続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
五月に入って約一週間の時が過ぎた。
ゴールデンウィークも終わり学校の授業が再開されると、清麿達Aクラスも中間テスト対策として本格的な勉強会を始めた。
主に男子の教師役を清麿、女子の教師役を帆波が務め、その補佐に神崎と浜口がつく。
勉強会は部活組と、帰宅部組の二組に分けられ、それぞれ二日に一回の割合で行われた。
放課後に図書館へ集まり、それぞれ自分の苦手教科を中心に勉強していき、どうしても分からないところがあれば質問するという方式が取られた。
誰も勉強会に出ないということはなく、クラス全員で取り組む。
団結力のあるAクラスだからこそ、他クラスよりも纏まりが強かった。
数日間勉強会を行い、クラスの面々もようやく慣れてきたころ、突如予想外な出来事が起こる。
なんとテスト約二週間前になって、テスト範囲が変更になったのだ。
その影響か、勉強していた範囲が無駄になってしまった科目も幾つか出てきてしまった。
しかし、清麿は焦っていなかった。
自室にて、
(やはりそうだ……テスト範囲で変更された箇所が
彼の手にあるのは、
それだけでなく
担任の星之宮のある発言から、中間テストを退学者を出さずに確実に乗り切る方法があると確信した清麿は、ずっとその方法を探していた。
そして、たどり着いたものが過去問の存在であった。
小テストにあった明らかに難易度の違う問題や、テスト範囲の変更。
これらをヒントに、【過去問を手に入れる】という一つの正解へとたどり着いたのだ。
そして清麿は過去問を手に入れるために、さっそく生徒会の橘へと相談したのだが……
『困っている後輩が居れば、助けるのが先輩としての務めですから!!』
と、
これには頼んだ清麿も慌てた。
何度もポイントを払うと言ったのだが、橘は断固としてこれを拒んだ。
清麿は説得の末、貸し一つということで、なんとか橘を納得させたのだった。
「とりあえずは……こんなものか」
そして、ある程度一段落つくと、息を静かに吐き出す。
「ふぅ……コーヒーでも買いに行くか」
清麿は部屋から出ると、一階のロビーへと向かい、そのまま自動販売機へ向かう。
携帯端末を自販機のパネルへ近づけた後にボタンを押すと、ガコンッという音とともにコーヒーが落ちてきた。
少し、夜風に当たりながらコーヒーを飲もう
と思った清麿が寮を出ると……
「いいからその手を離せ」
「それはこちらのセリフだ」
(この声は……綾小路と堀北会長?)
気になった清麿は声のする方向へと向かった。
場所は寮の裏手の角を曲がったところらしく、清麿は身を隠しながら様子を伺う。
そこには三人の生徒がいた。
綾小路清隆と生徒会長の堀北学、そして黒髪の美少女が立っていた。
すると堀北学が動き出す。
綾小路に裏拳、続けざまに蹴りを繰り出したのだ。
「っぶね!」
綾小路はそんな言葉を発しながら、学の攻撃を全て避ける。
当たれば一発で意識を失う威力のある攻撃ばかりであった。
清麿は二人の攻防を見て、無意識に分析していた。
(あの二人……明らかに戦い慣れている。堀北会長は空手、あとは合気道か?間違いなく有段者だ。そして綾小路……会長の攻撃を全て紙一重でかわしている。攻撃を完全に見切っていなければ出来ない芸当だ。やはり……ただ者ではなかったか)
「いい動きだな。立て続けに避けられるとは思わなかった。それに、俺が何をしようとしたのかもよく理解している。何か習っていたのか?」
「ピアノと書道なら。小学生の時、全国音楽コンクールで優勝したこともあるぞ?」
「なるほど。お前もDクラスか?中々ユニークな男だな。
「堀北と違って無能なんでね」
綾小路と学が会話する。
清麿は悪いと思いながらも、その内容を聞いていた。
(鈴音……とはあの女子生徒のことか。会長の親しげな様子からして妹か?)
二人の会話は続く。
「そういえば今年の入学試験……全科目で50点を取ったという新入生がいたな。加えて、先日の小テストの点数も50点……狙って揃えたのか?」
「偶然って怖いっすね」
清麿は二人の会話を聞いて再度思考する。
(生徒会長ともなればそんな個人情報まで入ってくるのか?しかし今、気になることを言っていた。綾小路の入学試験が全科目50点だと?それも小テストも?綾小路が実力を隠してることは薄々気付いてはいたが……そんないい加減なことをすれば、下手に実力が疑われることは分かりきっているはず……一体なぜそんなことを?)
清麿は綾小路がただ者ではないことを、この一ヶ月で感じ取っていた。
そして学との攻防や、入学試験の結果を聞いて確信に至った。
(入学試験の科目を全て50点にするということは、それだけ点数を操作するだけの頭脳があるということ。少なくとも、Dクラスにいるような人材でないことは確かだ。だが、それをする意味がまるで分からん。実力を隠すのが目的なら、科目ごとの点数を最初からバラバラにしてしまえばいいだけだからな。だが実際に綾小路は点数を全て揃えている……どこかチクハグな印象を受けるな……)
違和感はなんとなくあった。
(そう……まるで世間の常識を全く知らないような……)
すると学が呟いた。
「それで、そこで様子を見ている者……一体いつまで隠れているつもりだ?」
(なっ!?この距離でオレの存在に気付いていただと!?)
清麿は観念して姿を現す。
「……いつから気付いていたんですか?」
「最初からだ。まさかお前だとは思わなかったがな、高嶺」
「……さすがですね」
(夜中で視界も悪い中、気配を消していたオレの存在を感じ取る察知能力に、先程見せた高校生離れした格闘能力……さすが歴代の生徒会長の中でも最高と評されるほど優秀なだけはある。色々規格外な人だ……)
そして清麿の登場に黒髪の美少女、堀北鈴音は目を見開いていた。
「高嶺……清麿……」
しかし、綾小路はというと徹底して無表情を貫いていた。
(綾小路だけは、なんの反応もない……か)
清麿は会話を続ける。
「それより会長、先程の件についてご説明願えますか?勿論、そこの男子生徒……綾小路と争っていた件について」
「……言い訳はしない。お前の見た事が真実だ。それで高嶺、お前はこの件をどう扱う?」
(この状況でオレがどう動くか試しているのか?大した胆力だな……)
「正直なところ……何もすることはできませんね。ここには監視カメラはありませんし、端末やボイスレコーダーで録画や録音でもして、証拠を押さえておけば良かったんでしょうが、そんな暇もありませんでしたし……そこにいる綾小路と女子生徒が証言してくれれば別ですが……」
この寮の一角は監視カメラの死角となっているため、記録されることはない。
だからこそ、ここでの一件を表沙汰にするのであれば、被害者であろう二人の証言が鍵となってくる。
清麿が二人へと視線を向ける。
「オレは事を荒だてるつもりはない」
「私も……その気はないわ」
しかし、二人は首を横に振った。
この件を表沙汰にする気はないようだ。
「……だそうです。この二人が問題にしないと言うなら、オレから言うことは何もありません。ただ……覚えておいて下さい、会長」
しかし清麿はどうしても一言、生徒会長、堀北学に言っておきたかった。
「次、オレの前で同じようなことが起きた場合、たとえ会長と言えど……容赦するつもりはありませんので」
その瞬間、堀北学は高嶺清麿という一人の男子生徒の迫力に飲まれる。
気付けば、学は頬から一筋の冷や汗を流していた。
「……覚えておこう」
歴代最高の生徒会長と言われる彼を持ってしても、今はそう答えるのが精一杯であった。
そして学は鈴音へと視線を向ける。
「鈴音」
学の声にビクリッと反応する鈴音。
「相変わらず、孤高と孤独を履き違えているようだな。それからお前、綾小路と呼ばれていたな。お前がいれば、少しは面白くなるかもしれないな」
そうして学は清麿達の横を通り過ぎ……
「上のクラスに上がりたかったら死にもの狂いで足掻け。それしか方法は無い」
そう言い残して、この場を去った。
そして残ったのは、清麿と綾小路、鈴音の三人である。
「「「…………」」」
圧倒的沈黙が場を支配した。
気まずくなった清麿は、この場を去ることにした。
「そ、それじゃあ……オレはもう行く。またな綾小路」
「あ、ああ」
そして清麿も寮へ戻ろうとしたとき……
「待ちなさいっ!!」
堀北鈴音が清麿を呼び止めた。
「な、なんだ?」
「あっ……え、えっと……そ、そう言えば自己紹介がまだだったわね。1ーD、堀北鈴音よ」
「そ、そうか。オレは1ーA、高嶺清麿だ。よろしく、堀北」
互いに自己紹介するが、何を思ったのか綾小路も自己紹介を始めた。
「オレは1ーD、綾小路清隆だ」
「いや、知ってるよ」
遂、反射的にツッコミを入れる清麿。
ちなみになぜ綾小路が自己紹介をしたかというと、少し仲間外れにされたみたいで寂しかったのだ。
気を取り直して、清麿は鈴音へと向き直る。
「君は……堀北会長の妹……なんだな」
「ええ……まあ……」
「そうか。一つ聞きたいんだが……君はAクラスを目指してるのか?」
鈴音は清麿の質問に目を見開くが、すぐに表情を引き締めると、質問に答えた。
「そうよ。私はAクラスを目指してる。あの人に……兄さんに追いつかなければならないの」
「オレは君達、兄妹の間に何があったかは知らない。だがこれだけは聞いておきたい。
「ええ」
鈴音は間髪入れずに答えた。
「だったら、これをやる。綾小路、携帯を見てくれ」
清麿は懐から携帯端末を取り出し、あるデータを送る。
綾小路は端末を見ると、驚く。
「これは二年分の過去問に……こないだの小テストのデータ……か?」
「ああ。それを使えば今回の中間テストは上手く乗り切れるはずだ」
「いいのか?」
「餞別だとでも思ってくれ」
綾小路の探るような視線に、清麿は真正面から向き合う。
すると鈴音が呟いた。
「……情けをかけているつもり?」
「ああ」
「ふざけないでっ!!」
清麿の答えに鈴音は憤慨する。
だが清麿は冷静に述べる。
「一体どういうつもり!?」
「こう言ってはなんだが、現時点でのDクラスに敵として見る価値はない。いや、敵として認識すらしちゃいない」
清麿は続ける。
「なぜならDクラスは……オレ達Aクラスに一歩も二歩も、いやそれ以上に出遅れているからだ。言っておくが、BクラスとCクラスにも大きく出遅れているぞ」
「くっ……」
鈴音は悔しそうに歯を食いしばる。
否定出来ないのだろう。
「そんななかで堀北、お前はAクラスを目指すと言った。だが、その道は生半可なものじゃない。気付いてるか?お前達Dクラスは、まだスタートラインにすら立てちゃいないんだ。会長もさっき言ってただろ。『上のクラスに上がりたかったら死にもの狂いで足掻け。それしか方法は無い』って。だったら……やることは一つ。精一杯足掻いてみろよ」
そして、清麿は言った。
「オレ達にDクラスを敵として認識させてみろ!堀北鈴音!!」
清麿の言葉に鈴音は一瞬唖然とするものの、すぐに表情を引き締め、毅然とした立ち振る舞いで言葉を返す。
「ええ。私達Dクラスは必ず、貴方達Aクラスに敵として認めさせてあげる。だから首を洗って待っていなさい」
「ああ」
「そして過去問に関しても、一応礼を言っておくわ。だけど、このまま借りを作ったままなのは私のプライドが許さない。だから……これを渡しておくわ」
鈴音はメモに自身のプライベートナンバーを書くと、清麿へと渡す。
「何か困ったことがあれば、連絡してきなさい。私個人として力になれることなら、協力してあげなくもないわ」
「……ありがたくもらっとく」
言いたいことを言い終えた鈴音は、そのまま踵を返す。
「行くわよ、綾小路君」
「あ、ああ。またな、高嶺」
綾小路は鈴音の後をついていく。
二人はそのまま寮へと戻っていった。
「発破をかけすぎたかな……」
しばらくして、清麿は側に置いておいた缶コーヒーを口に含む。
中身はすっかりぬるくなっていた。
翌日の昼休み……
Aクラスにある訪問者の姿があった。
「ご機嫌よう、清麿君。突然なんですが、私達Bクラスと中間テストで勝負をしませんか?」
坂柳有栖が勝負を仕掛けてきた。
次回辺りで中間テスト編終わる予定です。
では、また( `・∀・´)ノ