とある葦毛のウマ娘   作:乾燥海藻類

14 / 20
第14話 天皇賞(春)

天皇賞を語る上で外せないのは、やはりメジロ家についてだろう。かの大家はクラシック三冠よりも、グランプリレースよりも、ジャパンカップよりも、天皇賞に熱意を燃やしている。

それはもはや執念と言ってもいい。とはいえ、別に裏工作などを仕掛けてくるわけではない。

正面から堂々と、メジロの威信をかけてレースに臨む。その姿勢に多くのファンは心を打たれ、天皇賞だけはメジロファンになるという者も多い。

 

「というわけで、メジロデュレンには要注意だ。阪神大賞典で勝ったからといって甘く見るなよ。むしろ負けたからこそ、マークはキツくなるぞ」

「それももう慣れてきたけどな」

 

タマモクロスは苦笑して両の手の平を天に向けた。タマモクロスは現在重賞4勝を含む5連勝中である。警戒されるのも当然だろう。

長距離になればいつもとは面子が変わる。だが変わらない者たちもいた。

 

「おうおう、またウチの(ケツ)を拝みに来たんか? 今日もじっくり眺めていきや」

「くっ、今日こそは勝つわ。ダービーウマ娘の意地にかけて!」

「言っとくけどアタシ、長距離も得意だから」

 

(そういえばゴールドシチーは菊花賞で2着だったな。場所も同じだし、自信があるのか)

 

プリプリと怒りながら離れていくメリービューティーを見送りながら、タマモクロスはぼそりと「冗談の通じんやっちゃな」とつぶやいた。

 

(頑張れよタマモ。ここはキミの真価が問われる場所だ)

 

俗に、菊花賞は強いウマ娘が勝つと言われている。スタミナはもちろん、3コーナーから4コーナーにかけて設けられた心臓破りの丘を突破するパワー、言わずもがなスピードも要求される。最後の直線を競り勝つ根性や、レース展開を読み切る賢さも必要となる。

春の天皇賞は、菊花賞よりもさらに200m長い。つまり春の天皇賞は、真に強いウマ娘が勝つレースなのだ。

 

大観衆に見守られ、春の天皇賞がついに、スタートした。

 

『18人、綺麗に出揃いました。1周目第3コーナーへ向けて駆けて行きます。先頭(ハナ)を取ったのはセイショウカイエン。その外からリカードクーガー。この2人が並んで飛び出しました』

 

京都レース場の芝3200mのコースは、年に1度、春の天皇賞でしか使用されない。権威あるレースであり、当然芝の手入れは万全である。それに加えてウマ娘たちの意気も高く、冷静さを失えば意図せずしてスピードが出てしまう。結果スタミナを消費する。

最後まで沈着冷静でいられるか。それがレースの肝になる。

 

(かつての有記念で有力ウマ娘2人がマッチレースをするように先頭を競い合った。互いに闘志が刺激され、他のウマ娘を寄せ付けず、最後まで優勝を争った。それがあの2人にできるのか。有記念よりもさらに長い、この天皇賞で)

 

長距離を逃げ勝つというのは、尋常の(わざ)ではない。逃げというのは経済コースを走れるという利はあるが、風をまともに受けるという不利もある。

そして何よりの特権は、ペースを作れるということだ。速いペースか、遅いペースか。彼女たちが選ぶのはどちらか。

 

レースは第4コーナーを回ってメインスタンド前へ。観衆の声と拍手が18人のウマ娘を出迎える。

逃げる2人から少し離れて、16人はほぼ一団となっていた。中団前目にゴールドシチー、中場にメリービューティーとメジロデュレン、後方にタマモクロス。

 

『先行集団から1人抜けだしました。先頭は交代してマヤマオリンポス。第1コーナーから第2コーナーの中間点。タマモクロスも少しずつ動き出しました』

 

ここで最初の駆け引きがあった。前を行く2人は遅いペースを作ろうとした。競い合ってとばしていると後方に勘違いさせスタミナを温存していた。だがマヤマオリンポスは即座に見破り、それを喰い破った。リカードクーガーは破綻した策に固執せず、先行集団まで脚を下げた。

 

『第2コーナーから向こう正面に入りました』

 

先頭の2人を除いて、ほぼ一団となってレースは進んでいく。だがその中では激しいポジション争いが行われていた。タマモクロスはすでに中団前目の5、6番手まで位置を押し上げている。それを受けてメジロデュレンも動き出す。タマモクロスの前を抑えるようにスピードを上げた。

攻防は第3コーナーへ移る。本日2度目の、心臓破りの丘へ。

 

『さあこれから第3コーナーの上りに入ります。後方集団も差を詰めて来ました。メリービューティーは後方から5番目辺りか。下りにかかって第4コーナーへ。先頭はロングリブフリー、メジロデュレンが並んでいます。外にゴールドシチー、タマモクロスが内を狙っています』

 

京都レース場の特徴は、まず心臓破りの丘、次に最終直線のイン突きにある。外回りのコースにおいて、最終コーナーを遠心力で外に振られたウマ娘たちの内側を突いて優位を得る。

もちろんそんなことはみんな知っている。だが知っていることと実践できることはイコールではない。

体力は限界近く、遠心力に逆らうための踏ん張る力も残っていない。筋疲労も脳疲労も極限に達している。

 

しかしメジロデュレンは内を絞めた。叩き込まれた天皇賞の勝ち方を遂行した。その澱みなく洗練された動きは称賛に値する。

まさに天皇賞を勝つための必殺のプラン。

だがその堅牢なる扉の閂がかけられる間際、白い稲妻が扉を襲った。

 

『内から来た来たタマモクロス! 6連勝へ向けてタマモクロスが先頭へ立ったあぁーーーッ!』

 

肩がぶつかり合う。体格差をものともせず、タマモクロスはメジロデュレンの閂を弾き返した。

 

『さぁ最後の直線! タマモクロス速い!! タマモクロス1着!! 天皇賞(春)を制したのはタマモクロス!!』

 

 

 

 

 

(強い! やはりタマモの本領は長距離にある!)

 

高松は拳を握った。と同時に落胆もする。現在トゥインクルシリーズでは長距離レースの数が少ない。それはつまり活躍の場が少ないということである。

 

(しかし、今はこの歓喜を噛みしめよう)

 

春シニア三冠まであとひとつ。残るはグランプリ、宝塚記念。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。