とある葦毛のウマ娘   作:乾燥海藻類

13 / 20
第13話 大阪杯

大阪杯。阪神レース場で開催される、芝2000のレース。春のシニア三冠の入り口となるレースである。

高松は控え室のドアをノックし、了解を得て扉を開けた。

 

「うん。似合ってるじゃないか」

 

タマモクロスの新しい勝負服姿を見て、高松は相好を崩した。

胸に白い稲妻のマークがついた青いタンクトップに、長い脚を強調するような白いパンツ。青基調のジャケットの両袖には「疾風」と「迅雷」の文字が描かれている

 

「まあ、悪うないわ。服で(はよ)うなるわけでもないけどな」

 

そう言いつつも尻尾はぶんぶんと勢いよく揺れていた。

 

「ふっ、それで作戦だが、やはり後ろに構えた方が良さそうだな」

「せやな。ウチもそう思うわ」

 

今回のレースは先行を得意とするウマ娘が多い。前方のポジション争いは熾烈なものになるだろう。そこでスタミナを削られるのは避けたい。

 

「要するにいつも通りってことや。前で削り合ってくれるなら好都合や」

「だが今回は面子が面子だ。最後方で悠長にしているわけにはいかないぞ。仕掛けどころを間違うなよ」

「分かっとるて。妹たち(あいつら)の前で負けるわけにはいかへんからな」

 

前走、阪神大賞典もここ阪神レース場で行われた。長距離に不安はなかったが、実際に走らせてみて確信した。やはりタマモクロスの本領は長距離にある。

ここ阪神は彼女のファンも多く、妹たちも気軽に招待できる。それが彼女の一助となっていた。

 

「ああ。ゴール前であの子たちと一緒に見ているからな」

「おう、んじゃ行ってくるわ」

 

タマモクロスは自信満々でターフに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

ゲート前に集う16人のウマ娘。皆がそれぞれの方法で集中している。1番人気のタマモクロスはやはり注目されていた。いや、警戒されているというべきか。

同期たちと言葉を交わし、先輩たちから声をかけられる。

ファンファーレが鳴り響き、各自ゲートに収まっていく。スタート直前の独特の静寂がレース場を包み、春シニア三冠の始まりを告げる音が響いた。

 

『――スタートしました。飛び出したのは4番ウラカマイヒメ。公言通り逃げの一手。それを追って行ったのは2番人気のダブルティアラ、マックスクイーン。1番人気のタマモクロスはいつもの位置。最後方からレースを進めます』

 

メインスタンド前の坂を駆け抜けて、第1コーナーへ突入する。タマモクロスの狙い通り、先行のポジション争いは熾烈なものとなっていた。

第2コーナーを回って向こう正面へ。ポジション争いも決着し、隊列は落ち着いた。

 

先頭を行くのはウラカマイヒメ。その2バ身後ろに、究極の美女とも称されるマックスクイーン。むろん美しいだけではない。桜花賞とオークスを制した実力派のウマ娘。

 

さらに少し下がって先行集団。その中で、比較的良いポジションを獲得したのは、昨年のダービーウマ娘、メリービューティー。

その彼女は――

 

(悪くない展開。いやこれは良い、良いですよぉ。ナイスな展開じゃないか! いけますよ、これわぁ!)

 

最高にハイ(かかりぎみ)になっていた。

その後ろには差しに構えるウマ娘たち。ロングリブフリー、ダイナムヒロイン、そしてゴールドシチーはここにいた。100年に一人の美少女ウマ娘。

 

(前にビューティー、後ろにタマモ、この展開は予想通り。ペースもそこまで速くない。やっぱり最後は末脚勝負になる)

 

冷静に状況を分析し、好位から仕掛ける算段を立てる。

そして最後方にはタマモクロス。

 

(やっぱGⅠに出てくるやつらはレベルが違うわ。末脚自慢のやつらがぎょうさんいてるからな。いつまでも最後方(こんなとこ)にいてられへん。徐々に押し上げんと)

 

『向こう正面、タマモクロスがじわりじわりと上がってきています。現在後方から3番手』

 

(タマモが上がってきた。アタシもうかうかしてられないわ)

 

同じ位置からヨーイドンとなれば、いくら末脚に自信のあるゴールドシチーでも分が悪い。タマモクロスよりも前でスパートする。脚は余らせない。これが勝つための最低条件。

 

(ムムム、この独特の足音(リズム)は……シチーが来た? ちょっと焦り気味じゃない? ふふっ、これじゃあダービーの二の舞だねぇ。まだよ、まだまだ。今はまだ脚を溜めるとき……)

 

最高にハイ(かかりぎみ)のダービーウマ娘は冷静で的確な判断を下した。

 

『タマモクロスが外から来る。ゴールドシチーも動き出した。その前にメリービューティーがいる。世代の人気3人が固まってる。第3コーナーから第4コーナーの中間点。先頭はウラカマイヒメ。その内にマックスクイーン。その外からゴールドシチー。タマモクロスは1番外に出て直線コースに入る』

 

(阪神内回りの直線はそない長ない。けどこの差ならイケる。あとは駆け抜けるだけや!)

 

『さあ最後の直線だ。ウラカマイヒメ粘れるか。マックスクイーンが猛追。外からゴールドシチーとタマモクロス。内をすくってメリービューティー。ダイナムヒロインも突っ込んで来た』

 

最後の直線。レース最大の見せ場であり、熱気が最高潮に達するところ。すべてのウマ娘たちが己の脚に活を入れ、阪神の坂へ挑む。

 

『マックスクイーンがウラカマイヒメをかわす。現在先頭。しかし外からタマモクロス。タマモクロスが一気に来た。並ばない! 並ばない! 見てくれこの脚! これがタマモクロスだ! これが白い稲妻だ! タマモクロスが1着でゴールイン! 2着は混戦だ! マックスクイーン、ゴールドシチー、ダイナムヒロインがもつれるように入ります!』

 

 

 

 

 

「勝った勝った! タマ姉ぇまた勝ったよ!」

「あんまり騒がないの。タマ姉ぇが負けるわけないじゃない」

 

下の妹が無邪気に騒ぎ立て、それを上の妹が諫めている。しかし尻尾をぶんぶん振りながら諫めても説得力がなかった。

 

(ダブルティアラ相手でも問題なく勝てたか。本当に強くなった。しかしあのアナウンサー、地元だからといってタマモを贔屓しすぎじゃないか? あとで怒られないといいけどな)

 

アナウンサーはすべてのウマ娘に平等でなければならない。だが熱が入りすぎて主観を口にしてしまうアナウンサーもいる。

そんなどうでもいいことを考えながら、高松は妹たちを連れてライブ会場へと向かった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。