続き書けたで候。
では、どうぞ∠( ゚д゚)/
翌日の昼。
清麿がカフェテリアへ入ると、橋本は既に窓際の席に座っていた。
こちらに気付くと、片手を上げる。
「よう、高嶺。こっちだ」
清麿は向かいの椅子へ鞄を置いた。
「早いな」
「呼び出された側だからな。待たせたら、何を言われるか分かんねぇし」
「人を何だと思ってるんだ」
「飯を食いながら、相手の腹の中まで調べようとする奴」
「……注文する前から帰りたくなってきたぞ」
橋本が笑う。
清麿はメニューを手に取った。
昼時のカフェテリアは、生徒達で賑わっている。
試験の結果を話題にしている者もいれば、残る船旅をどう過ごすか相談している者もいた。
清麿は日替わりの定食を注文する。
橋本は既に、肉料理のセットを頼んでいた。
「随分、食うな」
「考え事すると腹が減るんだよ」
「その理屈なら、オレも大盛りにするべきだったか」
「まだ間に合うぜ?」
「いや、これでいい」
清麿はメニューを戻すと、その顔を見た。
「まずは、今回の試験についてだ」
「……もう本題かよ」
「そのために誘ったんだからな」
「少しは世間話しようぜ?」
「今朝の天気は晴れだ。以上」
「雑すぎるだろ」
清麿も、水を一口飲んだ。
「BとCが互いに誤回答する策。いつ決まった?」
橋本の笑みが、少しだけ薄くなる。
「そこから聞くのか」
「ああ」
「……細かい時間までは言えねぇよ。ただ、お前らが動き始めた時には、回答する連中は決まってた」
「やはりな」
清麿は頷いた。
実際に届いた報告からも、それは予想していた。
BCの生徒達は、指示が来てから答えを考え、相談していたのではない。
既に決められた名前を送るだけだった。
「互いに間違えることを、よく了承したな」
「最初に失点する方が、後から相手に逃げられたら損するからか?」
「そうだ」
「その辺は、うちのお姫様と龍園が詰めてたよ。少なくとも、俺一人で決めた話じゃねぇ」
橋本はグラスを置いた。
「お前も分かってるだろ。あの二人、仲が良いから組んでるわけじゃない」
「ああ。今回、組む利益があった」
「そういうこと」
清麿は背もたれへ身体を預けた。
それぞれが、自分のクラスを上へ進めたい。
そのために、今回だけは得点と失点を引き受け合った。
清麿がAの優待者をDへ渡したように、坂柳と龍園にも、自分達にとって都合のいい配分があった。
「……それで? 竜グループの方は?」
橋本から話題を振られ、清麿は視線を戻した。
「櫛田と、どんな取り引きをした?」
橋本の指が、グラスの縁で止まった。
「随分、はっきり聞くな」
「回りくどく聞いても、お前ははぐらかすだろう」
「今だって、はぐらかすかもしれねぇぞ?」
「そうだろうな」
清麿は、そこを否定しなかった。
「ただ、オレ達が今夜中に回答するつもりだと伝えた直後に、櫛田は電話へ出た。その後、お前が回答した」
「それだけで、俺と櫛田ちゃんが繋がってるって?」
「お前が優待者を知っていたことと、回答する時間を選んだことは別だ」
橋本は黙った。
「優待者の名前を知るだけなら、法則を解けばいい。だが、オレ達がいつ動くかは、法則からは分からん」
ちょうどその時、店員が料理を運んできた。
清麿の前へ定食が置かれ、橋本の前にも皿が並ぶ。
二人は一旦話を止め、店員を見送った。
橋本はフォークを手に取る。
「……高嶺。俺から、お前らのクラスの相談内容を教えろって言われたら、教えるか?」
「内容による」
「大事な作戦なら?」
「教えない」
「俺も同じだよ」
橋本は、料理へ目を落とした。
「答えると、次に誰かと話をする時、困ることがあるんでね」
清麿は箸を取った。
「そうか」
問い詰めれば、何かが出てくるかもしれない。
だが、食事へ呼び出しただけで、橋本に取り引きの全容を明かす義務が生じるわけではない。
ましてや、ここは審議の場でもなかった。
それでも、確認しておきたいことはある。
「お前が回答したことで、Dは五十失った」
「……ああ」
「同時に、オレ達も五十を得る機会を失った」
橋本が顔を上げる。
清麿は、真っ直ぐに相手を見た。
「情報の売買をする相手として、お前を信用するかどうか。その判断には、今回のことも含める」
橋本は一度だけ瞬きをした。
そして、小さく笑った。
「もう俺からは買わない、ってことか?」
「そこまでは言っていない。必要な情報なら、話を聞く」
「じゃあ、何が変わる?」
「何をお前へ話すかだ」
橋本の笑みが止まる。
清麿は、定食の味噌汁を一口飲んだ。
「情報を持っている相手と、何でも相談できる相手は違う。今回で、その区別はついた」
「……なるほどね」
橋本は椅子へ深く座り直す。
責められる。
怒鳴られる。
櫛田との取り引きを認めるまで、追及される。
そうした可能性は考えていた。
しかし、清麿はそれ以上、質問を重ねなかった。
橋本は少し考えてから、フォークを置く。
「一つだけ、言っとく」
清麿が顔を上げた。
「竜で俺が送ったのは、櫛田ちゃんの名前だ。そこは、お前の考えてる通り」
「……ああ」
「あと、あの回答は俺が選んだ。誰かに無理やり送らされたわけじゃねぇ」
清麿は数秒、橋本を見つめた。
「それは分かっている」
短く返し、箸を動かす。
橋本も、再び食事を始めた。
しばらく、二人の間には食器の音だけが続いた。
◆◆◆
「それにしてもさ」
食事が半分ほど進んだ頃、橋本が口を開いた。
「Aクラスがあそこまで早く、Dへポイントを渡すとは思ってなかった」
清麿が目を向ける。
「オレ達の方針は、見抜いてたんだろう?」
「方向はな。けど、優待者本人を納得させて、D側の回答者も決めてってなると、もう少しかかると思ってた」
「皆が協力してくれたからな」
「そういうところは、羨ましいよ」
橋本は、珍しく茶化さずに言った。
清麿は箸を止める。
「Bクラスも、今回は纏まって動いたじゃないか」
「今回の件は、な」
それ以上、橋本は続けなかった。
葛城と坂柳。
Bクラスを率いる二人が、いつも同じ考えでいるわけではない。
今回の試験で協力できたからといって、その問題まで消えたわけではないのだろう。
清麿は、そこを聞かなかった。
「……神崎達が、昨日言ってくれたんだ」
代わりに、自分の話をした。
「負けた時だけ、一人で決めたことにするなってな」
「へぇ」
「オレも、相談して決めたはずなのに、結果が悪いと、自分の判断として話していた」
橋本は黙って聞く。
「だから、次は相談する時に、待つ条件や、動く条件まで決めておこうと思ってる」
「それ、俺に話していいのか?」
清麿は一瞬止まり、橋本を見た。
「……今のは、作戦ではなく反省だ」
「ははっ。分かってるよ」
橋本が笑う。
清麿は少しだけ顔をしかめてから、残る料理へ箸を伸ばした。
◆◆◆
食事を終えた二人は、席を立ってカフェテリアを出た。
通路へ出ると、橋本が軽く手を上げる。
「じゃあな、高嶺。また情報が要る時は声かけてくれよ」
「ああ。内容と値段次第だがな」
「今度は友達価格で」
「前も聞いたぞ、それ」
「常連サービスだって」
橋本は笑いながら、客室へ続く通路を歩いていった。
清麿はその背中を見送り、小さく息を吐く。
取り引きの詳細までは聞けなかった。
だが、橋本がどう答え、どこを答えなかったかは分かった。
それも、今後を考えるための情報になる。
清麿が踵を返そうとした時、横合いから声がかかった。
「お昼ご飯、もう済ませちゃいましたか?」
振り向くと、ひよりが立っていた。
片手には、一冊の本がある。
「ひより。ああ、今食べ終わったところだ」
「そうでしたか」
彼女は橋本が去った方へ、少しだけ視線を向けた。
「橋本君と、一緒だったんですね」
「試験のことで、話をしてた」
「……なるほど」
ひよりは頷いた。
それから、清麿の顔を見上げる。
「この後、お時間はありますか?」
「ああ。特に予定はないが」
「それなら、少しだけお付き合いしていただけませんか?」
◆◆◆
二人は、船内の本を借りられるスペースへ移動した。
ひよりは持っていた本を返却し、清麿と並んで書棚を眺める。
「……今回は、私達のクラスが得点できました」
棚から一冊抜きながら、ひよりが言った。
「そうだな」
清麿は頷く。
「おめでとう」
ひよりが、こちらを向いた。
「……ありがとうございます」
「何だ、その顔は」
「いえ。少し、言いづらかったので」
「オレが負けたからか?」
ひよりは小さく頷いた。
清麿は苦笑する。
「悔しいのは確かだが、お前が自分のクラスの結果を喜ぶのは普通だろう」
「そう言っていただけると、助かります」
ひよりの肩から、僅かに力が抜けた。
清麿は棚へ視線を戻す。
「法則についても、自分で考えてたんだな」
「はい。もっとも、清麿君は私が発言した時には、もう分かっていたんでしょう?」
「ああ」
「やっぱり」
ひよりは少し笑い、それから手元の本へ目を落とした。
「私、最初は迷っていたんです。あの場で、法則のことを話していいのか」
「皆が優待者を探し始めるからか?」
「それもあります。でも、黙っていたら、分かっている人達だけで話が進んでしまう気がして」
清麿は、その言葉を聞きながら彼女を見た。
ひよりは本を棚へ戻す。
「龍園君と有栖ちゃんが協力していることも、最初から詳しく教えてもらっていたわけではありません」
「……そうか」
「だから、自分で考えて、話に入れるようになりたかったんです」
穏やかな声だった。
清麿との友人関係を大切にしている。
それでも、彼女はCクラスの生徒でもある。
自分のクラスが競争に参加している以上、いつまでも外から眺めていたくはなかったのだろう。
「その後、龍園には話したのか?」
「はい。考えたことをまとめて、伝えました」
「何て言われた?」
「『分かってんなら、黙って見てねぇで手伝え』って」
清麿は、思わず笑った。
「言いそうだな」
「ええ。随分な言い方だと思いました」
ひよりも、少しだけ口元を緩める。
「それで、他のグループから届いた報告を整理しました。回答を終えたかどうか、連絡が抜けていないか、確認するくらいでしたけど」
「それは助かるだろう。人数が増えると、そこが大変になるからな」
「……はい」
ひよりは頷いた。
その表情には、小さな満足が見えた。
清麿は一冊の本を手に取る。
「だったら、今回はお前にも負けたわけだ」
ひよりが顔を上げる。
「次は、そう簡単には取らせんぞ」
一瞬驚いた後、ひよりは笑った。
「私も、簡単に取られるつもりはありません」
「おう」
清麿も笑って返した。
ひよりは再び書棚へ向き直り、別の本を抜き取る。
「あ、それ、前に読みました」
「どんな話だ?」
「最後を知ってしまうと面白さが減るので、説明は少し難しいですね」
「じゃあ、読むか」
「読み終わったら、感想を聞かせてください」
清麿は本を開き、最初の数行へ目を通した。
隣では、ひよりが借りる本を選んでいる。
やがて二人は窓際の席へ移動し、それぞれの本を広げた。
しばらくすると、清麿の携帯が震える。
帆波からだった。
『ユキちゃんが、おやつ食べに行こうって。清麿君も来る?』
清麿は画面を読み、ひよりへ顔を向ける。
「この後、帆波達がカフェに行くらしい。お前もどうだ?」
「私も、ご一緒していいんですか?」
「ああ。聞いてみる」
清麿が返信すると、すぐに返事が届いた。
『もちろん!ひよりちゃんも一緒に来て!』
その下へ、姫野のメッセージが続く。
『あんた、昼食べてたでしょ。来ても私のケーキ取らないでよ』
清麿は眉を寄せた。
「……オレはどういう扱いなんだ」
「どうしました?」
「いや。気にするな」
ひよりが不思議そうに首を傾げる。
清麿は本へしおりを挟むと、携帯へ返信した。
『取らん。自分の分を頼む』
ひよりも本を閉じ、二人で返却台とは反対の通路へ向かった。
また投稿しますー。
では、また∠( ゚д゚)