以前の戦いで多少なりとも切り落としてはあるが、アレを振り回されれば意表を突かれる可能性もある……警戒するに越した事はないね。

 

(初手で根本から切り落とすか? 当然、激怒するだろうけど……)

 

 相手も生物なのだから、生きる為に必死の抵抗をする事は確実……その対応を模索し、脳内でシミュレーションしておく。

 

(以前の戦いで少しでも学習しているなら、単騎で飛び掛かるのは悪手……背後も警戒されるだろう。なら、打つべき手は……)

 

 視界の封殺……も悪手だろうな。最悪、ムチャクチャに暴れられての全滅もあり得る。

 

 伊丹さんは作戦として閉所というこの地形を活かすため、アルヌスから持って来た『C4』と呼ばれる小型の固形爆薬を足場の中央付近に設置していた……

 

 ならば僕の動きとしては、まず奴の注意を引き付けつつ、奴の“飛行して逃げる”という選択肢を奪う方が良い……しかし、尾よりも骨が太い翼の付け根を狙うまでには、なかなかの難題がいくつもある。

 まずは当然、尾の薙ぎ払い……次に首、腕、翼そのものも当然警戒対象だ。

 

(遠距離から翼を狙うには、やはり高火力の法撃……もしくは火砲だね)

 

 ヒーローというクラスにはやや不得手な領分だが、足止めくらいならば充分にこなせる筈だ。

 

 その時、周囲に散らばった金属反応とは違う巨大な生体反応が迫って来た……

 

(奴が帰ってきた? 伊丹さん……!?)

 

 退避の合図を送るが、作業はまだ終わっていない……これはマズイな。

 

 ギャオォォォッ!!

 

 ホバリングからの咆哮に気圧され、ダークエルフ達は気が動転し、数人がそれぞれ持っていた武器で応戦し始めるも、対戦車ライフルですら傷付かない炎龍の甲殻にはまるで刃が立たない。

 

『下がれ!! 僕が奴を引き付ける、伊丹さんを手伝うんだ!!』

 

 ダークエルフ達にそう言い聞かせ、僕は手持ちの大剣……ドラゴンスレイヤーを現出させ手に握る。

 

『……今度は遠慮なく、タイマン勝負と行こうか……!!』

 

 対峙する炎龍と僕……遠くの後ろでは伊丹さん達がC4の設置作業を継続中だが、爆薬そのものは設置済みなので、導火線のコントロールを纏めている所だ。

 

 恐らく全ての作業が済むまで、残り時間にしておよそ5分……それまでは僕が単独で炎龍の相手をする。

 

『君には悪いけど、今度は確実に仕留めさせて貰う……!』

 

 その軽い挑発に反応したのか、炎龍は尾で薙ぎ払いを掛けてきた……が、アークスにとってそんな大振りの攻撃を避けるのは容易い。触れる直前に僕は攻撃をすり抜ける様にジャスト回避し、同時に得られた瞬間的なパワーを全て込め、尾を振り抜いて体勢を立て直す最中の炎龍……その軸となっている片足目掛けて斬り上げを放つ。

 

 ジャスト回避からのカウンターには、さすがの炎龍も無傷では済まされず、片足に浅くない傷を付けられ、僕への怒りが蓄積される。

 

『そうだ、僕を狙え……!』

 

 上手いこと怒りが僕に向いている為、伊丹さん達は作業に集中出来ている……この均衡を崩さないように注意しないと。

 

 視界からも逸らせる様に少しずつ、攻撃を避けながら炎龍の意識を伊丹さん達の位置からずらしていく……だが、事は全て思惑通りに動く訳では無い。

 

 あまり良くないタイミングでテュカの目が覚めてしまい、眼前で戦う僕と炎龍の姿を目にして再び恐慌状態に陥ってしまったのだ。

 

『テュカ!? ……ハァァァッ!!』

 

 渾身の力でドラゴンスレイヤーを振り抜く、フルチャージのブライトネスエンドで巻き上がった砂煙が炎龍の視界を遮り、奴の注意が曖昧になった瞬間だった。

 

 予期せぬ方向から複数本の錆びた剣が飛来し、炎龍の胴体や太腿など、何ヶ所かに突き刺さる。

 

 自慢の甲殻を貫かれ、痛みに悶え始める炎龍……その剣を投射したのは、伊丹さんの手伝いをしていた筈のレレイだった。

 

「……刺さる……?!」

 

 周囲の亡骸の得物だったであろう剣達を魔法で浮かせ、磁力による加速を掛けて投射したレレイ……剣達が炎龍の甲殻を貫いた事を確認し、子供がやっちゃいけない様な黒い笑みを零す。

 

 それを尻目に僕は炎龍の懐に潜り込む様に“ヴェイパーオブバレット”で腹部の真下へと移動し、そのままツインマシンガンへと持ち替え、追撃に“モーメントオブトリック”の弾丸を無防備な胴体に叩き込む。

 

 何十発ものスタン効果の付いた弾丸を土手っ腹に浴び続ければ、さしもの炎龍もたまらず怯んだ。その隙にレレイも足元に落ちていた無数の剣や槍などを魔力で浮かせ、現代科学技術を模倣する事で編み出した独自の理論による“電磁加速”を使って投擲し続ける。

 

「よっし! 後は……ッ!?」

 

 その時だ、ちょうどC4の設置を完了した伊丹さんへ向けて、苦し紛れに炎龍は火炎弾を吐き出す……

 

『しまっ……!?』

 

「あ……っ?!」

 

「逃げろっ!!」

 

「……ゲェッ!?」

 

 僕、レレイ、ヤオの声が彼の耳に届いたのと、伊丹さん自身が状況を察したのがほぼ同時……火炎弾は伊丹さんのすぐ近くに着弾して爆発し、伊丹さんの身体を空中へと放った。

 

「……ぁ……っ……」

 

 テュカは一瞬何が起きたか理解できなかった……しかし、目の前で彼が地面に叩き付けられるのをみた瞬間、今まで心の奥底に溜まっていた感情が再び表層に現れてしまう。

 

「……あ……ぁ……いや、お父さん……っ!?」

 

 ……その時だった。

 テュカの周囲に膨大なエネルギーの奔流が渦を巻き、僅かな静電気を発生……それは消える事なく、瞬く間に膨大な電気エネルギーとなり、炎龍の頭上から容赦なく降り注いだのである。

 

 グギャアァァァ……?!

 

 不意打ち、しかも強靭な身体能力など全く意に介さず、発生した落雷はヤツの強靭な甲殻をも容易く突き抜け、全身を焼き焦がす。

 自然の落雷で放出されるエネルギー量も凄まじいが、コレはテュカの雷撃魔法による導電現象……つまり自然の猛威よりも遥かに強力かつ誘導と集束を行なったもの……

 それはほぼ確実に炎龍の命を完全に刈り取れる程の強烈な一撃となり、さらにダメ押しの如く、伊丹さんが埋めていたC4爆薬の導火線に火を点け、途中で切れて動作不良に陥っていたC4本体を起爆……

 

 ものの見事に炎龍の胴体は爆炎と衝撃で致命傷を負い、ついにその生命の鼓動を吹き消され倒れ伏す。

 しかしその振動がC4の威力で脆くなっていた足場を完全に崩壊させ、瞬く間に罅が地面を這い周り、まずは炎龍の死体が下のマグマへと落ちていく。

 

 やがてそう間を置かず、ヤツの塒であったこの場所は全て崩壊し、僕らは急いで洞窟側へと避難する羽目になったのは言うまでもない──




はい、前回からだいぶ間が空いてしまいましたね……
今回の内容もほぼ原作通り。
唯一違うのはアークス君が単独で炎龍と渡り合う事になっているくらいでしょうか?
本来なら加勢に来ていたダークエルフの若者たちがつぎつぎと◯されますが、本作ではほとんど被害無しです。

まぁ、アークス君は訓練で散々エリュトロン・ドラゴンとタイマンしてますからね〜
たかが空飛ぶトカゲでしかない炎龍ごときに遅れは取りません!
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