膝の上のタイシン   作:感満

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3話

 俺がバイトを始める前からいつも用意する軽食なのに、なぜ元から食堂が用意しないのだろう。

 そう思ってた時期が私にもありました。今ではむしろ尊敬しております。

 一回タイシンに連れられて食堂行ったけど、あそこ戦場だわ。大量のウマ娘が昼食にティータイムに夕飯にやってきて皆美味しそうに食べるんだけど、奥見るとずっと忙しそうに動き回ってた。前ちょっとやったオフィス街と学生街のど真ん中にあるラーメン屋でバイトしたことあるけど、なんかあれと雰囲気似てるしこれが毎日フルタイムだったらただの地獄じゃない?しかも人増やしてそれらしいよ。

 そんなことを思ってはいるが、今日は食堂の人に負担をかけることになる。てなことで、

 

「今日はチーム丸ごと夜間練習だから軽食はないので練習後に食堂に行くように」

 

 チーム一つ丸ごと増えること確定してるのにその分の食事なんて増やされたくないのだ。

 今日は沖野トレーナーに頼まれて、スピカを丸ごと見ることになっている。その間沖野トレーナーは休憩できるかというと、そんなことはなく相手の研究やら練習の見直しやらをしている。時々同僚と飲みに行くらしいが、トレーナーは基本残業あり休みなしのブラックな職業なのだ。土日はレースだし、絶対就職したくない。もう去年地方トレーナー資格の受講すらしてないから取るとしたら毎日缶詰になって短期で地方とってさらに中央の資格目指さなくちゃいけないからもう絶対に無縁だが。

 

「えー!何でですか?用意してくれないんですか?」

「お前らの分まで作ってたら時間が足りないだろ。いつもみたいに見てるだけでいいんだったら構わないかもしれないけど、沖野トレーナーに何か指示受けてるんじゃないのか?」

 

 おそらく沖野トレーナーに指示された紙を渡されているであろうマックイーンとスカーレットへと目線を寄せて手を出して催促をする。全員分の指示だとメールでもらうより個別に書かれた紙を確認したほうがやりやすくて助かる。

 やはりマックイーンが持っていたようで人数分の紙を渡された。一通り見るとマックイーンとテイオーは調整。スぺはひたすらターフを走らせて練習というよりダイエット。スカーレットは長めの2,000をセットで走らせてウオッカはタイヤ引き。ゴルシはいるなら放牧……。まぁいいんだがそれでいいのかゴールドシップ。

 既に文句を言ってきてるスぺの横で明らかに家庭用の範囲を超えてるホットプレートを奥から引っ張り出し用意し始めて、業務用の冷蔵庫から大量のやさいと焼きそばの麺を用意し始めている。

 このチームを見る以上、軽食は今日は適当なフレークかフルーツとヨーグルトと牛乳を用意してあるのでそれを自由にかけて食べてもらうつもりだったから焼きそばを作る分には問題ないのだが。

 沖野トレーナーが指示して手伝わせてるのか。自分の好きなようにやった結果焼きそばを作ってるのか。

 以前、タマモがたこ焼き作りまくって少し噂になったのに対抗しているのかもしれない。

 調理師さん、今日は何とかなりそうです。むしろスぺいない分楽になるかもしれません。あと、それで食材余るんなら下さい。

 それにしても、ゴルシのやることって無茶苦茶なこと多いけどプラスに働くこと多いよな。

 やることが奇抜だったり派手だったりするけど、明確に被害者って呼べるのトーセンジョーダンぐらいなんじゃないか?

 まぁ、ゴルシは勝手にやらせておいて他のウマ娘達の練習を見ないと。

 俺は別にトレーナーでもないので練習を見ると言っても本当に眺めてるくらいと補助をちょっとといったことしかできない。

 スぺはエンドレスでトラック外枠で1周2:45ペースを保って走るように言ってスタートさせる。

 つけている腕時計が10秒前から反応するらしいので明らかにおかしいペースじゃない限りは声を掛けなくていいだろう。あの子は基本は体に余計な負担をかけるような走り方をしないので俺の出番はない。

 次はスカーレットにスぺが戻ってきてから第一コーナーまで差し掛かったら追走で差すように指示を出す。スカーレットに差しさせるのか?沖野トレーナーは。彼女も普通に練習してくれてれば出番はないので指示だけ出して放置。ただ、エンドレスのスぺと違って自分でタイミングをみてしっかりと走るように指示を出す。なんかやってることがトレーナーっぽい。俺なんも考えてないけど。

 次にウオッカはタイヤ引き。いや、その大きさのタイヤは俺のほうに持ってくるな。潰れでもしたら死ぬぞ。

 ウオッカに括り付けた着装具が変になってないか確認して、少しタイヤを引いてもらう。

 少し負荷が右に多くかかっていたので左をもうちょっと踏み込むように言う。左に、右に指示を出して負荷が均等に無茶なくできたところで少し何も言わずに見る。

 

「いつもよりキツイんだけど気のせいか?」

「いつもは楽な方に傾けたり、無理できる足で踏みこんだりしてるんじゃないのか?誤魔化してるところの筋肉も使ってるからそう思うんだよ多分」

「多分なのかよ!」

 

 そりゃそうだ、受け売りなだけで俺が知識として知っているわけではないし。

 詳しくは自分でトレーナーに聞いてほしい。沖野トレーナーは原理を知ってるし説明もできるけど実践はさせれないって言ってたなぁ。本当は施設で計器つかいながらやってることらしいけどよくわからん。

 うめき声をあげながらタイヤを引いているウオッカを置いて最後はテイオーとマックイーンだ。

 照明が極力明るい場所を選ぶ。

 チームスピカ以外もいるので邪魔にならないように二人が走れる場所を探す。

 ほかの面々が興味津々で見ているが、そっちに気をやってると見逃してしまう。

 奥の方で二人が準備できたようなので、右手を挙げる。

 最初はテイオーが構え、こちらに走ってくる。

 曰く、しなやかで柔軟な走り。他のウマ娘より蹴り足が強く、そして足の先までしっかりと伸びる走り。

 手の振り、肩の動き、足首、膝、股関節を注意深く見ながら俺の横をテイオーが走り抜けたのを確認する。

 それが終わったら次はマックイーンだ。マックイーンもテイオーと同じように走ってくる様子を見逃さないように注意して、わずかな違和感も取りこぼさないように気を付ける。

 それにしても二人とも早いよなぁ。真正面から見てるといつも眺めているより臨場感があるというか、迫ってくる感じが凄い。以前本気で怒らせたタイシンが走ってきたときと変わらない迫力を感じた。

 

「とりあえずマックイーンの方かな?マックイーン、ちょっと仰向けに寝っ転がって」

「えっとこうでよろしいんですの?」

 

 マックイーンに指示をしてターフの端の方で横になってもらう。

 

「うん、それで大丈夫。テイオーは悪いんだけどマックイーンの右足首と膝を持ってもらえる?」

「わかったよ!マックイーン、持ち上げるよ~」

 

 テイオーに頼んでマックイーンの右足を股関節から90度、膝、足首も90度の直角になるように固定してもらう。うーん……この時点で膝が若干怪しいんだけど大丈夫か?

 

「マックイーンって最近負荷強いことやったり追い込んだりした?」

「レースが近いので練習の量は増えておりますわ。現在は特に負荷をかけるような訓練は致しておりません」

 

 そうか。練習量が増えたせいで膝に負担がかかってんのか……。

 怪我しやすくなっちゃったのかなぁ。

 とりあえずテイオーにゆっくりと膝を奥に手前に移動してもらって、お腹へ近づけたり膝を伸ばしたりしてもらう。

 特に異常はなさそうなので、次は足首へと移る。

 伸ばしたり、曲げたり、少し横に向けたりしてみる。足首の負担も少し残ってるようなのでそこも注意して柔軟の時間を延ばすように伝える。マックイーンは家にもストレッチや整体関連のトレーナーがいるだろうし何とかしてもらえるだろう。

 右足が終わったら次は左足も同じようにする。こちらも同じような症状だった。

 

「前みたいに負荷が強くかかってるって訳じゃないから気を付けてやれば大丈夫だと思うけど、プロにちゃんと聞きながらやってね」

「わかりましたわ。もうそろそろレースですので調整しながらやります」

「そうだね。癖になってるわけじゃないんだけど前より負担かかってるのが不思議なんだけど、まあ何とかなると思うよ。これがスぺやオグリなら”太り気味の自重”で何時ものように走って足への負荷が強くなったとかなんだろうけど、本当になんでなんだろう?」

「な、何なんでしょうね?皆目見当もつきませんわ!」

 

 なんか慌ててるけどもしかしてマックイーン食べ過ぎたりしてる?まさかな。

 上半身は異常なさそうだったから次はテイオー。こいつは寝っ転がる必要もなく、いつものことなので座らせていったん靴を脱がせて足首を触る。

 

「もうちょっと気を付けて走れよー。またちょっと痛めてるんじゃないのか?」

「ボクは全然わかんないよ。トレーナーもカイチョーもなんも言わないし」

「誰もなんも言わないんなら大丈夫って訳じゃないだろ。疲労骨折一歩手前だったの忘れたのか?」

 

 スズカのケアをしても怪我をしてしまった。特にアドレナリンが出てるレース中となるといつもと違う部分が出てくる。それはしょうがないことではある。

 けどそれを最小限に抑えることはできて、怪我をしやすいウマ娘はずっと注意していかなければいけない。

 これでもスピカは沖野トレーナーから頼まれて他のチームより多く見る機会があるし、他のチームやウマ娘より怪我一歩手前の状態が多いので個人的にもつい気にしてしまう。それでも

 

「自分の体なんだから自分が気を付けないといけないんだからな?ちゃんとしてれば3冠目のレースにも出れたかもしれないんだし、怪我しなければチャンスは出てくるんだから」

「わかってるよー!走れなくなるのは嫌だもん!けど、秋が見てくれれば大丈夫でしょ?」

「お前なぁ……。俺がバイト辞めたらどうするんだよ」

「えー?辞めるの?辞めないでしょ?」

「とりあえず今やめる気はないけどさぁ……」

 

 こいつはどっかで大怪我しないといいんだが……。

 グリグリと足首を回して違和感がないか探る。とりあえずは問題ないようだけど、やっぱり他のウマ娘より前傾姿勢で走れるせいかちょっと前の方の付け根が疲れ溜まってるみたいなんだよなぁ。

 

「とりあえず今は大丈夫だけど、本当に気を付けて違和感あったらプールとかの練習に変えなよ?」

「わかったわかった。さ、マックイーン走ろう!」

 

 靴を履きなおしてしっかりと靴紐を締め直したテイオーがマックイーンを連れてターフを走っていく。

 その奥には行列が連なった先で、ついに夜店用の鉄板を持ち出して外で焼きそばを作り始めてるゴルシが見えた。なんだあれ、どっから持ってきたのか横に鍋置いてぼっかけ作ってぼっかけ焼きそば作ってやがる。しかも目玉乗せじゃねえか、俺も食いてぇ。

 

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