もしもの『私』が   作:Fry-Hopper

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04 Angels’ share

 

「だ〜れだ」

 

【挿絵表示】

 

宇宙船の一室を思わせる環境で気がついた。周囲を見回すとどこか見覚えはある。だが女性の声とともに視界が柔らかい両手で覆われた。ココは何処だろうか。僅かに記憶を辿り、夢のような。

 

だがその手は声の主のものよりは少し大きく。ココは、未来かと、その意識は結論づけた。この感覚は猫になり運ばれている。その施設の厳重区画。全てのストライカーを総括する時空管理局の中枢へと。

 

「は〜い正解で〜す」

 

声の主は少しSFで警備隊のようなブルー基調の服装をしている。彼女は桃川紗々。意識はそう答えると女性は嬉しそうに両拳を顎の下に付け、カラダを左右に振るわせる。

 

いつかここに招かれ訪ねたときは、天音の過去の世界について観測を行ったが、今はこちらにも猫を用意し、過去の世界。今現在活動を行っている宇宙時間へとより干渉を行いやすくしたようだ。

 

幾世を束ねる時空管理官の所長と、その女性はいうが実際にはほとんどが観測しかできない世界であり「時空見守り隊」とは冗談も込めて彼女が言い出した事だ。

 

組織の奥には、全面ガラス張りの部屋にコードに繋がれた上半身だけ見える、女性型の完全なロボットが久しぶりと手を振っている。今回もこの未来へそのロボットが意識体だけを呼び寄せたようだ。

 

横の繋がりが途絶え、時空の迷子になった二人を正常な環境へと戻すために一時的に未来へ呼び寄せたという。例外の多い隊長だけならすぐにでも戻せたが、彼女もとなるとすぐには難しいようだ。

 

横軸の繋がりが切れているため、増援を送ることも困難であり、観測を始めたあの世界を救うことは難しいという。戦力の不足もあり、原則的に問題の起きた世界は、自力で解決することにもなっていた。

 

ヘルメットのようにバイザーを被ったロボットは目の前に扇形に並ぶコントロールパネルをせわしなくタイプしている。時折後頭部を掻きながら異世界に飛ばした末端の制御に難儀する姿は妙に人間臭い。

 

増援が来れないことがわかりはしたが、事がそれだけならば、わざわざここに呼び寄せられる理由はなかっただろう。

 

現在、深海棲艦と呼ばれたものは、その世界を中心に新たな問題として世界を超えて拡がっている。それは新たな歪みなのか。ストライカーに変わる組織として艦娘がいるようだがその実態も掴めない。

 

帰還だけならば遠からず実現可能になるだろうが、このまま二人だけを引き戻せば、更に深刻な事態に陥るかもしれない。それに彼女の性格から言って、見切りを付け投げ出すこともしなそうである。

 

そこで、施設のパワーを集約し、艦娘の建造方法に干渉を行い、現行しているストライカー以外の者を一時的に呼び寄せることができるかもしれないと、ロボットガールは唇に人差し指を当てながら言う。

 

そもそも、彼女がそこに排出された理由もブラックホールのように、何か強い因果に引っ張られたからだと言う。半分は隊長のせいでもあるようだが。

 

結末まで観測を続けなければ、遠く離れたその世界を中心に広がった幅にまで対応が出来ないようだ。それは人が矯正出来る『ゆがみ』なのか。あるいはそれこそが宇宙の『条理』なのか。

 

「あ。もう限界ですか」

 

ロボットが解析をハイスピードで続け、一定量分析された結果を伝えようと始めたところ、猫はウトウトと始めて意識体は未来からズレていく。

 

「頑張ってきて下さい。時々見守ってますから!」

 

時空管理官の所長は、頼りない言葉と共に胸元に力強いガッツポーズを作り隊長を送り出す。その意識は、いつかのどこかへと還って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あら。どうしたのこの子」

 

天音と電が夜風を浴びながら瓦礫に戻ると小さなお家が出来ていた。一軒家のような外見をしているが異常に大きな戸を開けてみると、内部は案の定対面シートが一対並ぶだけのがらんどうであった。

 

その周りに心無い機械のようにあの帽子付き少女がチマチマと何かの作業を続けている。その周囲にフワフワと妖精たちを従えながら、少女はモクモクと作業を続けている。ただひたすらに。

 

何かを作り続ける。

 

「ナミダ?」

 

少女は、電が駆け出し泣きながら抱き着いてきたホホに手を当て首をかしげる。少女は規格外のパワーで瓦礫を避けながら農作業のように地面を開拓し始めた。

 

少女が電の修復にはさらなる建設が必要と判断し、妖精のジェスチャーに合わせて、ひたすらに地面に細い手を突き刺し、地面をほぐす。

 

種こそ無いものの、柔らかい土の隆起が出来上がっていく。耕されたのは地面か彼女たちか。電は涙を振り切り笑顔を少女に向けた。

 

子供は生まれながらにして悪なのか。少女は完全な無垢の状態にいた。願わくばこのまま永遠に。

 

彼女の胸元からすり抜けた猫が地面にトンと降り立った。その様子からどうやら戻ってきたらしい。前足で顔を数回擦ると、ソロソロと少女に向かって歩き出す。

 

「行くの?」

 

彼女のわずかな不安をよそに、猫はいまだ作業を続ける少女に四本足で歩み寄る。だが特に様子が変わる素振りを見せなかった。フロート部から排出される風圧で目を砂利に阻まれ片手でさする。

 

猫は少女のヒラヒラと風に暴れさせているスカートに掴みかかり背中に飛び乗った。肩に乗り鉄兜に登頂しようと両手を伸ばしプルプルと震える。少女は無表情に猫を摘まみ上げると頭の上に乗せた。

 

「・・あんた何がしたいのよ」

 

長旅のせいか少し気でもちがったのか、猫はやってやったぜと登頂を誇ってか二本足で立ち少女の頭の上でフラダンスを始めた。少女の頭の上でカラダを丸めウトウトとした目で大きくアクビをかく。

 

そこは恐ろしい罠だった。少女の鉄兜はいい感じに温かい。日中の日差しを蓄え、放射熱が猫の下腹部を拷問のように温める。ついに堪えきれずに猫は寝始めてしまった。

 

少女は下じきでも乗せているかのように首筋を真っ直ぐに伸ばし、作業効率を下げながらも猫を頭の上で休息させる。少なくとも意識レベルが人間でも少女がひょう変することは無さそうだ。

 

だがほとんど無補給で稼働し続ける少女が脅威であることに変わりはない。それでも、電は今のうちに処理するという気を起こさずに涙を無理やりこすり消した。

 

もう大丈夫と少女の前に立ちはだかる。

 

少女は少し思考する素振りを見せると、程なく作業を中断した。しかし妖精達には不評だったようだ。せっかく数人分の作業を一人でやってくれていたのにとブンブン飛び回り抗議を続ける。

 

少女の頭の上で不埒にうるさく旋回していた一体の妖精は不幸にも寝起きの猫パンチで叩き落された。妖精は地面に打ち付けられるもどこか喜んでいるようだ。様子を傍観していた二人は、ブルと背筋から震えた。

 

 

 

 

 

 

少女を座らせることは大変だった。

 

脚部にあるホバー部は大人一人分以上の重さがある。だが重心は足かというと胸部だった。兜を取らせたとしても本体のほうが重いのだ。

 

少女は全体のアンバランスさを駆使してあの異常な軌道を作り出していたのだろう。だがやはり自分の意志で脚部の脱着は出来そうに無さそうだ。

 

ちょっとしたキャンプファイヤーのような組木に、はらわたを抜き鉄心を刺した魚を焚べるが、魚の内部まで焦げ目がついた頃に魚を皿に取り出し並べた。

 

しかし少女はいつまでも立っているので、何とか座らせてみようと促したところ、背中に大木をあてがい、両脚を大きく開いてやっと座ることになった。こうなると立っている方が楽なのかもしれない。

 

むしろ海中にいるほうが、ゆっくりと休めるのだろうか。そもそもこの少女に休むという概念があるかもわからないが。

 

もしやスカートに飾りのようにつくアンカーを使い、クラゲのように海中を漂っているのか。あるいはマグロのように常に動き回っているのかと興味は尽きない。

 

結局少女はロボットのような扱いになり、少し気になるが周囲で立ち続けることになった。試しに彼女は具合のいい焼き魚を渡してみたところ、皿ごと食べようとしたので少し躾は必要かもしれない。

 

この少女はもしかしたらそれでいいのかもしれないが、いちいち皿まで消えては事だ。電は少女の隣に立ち、焼き魚を頭からたい焼きのように齧った。

 

皮をむしって食べるなどと高度な事を行えるか疑問だったからだ。それに、なぜ皮をむく必要があるのかと問われれば適切な答えを返せる自信もなかった。

 

少女は電が少し面白くなさそうな顔で魚をかみ砕いている様子を、しばらく無表情で首を傾げながら眺めた後、マネをするように食べ始めた。

 

電動鉛筆削りのような速度でカカカと口が動き魚一匹は少女の体内へと消え失せた。様子を眺めていた猫も流石に両耳をビッと立たせて目を開く。

 

いったい何駆動なのだろうか。人と同じような内燃機関を持っているようには見えないが、魚のような不純物からでもエネルギーを取り出せるのだろうか。特に拒む様子もなかったためそうなのだろうが。

 

だが、意外と薄情な様子がうかがえる。来訪が予測されたお友達たちはいまだに訪れない。まさかまだこの少女が消えたことに気付いていないはずもないだろう。

 

少女から直接情報が引き出せるようには見えないため、少しずつ手探りで様子を見ていく必要があるが、この世界全体の様子も気になる所だ。

 

深海棲艦はみな、本当はこの状態から始まっていたのか、単に記憶喪失なだけなのか、それすらもわからない状況だ。それに、この子を抱えて軍と連絡を取る気にもなれない。

 

「え?それはやめといたほうがいいと思うのです」

 

妖精たちもどうなるかわからないと首をかしげる。少女は一人で重労働をしていたため全身が泥まみれになり衣装も戦闘後のようにほころんでいる。

 

それで例のお風呂に入れてみてはどうかという話になった。猫の予想では極薄められたリミットエリクサーの類ではないかと。

 

ストライカーズは存在していないが代わりに艦娘がいる以上、あったはずの物が完全に出現していないという事もないだろう。恐らくはあの不思議なお風呂のもとはそれに近しいものである可能性はあるように思えた。

 

「あんた。入浴とか言ってその子の裸見たいだけなんじゃないの?」

 

猫はユラリと邪悪な何かを纏い立ち上がる彼女に何かを察すると、ピッと尾を立て電の背中に逃げ込んだ。彼女は円盤投げのように掴んだお皿を静かに床に下ろす。

 

「危ないのです!」

「冗談よ」

 

プイッとソッポを向く彼女の様子を、猫は電の首筋から頭半分だけ見せている。しかし、さて、面白い試みだ。例の風呂に突っ込めば件の少女が何かはっきりするだろう。上から下まで兵器だとすればたぶん相応な時間出てこなくなる。

 

少女が艦娘に準ずるとすればつつがなく入浴は完了するだろう。だが、猫も連れて行くという事には流石の電も抗議した。

 

「電はまだそういう仲じゃないのです!」

「ちょっ、何勘違いしてんのよ!!」

 

電はどこか悔しそうに猫を両手で胸に押し付け、抱きつぶしながら騒ぎ出した。彼女は赤い顔で口早に、猫を連れて行った方が視界を制限できるため、好き勝手覗かれずに済むと弁解する。

 

だが、何かよからぬ言い回しを聞き流した気もしたので、そう思われていた方が安心だったかもしれないと、彼女は待てを躾忘れた魚削り器が全員が立ち上がった隙に全てを平らげていく様子をボウっと眺める。

 

脱衣所の小さな丸椅子に猫は載せられ、彼女の脱いだ上着が猫を包むように被された。猫は信用されていないと不貞腐れるように人肌ほどに暖かく暗いドームの中で丸くなる。

 

二人で少女を脱がしにかかるが、ソレは外科医が執刀を始めるかのような緊張感を持ち始められた。少女にしてみれば武装解除に相当するため、突然攻撃を受ける可能性を捨てきれない。

 

二人は自身の武装解除を先に行い、敵対する意思はないと、ゆっくりと少女も武装解除させる。幸いにもスカート部は全開閉するジッパーのようで簡単に外すことが出来たが、その中の肌着の取り外しに難儀した。

 

肌着が先か、ホバーが先か。

 

それ以上先を識ってはいけない。恐らく妖精の領域の話だ。もしかするとストライカー装備のように、仮想空間から引っ張り出してきているのかもしれない。

 

当の少女がこれでは聞くに聞けず、仕方ないのでそのままバスローブを少女のカラダにキツく巻き付けた。用意が整い、猫からブレザーを手品のように外すと猫は中で安眠していたようだ。

 

気を利かしたのか、あいつも何処かへ消えてしまったらしい。

 

少し獣臭くなってきた猫を連れ、彼女は小さな木の桶に適度な湯を張り手酌で猫のカラダに丁寧に湯をかけ洗い始める。少女は電に手を引かれ、どこかの猫型ロボのように地表スレスレに滞空しながらソロソロと滑りながら進んだ。

 

「うぐぅ。重いのです・・」

 

電はゆっくりと足指の先から入水したが、少女はシステムを切り潜水モードにでも入ったのか、全体重を手を引く電のカラダに落下させた。しぶきと共に電は少女に押し倒されみなそこに潰れた。

 

電は兄弟げんかのように丁寧にしろと怒るが、少女はどこ吹く風と涼しい顔で湯船に鎮座している。

 

少女の痛んだ衣類は妖精総出で絶賛解析中だが基本的な骨格は艦娘に酷似していたようだ。今後少女の衣類に関しては問題がなさそうで、少女の本体も特に変化が見られない。

 

偏見による杞憂だったかと、一同は気を緩め彼女は猫の背を取り風呂に逆さで浮かせた桶の上にちょこんと乗せた。だが、待てど暮らせど中々あいつは戻ってこない。

 

敵が一向に偵察機すら飛ばしてこないところを見るに、大規模作戦を準備しているか泳がされているのかもしれない。いずれにせよあいつの指揮がある方がいいのだが。

 

初めて湯に入り様子を伺っている少女に合わせ二人は長湯していたが、長湯が基本の艦娘と違う彼女は流石に湯から上がり石の上に座り湯冷ましを始めた。

 

肌寒い夜風が、風呂の蒸気をもうもうと昇らせ続ける。

 

「還って来たのです?」

「そうみたいね」

 

長らく戻ってこない隊長を電が心配そうに眺めていると、気を見たかのようにその意識は戻ってきたようだ。視界の中に少女たちが映り込む。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




 
※猫の目は『赤』が見辛いのであって
 本作内での白黒表現は演出上の誇張である。
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