モスラ×ゴジラ エルフの村を火の海にしたので 作:よよよーよ・だーだだ
「キュウキュウ」
「またあとでね、レオナ!」
正門での一件の後、ボクはモスラ=レオナと別れた。モスラは体が大きいので、彼女専用の通用口があるらしい。
ボクはというと、マユナに手を引かれて村の中を進んでいた。マユナに導かれて村を進みながら、周囲の様子を視線の端で観察する。
インファント族の村人は老若男女、誰も彼もが昆虫エルフだった。
服装はマユナやイコナと似たり寄ったり。全員背丈は低めだが体格はわりとがっちりしていて、そして額からはマユナと同じくふわふわの触角が生えていた。どうやらこの村の中で、触角が生えてない普通の人間はボクだけみたいだ。
ひそひそ……
こそこそ……
そんな周囲の昆虫エルフたちはコソコソ話をしたりしつつ、皆一様にボクへ好奇の目線を向けてくる。自分たちと違って触角の無い、しかも明らかに村のものではない衣装を着ている余所者、つまりボクのことが興味深くて仕方ないらしい。
……そういえば推理小説作家:横溝正史の小説には、『八つ墓村』や『悪魔の手毬唄』を筆頭に田舎の村がよく出てくる。そういう村には閉鎖的・排他的な空気が充満していて、その拗れた人間関係から陰惨な事件(連続殺人! 首なし死体の入れ換えトリック! 桝で量って漏斗で呑んで!!)が起きたりするのが横溝正史作品の定番だ。
……まあ、マユナの牧歌的な気質から考えてみると、このインファント族の村にそういう陰湿さはないと思いたいが、得体の知れない余所者に対する警戒心や好奇心というのはやはりひしひしと感じられた。
周囲を気にしているボクを見かねてか、マユナが「ごめんね」と耳打ちした。
「皆気になるんだよ。村の外からのお客さんなんて珍しいからね」
……マユナの言うとおり、きっと悪意はないんだろうな。
じろじろ見られているのは正直気にはなるけど、まあ仕方ないよね、ボクも逆の立場だったら気にしちゃうだろうし。ボクも努めて周囲を見ないように気を付けながら、マユナと共に村の奥へ奥へと進んでゆく。
そうこうしているうちに、ボクたちは村を通り抜けた外れ、巨大な洞窟の前へとやってきた。
「ここはね、村の『聖域』なの!」
そう語るマユナ。なんでもこの洞窟の奥には村の『神殿』があり、村の〈女王〉とその女王に仕える〈巫女〉が待っている。その二人とボクを引き合わせてくれるのだという。
……女王と巫女、村の最高権力者か。いったいどんなヒトたちなんだろう。鍾乳石が連なる地下道を進む道中で、マユナは緊張した面持ちのボクにこう言った。
「大丈夫、女王も叔母様も優しいから!」
……叔母様? ボクが聞き返すとマユナは説明した。
「今の巫女、アヤミハ叔母様はあたしの叔母にあたるの。育ての親でもあるし、師匠でもあるんだ」
なるほど、今のリーダーであるアヤミハさんとやらはマユナの血縁者なのか。ならば、煮て焼いて喰われる、なんてことはなさそうだ。ボクは内心で安堵した。
……しかし今しれっと『育ての親』って言ったな。マユナ、実の両親はどうしたんだろうか。まあ、興味半分で聞くのもどうかと思うから、敢えて訊ねたりはしないけれど。
ボクは雑談がてら、他に気になったことを訊いてみた。
「師匠、ってことは何か教えてもらったりしてるの?」
「うん、次の巫女として必要な心構えとか御勉強とか色々ね。モスラの巫女、その血筋で一番若くて力が強いのはあたしとイコナだから」
ふむふむ、とボクは相槌を打ちながら考える。
……ふと思ったけど、マユナってひょっとして、ボクが思っていたよりも相当に重要なポジションなんじゃないだろうか。
村の最高権力者の親戚で、さらにその弟子として教えを受けているなんて、どうみても『次のリーダー候補』だとしか思えない。マユナ当人がかなり気さくな性格だからそうは全然見えないけれど、言ってみれば御姫様みたいなものじゃないか。
「……ひょっとしてマユナって、凄く偉い立場だったりするの?」
「えっ?」
「次の巫女、ってことは次のリーダーになるんじゃ……?」
ボクの質問に、マユナは「あたしが、リーダー? まっさかあ」と噴き出した。
「あたしなんて補欠も補欠、あたしみたいなヘッポコにリーダーなんてとんでもないよ。村の人も皆『次の巫女はイコナだ』って言ってるもの。あたしは、イコナみたいにはなれないよ」
ふーん、そっか。
血統を言うなら確かに、マユナの双子の姉であるイコナもリーダー候補になり得る。そしてリーダーの仕事を任せるなら、たしかにマイペースなマユナよりもしっかり者のイコナだろうな、とは思う。
だけれども。
「そこまで言わなくてもいいんじゃないの? 双子なんでしょう? だったらマユナにだって権利や資格は平等にあるんじゃない?」
そう言った直後、マユナが微妙な表情をした。
……あ、やべ。しまったな、余計なことを言ってしまった。家族の問題なのだから、ボクのような門外漢が口を挟むことじゃない。
さきほど横溝正史の小説の話に触れたけれど、こんな村にもやはり拗れた人間関係があるようだった。
「…………。」
「…………。」
気まずい沈黙が流れ、鍾乳石から滴る水音だけがぴちゃぴちゃと反響している。
数十秒くらいだったけれど耐え切れず、ボクの方から再び口を開いた。
「……ごめん、余計なこと言っちゃったね。忘れてね」
「……ううん。こっちこそ気を遣わせてごめんね」
ボクが気を揉んでいる中、差し込んだ影を振り払うようにマユナは続けた。
「さ、女王と叔母様に紹介してあげるね!」
そしてボクたちは洞窟の最深部へ到達し、マユナは眼前の扉を押し開けた。
そこは大きな広間であった。
松明の炎が爆ぜるパチパチという小さな破裂音や、鍾乳石から滴る水音が響いている。
ここは洞窟の最深部、本来ならば真っ暗闇になるところだが、程好いところにヒカリゴケや光るキノコ、松明の照明がバランスよく設置してあり、内部はむしろとても明るくて奥まで見通せた。
その最奥には、岩から削り出された段々があった。エジプトや南米にあるという階段ピラミッドを彷彿とさせる威容、まさに聖なる祭壇、神殿だ。
その祭壇の頂上に〈女王〉が君臨していた。
……まず目に入ったのは巨大な“翅”。目測だけれど端から端まで少なく見積もっても200メートル以上はあるように見える。広げた翅は仄かに
左右対称な翅の中央には、深い青色の巨大な眼があった。まるで抱えきれないほど大きな宝石を嵌め込んだみたいだ。人間とは明らかに異質な複眼だけれど、帯びた光は慈悲と思慮の深さも感じられた。
その名は〈モスラ成虫〉。
まるで太陽を直視しているかのような眩い存在感、それでいて総身を焼き尽くされることもない優しい輝き、まさしく女王の風格だ。
ふわふわの触角を生やした昆虫エルフ、モスラ幼虫レオナ、そして双子。これらの取り合わせから〈女王〉の正体はきっとモスラ成虫だろう……と、そんな風にあらかじめうっすら予想はしていたけれど、やっぱり実物を目にするととてつもない迫力がある。実際に見るモスラ成虫の美しさ、なんと表せばよいのだろう。その華やかさ、荘厳さ、気高さ、まさしく“極彩色の怪獣”と呼ぶのに相応しい。
その下段左右には、二頭のモスラ幼虫が鎮座していた。片方はおそらくモスラ=レオナだろうが、もう片方もきっとモスラ成虫の子供だろう。
さらに下の段には茣蓙が敷かれており、二人の昆虫エルフがいて、座したままこちらを見下ろしていた。
二人の内の片方、脇に控えているのは、先ほど出会ったマユナの双子のお姉さんことイコナだった。
ボクらが入室してきたのに気づいたイコナはこちらをチラと一瞥したが、すぐに何事もなかったかのように座り直していた。
ボクもイコナから視線をずらし、祭壇の下段中央の人物へと目を向ける。
「女王、叔母様! お客様をお連れいたしました!」
マユナの元気のよい挨拶に、「……うむ、ご苦労」とねぎらう下段中央の人物。彼女も女性の昆虫エルフだったが、こちらは初めて見る人物だった。
純白の長い白髪に青い瞳、額からはこれまたふさふさと立派な触角が生えている。背丈はマユナやイコナよりも遥かに小柄で子供のようにも見えるけれど、“凄み”というか、堂々とした風格が内側から滲み出ていて、小さな体格に反してこちらが飲み込まれてしまいそうな圧倒的な存在感があった。
年齢はというと、これまた不詳としか言い様がなかった。あどけない無垢な童女のようでもあり、かと思えば人生経験豊富な老女のようにも見える。
小さく見えるのに大人物のように貫禄があり、幼いようで老獪さも滲み出ている、そんな相反する不思議な雰囲気を帯びた昆虫エルフが、深く青い双眸でボクを見据えながら口をひらく。
「……貴殿がマユナの客人、ヤエコ殿かの。儂はアヤミハ、この村を仕切っとるババアじゃ」
……彼女がマユナの“叔母様”か。
『ババア』と言っているけれど、そう自称するからにはやはり相当の高齢なのだろうか。そう言われてみると白髪のせいか、わりと老けている気もしてきた。マユナの叔母というから、てっきりもっと若いのかと思っていたのだけれど。
「もっと若いと思っておったろ?」
どきり、とした。
い、いえ、そんなことは……。不躾な内心を見透かされて焦るボクに、アヤミハはカカと笑った。
「そう誤魔化さんでもよいぞ。儂くらい歳を喰えば、そなたくらいの若い人にどう思われるかくらい見当つくわい」
ボクは緊張した。
マユナたちと言葉が通じるのがテレパスのようなものなのだとしたら、アヤミハのような熟練者にもなれば他人の心が読めたりするのだろうか……?
「いくら儂でも心までは読めんよ」
またしても内心を見抜かれた。読めないのだとしても、その精度だったらもはや読めてると言っても良いのでは……?
戸惑うボクに、アヤミハはころころと笑いながら言った。
「そんな御大層な力があったところで、初対面の客相手に振るおうとは思わん。ほら、プライバシーってもんがあるじゃろ」
「え、あ、はあ……」
「まあ、貴殿は顔に色々出過ぎな気もするがの」
心が読めるのか読めないのか、一体どっちやねん。
そうやって挙動不審に慌てるばかりのボクを眺めているのが、アヤミハは面白くて仕方ないらしい。けらけらと顔を綻ばせながら、アヤミハは自分の血筋について説明してくれた。
「歳の話じゃがの、叔母といっても儂は大叔母、マユナとイコナの祖母の妹が儂じゃ。面倒じゃから叔母と言うとるがの」
ははあ、そういうことか、納得。大叔母も人によっては『叔母』って言うものね。
改めて姿勢を正すボクに、アヤミハは「ま、そう固く為らんでもよいからの」と飄々と付け加えた。
「儂は堅苦しいのは好きでない。ほれ、足も崩してもらって構わんぞ。そんな石の上で正座してたら痛かろ?」
言われてボクは、自分が岩の上に正座していたことに気づいた。かく言うアヤミハは片膝を立てた、気楽な姿勢で掛けている。
「あ、すみません……」
ボクもアヤミハに言われたとおりに足を崩そうとするが、痺れてしまってもたついてしまい、その場で引っ繰り返ってしまう。
そんなボクをアヤミハはニコニコ笑みながら眺めている。
「あー、言わんこっちゃない。マユナ、座布団を出しておやり」
「はい、叔母様!」
アヤミハの指示で隣のマユナが即座に動き、どこからか藁の座布団を持ってきてボクに貸してくれた。これなら、足が痺れることもない。
「これでどうかの?」
そう問われたボクは、「……はい!」となるたけ元気よく答えた。
……村の最高権力者だという巫女のアヤミハ。第一印象は妖精というか妖怪というか、ミステリアスで掴みどころのない印象を受けたのだけれど、実際に話してみると『意外とフランクで親切な人なのかもしれない』とも思った。マユナはアヤミハのことを『優しい』と評していたけれど、きっと本当にそういう人なのだろう。
空気がほぐれたところで「まずは引き合わせといこうかの」と、アヤミハは話を始めた。
「儂の大姪、マユナは知っておろう。で、こちらはイコナ、さっきも言うたがマユナの姉じゃ」
アヤミハによる改めての紹介に、イコナは「ドーモヨロシク」と低い声の早口棒読みで応えた。
しかめた目つきに尖らせた唇、挨拶の場だというのに愛想笑いひとつしない不遜な態度。できれば口も利きたくないが年長者の手前だから渋々、といったところか。
ボクは苦笑い半分で軽く会釈したのだけど、イコナは不機嫌そうに睨み返しただけで特に返礼もしてくれなかった。
……ずいぶん嫌われたもんだなぁ。
まあ、初対面からあんなことがあったんじゃあ第一印象は最悪だろうし、嫌われるのは当然か。
ボクの方はというと、イコナのことが好きでも嫌いでもない。子供じみた無礼な振る舞いが不愉快じゃないといえば嘘になるが、しょせん子供のすることだ。それでムキになって怒るほど、ボクもガキじゃあないもんね。
出来ればこれ以上拗らせたくないし、今後のことも考えればむしら仲良くなっておきたいとさえ思っているのだが、先方がここまで嫌うのだから致し方ない。誤解は追々、解いてゆこう。
ボクとイコナのわだかまりに構うことなく、アヤミハは次いで中段に座している二頭のモスラ幼虫を指した。
「こちらはレオナ、貴殿を助けたモスラじゃ。隣にいるのがタイガ、レオナの姉じゃ」
レオナ、タイガと呼び掛けられる度に、二頭のモスラはそれぞれキュウと甲高い声で返事した。さっきから気になってはいたけれど、やはり彼女もレオナの姉妹だったのか。
双子のモスラに双子の巫女、双子がツー・ペア。モスラ幼虫は双子で登場するのが御約束だが、それはこの世界でも同じか。
双子のモスラ幼虫はこれまたよく似ていた。身体の模様などに差異があるとはいえまさに瓜二つ、というか巨大芋虫が二頭である。マユナたちにはわかるのかもしれないが、ボクからすると、名を差されて返事をしてくれればわかるものの一見するだけでは判別できそうにない。
そんなボクの当惑を察したのか、アヤミハが教えてくれた。
「目の色が違かろ? 緑がレオナで、紫がタイガじゃよ」
アヤミハの言葉とおり子細に見直してみると、なるほど、たしかに二頭のモスラ姉妹は目の色が異なっていた。妹のレオナはエメラルドのような落ち着いた緑色、姉のタイガはアメジストのように鮮烈な紫色の目をしている。
双子モスラの目の色は、ちょうどマユナとイコナの瞳の色に対応していることにボクは気づいた。妹が緑で姉が紫、これならわかりやすい。
子供モスラたちの紹介が終わったところで、アヤミハは最奥、台座の最上段を見上げた。
「そして最上位が我らが母なる翼、女王モスラじゃ」
台座の最上段に君臨するモスラ成虫がゆるりと首を動かして、ボクの方へと視線を向ける。
深く青い海を閉じ込めた様なキラキラの複眼でじっと見下ろされ、なんだか内心まで見透かされたような気分で思わずボクの姿勢が改まる。
「女王といってもそこまで畏まらんでもよいぞ。母親のように付き合ってくれれば良い、というのがモスラの方針じゃ」
そんなアヤミハの紹介に応えるように、成虫モスラは力強い鳴き声を響かせた。まるで楽器のような、鳥の声のような美しくも荘厳なモスラの嘶き。ボクはまたしても圧倒されてしまう。
……母親のように、か。ここで一つ合点がいったことがある。
村の最高権力者である巫女のアヤミハ、その跡継ぎ候補であるマユナとイコナ。男性の重役もどこかにいるのかもしれないが、この村の重要人物は皆女性のようだった。
それはきっと、『この村の守護神であるモスラが女性だから』だ。つまりインファント族の社会は、女王モスラを頂点にした女系社会なのである。インファント族のエルフたちにとってモスラは神であり、女王であり、そして皆のお母さんで、その彼女を補佐する巫女たちもまた女性なわけで、そういう構造の社会ならば女性の権限が強くなってゆくのも自然なことなのだろう。
一通りの紹介が終わったところで、アヤミハは言った。
「正式な歓迎会や顔合わせは明日やるとして、今宵はもう遅い。マユナ、離れが一つ空いとったろ、案内しておやり」
「はい、叔母様!」
アヤミハからの下知に元気よく答えたあと、マユナはボクの方へと向き直って笑いかけた。
「明日、色々見せてあげるね!」
顔を見合わせ笑い合うボクとマユナ。
そんなボクたちを、アヤミハは至極楽しげに見ていたのだった。
アヤミハやモスラたちとの謁見を終えたあと、ボクは村の離れにある
簡素で小さかったが、屋根も壁もきちんとした造りになっている。ヒト一人寝泊まりするにはこれで充分すぎるとボクには思えた。仮に不満があったところでボクは客分なのだから、屋根のあるところに泊めてもらえるだけでも万々歳だろう。
「はい、これが寝巻で、これが布団ね」
そう言ってマユナは寝具一式まで貸してくれた。なんでもマユナ自身の寝巻らしい。
マユナに着方を教えてもらいつつ、さっそく着替えるボク。これまた現代日本のそれとは違った独特なデザインと構造だったけれど、肌触りがとても優しくて、着心地は抜群だ。
……ただ一ヵ所を除けばだけれど。
「うーん……」
「どうしたの、ヤエコさん」
何処とは言わないけど、きついのだ。何処とは言わないけど。
そんなボクの様子から、マユナは何かを察したようだった。
「ははあ、胸がきついんだね」
……あーもー、敢えて言わなかったのに!!
洋服と違ってボタンで留めたりする構造ではないので千切れたりする心配がないのは良いのだが、胸が締め付けられて少々苦しい。このまま寝たら呼吸困難でちょっと寝苦しいかも知れない。
そういえば緩めるやり方を教えてもらったっけな。えーと、ここをこーして、あーして、あ、あれ、上手くいかないぞ……?
「ちょっと貸してね」
苦戦しているボクに、見かねたマユナが手を貸してくれた。
一旦巻いた帯を解き、はだけた服を整えてから、再び帯を締め直す。
「今度はどう?」
吸って、吐いて、深く深呼吸。うん、今度は良い塩梅だ。
「だいぶ楽になったよ。ありがとね」
眠る準備が出来たボクに、マユナは言った。
「今日はもうゆっくり休んでね。明日は村のことを色々案内してあげるから。おやすみなさーい」
おやすみなさい。マユナが去ったあと、一人になったボクは布団を敷いて、その上で物思いに耽った。
……今日は色んなことがあったなあ。転生して、怪獣に襲われて、マユナに出逢って、村に案内されて。
……これからボクはどうなるのだろう。
とりあえず今日は村に泊めてもらえることにはなったけれど、明日からはどうやって生きてゆこう。果たして、インファント族の人たちはボクのことを歓迎してくれるだろうか。アヤミハやマユナは好意的に接してくれたけれど、イコナのように警戒する人の方が多いかもしれない。仮に受け容れてもらえたとして、ひ弱な現代人でしかないボクがこの村で生きてゆくのは大変だろう。きっと想像を絶するような苦労が沢山あるだろうな。
……便利で楽しい現代日本が恋しい。そんなホームシックにも駆られてしまう。
そもそも帰る手段とかあるんだろうか。『ゼ〇の使い魔』みたいなラノベとかだと帰る手段があったりするけれど、この世界の場合はどうなんだろうか。ここがアニゴジ三部作の世界のようなポスト=アポカリプス的な世界だとすれば、まず異世界どうこうみたいな手段はないだろうし、あったところでロストテクノロジーとして遠い昔に既に喪われてしまっている可能性もある。
……ま、いいか。細かいことは明日考えよう。
ネガティブな不安や念慮を振り払い、ボクは、ぼふ、と布団に突っ伏した。ふかふかで良い香りのする布団に全身が沈み込んでゆき、うとうとし始める。
そういえば今日のボクは、怪獣に追いかけられて全力で走り回って、村の偉い人たちと顔合わせして緊張して、と疲労困憊の極みだった。
かくしてボクは、速やかに眠りへと落ちて行った。
「エルフの村が焼けるのはまだかい、婆さんや」「もうすぐですよ、お爺さん。じっくりコトコト煮詰めていますからね」