モスラ×ゴジラ エルフの村を火の海にしたので   作:よよよーよ・だーだだ

3 / 5
3、村へ到着

 怪獣クモンガに追われていた折、インファント族のエルフ少女:マユナとその相棒のモスラ=レオナに助け出されたボク、ジングウジ=ヤエコ。

 

「ヤエコさん、行く宛がないの? だったら、あたしたちの村においでよ!」

 

 マユナたちはそう言って、ボクを自分たちの村へ連れて行ってくれることになった。

 動きやすそうだが極々シンプルな服を着たマユナ。そんなマユナの装いを見るかぎりでは、おそらく彼女の村はアニゴジ二作目『決戦機動増殖都市』から登場したフツアのような原始生活なのだろう。多少の不便は我慢する必要もあるだろうし、あるいは思わぬカルチャーギャップで面食らうことだってあるかもしれない。

 しかしそれらを差し引いても、マユナの申し出はボクとしてはとてもありがたいものだった。たとえ原始生活であろうと、少なくとも屋根のある場所で寝泊りが出来る。それに、怪獣相手にあんな死に物狂いの追いかけっこなんてもう御免だ。断る選択肢など毛頭なかった。

 そんなわけでボクは、マユナ&レオナと共に森の中を進んでいるところなのだが……

 

「ま、待って……!」

 

 マユナの歩くスピードがそこそこ速い。

 ボクが鬱蒼と繁る草木を懸命に掻き分け、足元を確かめながら一歩ずつ進まざるを得ない一方、マユナの方はまるで最初から正しい道順がわかっているかのようにひょいひょいと軽快な歩みで進んでゆく。

 それに、前回から言っているとおりボクはインドア、ハッキリ言って体力は貧弱な方だと自覚している。足元も覚束ない険しい道程では、マユナの軽い足取りについてゆくのが精一杯で、気を抜くとどんどん距離を離されてしまう。

 ……それにしても、一体どこまで歩くのだろう。慣れない獣道、長時間行軍はなかなか厳しいものがある。正直、そろそろ休ませてほしい。

 ボクがへばって遅れていることに気がついたのか、マユナがこちらへ振り返って足を止めた。

 

「……大丈夫、ヤエコさん?」

 

 気遣ってくれるマユナに、ボクは息を切らしながら答えた。

 

「ごめん、ちょっと、休ませて、ほしい……」

 

 両膝に手を着きながら額の汗を拭うボクに、マユナは「……ふむ」としばらく思案していたが、やがてこう答えた。

 

「……ちょっと待ってね」

 

 そう断りを入れたマユナは、傍にいたモスラ=レオナと、頭の触角を重ね合わせた。

 ……何をするつもりなのだろう。そう思いながら眺めていると、「ねぇ、レオナ」とマユナは話を切り出した。

 

「ヤエコさん疲れちゃったみたいだから、背中に乗せてあげてもらってもいいかな?」

 

 驚くべきことにこのマユナという昆虫エルフ少女、怪獣モスラと『会話』をしていた。それも、まるで日常会話をするような気軽さで対話している。

 

「……え、なに、『知らない人を乗せたくない、わたしは家畜じゃないよ』って? もう、そんなこと言わないでさ、行きだってあたしのこと乗せてくれたじゃない? 今度お化粧してあげるから、ね?……」

 

 怪獣といえば人間とは意志疎通できないものだ、出来たとしてもよほどのときだけだろう。そんな東宝特撮シリーズの常識をブッ飛ばす光景に、ボクは面食らってしまった。こんなの解釈違いだ、設定違いだ、そんな風にゴジラ映画ファンがキレる風景が頭に浮かぶ。

 そんなボクを尻目に、マユナとモスラはしばらく話し込んでいたが、やがて話がまとまったようでマユナはこちらへ振り向き言った。

 

「大丈夫だ、って!」

「……すまない、助かるよ」

 

 ボクはマユナに手伝ってもらいながら、モスラの背中に乗せてもらった。そういえば、過去の映画で成虫モスラの背中に乗った作品はあったと思うが、幼虫モスラの背中というのは初めてな気がする。

 モスラの背に乗ったボクに向けて、マユナが声をかける。

 

「乗り心地はどう? ちゃんと乗れてる?」

 

 乗り心地は……正直、かなり微妙と言わざるを得ない。鞍や手綱があるわけでもないし、幅が広いのでしっかり跨がって座れるわけでもない。しかもそこそこ揺れるので、油断すると落とされそうになる。むしろ胃が空っぽで良かったかもしれない、満腹の状態だったら乗り物酔いで吐いてたかも。

 

「うん、なんとか……」

 

 とはいえ、疲労困憊で乗せてもらっている分際なのだし贅沢は言うまい。ボクはなんとか乗りこなそうと苦心惨憺、試行錯誤を繰り返す。しかし、やっぱりなかなか上手く乗れずにずり落ちそうになってしまう。

 そんなボクを見かねてか、マユナが動いた。

 

「よいしょっと」

「ま、マユナちゃん!?」

 

 マユナはモスラの背中へひょいひょいとよじ登ると、ボクの背後へと乗り込んだ。

 いわゆる『二ケツ』である。これまでモスラに乗った人はいたかもしれないが、モスラの背中でニケツするのはボクが史上初であろう。

 マユナの長い両腕がボクの腰へと巻きつき、スマートながらも筋肉質で逞しい若木のようなマユナのしなやかな肢体が、ボクの体へ密着した。

 

「どう? これなら落ちないでしょ?」

「う、うん……」

 

 ……さっきの『おでこニアミス』の件もそうだけど、マユナの距離感って一体どうなってんだろう。パーソナルスペースって概念が無いんだろうか。

 いや、善意なのはわかるし、実際しっかり支えてくれているのでとても助かるし、むしろ力強い両腕でぎゅっと抱き締められてちょっと安心感もあったりって何言ってんだろうなボクは。

 

「それじゃ、しゅっぱーつ!」

 

 どぎまぎしているボクに気づいているのかいないのか、マユナが声を挙げるとモスラは再び動き出した。

 森の風景が流れてゆき、廃墟の街が遠ざかってゆく。

 

 ……それから10分。揺れるのは相変わらずだが、マユナがしっかり抑えてくれるのはもちろんのこと、自分自身でも乗っている内に段々コツが掴めてきて、今度は比較的楽な姿勢でリラックスして乗ることが出来た。

 ……さて、疲労の中でリラックスしてくると、次に襲ってきたのは睡魔だった。

 そういえば前回触れなかったのだけれど、異世界転移する直前のボクは、行きつけの名画座で上映された怪獣映画のオールナイト(ちなみに上映していたのはソフト化されていないあの幻の作品、『獣人雪男』! 観ないわけにいかないでしょ?)からの帰宅途中だった。つまりボクは徹夜明けでフラフラのテンションのまま異世界転移したのである。しかもその後クモンガに追いかけ回された疲労も重なって、そろそろ限界に達しつつある。

 ……やばい。もう駄目だ。

 うつらうつらとモスラの背に揺られ、ボクはついに意識を手放してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ヤエコさん、ヤエコさん!」

 

 呼ばれる声で、ボクは目を覚ました。

 ……やれやれ、『怪獣のいる異世界への転生』だなんて珍妙な夢を見たものだなあと思って周囲を見回してみると、ボクは相変わらずモスラに騎乗していた。

 背中に重みを感じたのでまさぐってみると、背に毛布を掛けられており、さらに眠ったままでも落ちないよう巧い具合に体を固定してあった。どうやらボクはモスラの背中の上で眠り込み、突っ伏した姿勢で乗せられて運ばれてきたらしい。

 足元の方を見れば、昆虫エルフ少女のマユナがこちらへ「そろそろ村だよ、起きて!」と声をかけていた。ボクの記憶が正しければ一緒に乗っていたはずだが、いつの間にやら降りてしまったらしい。

 

「ヤエコさん、よほど疲れてたんだね。ずーっと寝てたもんだから、寝かせたままにしちゃった」

 

 ……夢、じゃなかったのか。

 異世界転生もエルフ少女との出会いも、そしてモスラに乗せられて運ばれているこの状況も、すべて現実のようだった。

 

「起こしてくれてありがと、マユナ」

 

 礼を伝えながら空を見上げると、空はすっかり夜の帳が降りて、深く暗い夜天に星々がまたたく綺麗な星空になっていた。具体的な時刻で言えば深夜を回っているかもしれない。クモンガに追いかけ回されていたのはたしか日が暮れる前、だいたい夕方5時くらいだろう。そのあとマユナと出会って、廃墟を出発して、それからだいたい4~5時間程度くらい、といったところだろうか。

 

 視界を前方へと移すと、かつては道路だったのだろう幅の広い道が続いていた。目を凝らして見ると草が薙ぎ倒されたような跡が見られるので、あるいはここはモスラ幼虫がいつも使う獣道なのかもしれない。

 そんなモスラ専用道の片隅に、経年劣化で崩れ落ちたとおぼしき大きな標識の看板が視界に入った。看板はボロボロに錆び付いていたが、このように読み取れた。

 

『ここは飯能、池袋まで40キロ』

 

 あれから40キロも進んでいたのか。映画での描写を思い出すかぎり、モスラの移動速度は怪獣としては遅い方だったと思うが、やはりサイズが違う。いや、時速10キロくらいだとすればジョギングくらいのスピードだし、やっぱり遅い方かも。

 ……それとも、ボクが落ちないように気を遣ってくれたんだろうか。

 

「ありがとね、レオナ」

 

 そう言いながらボクがモスラ=レオナの頭を撫でると、レオナはキュウと鳴いて応えてくれた。マユナと違ってモスラの言葉はわからないボクだけど、返事をしてくれたこと自体がなんだか嬉しかった。

 

 またこうして見ると、ボクがモスラに乗せてもらったのはむしろ良い判断だったのかもしれないとも思えた。

 東京のJR山手線一周がおよそ30キロなので、ボクたちはそれより長い距離を数時間で移動してきたことになる。有名なフルマラソンの距離は42.195キロ、40キロメートルはそれに匹敵する長距離だ。マラソンじゃないから走る必要はないとはいえ、道がちゃんと舗装されているわけでもないし、ただでさえ体力貧弱なボクがそんな長距離を歩くのは無理があるだろう。

 そんな思考を巡らせていたボクを尻目に、マユナは元気良く言った。

 

「ほら、あそこがあたしたちの村だよ!」

 

 そう指差す先には、木材で組み上げた大きな砦、そして内部へ通じる巨大なゲートがあった。

 ゲートの大きさはモスラ幼虫も通れそうなほどで、厳重な櫓が組まれている。きっと先日のクモンガのような怪獣たちからの襲撃から身を守るために必要なものなのだろう、とボクは推測した。

 ボクらが向かう村のゲートの方から、一人の少女が声を張り上げながら駆け寄ってきた。

 

「マユナ!!」

「ただいま、イコナ!」

 

 元気よく快活に返事をしたマユナに、イコナと呼ばれた出迎えの少女は、目つきをきつく吊り上げながら言った。

 

「アンタまたふらふらと……どうせ止めても無駄だろうけど、せめて一言断ってから行きなさいよ」

「えー? ちゃんと言ったよ?」

 

 不満げにブーイングするマユナに、イコナと呼ばれた少女はピシャリと言った。

 

「またいつもの『ちょっと出掛けてくるー』でしょ? そのまま3日近く帰って来ないのは『ちょっと』とは言わないの。どこ行ってたわけ? どうせ遺跡でキャンプだろうけど、行くなら行くで行き先と、どれくらいに帰るのかくらい伝えて欲しいんだけど。それくらいわたしに言われなくてもちゃんとしなさいよ、アンタ何歳なの?」

「言ったら言ったで今みたいにねちっこくお説教するじゃん……」

「何か、言った?」

「いや、別に」

 

 マユナはぶつくさぼやいたが、イコナにぎろりと鷹の目つきで睨みつけられて、すぐさま誤魔化しながら話を続けた。

 

「それに『一言断れ』っていうけどさ、叔母様にもちゃんと許可取ってんじゃん」

 

 言い訳めいたマユナの主張を、イコナは「それじゃ足りない」と切って捨てた。

 

「叔母様だけじゃなくて、わたしとか周囲の人へちゃんと相談をしなさい、って言ってるの。いちいち叔母様の手を煩わせることになるでしょ?」

 

 ……たしかに、イコナの言うとおりだ。

 二人の諍いを眺めていたボクだったけれど、内心ではどちらかというとイコナの言い分に賛同だった。このイコナという少女、周囲への報連相や根回しの大切さを理解しているとは、まだ若そうなのになかなかのしっかり者と見える。

 他方、マユナの方はと言えば、これまた随分とマイペース、悪く言えばかなりズボラでいい加減な性格らしいことが見えてきた。友達になって楽しいのはマユナの方かもしれないが、一緒に仕事をする同僚にするならイコナの方だなあ、なんてことをボクは考えた。

 イコナは続けた。

 

「だいたい、アンタひとり黙って出掛けて、その先で何かあったらどうするの? 逆にこっちで何かあって、アンタを急に呼び戻さなきゃいけなくなったら? こっちは宛もなくアンタを探し回らなきゃいけなくなるんだけど??」

「レオナもいるし、いざというときはフェアリーで呼んでくれれば大丈夫だよ。イコナは心配性だなぁ」

「そういう問題じゃなくて……」

「あ、それともあたしのこと心配してるの?」

「べ、別にアンタのことを心配してなんか……」

 

 あ、ツンデレの常套句。

 なんだか頭の痛くなりそうな会話が繰り広げられている中、イコナがふとこちらを見た。

 

「……まあ、いいか。で、その人はなに?」

 

 モスラの上に掛けているボクの方を睨みつけながら、ぶっきらぼうに尋ねるイコナ。マユナが答える。

 

「この人はね、ジングウジ=ヤエコさん! 迷子だっていうから連れてきた! ヤエコさん、紹介するね、こっちはあたしの姉のイコナ!」

 

 イコナという少女が何者なのか、先ほどからボクは内心で訝っていたのだけれど、やはりマユナの血縁だったのか。道理で似ていると思った。

 マユナの姉だとされるイコナは、こうして改めて紹介されてみると、これまた驚くほど妹のマユナに似ていた。

 絹糸のようなサラサラの頭髪、宝石のようにキラキラの瞳、そしてつんと尖った両耳。イコナの体つきも細身で小柄だが、これまた筋肉質で引き締まっており、全身がほどよく鍛え抜かれているようにも見える。そして何より、額から生えた櫛歯状のふさふさの触角。マユナそっくりの鏡写し、まるで瓜二つだ。

 ゴジラ映画のモスラと言えば双子が付き物だ。アニゴジにも双子のフツアが登場していたが、この世界のマユナとイコナもおそらくは双子なのだろう。

 

 だが全くのコピーでもない以上、やはり多少の違いは見受けられた。

 まず顔つきが違う。顔のパーツそれぞれは似ていたが、マユナがどんぐりのように丸い溌剌とした目つきなのに対し、イコナの眼光は猛禽のように鋭い。瞳の色も、マユナはエメラルドのような緑色なのに対し、イコナはアメジストのような紫色である。

 また、あまりじろじろ見るのは不躾かもしれないが、よく見ると体つきも微妙に違う。二人とも程好く筋肉質で引き締まった肉体をしているが、マユナが全身に満遍なく筋肉がついているのに対し、イコナはどちらかというとすらりとスレンダーな体つきのようにも見える。

 

「よろしくね、イコナちゃん」

 

 ボクはそう言って挨拶を返したのだけれど、イコナはますます目を細めて、ボクをためつすがめつ眺めているばかりだった。

 ……じろじろ見られるの、あんまり好きじゃないんだけどなあ。

 やがてイコナは深々と溜息を吐きながら「……ちょっと」とマユナを手招きした。なになにどうしたの、とマユナが近寄ると、イコナは顔を寄せながら声を潜めて内緒話をし始めた。

 

「……マユナ、ガラクタ集めもほどほどになさい。“変なの”拾ってこないでって言ったでしょ」

 

 ……いや、あの、聞こえちゃってるんですケド。。。

 “変なの”というのはボクのことだろうか。唐突に罵られて面食らっているボクの横で、マユナがぷんぷんと怒った。

 

「変なのじゃないよ、ヤエコさんだよ!」

「どこから来たのかわかんない人なんて、十二分に『変なの』でしょうが。だいたい、アンタが拾ってきたものでまともなものなんて、一つとしてなかったじゃない」

 

 内緒話(のつもり)とはいえ、当人を前にして凄いこと言うね、この子。イコナの容赦ない舌鋒に、ボクは苦笑するしかなかった。

 イコナが初対面のボクを酷く警戒しているのは明白だ。だがそれが臆病だからというわけでもないことは、物怖じすることなく堂々と見据えていた態度からも窺える。学園物でたとえるならば学級委員長、ないし風紀委員が似合いそうな風格がある。

 警戒心の強さは、慎重さと賢明さの裏返しだろう。マイペースで楽天家なマユナと、気が強くてしっかり者のイコナ。見た目は鏡写しなほどそっくりなのに、性格はまるで正反対のようである。

 

「アンタっていっつもそう! 前に怪獣の卵拾ってきたときもそうだし、ちょっとは後先考えなさいよ、もう子供じゃないんだから」

「だってぇ……」

「キュウキュウ」

「……え、何、『あのままだとクモンガに喰われてた、助けてあげるのはインファントとして当然の義務』?」

「キュウキュウ」

「ナイスアシスト、レオナ!」

「レオナ、アンタは口挟まないで頂戴。そうだったとしても、そのあとそのまま村に連れてくるアンポンタンがどこにいるの、せめて事前に連絡しなさいよっ」

「でも今更放り出すわけには……」

「……あーはいはい、もう、わかった! なんかよくわかんないけど叔母様と女王はもう知ってるみたいだし」

「叔母様たちが? なんで??」

「知らないわそんなの。とにかく、助役の人たちにはわたしから話しとくから、あとでちゃんと挨拶回りしときなさいよ?」

「やったッ、ありがとイコナ愛してるッ」

「わかったわかった、わかったからいちいち抱き着くなっ! ……でもいい? これで最後だからね? これ以上“変なの”拾ってきたらもう容赦しないからね!?」

「うんわかった!」

 

 マユナとのコソコソ話を終えたイコナが、ボクへ言った。

 

「……とりあえず、あなたも降りたらどうですか」

 

 ……おっと、いけない。

 言われてみれば、ごもっともである。客の分際で高い目線から挨拶なんて、マナー違反も良いところじゃないか。先ほどマユナのことを『いい加減な性格』と評してしまったけれど、これではボクも大概だ。

 指摘されたボクはすぐさま降りようとしたのだが、慌てていたのがいけなかった。

 

 つるり、と足を踏み外し、ボクはモスラの背中から転げ落ちた。

 

「ヤエコさんっ!」

「わわっ!?」

「ふぎゃっ!?」

 

 マユナがボクを抱き止めようとしたが上手くいかず、さらにイコナまで巻き込んで、ボクとの三人で縺れるように倒れてしまった。

 あいたたた……と頭を摩っていたマユナが、「大丈夫?」とこちらに声をかけた。

 

「ああ、大丈夫……」

 

 そう答えた時、ボクは胸元の違和感に気づいた。

 ……再三言っているが、ボクは頭脳労働者の運動音痴であり、恥ずかしながら平均的一般女子よりはちょっと、いや少しだけ、ほんのちょっぴり僅かの少しだけだが、平均より体重が多い方だと認めざるを得ない体格をしている。デブ? デブじゃねーし。“少し体が大きい人”だし!

 その体で、ボクはイコナのことを圧し潰してしまっていた。特に、胸の脂肪の中へイコナの顔が埋まってしまっており、もがもがと苦しげに呻き声を挙げている。

 

「あっごめんっ」

 

 ボクが慌てて飛び退けば、イコナも起き上がる。

 

「ごめんねイコナちゃん、怪我しなかった??」

「……いいえっ、お気遣いなくっ」

 

 気遣うボクへぶっきらぼうに答えたあと、イコナはマユナに言った。

 

「叔母様と女王が呼んでるから、その人も連れてきて頂戴。わたしは先に行ってるからっ」

「はいはーい」

 

 マユナに言うべきことを言うだけ言ったあと、イコナはぷりぷりと怒りながら村へと帰っていってしまった。

 そんな彼女を見送りながらボクは「……こりゃ嫌われちゃったかな?」と頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

 ヤエコとイコナのやりとりを端から眺めていたマユナ。

 やけにイコナが苛立っていた理由について、マユナはジングウジ=ヤエコ本人とは違った側面から理解していた。イコナがヤエコのことを気に喰わない、本当の理由。

 

 それはジングウジ=ヤエコが爆乳だからだ。

 

 マユナが師匠連から聞いたところによると、女性の弓の使い手は上半身の筋肉が発達する反面、バストが育ちにくいのだという。

 体質にもよるのだろうし正直かなり眉唾だろうとマユナは思うものの、実際にイコナは村一番の弓の名手であり、そして掌にすっぽり収まる慎ましやかなバストの持ち主である。

 とはいえ、マユナはあまり気にしていなかった。胸が大きすぎると体を動かすときに痛いし、弓を射るときだって弦が当たって怪我の原因にもなる。なので、弓を使うのが得意なイコナにとってバストが小さいのはむしろ良いことなのだ、とマユナは長年思っていた。こんなもの、お母さんになるときに育てばよいもので、今から大きくても邪魔になるだけだ。

 

 ところが最近になって、イコナ本人は必ずしもそう思っていないらしいことをマユナは知った。なんでも、イコナのバストが村の中でも小さめであること、特に自分の妹であるはずのマユナよりも小さいのがイコナは内心気に喰わないらしいのだという。

 その話を聞いた当初、そんなまさか、とマユナは話の真偽そのものを疑っていた。あの理知的なイコナがそんなくだらないことにコンプレックスを感じているなんて、マユナには俄に信じられなかったのだ。

 だがあるとき、イコナが村の友人たちから『バストアップの秘術』なるおまじないをこっそり教わっている現場を目撃してしまい、その話が事実であったこと、しかも事態はマユナが思っていた以上に深刻であったことを悟った。あの聡明で賢明なイコナが出処もわからぬ如何わしいおまじないに縋るなんて、よほどのことだ。

 それ以来、マユナはイコナの胸のことは敢えて触れないようにしてきた。アンタッチャブル、地雷という奴だ。迂闊に触れたら間違いなく爆発して互いが痛い目をみることになる。それにイコナを怒らせると物凄く怖いし。

 

 そんな折に現れたのが、ジングウジ=ヤエコであった。

 どんな生活をしたらそんな体になるのか、ヤエコはとても豊満な身体の持ち主だった。モスラ=レオナへ乗せてあげたときと先程受け止めたとき、実はマユナは密かにヤエコの体に触れてみたのだけれど、ヤエコの体はどこもかしこもふわふわと柔らかくて、素晴らしい抱き心地だった。特に、腰回りから下半身にはむちむちと張りの良い脂肪がたっぷりついている。いわゆる安産型である。

 それでいてウエストはちゃんと括れて見えるのだから、決して太り過ぎということもなく、これはこれで絶妙にバランスが取れているようにマユナには思えた。

 

 そしてバストについてだが、ヤエコの胸元にはこれまた子供の頭ほどもある、とても立派なものが左右たわわに実っていた。この手の事柄には無頓着な方であるマユナですら、ヤエコのバストの迫力には思わず「おお……」と圧倒されてしまうほどである。

 特に服の胸部分――これまたマユナが見たこともない異国の服だ――は、サイズが合っていないのかギリギリまで張り詰めていて、ヤエコが身動ぎするたびにたゆんたゆんと揺れるので今にもはち切れてしまいそうだ。せめてサイズの融通が利く服を着ればいいのに。

 

 そう思い至ったところで、ヤエコにもインファント族の衣装を勧めてみようかとマユナは思いついた。インファント族の衣装ならバストサイズにも余裕があるし、きっとヤエコの体型にも似合うに違いない。

 そうと決まれば、ヤエコさんに似合う服を見繕って上げなきゃね。顔に変わった飾り――マユナは知らなかったが、それは『メガネ』であった――をつけているのが気になるがむしろ個性的でクールだと思うし、顔貌も悪くない方だから、お化粧したらきっと美人だろう。

 

 ……ヤエコさん、モテそうだし、良いお母さんになりそうだなあ。ヤエコの隣を歩きながら、そんなことを考えるマユナであった。

 

 




あまり関係ないですけど『イルカに乗った少年』って曲ありましたよね。モスラに乗った少女。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。