クリストファーにパンとスープを   作:社畜新兵

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丘の物語
その始まり。


第一章:丘のふもとで

ときは1916年

 ある一人の男がいた、男の名はシュタイナー・ヴィッツ

階級は中尉で、決して驕らず、腐らず、堅実な男だ。非凡なる才能を持っていた。

 それは「戦いにおいて絶対に負けない」という才能だ。

正確にはどんなに劣勢に立たされても、敗北の一歩手前で勝利してしまうのだ。

敵の猛攻に対して、巧みに遅滞戦闘を展開し、敵をいたずらに消耗させ、

懐深くまで敵を誘引した後、隠していた予備兵力で敵の背後を尽かせ、

包囲した敵を一気にすりつぶす。

 その戦い方は決して派手なものではないが着実に勝利を重ねていき、

中尉でありながら、中隊を率いる実力はあった。

しかし、上層部は彼の戦い方を評価せず、

「臆病だ」「防衛はできても攻撃はできない」と酷評し、彼を冷遇した。

 そしてここは、彼のいるテントだ。

ランプ一つ、薄ぼんやりとしたどこか頼りない光で、机と椅子、そしていくつもの印がついた地図を照らしている。

そんな静寂に包まれたテントに金髪で眼鏡をかけた男が神経質そうに眉をひそめながら、一人、黙々と書類に向き合っている。

「やはり死傷者が多すぎる。武器弾薬も不足しているし、このまま戦うのは厳しいぞ」

 ぽつり、誰もいないテントで寂しくつぶやく。

やがてそんな静けさを蹴散らすように、ドタドタと騒々しい足音が聞こえてくる。

「はぁ~また来たか」

 シュタイナーはうんざりしながらも、少し嬉しそうにしながら言う。

「隊長!また私は予備部隊配属ですか!もう待機任務はうんざり!攻撃しましょう!攻撃!前進ですよ!前進!」

 栗色の短い髪をした、気の強そうな少女がシュタイナーにかみつく。かみついた少女に煩わしく思いながら、どこか楽しそうに。

「予備部隊ではない。切り札だよ!君は。それに今は皆が消耗していて、そんな余裕はない!休むのも仕事だ!ハンナ!」

少女の目をまっすぐ見ながらシュタイナーが話す。

「う~わかりました。おとなしく休みます...」

シュタイナーに気圧され、すごすごと戻っていった。

彼女の名はハンナ・ラーデンバー、シュタイナーが指揮する陸軍第27中隊の切り札「第4装甲騎兵小隊」通称「ラーデンバー小隊」の隊長である。この小隊は当時としては貴重な、陸戦型ウィッチのみで編成された小隊だ。ストライカーユニットの開発もウィッチの育成も「空が優先」だったからだ。

「そうだハンナ!」

唐突にシュタイナーがハンナを呼び止める

「何ですか中隊長?」

「帰る前に、救護テントにいるエイミーを手伝ってやってくれ、それとあの子にちゃんと休むよう言っておいてくれ、頼むぞ!小隊長。」

 また嬉しそうにシュタイナーが話す。

「私を連絡係に使わないでくださいよ。さっきからニヤニヤしてて気持ち悪い」

「気持ち悪い?まぁとにかく頼むぞ!」

「はいはい、分かりました」

 唇を尖らせながら、ハンナは返事をする。中隊長がエイミーを気にかけるのが面白くないのだ。

「ここに入るの、嫌なのに」

 ハンナは不安そうに救護テント入っていく。中は負傷者で溢れかえっていた。ベッドなく、兵士たちは、床に敷いた毛布に横たわり、うめき声をあげている。

「エイミーどこぉ?」

 迷子になった子供が親を探すように、震えた声で、親友の名を呼ぶハンナ。

「あら、ここに来るなんて珍しい、どうしたの?ハンナ」

 奥からから小柄で髪の長い少女が柔らかな笑みを浮かべながら出てくる、後ろで束ねられた黒髪は傷んでしまっており、顔は泥や血で薄汚れている。

「中隊長が休めって。ここ怖いし、私たちのテントに戻ろうよ」

幼子が親に袖を引っ張るように、ハンナはエイミーの袖を引っ張る。

「そう、中尉殿が、分かったわ。少し休みましょう」

 エイミーはどこか悲しそうな顔を浮かべる。

「もう行ってしまうのかい」

 彼女たちのそばに横たわっていた兵士が、声をかすれさせながら言う、彼には両足がなかった。昼間の砲撃で吹き飛んでしまったのだ。

「また明日来ますよ」

 少し困った顔をして、エイミーが返事をする。

「明日には死んでるよ、俺たち」

 そう言うとその兵士は話さなくなった。

「そんなこと言わないで」

 悲痛な顔をしながら、エイミーは名残惜しそうに救護テントを後にした。

「エイミーはさあ、何であんなことやってんの?」

 自分たちのテントに戻ったハンナは、泥だらけの軍服を脱ぎながら聞く。

「あんなことって?」

 穴の開いた軍服を繕いながらエイミーは穏やかに聞き返す。

「えっと、だから」

 ハンナは、バツが悪そうにどもってしまった。

「ハンナ隊長は、軍曹殿が衛生兵の真似事なんかするべきじゃない!って言いたいんだと思いますよ!ハンナ隊長は!」

 二人がいるテントの外から声が聞こえた。

「チャーフィー...いつから居たんだ?入って来いよ」

 不機嫌そうにハンナはテントの外にいた部下の名を呼ぶ。

この子はチャーフィー・ビギンズ。白髪に銀粉をまぶしたような珍しいを髪色に、鼻の上のそばかすが愛らしい少女だ。常に好奇心旺盛で首にカメラを提げている。

「へへへ!准尉殿が中隊長とお話している時からです」

 カメラ向け、何枚か写真を撮った後、ふざけた様子でチャーフィー伍長は笑う。

「最初からじゃない!こそこそ嗅ぎまわって!まるで盗人のハイエナね!」

 ピクっとチャーフィーは反応する。ハンナが言った言葉に気に入らない単語があったのだろう、上官のハンナを睨みつけながらチャーフィーが返す。

「ハイエナ!わたしの使い魔はリンクスです!それに盗人とは心外です!真実への探究者と呼んでほしいものです!」

 一触即発、にらみ合う二人、そんな二人を見かねてエイミーは、

「二人とも」

静かに、しかしはっきりと語気を込めて言った

「「何ですか?」」

 振り返ったのは同時だった、気づいたのだろう、エイミーの静かな怒りを。

「私そろそろ寝たいんですけど」

 エイミーは笑顔のままゆっくりといった。

「またお話は明日、伺いますね」

 チャーフィーは慌ててテントを後にする。

「ごめん、エイミー」

 ハンナはしょんぼりしつつも謝る。

「大丈夫、気にしてないよ、ただチャーフィー伍長の話が嫌だっただけなの」

 そういうと、エイミーはいつもの柔らかな笑みを浮かべる。

「じゃあ寝よ。ちゃんと休んで明日に備えよう!エイミーは働きすぎだから」

「はい、おやすみなさい」

やがてテントの明かりが消え、あたりは静寂に包まれる。

聞こえるのは閃光弾のうち上がる音と、遠くで低く響く砲声だけだった。

 

 




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