来週で新潟、小倉、札幌開催は終わり、再来週からは中山、中京での開催となる。
中山の特徴は何といっても直線の短さだろう。
中京の特徴は、中山以上にパワーを必要とするコースだということ。最後の直線で、中山には及ばないが急坂があり、それを駆け上がった後さらに200m余りの直線があるため、かなりタフなコースだ。
「しかし、分かってはいたが出られるレースが少ないな」
この時期はジュニアクラスならメイクデビューや未勝利戦が多く、勝ち上がったウマ娘が出られるレースがほとんどない。
9月2周目のアスター賞(中山第9レース・芝1600m)
9月4周目の野路菊ステークス(中京第9レース・芝2000m)
「こんなところか。さて、どうするか」
スピードとスタミナは重点的に鍛えてきたが、正直パワーは後回しにしてきた。まだ骨も固まっていない若い時代に無理をすると故障の原因となるし、日本のレースは年々高速化しており、欧米のような熾烈なポジション争いがほとんどない。
特にジュニアクラスでは、身体や考え方が若いウマ娘が多く、どうしてもパワーは後回しになってしまう。
「……やはりアスター賞か」
アスター賞は1勝クラスだが、野路菊ステークスはオープンクラスとなる。勝つ可能性を考えれば前者の方が確実だろう。
「よし、決めた」
勝負は中山レース場。芝1600メートル。
レースが始まるゲート前。タマモクロスはぐるりと周囲を見渡した。
(トレーナーの言うた通りや。みんな顔つきが違うわ)
前回のメイクデビューに出走したメンバーは、みんな不安の色が強かった。だが今日のメンバーには自信が表れている。
メイクデビューを勝ち上がってきたという自信が。
出走人数はタマモクロスも含めて11人。割り当てられたゲートは外枠の9番。
係員に促され、タマモクロスがゲートに収まる。
程なくしてガシャコンとゲートが開いた。
スタートは綺麗な横一線となった。
(さすがにみんな上手いわ。さて、どない進めるか)
そうこう考えている内に、すぐさま最初のコーナーに差し掛かる。タマモクロスは3番手でコーナーに突入した。
(1600mは長いようで短い。油断しとったら、あっちゅう間に終わってまう)
「ねぇねぇ、このペースってちょっと速すぎない?」
「あん?」
いきなり内側を走るウマ娘に話しかけられて、ビックリしつつもタマモクロスはそのウマ娘の真意に気づいた。
(これがささやき戦術っちゅうやつか。トレーナーには聞いとったけど、ホンマにおるんやな。
ここでタマモクロスは高松の言葉を思い出す。
――中山の芝1600mはコースの有利不利がハッキリと出る。スタート直後にコーナーがあるため、外枠だとかなりの距離ロスを強いられる。そして――
(ハイペースになりやすい。そのため先行のウマ娘が残りやすい。こいつはウチを後ろに下げたいんやな。最後に慌ててももう遅い。直線の短い
卑怯とは思わない。走りながら喋るというのは、なかなかに体力を消耗することだ。それでも、1番人気のタマモクロスを戦線離脱させることができれば、自分が勝利する確率はグッと上がる。
(勝利に貪欲なんやな。その姿勢は嫌いやない。やが乗ってやるわけにはいかへん)
それよりもタマモクロスが気になるのは先頭で逃げるウマ娘だった。ハイペース=オーバーペースとは限らない。このまま逃げ切られる可能性だってある。差を広げられるのはうまくない。
「そうやな。なら置いてかれんようにせな!」
「――なっ!?」
タマモクロスはひとつギアを上げた。後ろから舌打ちの音が聞こえる。
最後のコーナーが見えてきた。タマモクロスは3番手。先頭との差は5バ身くらい。
(悪うない。ここから徐々にスピード上げてって最後にドカンや!)
最後の直線310メートル。2番手のウマ娘をかわし、残りはスタートから先頭を走り続けている逃げウマ娘。
(思ったほどスピードが落ちよらん! 勝負は坂か!)
ゴール手前180mから始まる中山名物の急坂。ここが勝負所になる。
疲れ切った身体にムチを入れ、最後の難関に足を踏み入れる。
(確かに難関言うだけあるな。けど、なみはや大橋に比べたら屁みたいモンや!)
先頭のウマ娘の脚が鈍った。タマモクロスはギアをトップまで上げ、一気に坂を駆け上げる。
先頭のウマ娘を並ぶ間もなくかわし、タマモクロスはそのままゴールした。