雄英体育祭当日。会場は多くの観客で賑わっていた。
1年ステージの観客席、そこで二人の観客が話をしていた。
「ラストチャンスに賭ける熱と経験値からなる戦略とかで、例年メインは3年ステージだけど、今年に限っちゃ1年ステージ大注目だな」
「今年の1年にはエンデヴァーの息子がいるって話じゃねぇか」
「やっぱ期待だな、1年ステージ」
そう言いつつ片方の客が
「ここは
「あ?」
声の方に振り向くと、白いスーツにサングラスの男が立っていた。
「煙草の煙は、主流煙より副流煙の方が有害物質が多く含まれています。発癌性の高いジメチルニトロソアミンは主流煙が5.3から43ナノグラムであるのに対して、副流煙では680から823ナノグラム。キノリンの副流煙に至っては主流煙の11倍、およそ18000ナノグラム含まれている。つまり実際は吸う人間よりも周りの人間の方が害は大きいのです」
「う・・・だったら息止めてうわっ!」
「すみません!よく言っておきますので!」
「ご協力感謝します」
そのまま吸おうとした客をもう一人の客が慌てて止めると、スーツの男は去って行った。
「何すんだよ」
「馬鹿お前!あの人のこと知らねぇのか!」
「だ、誰なんだよさっきの奴」
「凍結ヒーロー・ノーベンバー
「えっ!そういえばあんな顔だったような・・・」
「あの人の前で煙草はNGな!」
「わ、わかったよ・・・今度から気を付ける」
白スーツの男、ノーベンバー11は立ち止まり、会場に目を向けた。
「・・・頑張りたまえ、焦凍君」
1-A控室。クラスの皆はそこで待機しつつ話をしていた。
「あーあ、やっぱコスチューム着たかったなぁ」
「公平を規す為、着用不可なんだよ」
「呉蘭のソレはいいの?」
「ああ、ちゃんと申請してある」
「ハンバーガーを申請って・・・なんだかなぁ」
「砂藤の砂糖も似たようなもんだろ」
「皆!準備は出来ているか!もう直入場だ!」
各々話をしていると、轟が緑谷に近付き声をかけた。
「緑谷」
「轟君・・・何?」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「えっ?う、うん」
「けどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!?」
「別にそこ詮索するつもりはねぇが・・・お前には勝つぞ」
「ッ!?」
「クラス最強が宣戦布告!?」
「おいおいおい、急に喧嘩腰でどうした!?直前にやめろって」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。なんだっていいだろ」
クラスの雰囲気が悪くなる中切島が止めに入るが、轟はそれを撥ねて歩き出す。
「・・・轟君が、何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど・・・そりゃ君の方が上だよ。実力なんて、大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても」
「緑谷も、そういうネガティブなこと言わない方が・・・」
「でも・・・!皆・・・他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ。遅れをとる訳にはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く。」
「・・・おお」
「クッ・・・」
しかし、緑谷は轟の宣戦布告に力強く言葉を返した。それを聞いた轟は短い返事をし、爆豪は不機嫌そうな声を上げた。
『ヘイ!!刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もお前らが大好きな高校生達の青春暴れ馬!雄英体育祭が始まりエヴィバリィ!アーユゥレディ?1年ステージ、生徒の入場だ!!』
プレゼントマイクの実況により、生徒たちが入場する。
『どうせアレだろ!?此奴らだろ!敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新生!ヒーロー科1年A組だろォ!!』
プレゼントマイクの声に、会場は大いに盛り上がる中、A組が入場した。
『話題性では後れを取っちゃァいるが、こっちも実力者揃いだァ!!ヒーロー科1年B組ィ!続いて普通科C、D、E組!!サポート科F、G、H組も来たぞォ!!そして経営科I、J、K!!雄英1年揃い踏みだァ!!』
それに続いて他の科も入場し終り、選手宣誓が始まった。
『選手代表、1-A爆豪勝己!!』
18禁ヒーロー・ミッドナイト(18禁なのに高校にいて良いのかは不明だが)に指名され、爆豪は朝礼台に上がって行った。
『・・・・・・せんせー。俺が一位になる』
「「「「絶対やると思ったー!!!」」」」
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」q
爆豪の言葉に他の科からブーイングが飛ぶ。しかし爆豪はそれを気にせず元の位置に戻って行った。
『さぁて、それじゃあ早速始めましょう!第一種目はいわゆる予選よ!毎年ここで多くの者がティアドリンク!さて運命の第一種目、今年はコレ!!』
ミッドナイトがそう言うと、後ろのモニターに大きく"障害物競走"と表示された。
『計11クラス全員参加のレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4㎞!我が校は自由さが売り文句!コースを守れば何をしたって構わないわ!さあさあ、位置に着きまくりなさい!』
その言葉を聞き、皆スタートラインへ移動していった。
「(障害物走か、走りで負ける気は無いが後の事を考えると個性は温存した方がいいな。障害が来たらその時だけ使う形で行こう)」
自分の得意分野である走る競技と聞いて、計画を立てる呉蘭。そして、スタートの合図が鳴り響いた。
『さ~て実況していくぜ!解説アーユゥレディ?ハーフミイラマン!』
『無理矢理呼んだんだろうが』
『早速だがハーフミイラマン、序盤の見所は!?』
『今だよ』
相澤先生とプレゼントマイクが見下ろす先では、出口に詰まった生徒達の足が氷漬けにされていた。
「悪いな」
スタート直後、轟が個性で凍らせたのだ。それにより出口に殺到していた生徒は皆氷漬けにされてしまった。しかし。
「どぉりゃあああああ!!そう上手くはいかせねェ!半分野郎ォ!!」
「甘いわ!轟さん!」
「そいつは一度受けてる!二度目は無いぞ!」
A組の殆どがそれを躱していた。そして当然呉蘭も個性で回避していた。
「クラス連中は当然として、思ったより避けられたな・・・ん?あれは・・・」
『さあいきなり障害物だ!まずは手始め、第一関門ロボ・インフェルノ!!』
轟の前には入試試験で出てきた0P仮想敵達がいた。
「一般入試用の仮想敵って奴か・・・ッ!!」
「お先に」
轟が迎撃の為立ち止まっていると、その横から呉蘭が通り過ぎて行った。
そして――――
「じゃあな」シュッ!!!
――――彼らを置き去りにして仮想敵の遥か後ろを走り去って行った
「クッ!こんな奴らに時間食ってる場合じゃねぇ!」
そう言うと轟は一瞬にして全ての仮想敵を氷漬けにし、その足元を走り出した。
「あいつが止めたぞ!」
「足元の隙間だ!通れる!」
「やめとけ。急いで凍らせたから・・・」
ガッシャアアアアアン!!!
「倒れるぞ」
不安定な体制で凍らされた仮想敵は、そのまま生徒たちの方へ倒れて行った。
『1-A轟!攻略と妨害を一度に!!こいつはシヴィ―!スゲーな一抜けだぁ!あれだな!もう何か、ズリィな!!』
『馬鹿野郎。よく見ろ』
『んぇ?ああー!!1-A呉蘭!既に第二関門目前じゃねぇか!!早!!いつ抜けた!!』
『派手さばかりに目が行き過ぎてんだ。もっとよく見とけ』
皆が第一関門で足止めされている中、呉蘭は第二関門に向かっていた。途中、0P仮想敵に誰かが下敷きになったという実況が聞こえたが、まあ教師側が何とかするだろうと思い無視した。
第二関門に到着した呉蘭が見たものは、地面に巨大な穴が空けられ幾つもの崖が出来ており、そこにロープが張ってあるだけの綱渡りコースだった。
『第二関門は落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォーール!!呉蘭の快進撃も此処までか!?』
「あまり個性を使いたく無かったが、時間稼ぎしておきたいしな・・・」
そう言うと、ロープ目掛けて走り出した。そして、ロープに足を掛けた後、紐がしなるよりも早く次の足を出す事で殆どバランスを崩す事無く渡り始めた。そして崖の向こうへ渡り切った後、まるで止まった時間が動き出すように呉蘭が渡ったロープが激しく震え出した。
『さあどうする・・・ってああー!!またもや一瞬で突破したァ!!ロープがまるで携帯のマナーモードの様だァ!!つーかズルくね!!チートだよチート!!』
『何言ってんだ、彼奴の個性を考えりゃむしろこれくらいやって貰わんと困る』
第二関門も抜けた呉蘭は、一見何の変哲もない広場にたどり着いていた。
『さあ、早くも最終関門!!かくしてその実態は・・・一面地雷原!!地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞォ!!目と足酷使しろォ!!』
「成程、地雷原か」
呉蘭は地雷が埋まっているであろう位置を確認すると、足を踏み出した。
『因みに地雷は競技用で、音と見た目は派手だが威力は大した事ねぇぜ?つってもどうせまた一瞬で・・・って普通に歩いてる!!どうした呉蘭!!』
『個性を温存する事にしたみたいだな。後続との距離は十分、不測の事態が起きたとしても確実に上位にランクインできる距離だ。実に合理的だな』
呉蘭が地雷原の3分の2を進んだ所で後ろから爆発音が聞こえてきた。
「待ちやがれバーガー野郎ォ!!」
「後続の事を考えてる暇は無ぇ。凍らせて一気に駆け抜ける!」
「もう追い付いたのか。流石だな」
轟と爆豪が最終関門に到達した。しかし、既に呉蘭は地雷原を渡り切っていた。
「悪いな、得意分野で負けてたらヒーロー失格だ」
そう言って走り出した。すると突然、地雷原の入り口で巨大な爆発が起こった。何事かと呉蘭が振り返ると、仮想敵の破片にしがみついた緑谷が地雷の爆発をバネに飛んできていた。
「やるな、緑谷」
緑谷の機転に驚きつつもトップを維持したまま走り出した。
『雄英体育祭一年ステージ!!一番にスタジアムに帰ってきたのはこの男!!1-A、呉蘭有様だああぁぁぁ!!!最初っから最後までトップ独走!!ハンバーガーを齧りつつ余裕のゴールだああぁぁぁ!!!』
呉蘭に続き、緑谷、轟、爆豪の3人がほぼ同時にゴールした。こうして第一種目は無事終了した。
『1年ステージ、第一種目もようやく終りね。予選通過は上位
ミッドナイトがそう言うと、第一種目の時と同じく後ろのモニターに大きく"騎馬戦"と表示された。
『説明するわ。参加者は2人~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ。基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが、先ほどの結果に従い各自にポイントが振り当てられること!与えられるポイントは下から5ずつ!44位が5ポイント、43位が10ポイントといった具合よ!そして一位に与えられるポイントは・・・』
『1000万!!』
「・・・・・・ん?」
気が付くと呉蘭は全員から視線を浴びせられていた。
『そう、上位の奴ほど狙われちゃう下剋上のサバイバルよ!!』
一種目は呉蘭が一位としました。無理やりかもしれませんが、逆にゴランの能力で勝てない方がおかしいと思いました。因みにB組も21人います。