モスラ×ゴジラ エルフの村を火の海にしたので   作:よよよーよ・だーだだ

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序章:Incubation
1、マハラ・モスラ ~『ゴジラVSモスラ』より~


 わたしが自分の身の上について振り返るとき、『ドラえもん』の漫画でこういう話があったのを思い出す。

 

 ドラえもんに頼りっきりでお馴染みのボンクラ少年:野比のび太くんは、例によって現代社会に嫌気が差し、太古の昔の原始時代へタイムトラベルすることを思いつく。文明の発展していない原始時代、そこへ現代の文明の利器の数々を持ち込んで原始人の王様に君臨しよう、なんて浅はかなことを考えたわけである。

 まあ野比のび太くんのことだからその行動は抜け目だらけであり、持ち込んだ文明の利器は悉く役に立たず、原始人の王様どころか、『珍しい姿をしたサル』として原始人のペットにされてしまう始末だ。

 のび太くん、いつもこうだよね。いつだったか、雪山で遭難したしずかちゃんを救出に向かう回でも缶詰を持って行って缶切りを忘れたりとか、あと別の回でも結婚式の日取りを間違えて前日の式場に押し掛けてみたりとか、そういうアホみたいなエピソードばっかり。前世のわたしは、そんなのび太くんのマヌケっぷりをてんとう虫コミックスで読みながら、ゲラゲラ笑ったものだった。

 

 で、わたしが転生したシチュエーションは、まさにその野比のび太くんだった。

 生まれ変わった先は触角の生えた昆虫エルフ:インファント族。ふわふわの櫛毛が生えた額の触角と、絹糸みたいなさらさらヘアー、宝石みたいなキラキラおめめ、そして尖ったエルフ耳がとってもチャーミング。歌うときの声もとっても綺麗、声優さんで言えばCV悠〇碧さんって感じだし、自分で言うのもなんだけどキャラメイクはカンペキだと思う。

 

 ……だけどわたしの異世界転生で褒められるのはここら辺まで、問題は『世界』の方である。

 この世界はファンタジーRPGによく見られる中世ヨーロッパ風の世界、いわゆるナーロッパ世界ではない。遺跡とかを見るかぎり時代は遠い未来っぽかったけれど、それら人間の文明が潰えてから相当に久しく、どうやら一周回って原始時代になってしまったらしい。

 身長2メートルのクソデカ蟷螂(カマキラス)とか翼長5メートルのクソデカ蜻蛉(メガニューラ)とかがゴロゴロいる辺りは確かにすっごくメルヘンでとってもファンタジーなのだけれど、大変遺憾ながら魔法はない

 たとえばメ〇ローアとかドラ〇スレイブとかエターナルフ〇ースブリザードとか、そういう破壊力抜群の超スゴイ魔法が使えるなんてことは一切ない。ホ〇ミとかケ〇ルとかウ〇ンガーディアム・レ〇ィオーサすら無いからね、この世界。

 強いて言えばわたしたちインファント族はテレパシーが使えるけれど、ごく一部の例外を除いてそれで怪獣と心を通わせたりとかもないです。やってみたい? いいよ、どうぞ? せいぜい三時のおやつに喰われるだけだけれどね。

 

 だからわたしたちインファント族含めた人間は、我が物顔で闊歩する怪獣たちに踏み潰されないようその足元をこそこそ逃げ回りながら、一番ヒエラルキーの低い雑魚怪獣を狩って細々と暮らしている。

 この世界において人類は最弱。世界の主役は怪獣であり、怪獣たちが霊長として君臨している大怪獣時代。異世界は異世界でも、ここはゲームバランスの崩れたクソゲー異世界なのであった。

 

 ……よくさあ、『異世界転生してチート能力でヒャッハー!』みたいなの、あるじゃん? チート能力じゃないにしても知恵を使って工夫してすっごく大活躍、みたいなのもあるよね。せっかくの異世界転生なんだし、そういうの期待しちゃうじゃないですか、やっぱり。

 でもさ、あれってチートであれなんであれ『何かしらの特殊能力がある』から成り立つシチュエーションなわけで、わたしみたいに普通の人が何もないまま転生しても別に無双とか出来ないんだよね。チート、異能、わたしの場合そういうのは一切ありませんでした。

 ふざけんじゃねえよ。

 だいたい野比のび太くんは自分の意志での愚行だから自業自得だったわけだけれど、わたしの場合はトラックに撥ねられての転生、不慮の事故みたいなもんだった。いや確かに“ながらスマホ”してたけどさ、それくらいだったら神様ももうちょっと、サービスしてくれてもいいじゃないですか。ほらよくあるじゃない、『神様が間違って死なせちゃったから、転生特典でチート授けてくれる!』みたいなの。ただでさえクソゲー異世界なんだしそういうサービス、あってもいいじゃない。まったくもう、神様のイケズ☆

 

 ……まあ神様に文句垂れても別に状況は好転しないんで、頑張るしかないんですけどね。

 

 頑張る、といってもわたしはワ〇パンマンみたいに人一倍努力が出来るわけでもなければ、巷の転生者みたいに人一倍の機転が利くわけでもない。こういうときチート能力じゃなくてもやっぱり手に職というか、専門知識とか技術があると便利だよね。たとえばジャガイモが栽培できるとかさ、化学や治金の技術があるとかさ。いわゆる現代知識チート、それならきっと他の皆の役にも立てるのに。

 

 しかし、残念ながらわたしは、ただの普通の人、いやそれ以下の凡愚でしかなかった。

 前世の人生は酔生夢死、ただ無為に過ごしただけで、特に取り立てて特別な経験があるわけでも、素晴らしい知識や技術を極めたわけでもない。まさに文字通りの平凡な、ごく普通の人生。

 第二の人生を歩むことにはなったけれど、前世の知識が役に立つ場面は一切ない以上は人生を一からやり直しているのと変わらない。むしろ前世の知識なんて邪魔になるだけだ。

 なまじ第二の人生を送っている、それも文明の繫栄した時代からやってきたという自負から、わたしは何もできないくせにプライドだけは一丁前にやたら高かった。他人にも散々迷惑をかけたし、野比のび太くんと違って御人好しでもなかったからつまんない反抗期めいたものも患って、余計に周囲の足を引っ張ったこともあったっけ。

 

 ……そうやってどうにもこうにも思い通りにならない異世界転生ライフを送りながら、あるときわたしは気づいたね。

 たしかに野比のび太くんはボンクラ少年で、時にズルいことやマヌケな失敗もする、けれどそれは彼が『ボンクラ少年なりに幸せに生きようと頑張っているから』だ。そういう一生懸命な奴だからこそ、野比のび太くんは魅力的な主人公に成り得るんじゃないか。

 他方、野比のび太より能無しで、野比のび太より傲慢で、野比のび太よりも怠け者だったわたし。

 

 そんなのただの人間の屑じゃないか、って。

 

 それに気づいた時のわたしの絶望。自分のことも省みず世界や神様を恨んでみたり、グレてみたり、そんな虫のいい自分に気づいてほとほと嫌になったり。むしろわたしみたいな役立たず、存在していない方がどれだけ良かったろう。そんな風に自己嫌悪に塞ぎ込んだこともある。

 

 だけどインファント族の人たちは、そんなわたしのことを見捨てなかった。

 『どうしたの?』

 『大丈夫?』

 『困ったことはなんでも相談してね』

 時に厳しく、時に優しく、わたしのことを決して見放さなかった。野比のび太くんはいじめられっ子だったけれど、この村に『弱い者いじめ』なんてものはなかった。

 ……なんて善い人たちなんだろう。周りの善意が身に染みて、同時にそれに甘えるしかない自分が不甲斐なくて仕方なかった。

 

 とはいえ、わたしに出来ることなんて何もなかった。あるとすればそれはやっぱり、自分の出来ることを懸命に一つずつこなしてゆくしかない。残酷だけれど、それが現実だ。

 

 ……せっかく授かった二回目の人生だ。今度はもうちょっと意義のある生き方をしてみようじゃないか。

 心を入れ替え、文字通りゼロから再スタートする気持ちで、わたしはインファント族としての人生をやり直してゆくことにした。

 そんなわたしの再スタートを、インファント族の人たちは温かく見守ってくれたのだった。

 

 

 

 

 

 あれは、嵐の夜のことだったと思う。

 

 大切な日の天気くらい覚えとけやバカヤローって言われそうだけど、もう四十年以上前のことだし、この日は一日中リハーサルで地下神殿に籠りっきりだったので、外の天候なんてよくわからなかったのである。

 まあ春先のことだから『雪』ってことはないだろう。かといって晴天でもなかった気もするので、とりあえず嵐の夜だった、ってことにしておこう。

 

 地下神殿のステージ、その舞台袖でわたしは待機しながら、リハーサルの内容を脳内でリピートしていた。

 ……ステップ、段取り、セトリ、全部完璧。喉の調子、パーフェクト。身体のコンディションは絶好調! 誰もわたしを止めることはできない!!

 ……うん大丈夫、問題ない、やればできる。できるできるやればできるもっと熱くなれよ!! 前世ではやらなかったから出来なかっただけで、本当はやれば出来る子なのだ、わたしは。そう自分に言い聞かせる。

 ところでさ、緊張するとやたらテンション上がって口達者になる人っているよね。そう、わたしである。Oops、緊張しすぎてゲロ吐いて死にそう、というか死にたい。

 

 

 そういえば、この世界がクソゲー異世界なのは冒頭で散々ぼやいたとおりだけれど、わたしたちインファント族が無事に暮らしていけるのは秘訣がある。わたしたちインファント族には守護神、とっても頼りになる最高の『神様』がいるのだ。

 

 インファント族の守護神、その名は〈モスラ〉。

 

 極彩色の翅をもつ巨大蛾怪獣モスラ。『インファント族がテレパスで心を通わせられる数少ない例外』についてちらっと触れたけれど、それはモスラのことだ。モスラは並みいる怪獣の中でもとっても強い怪獣であり、しかも如何なる理由によるものか、モスラは人間たちのことを守ってくれる。インファント族にちょっかいを出す、それすなわち『モスラに喧嘩を吹っ掛ける』のと同義だから、三下の雑魚怪獣どもはインファント族に手を出してこない。

 言い換えれば、わたしたちインファント族が他の怪獣どもから根絶やしにされていないのは、ひとえにモスラに守られているおかげと言っても過言ではないわけで。そんなモスラを、わたしたちインファント族は守護神として崇め、村の女王として敬愛し、日々感謝を捧げながら暮らしている。

 

 

 そしてインファント族におけるわたしの役目は、『モスラの姫巫女』。インファント族の神様モスラを相手に、村中の想いを込めた舞踊を披露し、歌を歌って、祈りを捧げる。それがインファントの姫巫女であるわたしの仕事だった。

 特に今宵の儀式は重要だ。今回わたしが歌を捧げる対象はモスラが生んだ大事な卵。今宵この儀式で姫巫女の歌のパワーで孵化させる予定。この卵がきちんと生まれるかどうかは歌を捧げる姫巫女であるわたしの技量次第、まさに村の未来が掛かっていると言っても良い。

 

 儀式のとき、わたしはいつもナーバスになりがちだった。

 これがアイドルマ☆ターとかラ♥ライブのヒロインとかだったらまた違うのかもしれない(彼女たち、ホントに楽しそうに唄うよね~)けれど、別にアイドルアニメのヒロインってわけでもないわたしはいつもどおり、いやそれ以上の重圧で、今にも潰されそうになっていた。

 ……だって想像してごらんなさいよ。これで下手こいたら「神は死んだ、おまえが殺したのだ」とか言われるんだよ? フリードリヒ=ヴィルヘルム・ニーチェ先生もびっくり、マジモンの神殺しである。これで緊張しない人の方がどうかしてるでしょうよ。

 ……あ、あかん。変なこと考えてたせいで震えが止まらなくなってきた。全身からサブイボが粟立ち、冷や汗が溢れ出て、がちがちと奥歯が鳴る。神を殺す前にまず自分が緊張で死ぬかもしれん。てんでダメじゃんわたし。

 裏返りそうな消化器を抑え込みながら舞台袖で待機していたわたしのところに、ある人物が現れた。

 

「……調子はどう、アヤミハ?」

 

 ナグニサ姉様だ。わたしのたった一人の姉にして、()()()のパートナー。

 

姉様(あねさま)っ!」

 

 わたしは小声で叫び、姉様に縋りついた。姉様の腕の中に身を摺り寄せ、その温もりを存分に味わう。

 そんなわたしを見ながら、苦笑するナグニサ姉様。

 

「まったく、アヤミハったら甘えん坊さんなんだから……」

「だってぇ……」

 

 ……キャラ違うじゃんって? 脳内ではこんなに口達者なわたしだけど、現実だとむしろ無口なタイプだったりする。コミュ障? だまらっしゃい、控え目と言え。

 そうやって精一杯抱き着いて甘えるわたしを撫でながら、ナグニサ姉様はいつもどおり微笑んでいたのだけれど、ふと様子がおかしいことにわたしは気づいた。

 

「……どうされたのです、姉様?」

 

 わたしが訊ねると、ナグニサ姉様はわたしへ目線を合わせないように逸らしながら、ぽつりと言った。

 

「……ごめんね、アヤミハ」

 

 ……なぜ、姉様が謝るの。わたしが叱られるならともかく、ナグニサ姉様に悪いことなんか何もない。

 首を傾げるわたしに、ナグニサ姉様は伏し目がちに告げた。

 

()()()()()()()()()()()()()()、あなた一人にこんな重たい仕事を任せてしまって」

 

 ナグニサ姉様のお腹は大きく膨らんでいた。

 ……かつてわたしとデュオを組んでいたナグニサ姉様は、昨年結婚してモスラの巫女を引退していた。そしてナグニサ姉様は今、姉様が選んだ人との愛の証をその体で育んでいる。

 医者によれば、姉様の子供は双子らしい。もう直に十月十日(とつきとおか)、臨月だ。姉様のお腹の中で双子ちゃんはすくすく育っていて、今日か明日か、というところらしい。

 そんな状態の妊婦さんに、全身全霊を捧げる歌と踊りのパフォーマンスなんて到底無理だよね。そんなわけで、今夜の儀式はわたし:アヤミハ一人で行うことになっていた。

 

 思い返してみれば、儀式のときにわたしが潰れそうになったとき、支えてくれたのはいつもナグニサ姉様だった。ヘタレでチキンなわたしをナグニサ姉様は、舞台裏では優しく励まし、舞台の上では力強くリードしてくれた。

 ……姉様はきっと、いつもみたいにわたしが頼りない醜態を晒していると思って心配してくれているのだ。

 プレッシャー? そんなの知るか、ヘタレてる場合じゃない。いつまでもナグニサ姉様に甘ったれてんじゃねえよ。

 

「……大丈夫ですよ、姉様!」

 

 わたしは自分に喝を叩き込み、元気な表情を取り繕った。覆い被さる不安を吹っ飛ばし、わたしは胸をどんと張ってこう応える。

 

「このアヤミハ、姉様の分も立派に務めを果たして御覧に入れましょう! “全集中”で頑張ります!」

「ゼンシューチュー……?」

 

 わたしの言葉にナグニサ姉様は一瞬怪訝な顔をしたけれど、すぐに「……ああ、“前世”の話ね」と笑ってくれた。

 ……ナグニサ姉様は凄く優しい。わたしがこうやって突拍子もないこと、たとえば前世の話を言い出しても、ナグニサ姉様はニコニコ笑って聞いてくれる。

 

「ええ、精魂込めて頑張ります、ってことです! だから姉様は安心して、御自身のことに集中してくださいませ!」

「……ふふ、頑張ってね」

 

 ……よかった、笑ってくれた。

 こんな、世が世なら狂人扱いされてもおかしくない社会不適合スレスレのわたしを、ナグニサ姉様は大切な妹分として愛してくれていた。

 わたしときたら前世からの転生で途惑うばかり。時にぐれたり、かと思えばろくに役に立つこともない。そんな愚図のわたしを見放さず、最後まで面倒を見てくれた優しい姉様。

 そんなナグニサ姉様のことが、わたしは大好きだった。

 そうこうしているうちに時間がやってきた。

 

「さ、行ってらっしゃい」

 

 ナグニサ姉様に背を押され、わたしはステージへと躍り出た。

 

 

 

 

 神殿は暗く、静まり返っていた。

 ヒカリコメツキたちのスポットライトが一斉にわたしを照らし、暗がりからまぶしい光の集中に、瞳孔が収縮して目が眩む。

 視覚が慣れてきて見えてくるのは、ステージ下の観客席でこちらを見上げている村人たち、そしてその最奥の玉座でこちらを見守ってくれている女王モスラ。

 期待の籠った視線、緊張と不安のみなぎるざわついた空気。小心なわたしは、それらの集中砲火で思わず気が遠くなりそうになる。

 

 だけどその刹那、わたしは、背後の台座に据えられたモスラの卵を思い出して持ち堪えた。

 ……“この子”は、こちらの世界へ呼びだされるのを待っている。窮屈な卵の中から広い世界へ出たい、生きたい、そう願っているはずだ。

 

 だからわたしが手を引いてあげなくちゃ。

 

 目を一瞬伏せ、軽く息を吸い込み、内心のプレッシャーを追い払ってからわたしは声を出す。我ながら透き通った声が、神殿のホールに響き渡り、会場は一瞬にして静まり返る。

 ……うん、滑り出しは順調だ。この調子で一気に行こう。わたしが全身でリズムを刻んでステップを踏めば、バックバンドが一曲目を流し始める。

 

 ……ボクがキミに 何か渡せるものがあるとするなら

 教えてほしい 何が必要で何が足りないのかを

 

 一曲目は『Pray』。最高の一曲だ。これから生まれてくるモスラの赤ちゃんへの祈り(Pray)を込め、わたしは(うた)を紡いだ。

 

 それでもキミは ひとりで歩く

 『何も要らない』と強がって……!

 

 そして儀式(ライブ)は始まった。

 

 

 

 

 

 

 儀式は滞りなく進んだ。

 『Pray』から始まり、『インファント島の娘』、『幸せを呼ぼう』、『エコーズ オブ ラブ』、『ハオラ・モスラ』、『WHITE OUT』、『THE SKY FALLS』、『虹の彼方に』、『in case...』、『青い』、その他どれも負けじと劣らぬ素晴らしい曲の数々。どれも過去の巫女たちが代々口伝で伝えてきた名曲たちだ。

 あと、個人的な好みで『Here We Go』みたいなノリの良い曲も挟んでみたり。

 

 Here We Go!

 

 わたしがシャウトする度、オーディエンスの皆も『Here We Go!』と合いの手(コール)を入れてくれる。そこへわたしはすかさずリリックをぶちかます。

 

 Give it a 100 never nothin' less!

 Here We Go!

 We comin', you already know the rest!

 Here We Go!

 We never settle 'cause we know it best!

 Here We Go!

 Who wanna test? Who? Leave you outta!!……

 

 ……これホント良いよね~。ラップは好きだ。噛むことなくリズムよく一気に捲し立ててゆく感じが実に気持ち良い。オーディエンスの皆もノリノリ、場のテンションは大盛り上がりである。

 ……え、何、『異世界なのに英語のラップがあるのか』って? やだなあ、“イメージ”に決まってるじゃないですか。

 実際は歌詞もメロディも全然違うのだけれど、テレパスの共感覚(センス)と組み合わせた上で言語に置き換えると、だいたいこんなイメージになるのである。だいたい異世界言語の曲をそのまま書いたところで別に面白くはないし、ニュアンスも伝わらないでしょ? わたしの美声とテレパスをお伝え出来ないのは甚だ残念に思うけれど、“意訳”って奴だと思ってここは勘弁して頂戴。

 とまあ、そんなことはさておき、最後はわたしお気に入りの名曲、『NOW AND FOREVER』で締めくくる。

 

 SHA-LA-LA-LA 愛のうたよ あふれるほどの I Love You

 ときめきを このまま ずっと揺らさないで

 SHA-LA-LA-LA 光る風よ 生まれたままの Oh My Soul

 永遠が あるなら Wow-wow Baby なくさないで

 Wow-wow Baby……

 

 今回の儀式について、わたしは確かな手応えを掴んでいた。

 村人たちは皆楽しんでくれているし、心なしか母モスラでさえも快い楽曲に身を揺らしているように見える。ここ最近では一番、いいや姫巫女アヤミハ史上、最高のパフォーマンスが出来ている。わたしはそう確信していた。

 渾身の舞いと熱唱を繰り広げるその最中、わたしは目の端で、背後の台座に据えられたモスラの卵を一瞥した。

 ……これだけのパフォーマンスが出来ているのなら卵の方だって、きっと。

 

 やがて卵に変化が現れた。

 先ほどまでは静かに佇んでいただけの卵がゴトッと音を立てて微かに動き、観衆の村人たちがどよめいた。内部のモスラ幼虫が、外の喧騒に反応しているのだ。

 ……いやいや、ここで気を抜いちゃ駄目、ここからが肝心だ。わたしは気を引き締めた。

 ほら、おいでよ。生まれておいで。外の世界は楽しいから。あなたの元気な顔がわたしは見たい。

 そんな祈りを、願いを、気持ちを込めながらわたしは最後のスパートをかける。

 

 わたしのラストスパートを受け、卵の蠢きはより大きくなり、さらに表面へ亀裂が入り始めた。

 いよいよ生まれるのだ。

 村人、母モスラ、そしてわたし、その場のテンションが最高潮に到達したクライマックス。わたしがラストの曲を終えると同時、卵は中から打ち砕かれた。

 そして中から現れたものに、その場にいた者すべてが驚愕する。

 

 

 ――――双子!?

 

 

 そう、この卵は『双子』だったのだ。

 思えば、ナグニサ姉様が身籠った子供が双子だったのは、同時期に生まれることとなったこの卵の影響だったのかもしれない。むしろモスラの卵が双子だったからこそ、ナグニサ姉様は双子を孕んだのかもしれなかった。

 一頭でもめでたいのにモスラが二頭も生まれるとは、なんと素晴らしいことだろう。村人たちもわたしも、皆一斉に大歓喜へ湧き上がった。

 

 ……だが、そんなおめでたいテンションは、すぐに水が差されることとなった。

 どさっ、と卵の方から重たいものが落下する音。それと同時、ステージを見上げていた村人たちから歓喜の色が拭い去られて、大興奮の空気は一気に冷め切ってしまった。

 ……一体何が起きたのだろう。わたしは即座に、卵の方へと振り返った。

 

 双子の片割れは、息をしていなかった。

 

 生まれた二頭の幼虫のうち、紫の瞳をした一頭は元気いっぱいに産声を響かせていたけれど、緑の瞳をしたもう一頭は卵の殻を破るのに精一杯で力尽き、産声をあげることもないまま倒れ込んでしまった。

 

 

 ……わたしは、頭の中が真っ白になった。

 人間の赤ん坊にとって産声は何よりも大事だ、でなければ呼吸が出来ずに死んでしまう。それと同じで、モスラの幼虫も自力で卵を割り、そして産声を上げられなければそのまま死産となってしまうのだ。

 だからこそ孵化に当たっては姫巫女の儀式が大事なのだった。姫巫女の捧げる歌は思念の力へと変換、それを受けた幼虫は卵の殻を喰い破る活力を発揮する。

 つまりわたしの捧げた歌、パフォーマンスは、モスラ一頭には充分でも双子二頭には足りなかったのである。

 

 ……仕方ない。そんな気持ちが、場の空気に差し込んできた。

 

 『双子だった』なんて想定外だ。しょうがなかった。一頭だけでも無事に生まれただけ良かったじゃないか。死んでしまった方は丁重に弔ってあげよう。

 そうやってわたし、いいや、村中の誰もが諦めようとした、まさにその時だ。

 

 

 母モスラの悲しげな声が響いた。

 

 

 目を向ければ、母モスラはこちらを見ていた。

 いや、わたしなんか見ていない。彼女が見ているのは自分の子供だった。

 夜空のように深い青、母モスラの目。母モスラの視線は相変わらず慈悲深い輝きを湛えていたけれど、悲しげな光も帯びているようにわたしには思えた。

 

 その時、わたしは、ビンタで闘魂を注入されたような気分になった。

 母モスラが悲しむのは当たり前だ。生まれたばかりの我が子が息絶えようとしているのだから。待ち望んでいた子供が死んでしまう、それで悲しまない母親がどこにいる。

 ……何が『想定外』だ。諦めようとしてしまった自分自身のヘナチョコぶりが、わたしは心底嫌になる。

 さっきナグニサ姉様に『立派に役目を果たして御覧に入れます』とかましたじゃないか。それともあれはウソだったのか?

 力が足りない? 双子だった? それがどうした。だったらわたしが『二倍頑張ればいい』だけだ。

 わたしは、渾身の力を振り絞って声を張り上げた。

 

 ――マハラ、マハラ、モスラ

 

 とっさのアドリブだった、と思う。

 自分のことなのに自分でわからんのかって言われそうだけど、ぶっちゃけ緊張の極限で白目を剥いてたのでよく覚えてないのである。

 あれはいわゆる『トランス状態』ってヤツだったのだろうか。あるいは、あまりに無様なわたしのパフォーマンスを見かねて、ご先祖様だか神様だかがアシストしてくれたのかもしれない。

 だって予定のセトリになかったはずの楽曲が、絶妙なタイミングで頭の中へと降りてきたのだから。

 

 マハラ マハラ モスラ

 

 ターマ ターマ モスラ

 

 ラーバン グエラ ラバナン……

 

 わたしが唄ったのは『マハラ モスラ』。

 意味は『尊きモスラ』。戦いに挑むモスラを讃え、励まし、そして未来へ繋ぐための応援歌。この場面においてはこれ以上ない、我ながら実にナイスな選曲であった。

 ……まあ、わたしは頭に浮かんだ歌詞を大声張り上げて唄ってただけだけどね。いや、もはやアレは歌とは言えなかったろう。全力のパフォーマンスの後だったし喉が枯れて声はガラガラ、掠れてしまっていてとても聴けたものじゃなかった。

 

 だけど、それでもモスラには届いたようだった。

 息をしていなかった幼虫がぴくり、と動いた。

 ……まだだ、まだチャンスはある。何より『この子』はまだ生きようとしている。

 わたしは懸命に、がむしゃらに、モスラへ歌を捧げた。

 

 マハラ マハラ モスラ

 

 ターマ ターマ モスラ

 

 ラーバン グエラ ラバナン……

 

 そんなわたしの意思(?)を汲んでくれたのか、バックコーラスもアドリブで合わせてコーラスしてくれた。

 コーラスにつられ、他の村人たちも一緒に唄い出す。村人たちは練習なんかしてないから最初はバラバラだったし、歌が上手い人もいれば下手な人もいて、音程もチグハグだった。

 けれど、モスラへの想いは皆一緒だ。繰り返し繰り返し唄う内に、わたしと村人たちの歌声は重なり始め、ついには盛大なハーモニーを紡ぎ上げる。

 

 マハラ、マハラ、マハラ……!!

 

 あの夜、あのとき、あの瞬間。

 わたしたちは一つになって、生きようと足掻くモスラを懸命に応援していた。

 

 

 

 祈りは、届いた。

 

 

 

 死に瀕していたモスラ幼虫の緑の瞳に、生気の光が灯る。力無く伏せていた身を起こし、立ち上がる。

 そして“声”が響く。

 ……キュウ。

 とても弱々しかったけれど、それはたしかにモスラ幼虫の産声だった。黄泉に旅立とうとしていたモスラ幼虫は、寸でのところで此岸に踏み止まってくれた。

 

 彼女は、生きることを選んでくれたのだ。

 

 ……そのときの有様を、わたしはなんと表したらよいのだろうか。

 村人たちは一斉に歓喜の大歓声、母モスラさえもが狂喜の声を轟かせていた。

 わたし自身はというと、正直あんまり覚えていないのだが『ヤッター!と飛び上がって大喜び』みたいなことは不思議となかった気がする。あるいは、文字通りの全身全霊を捧げてしまったので、そうやって狂喜乱舞する元気すら残ってなかったのかも知れなかった。

 ただぼんやりと『……良かった』と安堵したのは覚えているけどね。

 

「アヤミハッ!」

 

 ステージ上で茫然自失だったわたしは、その呼び声で我に返った。

 振り返った途端、舞台袖から飛び出してきたナグニサ姉様にぎゅっと抱き締められていた。

 

「アヤミハ、アヤミハ、よくやったわね、アヤミハ……!」

 

 ……えへへ。やりました、姉様。

 泣きじゃくりながらわたしを抱きすくめてくるナグニサ姉様に、わたしは気の抜けた笑顔と、ガラガラに潰れた声でそう応えた。

 

 

 

 

 

 ……とまあ、転生者であるわたし:アヤミハのいつだったかのどうしようもない苦労話なんかも挟んだのだけれど、残念ながらこの話の主役はわたしじゃあない。今回の話はツカミであってわたしはここまでの狂言回し、本筋においてはちょっとしか出てこない脇役だ。

 

 この物語、本編スタートは40年後。主役は極彩色の怪獣モスラ。

 これはモスラたちがすったもんだの末、怪獣王:ゴジラと史上空前最大怒涛の怪獣プロレスを繰り広げる話である。

 

 




『モスラ対ゴジラ』の我流リメイク。皆も観ようぜ『モスラ対ゴジラ』! 今ならネト●リでもアマ●ラでも見放題だZE☆

使用楽曲コード:05354552,08071918,1P739063,24625396

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