もしもの『私』が   作:Fry-Hopper

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02 Intercepting

 

「だから、それじゃ困るのよ」

 

この世界には自分たちはいないようで。いた形跡もない。恐らく軍隊機能が早期に崩壊させられずに曲がりなりにも存在し続けているからだろうが。

 

彼女はモクモクと動かす口を止めると、箸を置いた。一つのチャンネルの黒幕はだいたいモルガナと呼ばれる個体なのだが、今回はまだ暗躍しているようだ。

 

恐らくその深海棲艦とかいう勢力の中枢に君臨していると思われる。だが、艦娘という未知の勢力がいることもあり、新個体がいないとも限らない。

 

敵が水中特化であれば流石に厳しい戦闘になる。モルガナと戦うためだけに海を干上がらせてやればいいかというと、人類が残っているためそうもいかなそうだ。

 

「じゃあ、来てもらうしかないわよね」

 

この基地がわざわざ攻撃を受けた理由は艦娘がたくさんいたからだろう。では再びそうあるように偽装すれば敵の方から来てくれるかもしれない。

 

しかし、素材がと。彼女は目を据えてジッと少女を見た。少女は一瞬視界を歪ませるが、覚悟したかのように小さく頷いた。自分が、と。

 

しかし、数時間後少女は海に浮いていた。生きているままで。両足には強固なビニールのようなものが被され付け根でキツく縛られている。

 

一見拷問のように見えるが、無い方が傷口が直接海水に浸かり更に痛むことになる。少女はお風呂に入ればすぐに治ると言ったが彼女は酷い民間療法だと両掌を上に向け、首を振った。

 

「いた、いたいあた、いあ。いたい、いた」

 

遠洋にまで延び浮いている少女の浮き輪についたロープが一気に引かれる。その後方には黒曜石で出来た黒光りする鯨のようなものが口を開け追いかけている。

 

彼女はツインテールを潮風に躍らせながら、恐ろしい速度で周囲にロープでとぐろを巻いていく。

 

予想通りめでたく敵の勢力圏内にいたらしい。少女は悲鳴を上げながらコロコロと海上を転がる。少女を砂浜にまで引きずり戻すと、彼女はにんまりと笑い大剣を手に取った。

 

敵は彼女を艦娘と認める。口内に仕込まれている小火器から銃撃が走る。砂浜に小さな粉塵が上がり、剣を持ち構える彼女を探るように圧迫する。

 

だが、彼女は動じることなく不敵に少女からロープを取り外した。そのままロープを肩に乗せ、鋭い目つきで、弾けるように飛び出した。

 

砂浜に向かい上陸しようと猛烈な勢いで向かってくる鉄の鯨に、彼女は奴らのホームグラウンドで迎え撃つ。

 

まるで航空機かのように真っすぐに海の上を猛進する。鯨が狙いを定め口を開けた瞬間。彼女は飛んだ。トン、トン、と空を足場にして。

 

海面スレスレに着地して、斬撃を加えながら再び飛び上がる。一撃ごとに大きな金属音が悲鳴のように響き、彼女の作る赤い点と線が黒い塊を少しずつ小さく変えて行く。

 

砂浜に座る少女は猫を膝に乗せ、下げた頭を肉球で撫でられながらその光景を眺める。不思議な感覚だった。彼女は自チームの隊長というが。

 

「やったわ!」

 

彼女は倒した敵に遮断機のような色をした太いロープを巻き付け、空を蹴りながら砂浜まで引っ張って来た。そして少女は猫を取り上げられた。

 

少女はよくもそんなに胆力があると思いながら、とぐろを巻くように砂浜に溜まったロープの先で絡んだ敵の亡骸を眺める。

 

彼女は砂浜に椅子のように置かれた粗末な木材にガシャと腰を落とした。猫は彼女の腕からすり抜け少女の膝にトテトテと戻っていく。

 

不貞腐れながら解体作業に入る彼女をよそに、少女は足の痛みを気にしながら昔話を始めた。提督。自分が司令官と呼んでいた者との。

 

空白の場所。まるで段ボールが一つあったような、寂れたここへと流されるように一緒に着任した。戦況が安定してたため船が着くたびに基地は大きくなっていった。

 

少女は震える指で猫の背を撫でながら独白を続けた。

 

「え?足りないの?」

 

彼女が炉に素材を突っ込むと、妖精たちは顔の前で腕を重ね大きくクロスを作っている。何度もアレをやるのは流石に骨が折れると彼女は頭を掻いた。

 

少女を介して妖精と話、お風呂の制作にならまかなえると言っているようだ。彼女は仕方ないと炉から資材を引っ張り戻すと妖精たちに与えた。

 

夕刻までには完成するようだが、なんだか建設ゲームでも見ているようなありさまだ。妖精たちは甲斐甲斐しく積み木のように基礎から施設を作り始めた。

 

再び手持ち無沙汰になり、念のため彼女は少女にアレルギーはないかと尋ねたところ、大丈夫と言われたので再び釣りに出ることにした。

 

「まったく。気ままなもんだわね」

 

傍らにはいつの間にか少女が岩に座っており、猫を膝に乗せている。だが、彼はいないようだ。ドラ猫は猫らしく離せとバタバタ足を動かしている。

 

隊長はいないときは初めからいないが、いる時は困ったころには現れて適度に指揮を執ると、またどこかへ消えていく。

 

先ほどのプランもアイツが考えたものであったが、まぁ黙っといてやるかと彼女は左右に首を振る。妖精と話せるのは少女であり、猫と話せるのは彼女だけである。

 

奇妙な異文化コミュニケーションを経て、資材のやり取りをしつつバラック小屋のような中に小さな温泉のようなものが出来上がった。

 

「あたしはいいわよ」

 

にわかに信じがたいが風呂に入れば足は治ると、まだ、少女が言っている。不思議な妖精が飛ぶ世界ならもしかしたらそうかもしれないと思うが、彼女は手のひらを空に泳がせ夕暮れの海に猫と共に消えていった。

 

少女は服を脱ぎ終えると、少しばつの悪そうな顔で湯船に足をゆっくりと付け込んでいく。酷なことを言ってしまったと足が止まる。入らないのではなく、入れないのだ。

 

彼女がアレを脱ぐことになれば、再び着れないかも知れないというようなことを言っていたことを思い出す。

 

少女は湯船に両肩を沈め、意外といい人なのかと岩に頭を乗せる。どこか仲間たちに似ているような。不思議な温かさが少女を包む。

 

 

 

 

「あんたいつも突然来るわよね」

 

冷え込み始めた夜風を浴びながら、彼女は少しずつ昇っていく月を眺める。彼女は膝の上で頭を撫でている猫に話しかけ始めた。

 

深海棲艦とは何か。艦娘とは何か。モルガナは何処にいるのか。月からの光線を浴び、彼女の大剣がギラギラと光る。この世界の軍の動きも気になる所だが、連中は人に擬態するためすでに当てにならないかもしれない。

 

深海棲艦が一大攻勢にでたというのも、恐らくは軍内部からの手引きだろう。わからない事だらけで煮詰まらないが、当面は艦娘の増産と、自分たちとのチャンネルの回復が急務である。

 

モルガナと追いかけっこもいいが、気づいた時には人類が滅亡していましたじゃ笑えない冗談だ。本来の侵略者達を抑え込む能力は、果たして艦娘にあるのかどうか。

 

猫は突然咆哮をあげる。

 

わずかに水平線に見える小さな影、猛烈な勢いでこちらに接近して来ている。月夜の静かな海をながめ、彼女の首筋に悪寒が走った。弾けるように大剣を構え、接近する物体に超高速で突き進んだ。

 

彼女はすれ違いざまに一撃を加えようと空を蹴り空中を一回転しながら肩部を狙うが、ソレはスライドするように回転を始め彼女の抜き去った方向に素早く反転する。

 

白い体に、足がフロートのようなもので出来ている。頭部には大きな鉄兜のようなものを装着している。コレは難敵だった。敵の速度では、大振りになるこの剣では対応しきれない。

 

また、機械のような体をしているため、不規則に左右にスライドする敵の動きが予測し辛い。ならば手数でと敵に急戦を挑み、肉薄して打撃を加えるも細い体の見た目以上に固いようだ。

 

ソレは足元から魚雷を投下し、煙幕のように炸裂させながら距離を保ちつつ腕部にある射撃装置から銃撃を加えてくる。わずかに回避し損ね彼女は片側のツインテールを失った。

 

「やってくれるじゃない」

 

月の光が、虫の乱舞のように、赤と黒のシルエットを海上に浮かび上がらせる。黒い点が赤い点に追いつかれ、クルクルと体を回転させながら後ろを取る。

 

彼女は空を跳ね、背面飛びのように回転しながら敵の首筋に一撃を叩きつけた。しかし、同方向に動いているため攻撃が浅い。

 

敵は頭を左右に軽く振ると、笑っているようだ。

 

「はぁ?わけわかんないんだけど」

 

敵は問う。深海棲艦ならば、なぜ戦うと。

 

彼女はトントンと、敵の周囲を回るように飛びながら、動きを止めた敵の様子を伺う。相手もわけがわからないといった表情だが再び動き始めた。

 

アレは間違いなく敵。お互いがそう認識するまで時間はかからなかった。先ほどよりも数段速い。赤い点が常に追いかけられ、敵が腕部の装甲で衝角攻撃を続ける。

 

彼女のスーツがついにほころび始めた。一撃の打撃力では彼女に分があるが、敵のUFOでも相手にしているかのような異常な動きが攻撃を当てさせない。

 

「嫌な敵だわね」

 

速度と射撃を得意とされれば懐に飛び込むよりほかないが、奴は豆爆弾のようにパラパラと魚雷を撒き水柱を作って器用に距離を開けるのだ。

 

「でも」

 

お互い中空に浮いているため、爆発による衝撃は少ない。彼女は唸るように低い声を出し闘気を大剣に集中させていく。

 

「はぁぁぁああああ!!」

 

利き手で剣を構え、残る片腕で顔をガードしながら突貫を始めた。顔を支える片腕が正面からの正確な銃撃でしびれ始めた。装甲は剥がれ落ち、なおも彼女は止まらない。

 

敵は得意の魚雷カーテンで後方に下がり始めた。しかし、沸き立つ黒煙に彼女はためらわずに突っ込んだ。そして、両足で空を蹴り、やり過ごそうと上空に逃れた敵を捉えた。

 

敵が無尽蔵にばらまく魚雷を浴びながら、その大剣は敵の腹部を斬り抜けた。彼女はそのまま敵の作った魚雷の黒煙を引きずりながら空へ抜け、昇っていく黒いシルエットが月の中を彩った。

 

彼女が再び海上にまで落下すると。敵は自ら作った爆発に巻き込まれて機能停止したのか動かずに浮いている。彼女は僅かに素肌が見え出血している肩でソレを担ぎ上げた。

 

「これが格の違いよ。覚えておきなさい」

 

少女が風呂から戻り、湯気立つカラダでサクサクと砂浜を歩くと、そこに転がっているものを見つけ一気に血の気が引く。

 

そこにあったものは、姫と呼ばれた強力な個体だった。

 

ちょうど彼女の隊長とコレをどうするかと話をしていたころのようだ。傍から見ればただ猫を胸元に抱きしめているだけのようにも見えるが。

 

僅かに各部が動いているため、そのうち気が付くかもしれない。情報を引き出すか、素材にするか。あるいはと。

 

「みんな、こいつにやられたのです」

 

襲撃されたときは大量の家臣を連れてきていたが、高を括ったのかコレは戦力を見誤ったのだろう。もっともコレの作戦速度に追随できるものがなかなかいないのか、コレに限っては単騎で目撃されることの方が多い。

 

少女の震える両手が、ソレの細い首筋に伸びていく。彼女は小さく息を吐くと、素材で決定かと背中を向けた。だが、数刻経ってもソレはまだ稼働している。

 

少女は首に手をかけたまま止まっていた。彼女は仕方なくヒビの入った大剣を構えた。これが再び同程度の戦力を発揮した場合、彼女には勝ち切れる自信がなかったのである。

 

恐らく戦闘中に剣が折れることになる。それに憎まれ役なら今更だ。彼女は剣を高く掲げ力を込める。しかし、少女は咄嗟にソレのカラダに覆いかぶさった。

 

刃は無情にも振り下ろされ、少女のカラダの脇をすり抜けて砂浜に刺さる。

 

「甘いわね、どうなっても知らないわよ」

「ありがとう、なのです」

 

念のため固着してる脚部の魚雷発射筒以外、鉄兜のようなものと、腕部の銃撃機構を取り上げた。最悪逃げ出されても貴重な資料は残るだろう。

 

思い出したかのように彼女は、少女の足元を見るとキズはすっかり治っているようだ。不思議な力でこの剣も直してもらえないかと考えるがそうもいかないようだ。

 

直せるかどうかよりも、修理時間が問題らしい。恐ろしい事に一度突っ込むと修理完了まで取り出せなくなるという。未知の兵器の解析に時間がかかり、1年や2年かかる事態になれば元も子もないと。

 

ソレを挟み二人は砂浜に腰を落とす。月光を羽に受けた妖精たちがソレの周囲に群がる。着地しながらポウポウとソレのカラダを発光させる。

 

どうやらここにはバカしかいなかったようだ。止めに入らない自分たちも十分バカであるが。妖精たちが垂らす雫がソレの傷口を修復させていく。

 

彼女は腕を組み立ち上がると、いい加減にしてよねと言い残し猫を連れて闇夜に紛れて行ってしまう。少女は白く冷たいソレのホホにそっと手のひらを当てる。

 

妖精の見立てでは一昼夜あれば修復できそうだと言っている。だが、相手は未知の敵のためそれ以前に繰り上がるかもしれない。あるいは治らないかも知れない。

 

しかし、少女がソレの胸元に耳を当てると確かに心音のような駆動音が聞こえてくる。分かり合えると期待はしていない。だが話くらいは出来るだろうかと。

 

その理由を。なぜ世界規模の戦争を始めたのかと。

 

こうして見ればやはり似ている。それは光と闇。あるいは地球と月のような。少女は気付くとソレの頭を膝に乗せていた。今この瞬間。この両者は戦争を行っていない。

 

少女は願いを乗せるように月を見上げた。

 

再びこの静寂を愛せるように。

 

 

 

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