「何が起こっているんだ?状況が分からないな」
シュタイナーは未だに「煙の遮蔽物」の前にいて、向こう側の様子がわからない。聞こえてくるのはハンナたちの声と、暴れて立てるけたたましい轟音と、ネウロイの悲鳴だ。
「クリストファーに探らせてみては?」
シュタイナーのすぐそばに立っていた、クルツが言った。
「そうだな。クリストファー!いるか?」
「カッー」
いつの間にかシュタイナーの左腕にカラスが留まっていた。そのカラスには足が三本あり。黒い羽根に、白い小さな羽が混じり、まだらのような毛色をしていた。
「向こう側の様子を探ってきてくれないか?」
シュタイナーはクリストファーの喉を人差し指で優しくなでながら言う。
「クワッ!クワッ!」
それを聞いたクリストファーは羽を大きく広げ、2回鳴いて見せた。
「ご機嫌だな。そらいけ!」
シュタイナーは左手を勢いよく振り上げると、クリストファーが飛び立つ。やがてクリストファーは黒い弾丸のように、煙に突っ込んで、向こう側へと消えた。
「シュタイナー隊長。そろそろ煙幕の硬化時間が切れます。」
シェリダンが自分の持ち場からシュタイナーに言った。
「分かった!」
「お!クリストファーが戻ってきたな!お帰り!向こう側の様子はどうだった?」
煙の中からクリストファーが出てきて、大きく羽を広げ滑空した後、シュタイナーの左腕にとまる。
「向こう側の様子はどうだった?クリストファー」
シュタイナーがそう言うと、クリストファーは右の羽をゴソゴソと、口ばしでいじり始める。そして黄色く塗られた一枚の羽を咥えた。
「Gelbか。なるほど、ありがと!戻っていいぞ」
それを聞くと、左腕にとまっていたクリストファーが小首をかしげ、すぅっと消える。彼はシュタイナーの使い魔なのだ。
「クリストファーが黄色ってことは」
そばにいたクルツが喋る。
「安全だけど注意してね、だな」
シュタイナーは薄れていく煙向こう側に目を凝らす。
「何をやっているんだ?あいつら?」
シュタイナーはあきれ果てた様子で言った。見えてきたのは、楽しそうにネウロイの残骸を切り刻むハンナ、塹壕に「炎の川」を作り遊ぶテル。「パンジャン」に追い回されるネス。まさに「混沌」とした光景だった。
「状況を説明します」
チャーフィーがシュタイナーのそばに駆け寄り言った。
「いや、いい!あらかた察しが付く」
シュタイナーは眉間にしわを作りながら、答える。
「Piiiiiiiiii!!!アハテゥンク!お前らいいがげんにしろ!!!」
シュタイナーが笛を吹き、誰よりも大きな声で叫んだ。それを聞いて皆が固まり、一斉にシュタイナーを見る。
「ハンナ!ここに来て、状況を説明しろ!」
シュタイナーに呼ばれハンナが驚いてビクッと体を反応させた後、シュタイナーのもとへ、すごすごと来て話し始める。
「えーと、丘を制圧しました!やりましたよ!中隊長!!」
ハンナは悪びれる様子もなく、胸を張って言った。
「これが制圧か?ふざけるな!ただネウロイを玩具に遊んでいるだけじゃないか!」
シュタイナーはハンナに怒鳴り散らす、ハンナはすっかり意気消沈する。
「すぐに部隊をまとめて付近を警戒しろ!ネウロイの増援がくるぞ!」
続けざまにシュタイナーは、ハンナに怒鳴りながら命令する。
「やJa!ラーデンバー小隊!丘の周りを警戒します!」
ハンナはぎこちなく敬礼をした後、忙しく駆け出していく。
「あんなに怒らなくても、良かったんじゃないですか?」
後ろで見ていたクルツがシュタイナーに話す。
「あいつらの悪い癖だ。敵で遊ぶ、ちゃんと叱ってやらないとな」
シュタイナーは額に手を当ててため息をつき答える。
「あなたは彼女達の「Fata」ですね。そこで休んでください。あとはお任せを」
クルツはいつものように柔らかな笑みを浮かべるとすぐに駆けていく。
「いい部隊だな、失いたくないな、誰一人として」
シュタイナーはそばにあった、何かの残骸に腰かけ、ぽつりと言った。誰もその言葉を聞いてはいない。ハンナはウィッチ隊を率いて周囲の警戒を行い、エイミーは負傷者を丘に運び、周りの兵士たちと救護所を設置しようとしている。クルツは残りの手の空いている者に細かな指示を与えている。
皆それぞれが手を動かしていた。自分たちのやるべきことを理解して。
シュタイナー達は丘を取り、勝利したのだ。
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