ダーケストダンジョンで出会いを求めるのは間違いだ 作:アイゼンパワー
ギルド。
天を突くような高さを持つ白亜の塔の足元に位置する建物である。真っ当な者ならば必ずここを通ってダンジョンへと潜り行く。おおよそ全ての冒険者の情報が集い、おおよそ全てのファミリアの情報もまたここに集う。
「エイナくんいる?」
ヘスティア神は窓口へ向かい。担当者を呼び出した。
「新人さんね、私の名前はエイナ・チュール。あななたたちの担当アドバイザーよ。」
エイナ・チュール、種族はエルフの女性。エルフに会うのは初めてだ。これまでずっと小説の中にだけ登場する御伽噺の一種であると信じていたが、どうやらそうではなかったようだ。
しかし本に載っていたエルフと比べるとだいぶおとなしい。書物によると男を狩って種馬にするらしいが……違う氏族なのだろうか?
みんな揃って挨拶をする。紳士としては当然のことである。
「よろしく頼む。」
「よろしく、姉ちゃん。」
早速私はダンジョンに潜りたい旨を伝える。まだ見ぬ冒険が、財宝が我らを待っている。ここで時間を浪費できようか?いや、できない。
「その前に!」
エイナ嬢はカウンターから身を乗り出し、こちらを睨んできた。
「まずは授業を受けなきゃいかせません!私の担当になった冒険者にはみーんな授業を受けてもらってるの。まずはみっちりとこのダンジョンの基本を叩き込んであげる。」
そう言って彼女は一人で会議室の方へと向かって歩いて行った。どうやら長くなりそうだし放っておいて我々だけで先に潜ってしまうのも手かもしれない。
ダンジョンは初めてではない、豚の軍団に占領された古い地下道、昔は豪華絢爛な屋敷だったアンデッドの巣食う廃墟、山賊や獣が巣食うかつては美しい森であった樹海、魚人によって海への行き来が制限された入り江。
冒険をしすぎたせいで冒険者が死んだことは一度や二度ではなく、物資不足で泣く泣く撤退したことも多い。
我々に授業などは必要ない、我々は歴戦の冒険者ゆえに。
私の中の傲慢はこのように結論づけ、ディスマスとレイナルドを引き連れ地下へと向かった。
地下一階にある商店で持っていた金品を売り払い、その金で解毒剤と包帯と食料をありったけ買い込みダンジョンの中へ入った。
巣窟や廃墟とは違い、燐光によって照らされており暗いところがない。
通りで松明が売ってなかったわけだ。このように明るいところに松明は無用の長物、邪魔以外の何者でもないだろう。
今までそうしてきたように罠や怪物に警戒し、私は魔導書を掲げ、レイナルドはその剣を、ディスマスは拳銃と短剣を抜き、まわりを見回しながら進んでいた。
唐突に壁が軋み始める。
みしみしと音を鳴らし、ヒビが入り、そこから緑色の肉の塊……ゴブリンが生まれた。レイナルドがその剣を振り下ろし、頭に直撃させると鈍い音と共にゴブリンの首が本来ならばありえない方向へと曲がり、倒れた。
この哀れなほど弱い生物が何かを持っていないか探ってみたが、何も見当たらなかった。木の棍棒、革で作られた粗末な衣服。アンデッドどもの方がまだいい物を持っていた。大金に換えられるであろう宝石やアンティーク、そのような者をゴブリンを持っておらず、鈍く光を反射する深い紫色の石だけが体の中から見つかった。
「こりゃあ……宝石じゃねえな。材質が違う。」
追いはぎとして多くの金銀財宝を見てきたディスマスが言う。彼の鑑識眼は確かであり、今までに間違えたことはない。そんな彼がいうなら確かに宝石ではないのだろう。
「しかし私の見立てでは随分いい値段になると思いますが、いかがいたしますか?ダーケスト卿」
私を卿などと呼ぶのはレイナルドだけだ。その堅苦しい呼び方はやめてほしいと何回頼んだだろうか?
そんなことはどうでもいい。彼の目は悪かった。聖人の名誉に目が眩み、宝物に仕掛けられた罠に引っかかり血を撒き散らし、毒を食らってしまった回数は数え切れない。
しかしながら勘は確かなものだった。その間に助けられ、奇襲するべく待ち伏せていた怪物を見破り、逆に奇襲を仕掛けてやったこともある。
彼の勘を信じて持って帰ってみよう。私はそう考え、ポーチの中に石を押し込んだ。
さらに先に進むと野犬にも似た獣が襲いかかってきた。群れをなし、波状攻撃を仕掛けてきた。それは素早く、レイナルドは幾度も剣を振り下ろすも当たらない。彼はその身を守る鎧のせいで動きが鈍重にならざるを得ないのだ。
しかしディスマスは違った。短剣を振り下ろし、喉の血管を切るとたちまち一匹が窒息によって死を迎えた。拳銃を至近距離から撃ち放つと、銃口から放たれた鉛玉が頭蓋を粉砕し、脳漿を撒き散らしながら脳味噌をかき混ぜた。群れがまたもや押し寄せ、ディスマスに噛みつこうとした時、レイナルドはディスマスを押し除けて矢面に立った。どの獣も聖なる神の加護を得た鎧を噛み砕けずにいる隙にディスマスはブドウ弾を用いて群れを丸ごと撃ち殺した。
「やっぱりブドウ弾はいいぜ。たまに討ち漏らしがでるがな。」
そう言いながら彼はまだ息がある獣の頭を踏みつけ、再度鉛玉を叩き込んだ。
私はレイナルドに怪我がないか問うた。
彼は胸を張り、誇らしげに応えた。
「主より守られしこの鎧は無敵です、どのような敵であろうと突き通すことはできないでしょう。」
つまるところ無事である。ならいい。そう言ってそれぞれの獣の体内より石を取り出し、先に進んだ。
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このダンジョンのいいところは燐光のおかげで常に明るく保たれていることだ。暗くて五指も見えないなどという場所はなく、あまねく全てが光に照らされている。しかしそれはディスマスにとって少し都合が悪かった。
彼は光に対して軽い恐怖症を持っている。理由は不明だ。
彼は明るいところではいつも以上に消耗し、ストレスが溜まりやすくなる。たとえそれが攻撃由来であろうと疲労由来のものであろうと関係なくストレスが溜まり、不機嫌になり、他人にもストレスを撒き散らす。
今はまだ不機嫌になっていないが、そのうちなるだろう。その前に帰らなければならない。
すでに不機嫌になる前兆であるクセが出ている。拳銃の火打ち石を意味もなく弄り始めるのだ。
もうポーチ一杯に石を拾い、これ以上は何も持てない。そろそろ潮時だろう。私はレイナルドにも声をかけ、来た道を通り、三つの坂を登り、ダンジョンを出た。
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「もう!私の話を聞かずにダンジョンに行くなんて、どれほどダンジョンが危ないところだと思ってるの!!」
ダンジョンから出て、石……石は魔石というもので、換金できるとこの時に知った……を換金しようとした時にエイナ嬢に捕まってしまった。
彼女は顔を真っ赤にして我々を怒鳴り付け、我々全員の手を引っ張って無理矢理会議室まで連れて行った。彼女の力は思っていたよりも強く、レイナルド曰く「獣に噛まれても無事だった鎧が壊れるかと思った」らしい。
そして今。
「いいですか?ダンジョンに現れるモンスターは……」
多くの新しい知識を得られた。
モンスターの生まれ方、魔石、探索方法、そのほかの知識も。ポーション、包帯、必須品。なるほど、これは聞いておくべきだったかもしれない。レイナルドもディスマスも思ったより聞き入っている………いや、ディスマスは寝てるな、聞いているふりをしているだけだ。
「ちょっと!ディスマスさん聞いてるんですか?!ふんっ」
「うがっ!」
あっ、チョーク当てられてる
「と、このようにダンジョンには多種多様な危険が存在します。それでは皆さん合言葉をもう一度。」
「「「冒険者は冒険しない!」」」
「はいよろしい。行ってよし!」
長い講義だった、しかしためにはなった。ディスマスの頭を小突き、ヴァリスがたっぷり詰まった袋を持って帰路についた。
さぁ帰ろう。我らが暖かい家へ。