とある葦毛のウマ娘   作:乾燥海藻類

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第12話 シニアの始まり

シンボリルドルフというウマ娘がいる。

無敗の三冠ウマ娘、七冠ウマ娘。ドリーム・シリーズで殿堂入りを果たした"最強"のウマ娘。

才覚に溢れ、それに溺れず、他の追随を許さぬ決定的な強さを持ったウマ娘。その強さの秘密は何なのか。

 

高松は、漠然とだが、それは見切りの早さだと思った。

不必要なものを捨て、必要なものを得る。状況が変化すれば即座に対応する。固執しない、縋らない。

例えるなら"損切り"だ。まだ回復するかもしれない。そんな期待をしない。そんな幻想を見ない。

彼女は常に、現実と事実だけを見る。

 

ことレースに関して、シンボリルドルフは常に即断即決を良しとしてきた。

シニアクラスになって、それは完全に開花した。早熟型だと思われていた彼女は、実は晩成型だった。

肉体は円熟し、思考は老成した。"最強"のウマ娘は"無敵"のウマ娘となった。

 

(タマモはその領域に足を踏み入れたのかもしれない)

 

無論それは思考力や判断力、意志力といった内面的なもので、肉体的にタマモクロスより優れたウマ娘はごまんといる。

それでも確かに言えることは、タマモクロスがひとつ上の段階(ステージ)に昇ったということだった。

 

 

 

 

 

12月、同じく阪神レース場で開催されたチャレンジカップでも、タマモクロスはその強さを見せつけた。大外から一気に捲って、6バ身差の圧勝。初の重賞制覇となった。

このレースをもって、タマモクロスのクラシッククラスは幕を閉じた。

 

そして、今年最後の日曜日。高松とタマモクロスは部室で早めの年越しそばを啜りながら、有記念を観戦していた。

多少の波乱を含んだレース展開だったが、最後はメジロの令嬢が優勝を飾った。

 

「同期の桜には期待しとったんやけど、あないなことになるとはなぁ。大丈夫やろか」

「レースに絶対はないってことだな。ダイナムヒロインも惜しかったが、最後にメジロの底力を見せたな」

「ま、同期の仇は来年ウチがとったるわ」

 

死んだみたいに言うなよ、と思ったが、高松は黙ってそばを啜った。ふたりがそばを啜る音だけが響き、汁まで飲み干したタマモクロスが手を合わせて立ち上がった。

 

「ごっそさん。んじゃトレーナー、また来年な。ちゅーか1週間後やけど」

「ああ、急かして悪いな」

「かまへんよ。年の初めに勝つと縁起がいいってのは分かるしな」

「一応言っておくが、食べ過ぎには注意しろよ」

「心配せんでも正月太りなんかせぇへんって。ほなな」

 

タマモクロスは笑みを浮かべて部室を出て行った。

 

 

 

 

 

松の内も明けぬ内に開催される中山金杯。中山レース場で行われる最初の重賞レースである。

タマモクロスは堂々の1番人気。スタンドには"浪速の白い稲妻"と書かれた横断幕が確認できた。どこかのスポーツ紙が書いた白い稲妻というのが、思いのほか定着しているらしい。

 

タマモクロスにとっては、あまり良い思い出のない中山レース場の芝2000メートル。とはいえ、避けて通ることのできないレース場でもある。

特徴はやはり坂を2回越えることだろう。スタート直後に坂があるため、先行策を取るウマ娘は、坂を上りながらポジション争いをしなければならないためスタミナを大きく削られる。

まあ、後方を行くタマモクロスにとっては関係のないことではあったが。

 

第2コーナーを回って向こう正面へ。タマモクロスは当たり前のように最後方にいた。第3コーナーから第4コーナーへ。

 

(はぁん。随分と警戒されとるな)

 

1番人気だけあって、上手く外側を抑えられている。ここで一度下がると致命的なロスになりかねない。

 

(ま、そんな必要はあれへんけど。こういうとき()っさい身体は有利やわ)

 

スタミナが尽きて垂れてきたウマ娘たちを捌き、わずかに空いた内側に身体を滑り込ませる。あとはもう手慣れた作業だ。内側から一気に差し、タマモクロスは重賞2連勝を飾った。

 

 

 

 

 

大寒の頃、寒さは極まりつつある。体調を崩しやすく、また怪我もしやすい季節である。いつも以上に安全や体調管理に注意する必要がある。

トラックコースも常よりは閑散としている。トレーニングルームや温水プールなどを使用しているのだろう。

だが当然定員があり、全員が利用できるわけではない。そういった施設は基本予約制だ。

整理運動を行いながら、今後のスケジュールを確認する。

 

「阪神大賞典、大阪杯、天皇賞(春)、宝塚記念。ちょっと信じられんスケジュールだな」

 

高松が以前に担当した2人は短距離~マイル、マイル~中距離メインだったため、春の天皇賞に出走することはなかった。

逆にタマモクロスは、マイルでは物足りないくらいで、その本質はステイヤーにある。

 

「ウチかてそうやわ。でもま、いっこずつ確実に勝っていくで。阪神(地元)で負けるわけにはいかへんからな」

「そうだな。特に大阪杯は今までで1番の激闘になるだろう」

 

同期からはダービーウマ娘のメリービューティー、クラシックの冠は逃したものの、すべてのレースで好走したゴールドシチー。

先輩勢からも、ロングリブフリーやダイナムヒロインなどの有力ウマ娘が出走を表明している。

 

「メジロのお嬢様は出てくるかな? 阪神大賞典には出てくるだろうが……どうした?」

 

タマモクロスは整理運動の手を止めて、正門の方を見つめている。高松がそちらに目を向けると、4人の人影が見えた。

うち二人は知っている。緑色のスーツ姿の女性は、このトレセン学園の理事長秘書。もう一人の杖を突いている老人は、人生の半分以上をウマ娘とともに歩んできたベテラントレーナー。

あとの二人、葦毛と栗毛のウマ娘は見覚えのない顔だった。

 

「葦毛……? ああ、そういえば。生徒会長みずからがスカウトしたウマ娘が、地方から中央(こっち)に来ると聞いたな。気になるのか?」

「いや、どうやろな。でもなんとなくやけど、あいつとは一緒に走ることになる気がするわ」

「ほぅ、それは楽しみだな」

 

タマモクロスが走るということは、間違いなく重賞レース。そこで葦毛のウマ娘が競い合う。それはとても興奮する光景だろうと高松は思った。

 

「何ちゅう名前か、知っとる?」

「ああ、確か――」

 

記憶の引き出しを探り、高松はその名前を口にした。

 

 

 

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