続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
清麿の携帯に、鈴音から連絡が届いた。
『残る一人の確認も終わったわ。今、回答を送ったそうよ』
程なくして、学校からグループ終了の通知が届く。
清麿はAクラスの優待者本人にも確認を取り、携帯を置いた。
「こちらの三人は、全員Dが回答した」
「……とりあえず、予定していたことは出来たね」
帆波の言葉に、清麿は頷く。
猿グループで高円寺が正解しているなら、Aが失うクラスポイントは合計百五十。
同じだけ、Dクラスが得ることになる。
BCへ渡すよりはいい。
だが、それで今回の試験が終わるわけではなかった。
テーブルの上には、各グループの終了状況を書き込んだメモ帳が置かれている。
清麿は、先程印をつけた二つのグループを見下ろした。
「神崎。回答した生徒について、何か分かったか?」
「最初の方は、Cクラスの生徒が送信したところを見た者がいる。もう一つも、Bクラスの生徒が回答したという話で一致している」
「答えた名前は?」
「そこまでは分からないそうだ」
清麿は腕を組む。
学校から届く通知は、グループの試験が終了したことしか伝えていない。
回答が正しかったのか、間違っていたのか。
誰が何ポイント得て、誰が失ったのか。
それは最終発表まで分からない。
しかし、二つのグループで優待者の所属クラスが異なることは分かっていた。
「……正解でも、不正解でも同じか」
「高嶺?」
神崎が顔を上げる。
清麿はメモ帳に、BとCの文字を書いた。
「Bの優待者がいるグループでCが正解すれば、Bが五十失ってCが五十得る。別のCの優待者をBが当てれば、その逆だ」
「差し引きはゼロですね」
浜口が頷く。
「だが、両方とも誤回答だった場合も同じだ。最初はBが五十得てCが五十失う。次にCが五十得てBが五十失う」
「……結局、二つ合わせれば変わらないのね」
姫野がメモ帳を覗き込む。
「ああ。回答方法がどちらでも、BCのクラスポイントは変わらない。そして、その二つのグループは終了する」
清麿は二つの名前に線を引いた。
「オレ達は、もうそこから得点できない」
帆波の表情が曇る。
「自分達の優待者を、先にお互いで……」
「ああ。自分達で終わらせることにしたんだろう」
「でも、それって私達がAの優待者をDに教えたのと似てない?」
姫野の問いに、清麿は頷いた。
「やっていることは近い。ただ、向こうはBCの間で損失を相殺できる」
清麿達は、Aの得点をDへ移すことを選んだ。
坂柳と龍園は、互いに得点と失点を引き受け、ADに取られる前にグループを閉じている。
「……それなら、残りも来るぞ」
神崎が携帯を手にした。
その直後だった。
テーブルの上の携帯が、ほぼ一斉に震える。
一通。
続いて、もう一通。
清麿は通知を開き、グループ名を確かめた。
Bクラスの優待者がいるグループ。
そして、Cクラスの優待者がいるグループ。
「また、BとCだ」
浜口が低い声で呟く。
清麿は鈴音へ電話をかけた。
『……高嶺君。今の通知、あなたも見たわね?』
「ああ。BCが互いの優待者を回答している可能性が高い」
『こちらでも、そういう話が出ているわ』
「Dの優待者については、どうなっている?」
『平田君に確認してもらっているところよ。櫛田さん以外の二人は、本人から報告が来ている』
「なら、その二つをAが回答する」
電話の向こうで、鈴音が黙った。
清麿は説明を続ける。
「Dが失うことには変わりない。だが、BCに得点させるよりはいい。こちらのグループの生徒には、オレから連絡する」
『……今度は、私達があなた達へ渡すわけね』
「ああ。先程の得点を減らすことになる。だが、BCがこちらの優待者を残しているなら、最後に狙うのはDだ」
鈴音が短く息を吐く。
『分かった。平田君にも伝えるわ』
「オレもすぐ動く」
通話を終え、清麿は二人のクラスメートへ連絡を入れた。
グループ名。
回答する生徒の名前。
法則から導いた答えと、Dクラス側で本人確認が取れていること。
必要な内容を簡潔に伝える。
一人からは、すぐに返事が来た。
『分かった。今から送る』
もう一人から返信が届くより先に、学校の通知が画面の上へ表示された。
清麿の指が止まる。
終了したのは、今まさに連絡を取っていたグループだった。
『悪い高嶺。送ろうとしたところで終了の通知が来た』
続いて、別の連絡が入る。
『Cの奴が、回答したって言ってる』
清麿は携帯を握り直した。
「……一つ、先を越された」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
その間にも、もう一人のクラスメートから連絡が届く。
『送信した。言われた名前で間違いない』
学校からの終了通知も、後を追うように届いた。
こちらは、間に合った。
清麿は報告を返してくれた生徒へ礼を伝え、鈴音にも状況を送る。
「一つはAが回答できた。もう一つは、Cが回答したらしい」
神崎が、机の上のメモ帳へ視線を落とした。
「……残るBCのグループも、時間の問題だろうな」
「ああ」
清麿は頷いた。
相手がこちらの動きを見てから、その都度手配しているわけではない。
回答する者と、対象。
動く順番。
少なくとも、それらは既に決められていたのだろう。
こちらが作戦を切り替えた時には、向こうの生徒達は送信できる状態にあった。
清麿は、まだ線を引いていないグループ名を見つめる。
その中に、竜の文字が残っていた。
◆◆◆
鈴音と平田は、竜グループの部屋の前で清麿を待っていた。
「他の二人については、本人にも状況を伝えたよ」
平田が携帯をしまいながら言った。
「Aクラスが回答した方も、学校から終了の通知が届いている。もう一つは……Cクラスの生徒が回答したと聞いた」
「こちらの連絡が、間に合わなかった」
清麿が告げると、平田は首を横に振った。
「高嶺君だけの問題じゃないよ。僕達も、もっと早く共有しておくべきだった」
鈴音は扉へ視線を向ける。
「櫛田さんは中にいるわ。私達が話をしたいと伝えたら、待っていてくれた」
「……そうか」
清麿は扉を開けた。
円卓の一角に、櫛田が座っている。
携帯を両手で持ち、画面を眺めていた彼女は、三人に気付くと顔を上げた。
「ごめんね。こんな時間に、集まってもらっちゃって」
「こちらから呼んだのよ」
鈴音が向かいに座る。
平田もその隣へ腰を下ろした。
清麿は、櫛田から二つ席を空けた位置へ座った。
「櫛田。まず確認したい」
「……何かな?」
「お前は、このグループの優待者か?」
櫛田の指が、携帯の縁を撫でた。
それでも、顔の表情は変わらない。
「どうして、そう思うの?」
「干支の順番と、グループの生徒を名字順に並べた時の位置が一致している。Aの優待者三人で確かめた」
清麿はメモ帳を円卓へ置く。
「このグループでは、五番目がお前だ」
櫛田は、書き込まれた名前を見下ろした。
「あ……それが、椎名さんの言っていた法則?」
「ああ」
「櫛田さん。もし優待者なら、教えてほしい」
平田が穏やかに言った。
「他のグループが次々に終わっている。僕達も、方針を決めないといけないんだ」
櫛田は少し迷うように目を伏せた。
そして、携帯を机へ置く。
画面には、学校から届いたメールが表示されていた。
「……うん。私が優待者だよ」
鈴音が画面を確認する。
清麿も、席を立たずに表示された文面へ目を通した。
予想通りだった。
しかし、確認できたことを喜ぶ気にはなれなかった。
「どうして、今まで黙っていたの?」
鈴音の問いに、櫛田は小さく肩を落とす。
「怖かったんだ。誰かに話したら、そこから他のクラスにも知られちゃうかもしれないでしょ?」
「僕達に相談してくれれば、一緒に考えられたよ」
「……うん。ごめんね、平田君」
平田はそれ以上責めなかった。
鈴音も、一度息を吐いてから話を進める。
「今は、残る試験をどう終わらせるかを考えましょう」
清麿は櫛田を見る。
「BとCの生徒から、何か接触はあったか?」
「接触?」
「あの二人は、話し合いの時からお前を見ていた。グループの外でも、優待者について何か聞かれなかったか?」
櫛田は一瞬だけ、鈴音へ視線を向けた。
「……坂柳さんとは、少し話したよ。龍園君にも、優待者は大変だなって言われた」
「橋本は?」
「橋本君?」
今度は、問い返すまでに僅かな間があった。
「どうして、橋本君の名前が出るの?」
「同じグループだからな。あいつも、かなり周りを見ていた」
「……少し話しただけだよ。みんなが疑い合ってて大変だね、って」
清麿は頷いた。
それ以上、質問を重ねることはしない。
代わりに、メモ帳を閉じた。
「今夜、このグループをAから回答する準備はしておく」
櫛田の目が、僅かに動いた。
「……高嶺君が?」
「オレ達の誰かが、だ。BCに取られる前に終わらせたい」
「だったら、Dクラスは……」
「五十失う。その代わり、Aが五十得る」
鈴音が答えた。
「Aクラスから得たポイントの一部を戻す形になるわ。BCに渡すよりは、同盟の中に残した方がいい」
「……そっか」
櫛田は机の携帯を引き寄せた。
「じゃあ、もう決まったんだね」
「平田にも、確認しておきたかった」
清麿が言うと、平田は頷いた。
「僕も、その方がいいと思う。櫛田さんの報酬については、別に相談させてほしいけれど」
「ううん。クラスのためなら……」
そこで、櫛田の携帯が震えた。
彼女の視線が画面へ落ちる。
すぐに伏せられたため、内容までは見えなかった。
だが、清麿はその動きを見ていた。
「……誰からだ?」
「クラスの友達。試験のことが気になってるみたい」
櫛田は立ち上がった。
「ごめん。少しだけ、電話してきてもいいかな?」
鈴音が眉を寄せる。
「今?」
「すぐ戻るから」
「櫛田さん。その友達にも、今は独断で回答しないよう伝えてくれるかな」
平田の言葉に、櫛田は頷いた。
「うん。分かった」
扉が閉じる。
鈴音が、清麿を見た。
「……何か気になるの?」
「まだ、断定できることはない」
清麿は自分の携帯を開く。
回答先のアドレス。
そして、櫛田桔梗の名前。
「だが、準備はしておく」
◆◆◆
櫛田は廊下の角を曲がり、人影がないことを確かめてから携帯を耳へ当てた。
「……今、話した通り。高嶺君達、今夜中に終わらせるつもりだって」
『へぇ。なら、のんびりしてる場合じゃないな』
橋本の声は、いつもと変わらず軽かった。
それが、今は少し腹立たしい。
「約束、忘れてないよね?」
『忘れてねぇよ。俺が回答して、報酬の半分を渡す』
「坂柳さん達にも話してるの?」
『俺が回答することはな』
櫛田は壁へ背中を預けた。
「……私のことまで、話してないでしょうね」
『その辺は安心していい。俺だって、情報源をいちいち明かすほど親切じゃない』
櫛田は唇を噛む。
清麿達に従えば、橋本との契約は実行されない。
Aクラスの誰かが回答して、Dが失点する。
それなら、橋本に回答させてもDの損失は同じだった。
少なくとも自分には、約束した報酬が残る。
それに、今から取り引きを反故にすれば、橋本が何を口にするか分からない。
「……じゃあ、早くして」
『了解』
通話が切れる。
櫛田は携帯を握ったまま、しばらくその場を動かなかった。
やがて、画面へ学校からの通知が届く。
竜グループの試験が終了したことを知らせるメールだった。
◆◆◆
清麿の携帯にも、同じ通知が届いていた。
送信するために開いていた画面の上へ、グループ終了の文字が表示される。
鈴音が椅子から立ち上がった。
「……誰が?」
平田も携帯を確かめる。
「僕達は、まだ送っていないよね?」
「ああ」
清麿は画面を閉じた。
既に答えを知っていた者が、他にもいる。
それは分かっていた。
だからこそ、櫛田本人の確認を取った後、長く待つつもりはなかった。
それでも、間に合わなかった。
扉が開く。
戻ってきた櫛田は、三人の顔を順に見た。
「……終わっちゃったね」
鈴音が彼女へ向き直る。
「今、誰と話していたの?」
「クラスの友達だよ。さっき言ったでしょ?」
「なら、その人が回答したの?」
「え? 同じクラスの人が答えても、無効なんじゃ……」
鈴音の口が止まる。
清麿は席を立った。
「その通りだ。Dの生徒が答えたわけじゃない」
「……高嶺君?」
「結果は、発表を待つ。ただ、こちらの予定通りには終わらなかった」
清麿は携帯をポケットへしまった。
そこへ、もう一通の連絡が届く。
学校からではない。
橋本正義からだった。
『竜、俺が回答したぜ。あとは結果待ちだな』
清麿は短い文章を読み終えると、櫛田へ視線を向けた。
彼女は鈴音と話している。
困ったような顔で、先程の電話は関係ないと説明していた。
清麿は返信を打った。
『そうか。結果が出たら、少し話そう』
すぐに返事が来る。
『お手柔らかに頼むぜ』
清麿は画面を閉じた。
鈴音と相談していた、情報を渡した相手の動きを見るというやり方。
今夜中にAが回答するという予定を、この場で初めて伝えた。
櫛田が席を外し、その直後に橋本が回答した。
偶然で片付けるには、あまりにも早い。
だが、それだけで取り引きの内容まで分かるわけではない。
ましてや、終わった試験を戻すこともできなかった。
「……平田。Dクラスの他のグループの結果も、確認しておいてくれ」
清麿が告げると、平田は頷いた。
「分かった。高嶺君達の方も、何か分かったら教えてほしい」
「ああ」
鈴音は、櫛田から清麿へ視線を移した。
「私も、確認することがあるわ」
その声は、先程より低かった。
清麿は一度だけ頷く。
そして、閉じたメモ帳を手に、部屋を後にした。
◆◆◆
「間に合ったか」
電話越しに、龍園が笑う。
橋本はベッドへ腰を下ろし、携帯を耳へ当てた。
「ああ。高嶺達も動いてたみたいだけどな」
『Dの一つは、Aに取られた。残りの一つはこっちだ』
「なら、竜はBが取ったってことで」
『約束通りだ。文句はねぇよ』
橋本は、手元の画面へ目を向けた。
櫛田から、短いメッセージが届いている。
『結果が出たら、ちゃんと払ってね』
その下に、先程清麿へ送った文章が残っていた。
『竜、俺が回答したぜ。あとは結果待ちだな』
橋本は小さく笑う。
高嶺清麿が、これで黙っているとは思えない。
だが、今夜の回答は既に受理された。
彼がどこまで辿り着いたとしても、竜グループの試験は終わっている。
橋本は龍園との通話を切ると、櫛田へ返信した。
『契約通り。結果が出たら渡す』
送信を終え、携帯を枕元へ置く。
残るのは、学校からの最終発表だった。
今日中にまた投稿します。
では、また∠( ゚д゚)