とある葦毛のウマ娘   作:乾燥海藻類

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第08話 絶望の色

年が明けた。それはすなわちクラシック戦線の始まりを意味する。

冬休みも終わり、今日は始業式。

トレセン学園は久しぶりに制服姿の生徒で溢れていた。

 

昼前には放課後となり、食堂で昼食を済ませたタマモクロスがトレーニングコースに姿を現す。

多少なりとも元気は取り戻しているようだった。

軽く前回の反省会を行った後、準備運動に入る。その様子を高松は不安気に眺めていた。

 

(自覚症状はなしか)

 

タマモクロスはただ調子が悪かったとしか思っていないようだった。バ群恐怖症などそうそう聞く病状ではないし、高松とて前例を知っていなければ、こうも容易く特定などできなかった。

 

ただひとり、連絡をよこして来たのは生徒会長のシンボリルドルフだった。業務以外ではほとんどつき合いのない彼女だが、一目でそれと見抜いたのは、さすがウマ娘たちを統括する生徒会長といったところだろう。

 

(吹聴するような性格でもないだろうし、とにかくもう一度試してみるしかない)

 

バ群恐怖症である可能性は高い。その上シンボリルドルフもそう見てはいるが、まだ確定したわけではないという淡い期待も抱いていた。それが希望的観測だとしても。

 

 

 

 

 

1月下旬。高松が選んだのは東京レース場で開催される条件戦だった。

 

(トレーニングで地力は上がっている。この面子なら優勝も十分に期待できる)

 

だというのに、高松の胸中では暗雲が渦巻いていた。

ゲートが開き、ウマ娘たちが走り出す。タマモクロスは少し遅れてスタートした。

 

(そうだ。それでいい)

 

追い込みの利点はスタートに気を遣わなくていいということだ。極端な出遅れはともかく、今回は最後方に構えろと命じてある。大外枠から内側の経済コースを走るには、少し遅れてスタートした方がいい。

 

前の方は一団となっているようだ。良い傾向である。タマモクロスの末脚なら一気にかわすことも十分に可能だ。

レースは大きな変化もなく、そのまま終盤に突入した。

 

(なぜ外に出ないッ!?)

 

高松の位置からでは、内を差せるかどうかは判断がつかない。差せそうではあるが、後ろから見ればまた違うのかもしれない。

ともかく、内を差せないのならば外に出るしかない。だがタマモクロスはまったく動こうとしない。

高松も混乱していたが、当の本人であるタマモクロスも混乱の極致にあった。

 

内に隙間が出来たのはタマモクロスも気づいた。そこに飛び込むべきだと判断し、脚の向きを変えて飛び込んだ。

飛び込んだつもりだった。しかし現実には、体勢も脚の向きも一向に変化していない。

すでに隙間は埋まっていた。

 

ならば外に――そう思っても、またしても脚は思い通りに動いてくれない。

精神と肉体が乖離していることに気づいていない。

精神と肉体が恐怖に縛られていることに気づいていない。

 

身の竦むような心情でありながらも、その場で立ち止まらなかったのは、わずかに残されたウマ娘の本能であろう。

小さな箱に閉じ込められたような猛烈な閉塞感。心肺を鷲掴みにされたような息苦しさ。

自分の状態がまるで理解できない。だがこれが破滅的な状況だというのは理解できた。

 

このどうしようもない状況に直面して、タマモクロスは涙を流した。

視界が闇色に染まっていく。

それが絶望の色だと知るのに時間はかからなかった。

そして彼女は絶叫した。

 

 

 

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