ダーケストダンジョンで出会いを求めるのは間違いだ 作:アイゼンパワー
酒宴の翌朝。
ヘスティアは早朝からバイトに出かけており、机の上にはじゃが丸くんが4つ置いてあった。ディスマスが最初に身を起こし、目を擦り、顔を洗い、身なりを整えた。
その後領主が起き上がり、同じく身なりを整えるために広間から出て行った。
「おし!ベル坊!ダンジョン行くか!」
ディスマスは晴れやかな顔でベルを呼ぶ。
しかしベルは未だ床に寝っ転がって目を回している。
「あちゃあ……飲ませすぎたか。いい酒だったもんなぁ…」
領主は酒にかなり強く、そのせいでコレクションの酒も度数の高いものが多い。領主のワインセラーの中にはドワーフの間で有名な火酒に勝るとも劣らないくらい強い酒も存在する。
いい酒だったからと言って飲ませすぎることはよくない、あとで請求書を回すからな。いつのまにか戻ってきていた領主は無言の圧力をかけた。
「おい!レイナルド!お前さんはどうだい?ダンジョン行くかい?」
ベルと一緒にダンジョンに行くのを諦めたように見えるディスマスは今度はレイナルドを呼んだ。
「むーん……頭が痛い…」
レイナルドはもそもそと起き上がり、自分の部屋に向かっていった。
「おい、なんだよ。行くのか?行かないのか?」
「行く……鎧着るからちょっと待ってろ……」
「よし!じゃ決まりだな!ダンジョン行くぞ、ベル坊!」
ディスマスは一夜ですっかりベルを気に入り、早速なんとしてもダンジョンに連れ出そうとしている。
「ほら起きな!偉大な英雄になるには名誉と経験は必須だぞ!」
そう言って解毒ポーションを自分とベルの口に流し込んだ。
すると不思議なことが起こった!!頭痛が奇跡のように引いていき、眠気までなくなりこれまで体験したことがないほどの絶好調となったのだ!
「あれ……ここは…?」
「やっと起きたか。じゃ早速ダンジョン行くぞ!」
「はっ、はい!」
「武器と防具を取って来い!40秒で支度しな!」
「はい〜〜〜!」
そうしてベルは自分の部屋にすっ飛んで行った。そしてそれとすれ違うように聖書のページや総主教の令状を蝋で其処彼処にくっつけた神聖な重鎧に身を包み、光を反射する鏡のように磨かれた大剣を担ぎ、レイナルドが部屋から出てきた。
「……ディスマス…ポーションをくれ…」
「はいよ!」
そう言ってディスマスはポーションを投げ渡した。それをラッパのように高く上げて、兜の隙間に流し込んだ。果たしてちゃんと飲めているのかは謎だが、少なくとも効果は出ているらしい。
「よし……頭がスッキリしてきた…」
ベルも部屋から出てきて、ディスマスの元へと駆けてきた。
「用意できました!」
「よおし!じゃあ出発だ!」
それを見ながら領主は手を振り、彼らが安全に帰って来れるよう祈るのであった。
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『ヴウウオオオオオオオ!!』
「ミノタウロスだ!総員構えい!!」
ダンジョン、五階層。三人は階層を練り歩き、鍛錬と金策を兼ねて出会うモンスター全てを切り倒して進んでいた。五階層には数回しか進出したことがなく、ディスマス、レオナルドにとってはまだまだ未知の領域が多かった。
だがそれは間違いだったかもしれない。
巨体を持つモンスター、ミノタウロスが目前に立ち憚り、咆哮する。それは本来ここには居ないはずのモンスターであった。レベル2相当のモンスターであり、レベル1の一行にとっては強敵であろう。
「全員私の後ろに下がれ!」
レイナルドが前へ一歩踏み出し、ベルとディスマスを庇う。
「ベル!お前は先に帰ってろ!こいつは俺たちが片付ける!振り返るんじゃねえぞ!」
「その魔石を全部持って帰れ、我々はこいつを仕留めてから帰る。」
「はい!」
二人に命令され、ベルは振り返らずに走り始める。二人と一緒に戦いたかったが、彼はまだ冒険者になって数日しか経っていない新米だ。恐怖心が勇気に勝ち、そのまま撤退した。
ベルの姿が見えなくなり、足音も聞こえなくなった。
場は静寂に支配され、ミノタウロスと、レイナルド、ディスマスが間合いを図り、それぞれが敵を如何にして打ち倒すかについて思考を巡らせていた。
『ヴウウオオオオオオオ!グウウウウアアアアア!!』
先手を取ったのはミノタウロスだった。手に持つ棍棒を振り上げ、二人に向かって振り下ろした。棍棒は図太く、見た目にあった質量と腕力によってダンジョンの床にめり込むほどに強い打撃を繰り出した。これが当たれば重鎧を身に纏ったレイナルドですら肉塊となって死亡するであろう。
そう、当たれば。
この手の巨体のモンスターの共通点としてまずあげられるのは動きが緩慢であることだ。その全力を発揮し、重い一撃を繰り出すための予備動作を行い、それから攻撃する。手慣れた冒険者であれば即座に見切り、横に飛ぶなりしゃがむなりして回避することができるだろう。
ディスマスとレイナルドも同じく即座に攻撃を見切り、横に飛んだ。
『ヴウウオオオオオオオ!!』
ミノタウロスは棍棒を振り下ろしたが、もちろん当たらない。そこに人間はおらず、血は一滴も流れていない。
「その首をよこせえええええ!!」
その隙を狙って即座にレイナルドが懐に飛び込み、首目掛けて身長ほどあろうかという大剣を振るう。
「よっしゃやれ!」
ディスマスはミノタウロスに近づきながら拳銃を足に撃ち込み、ミノタウロスの動きを封じる。
『ウグゥ!グオアアアア!!』
大剣の刃が煌めき、ミノタウロスの首に深い切り込みを入れた。しかしそれだけであった。レベル1の腕力では首を断ち切ることは難しかった、骨に当たって刃が止まってしまったのだ。
「ええい、首が取れなかったか。」
レイナルドは素早く身を引き、体制を立て直す。
『グブブブヴォアアアアア!ガボボボヴォ!』
ミノタウロスは自らが流した血に溺れながら棍棒をやたらめったら振り回している。こうなると厄介だ。ミノタウロス自分でもどこに振っているかわかっていないため軌道が読みづらく、避けにくい。手負の獣の方が手強いというのはこのようにヤケクソになって避けづらい行動に出てしまうからだろう。
そこでレイナルドは近づくのを諦めた。振り回される棍棒によって揺れる床の上でしっかりと立ち、大剣を床に突き刺し、懐から魔法の触媒となる総大主教の令状をとりだし、叫んだ。
「“不浄なるものよ!我が告発を聞くが良い!
それを聞いた瞬間、ミノタウロスは頭を押さえて急に苦しみ始めた。その大きい両手で耳を押さえ、悶え、のたうち回る。
『ヴウウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
一際大きい咆哮上げると、ミノタウロスは息絶えた。
巨体自体に長所はない。膨大な量の流血に美を見出すのであれば別だが。
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「おうベル!生きてたか!」
地上、ギルドに戻って来たディスマスとレイナルドはベルを探していた。そこで出会ったのは頭から血をかぶり、真っ赤なトマトのようになったベルであった。
「ディスマスさん!レイナルドさん!」
ベルは嬉しそうに顔を綻ばせ、涙を流しながら顔をこすりつけた。
「ワッハッハ、汚ねえ、やめろおいこら。」
だがディスマスはそれを拒絶し、顔を押しのけた。
次にベルはレイナルドを見ると、彼もまた血みどろであった。
鎧の其処彼処に貼られている紙には血が染み込み、大剣には血がこびりついていた。
「生きてたんですね!時間が経っても帰って来ないから……てっきり…」
「私たちはそんなに簡単には死なんよ。」
「じゃあ、換金したら帰りましょう。きっと神様も待っていますよ!」
「そうだなぁ……じゃあ飲んでから帰ろうか!」
「もう!あなたは飲むことばっかりなんですから!」
「すまねえなあ!アッハッハッハ!」
こうして最初のダンジョン探索は無事に終わり、笑い声と共に彼らは帰路についた。