もしもの『私』が   作:Fry-Hopper

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※スクスト・艦これ共に
 一定量公式と設定が異なる
 


01 Into the current saga

 

 

「みんな、みんなやられたのです」

 

深海棲艦の組織的な侵攻作戦により、主要鎮守府は対応力を失うほどの攻撃を受け続け、孤島に位置していた前線基地はことごとく陥落した。

 

ボロボロの服で立つ少女もまた、敵の総攻撃の余波を受け崩壊した前線基地の敷地内を歩いていた。

 

工廠の損害は特に酷い。

 

もう、艦娘の建造は絶望的だろうか。

 

少女の瞳に赤く揺れる炎の束が見える。誘われるように自然と体が動き、素肌の足裏が止まった。セラミックやガラス片の刺さる足に、光る蝶が周回している。最後の一つ。

 

こぶし大の妖精はまだ、少女の周囲を旋回している。戦えというのか。この状況でまだ。少女はついに瓦礫の上に膝を落とした。

 

心音が耳の奥底まで響き、体中をめぐる血液が沸騰しているかのように暴れている。しかし、反面少女の目は、その瞳は乾いたまま涙一つ流さない。全ては終わってしまったのだ。

 

青空は赤く変わり、そして程なく闇が降って来た。

 

出撃ドックが存在していたビーチから重い潮風が吹き込んでくる。火災は小康状態になるが、すでに少女の体は多くが煤けていた。

 

蛍のようにチラチラと残る火炎が時折熱風を作り、少女の前髪をそっと撫でる。幸か不幸か少女の体はまだ動いた。乾ききった感情で、眼前を飛んでいる妖精を顔で追いかける。

 

「何もない平和な時間は、とっても好きだったのです」

 

そろそろ、いつものうるさい人達が騒ぎ出す時間だろうか。染み付いた仲間たちとの感覚が、少女に数時間遅れの涙を連れ戻した。波の作る静寂は破られ、少女の嗚咽が夜空に向け放たれる。

 

 

 

 

 

 

「うるさいのです」

 

少女は膝を抱え目を覚ますと、こんな時にまで腹を鳴らしている自分に腹が立った。当然といえば当然だが、敵の第二次攻撃はおろか偵察機も来なかったようだ。

 

しかし、もうこの島には建造物は存在しないだろう。少女がどれほど歩き回ろうと。出血の続く足裏を気にすることもなく、足を引きずりながら路肩の草むらに入った。

 

半日かけ島を一望できる灯台のあった場所に辿りつくと、ついに少女は現実を受け入れ妖精の残る鎮守府に向け戻った。

 

「建造、するのですか?」

 

幸い携行していた自前の艦砲にはまだ残弾があった。工廠に伸し掛かるコンクリートを打ち砕くと、血のりとともにわずかに残る施設が顔を出す。仲間たちはやり遂げていた。

 

覆いかぶさった深海棲艦の名残をどけると、建造施設がまだ一基不完全ながらも動いていた。妖精は少女にソレを伝え、少女の顔がわずかにこわばった。

 

新しい艦娘を出せば、少なくとも今の自分の状態よりは役に立つだろう。少女はためらいを打ち捨て、仲間だったものを装置の中に壊れた艤装とともに突っ込んだ。

 

しかし、禁忌とされる行為ですら規定量に届かなかったようだ。妖精は考えた末、ソレも突っ込むようにと提案した。敵の亡骸を解体し装置へと投入するとついに本格的に稼働を始める。

 

 ――見られている?

 

少女は何か気配を感じると、スッと体を反転させるが、彼方まで青空が広がっているだけだった。建造装置からは、異物を拒絶するかのように異常振動が始まり鼓膜に刺さる高い音が発生する。

 

少女がしゃがみ込み耳を塞ぐと、視界が紫に歪んでいく。少女の体が空気振動に晒されてブルブルと震え出した。

 

しかし、最悪の事態は免れたようで装置は無事に一体の少女を吐き出した。覚えのない顔をした。戦乙女のような赤い服をまとった。

 

通常時のように艤装を付けている様子はない。その少女は、セラミック片の散らばる地面に横になり目をつぶっている。やはり失敗だったのか。

 

肩を丁寧に揺すりながら声をかけ続けると彼女はゆっくりと目を開ける。

 

「あなたは誰、なのです?」

「こっちが聞きたいわよ」

 

赤い髪をした少女は頭を片手で搔きながら、少しぼうっとした表情で胡坐で地面に座る。

 

「まぁいいわ。私は杏橋[きょうばし] 天音[あまね]。あんたは?」

「電[いなづま]なのです」

 

彼女はキラキラネームでも見つけたような表情で頷きながら露骨に同情の視線を送ってくる。電はいたたまれなくなり弁解と状況の説明を始めた。

 

だが、装備していた艤装も素材にしてしまったため、自分が戦っていたとは信じてもらえず、ボロボロのセーラー服を着た戦災孤児とでも思われただろうか。なんだかさらに腫物を扱うような無言の視線が痛い。

 

「あ。あんたもこっち来てたんだ」

「どうしたのです?」

 

彼女が虚空に顔を向け話始めると、電はいぶかし気に声を出す。

 

「あ~。今見てくれてる人の事?」

「怖い人なのです」

「ちょっと。私を変人扱いは止めなさい!」

 

彼女は突然立ち上がり、ビッと人差し指で電を指す。彼女から何か理解の及ばない話が始まり、今ここには観測者が来ているのだと説明された。

 

元は自分の所の隊長だったようだが、きっとそういう事が起きたのだろうと電は少し表情を暗くした。

 

彼女はまだ何か言いたそうであったが、気乗りのしない足取りで司令部の施設が入っていた平らになった建物も捜索したがやはり、生命活動を続けていた者はいなかった。

 

唯一の懸念は彼が、提督の体が見つからなかったことであるが、状況からさらわれたとは考え辛い。

 

わざわざ一つの突出しただけの基地に価値はなく、そこで指揮していた提督もお世辞にも軍としては出来た人間ではなかった。

 

つまり、優しすぎたのだ。もう少し厳しくやっていれば、最悪の事態は防げたのかもしれない。ただ、友の顔は安らかだった。

 

悲しい事に、どんな時にでも腹が空くのか。郊外に集合墓地を作りせめてもと職員たちの埋葬を行っていると再び少女の腹は鳴った。

 

アレから出てきた以上、彼女もこちら側の者なのだろうか。何も言わず手伝ってくれる事に少し人間性を取り戻せたのかもしれない。

 

工作用スコップで穴を掘り、自然と手の甲に雫が垂れ落ちる。それは甘さなのか。敵ですら助け合えると信じた自分の。

 

不可解だった。

 

敵は一定量言語を操っていた。

 

敵は明確に人類のみに敵対していた。

 

敵は怨恨のように振舞っていたのだ。人類には余裕がなさ過ぎたのかもしれない。天の裁きと嘆き、敵に身を寄せるものもあったがそれすらも容赦しなかった。

 

地球が人類を敵と認識したのか。人知を凌駕した攻撃が続き、誰もが絶望した。その日。誰もが諦め、天を仰ぎ許しを乞うた日。世界は光に包まれた。

 

まるで星の使わせた巫女たちが武具を携え顕現した。後にその容姿から艦娘と呼ばれることになった少女たちが。彼女たちは戦った。敵と、生まれながらにして宿敵と認識した敵と。

 

戦い続けた。やがて人は喜びを思い出した。

 

だが、戦うばかりで双方の戦闘能力が向上していくだけであった。敵が現れた原因を探ろうとする者もあった。少女もまたいつか分かり合えるのかと思っていた。

 

――でも。もう。

 

敵はさらに勢力を拡大した。人類は再び窮地に陥った。もっと、積極的に戦っていればよかったのかと。多くの仲間が消えた。それでもかと。

 

「あんた別に悪くないわよ」

 

少女の濡れたスコップが震えて動かなくなるのを横目で見ながら、彼女は言う。赤いツインテールを前後に動かし続けながら彼女は黙々と少女に付き合う。彼女は作業を続けながら独白する。

 

並行世界を渡り歩きいくつもの救えなかった未来を見てきたと。辿りついた先にはすでに終えていた世界もあったと。

 

ただ、その根底にはいつも『奴ら』がいた。少女の言う艦娘のように彼女たちは戦い続けた。そしてこれからも。いつもどこかで『私』が戦い続けているから。彼女は決して歩みを止めない。

 

戦う事を選んだ『私たち』のためにも。

 

「というか、このうっとおしいの何よ」

「見えるのです?」

「だから変人扱いは・・・」

 

鼻先でペカペカと光っている大きな蝶が胴体部を人型に変体させた。突然の発光が彼女の手を止め顔を覆わせる。

 

妖精は本来の姿を取り戻したようだ。大地から光が次々上がり、蛍のようにチラチラとさまよいながら妖精たちが黄泉帰って来る。

 

可能な限り全ての者を埋葬すると二人は蛍を引き連れ、廃墟になった基地を当てもなく歩く。やがて彼女はそれらしい物を拾い集め手ごろな岩に座ると磯釣りを始めた。

 

物干しざおのような簡素な釣り具だが、彼女は誰かといるかのように楽しそうに過ごしている。その間に少女は、妖精たちと小さな建物を作り始めた。

 

二人が雨風をしのげる程度の小さな建物を。それがこの基地の限界だった。欺瞞のために周囲は廃墟のままであるが、建造装置の復旧だけは急ピッチで行われる。しかし、芳しくない。

 

まぎれ物を出してしまったためだろう。そのダメージは中枢にまで及んでいた。もはや、優雅に魚を持ち戻って来る彼女に懸けてみるしかない。

 

「え?いいわよ。私にまかせておけばオールオッケーだから」

 

彼女はセラミック片を使い釣った魚を簡単にさばきながら答える。彼女は深海棲艦との戦いは快諾してくれたが、その装備は陸戦に重きを置いているように見える。

 

その能力も未知数だ。自分が健在であれば模擬戦でも出来たのだろうが。

 

「はぁ。やっぱり解除できないわね」

 

特異なバトルスーツの事だろう。小さな携帯型装置をブンブン振り回しているが反応が無いようだ。普段は普通の格好をしているが、その装置が一時的に変身させてくれているらしい。

 

彼女も語尾がモシュモシュうるさい奴との通信が途絶した時点で大方予測はしていたが。もしかするとここは、自分が一番進んでいる世界なのかもしれないと、彼女は大きくため息を吐いた。

 

だとすれば、この装備が付いて来たことは幸運だったと考えを切り替える。しかし、すでに『彼女のいる世界』とパラドクスが始まってしまった。

 

彼女と共に持ち込まれた、パトリと呼ばれる装置が多くの分岐を発生させる。彼女はこの世界線の最前を歩き続け闘うことになった。

 

いつか並行世界で訪れるであろう『私と』『私たち』のために。全ての世界でゆがみを見つけ、オブリを退治するために。

 

「で、敵の総大将はどこにいるのよ」

 

彼女は茹で上がった魚を箸に見立てた細い鉄心でほふりながら訪ねてくる。まるで学生がこの後どうするかと遊びを聞いてくるような感覚だ。

 

それはあまりにも堂々としていて少女はクスと笑った。きっとこの人はこういうことをずっとしてきたのだという安心感がある。

 

彼女にしてみても、いつもであればいかにもここにいますよと、ワラワラ敵が出て来るものだが人類がまだ善戦しているためかその様子はない。

 

海が干上がった星や、氷しか存在しない大地でソレらと戦い続けたこともあった。だが。

 

「深海棲艦とは会話ができます」

 

少女は困ったお願いを持ち出してきた。敵の所在は結局のところわからない。だが、敵は人語を操り対話が可能であると思われていた。

 

敵は一様に意味深な言葉を残し消えていくのだ。問題は深海棲艦が人類憎しで行動しており、その状況に持ち込めなかったことである。

 

もはや話し合いで解決できる段階ではないが、敵側から少しでも情報を拾い、願わくば和解をと。

 

「まぁ~猫ちゃん。あなたはどうちたんでちゅかぁ」

 

魚の匂いに誘われたのか黒く煤けたどらネコが瓦礫から飛び出し、彼女はその猫の胴体を手慣れた動作で持ち上げた。

 

そのあまりの変貌ぶりに少女は固まり、箸を滑らせた。その数秒後に彼女は酷く冷たい顔になり少女の鼻先に器用に片手で大剣を突き出してきた。

 

「はい。電は大丈夫です」

 

彼女の今見たことは忘れろという無言の圧力を受け、少女はどんよりとした瞳で答えた。彼女の片腕にガッチリホールドされた猫は逃げ出そうと手足で盛んに空を漕いでいる。

 

彼女は猫に十分に冷ました魚を与えながら話に戻って来た。会話の最中に彼女が嬉々とした表情で猫のホホを引っ張ったり、頭をペチペチしている姿が気になったが、少女は話を続ける。

 

「あ。やっぱり」

「どうしたのですか?」

 

彼女は突然地面に猫を手放した。すると、猫が少女に向けて小さくお辞儀する。少女も可愛らしいしぐさをする猫につられて屈み、手を伸ばした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

少女は猫回しだろうかと思っていたが、彼女は突然豹変したかのように乱暴に猫に後ろを向けて膝の上に座らせた。片腕は握りこぶしを作り力が入って震えている。

 

「これが家の隊長だけど。タイミングが悪かったわね」

 

少女は首を傾げた。

 

「目のやり場に困ったって」

「はにゃあーっ?!」

 

少女は見た目同様の態度を発露し、猫のようにかわいい声を出しながら手で上と下を隠した。そういえば損傷は下着にまで及んでいただろうか、考えるほどに少女の目がグルグルと世界をさまよう。

 

彼女は猫を連れ散策に出かける。戻るまでに何とかしておけという事だろう。少女は資材になりそうなものを集め、妖精たちに可及的速やかに、最重要案件で、衣類の制作を命じた。

 

が時折妖精たちは言う事ときちんと聞いてくれない事があり、出来上がったものは服と呼べるか。少女は口をムッとへの字に曲げるが他に変えもないため仕方なく、その場で素早く着替えを始める。

 

程なく彼女たちが戻って来ると彼女は少女の格好を見て声無く口を半開きにした。そして、猫の胴体を掴み上げるとゆさゆさと左右に振り始めた。

 

少女は何が起きたのかと狼狽えながら彼女に弱弱しく手を伸ばすが、どうもそのクソ猫が服装に干渉したのではないかと疑惑があるらしい。

 

というよりも、経験からいって彼女にはそうとしか思えなかった。よその子にまで魔の肉球を伸ばすとはと彼女は激怒している。

 

彼女は普段変なコスプレを強要されるばかりか、油断しているとおっぱいタッチなどされると、ここぞとばかりにその悪行を少女にぶちまけた。

 

「変態さんなのです!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

少女はすっかり感情を取り戻し、彼女の胸元から飛び出し身に覚えがないと首を左右に振る猫を追いかける。妖精たちは楽しそうに周囲に拡散して行った。

 

「ま、それが普通の反応よね」

 

彼女は何処か釈然としない気持ちを抱えながら目を閉じ頭を掻く。サワサワと心地よい潮風に赤いツインテールが伸びていく。

 

 

 

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