続くかは未定。Sシステムの導入くらいまでは書こうと思います。
第一話 三度目の生
10月31日──ハロウィンの夜。
渋谷駅近郊にて、伏黒甚爾は現世に復活を果たしていた。
降霊術により、魂を降ろされ、しかしその特異な体質により主導権を奪い返し。
様々なイレギュラーにより自我を失い、暴走していた甚爾だが、とある邂逅により、自我を取り戻した。
きっかけは、目の前にいる──少年。
ああ、似ている。
顔立ちは甚爾そっくりで、髪質は『あいつ』と同じで癖っ毛だ。
昔のことを、ふと思い出した。
『あいつ』が死んで、すぐのこと。禪院家の当主と会い、息子を売り払った、いつかの冬の日。
術式を持たず、どころか呪力を持たない甚爾にとっては、地獄のような場所だったが、術式を持っている息子なら、まぁまだマシだろう。少なくとも、今の俺に育てられるよりは。
もう、どうでもいい。
どうでもいいんだ。
けれど、気になった。
死の間際、あのクソッタレなガキに溢した、甚爾らしくもないあの言葉は、果たして実を結んだのか。
だから。
「──オマエ、名前は?」
「……?
ハッ、と笑みが溢れる。
この胸に宿る感情は何なのか──甚爾は知らない。けど、確かに覚えがあった。
「……禪院じゃねぇのか」
手にしている呪具──游雲。
かつて、術師殺しとして動いていた時によく使用していた特級呪具。先を削り、矛のように尖った先端を──甚爾は己の頭に突き刺した。
目の前にいる少年が、甚爾の唐突な行動に目を見開く。
甚爾が少年に残す言葉は何もない。
そも、呪力を内包しない世界唯一の存在である甚爾は、呪いを残さない──残せない。
故に。
「──よかったな」
そう、笑って。
その時を取り戻したのは、己か息子か。
伏黒甚爾は──二度の死を、体験した。
◆◇◆
「……死んだ筈だったんだがなぁ」
はぁ、と小さく俺はぼやく。
一体、どうしてこんなことになっちまったんだか。
俺──伏黒甚爾は、あの時死んだ筈だった。
しっかりとその時の記憶は刻まれている。一度目の死も、二度目の死も、昨日のことのようにはっきりと思い出せる。
だが、何故か俺は生きている。こうして思考し、感情を抱き、俺は生存していた。
また、降霊術でも使って呼び出されたか、と思ったがそんな様子はなく。
いや、寧ろ
何の冗談だ、と初めは思ったが、呪術高専やあのクソッタレな禪院家がなかったことからそれは明白だった。
幻覚の可能性はまずあり得ねぇ。俺に幻術は効かねぇしな。基本的に俺の肉体を介する精神や五感に作用する術式は通用しねぇ。
このことから俺が出した結論は、この世界はどうやら俺がいた世界とは
ハッキリ言って、頭がイカれてるとは思う。
それでも現状はそう判断せざるを得ないのだから仕方がねぇ。
手掛かりがない以上、今は受け入れるしかねぇだろ。
バスを降り、
時間ギリギリであるからか、生徒の数は疎らだ。しかし、どいつもこいつも気の抜けたツラしてやがる。
まぁ、
……いや、少なくとも通う生徒は普通でも──
東京都高度育成高等学校
俺が今いる場所は、そんな名前の学校だ。
この世界にやってきた当初──1週間前、何故か用意されていた俺の家に、ポツンと置いてあったパンフレットにその概要は書かれてあった。
日本政府が東京の埋立地に建てた、未来を支える人材を育成する、希望する進学、就職先にほぼ100%応える全国屈指の名門校。
在学中の3年間は外部との連絡は断たれ、更に敷地内から出るのを禁止された寮生活を強いられる。代わりに60万平米を超える敷地内には様々な施設が存在し、何一つ不自由なく過ごせる──らしい。
生前、学校になんて通ったことはねぇ身としても、相当に恵まれた学校だということは分かった。
過去に遊んだ女の中にも学歴にコンプレックスを抱いている奴はいた。
それを考えると、進学先に就職先を自分の希望通りに選べるこの学校は、夢のような場所なんだろうな。
そして、何故俺がそんな学校にいるかと言われると、簡単なことだ。
パンフレットと共に置かれていた、合格通知。
俺には全く記憶がないが、どうやら俺はこの学校を受験した──ということになっていた。
マジで意味がわかんねぇ。
とはいえ、だ。
状況がほとんど分からない今、あからさまな手掛かりだ。誘いだとしても行くしか選択肢はなかった。
それにまぁ、いい暇潰しにはなるだろうしな。
どのみち、俺はもう死んでるんだ。前みたいなイレギュラーでもない限り、せいぜいエンジョイさせてもらうさ。
これからやることは頭に入っている。
まずは校舎の前にある掲示板に貼られてあるクラス表で自分のクラスを確認する。その後、指定された教室へと向かい、その後は入学式へと向かうという流れだ。
「Cクラス、ね」
伏黒甚爾──Cクラスの欄に俺の名前があった。
クラスはA〜Dの4つのクラスに区分されており、人数はきっちり40人ずつか。
まぁ、クラスなんざどこでも一緒だろ。
俺はそのまま教室へと足を運ぶ。
「しっかし、広いな……どんだけ金掛けてんだか」
しみじみと、校舎を見上げながら俺はそんな感想を抱く。
禪院家に高専と、金をふんだんに使った施設は見たことはあるが、この学校はそれに匹敵するレベルだ。築10年以上経っているとは思えないほどに綺麗に整備されている。
これにプラスして多くの施設があるんだから、下手すればあれら以上なのかもしれねぇな。
(……賭博施設はあんのか?)
いや、ねぇだろうな。
肉体年齢は15歳の頃だが、精神年齢は三十代のそれ。未だに慣れねぇ感覚だ。
金を掛けた賭博は18歳以下は禁止されている。国が運営しているこの学校がそれを許容するはずもねぇ。
何より、この学校に外の金の持ち込みは禁止らしく、今の俺は一文なしというわけだ。
そんなことを考えていると、教室に着いた。
そういえば、学校だと初日が大事だと聞いたことがあるな。初日に友人作りやグループ作りに失敗すると、それからが結構大変らしい。
ま、しらねぇけど。
ガラガラ、と俺はドアを開ける。すると、視線が一気に俺に集まってきた。
39人、か。どうやら時間ギリギリで来たせいか、俺が一番最後だったようだ。
向けられる視線を意に介さず、黒板に貼られてあるプリントで自分の席を確認する。
一番後ろの窓際──当たりだな。
ついでに隣の席と前の席の名前を確認しておいた。
隣が龍園 翔、前が伊吹澪、ね。
まぁ、関わることはそんなにねぇだろ、と心の中で呟きながら、俺は自分の席へと向かった。
席へ着くと、とりあえず俺は周囲の確認をすることにした。
入学初日ということもあってか、教室内は結構喧騒に包まれている。親睦を深めている奴もいれば、寝ている奴、別の作業をしている奴と様々だ。
ちらりと隣を見ると、ロン毛のガキ──龍園は笑みを浮かべながら俺と同じように観察に徹していた。龍園はどうやら他者とは少し違う感性を持っているみてぇだな。
前の伊吹はぼーっと窓の外を眺めている。
しかし、こうして見てみるとこのクラスにはいわゆる不良という輩が多い気がするな。
隣の龍園を始めとして、喧嘩慣れしている奴や気が強い奴の割合が高い。なんで分かったかって? 体つきや立ち姿見りゃわかる。
偶然か?
この学校は名門も名門だ。成績優秀者しか入れない、とは思っていたのだが。
まぁ、コイツらが成績優秀である可能性もある。ただ、学業成績だけ見るということはあり得ねえだろ。ある程度、普段の学校生活なども含める筈だと思うが。
それからもうひとつ気づいたこと。
と言っても、これは校舎に入った段階で気づいていたが、
教室には四角にカメラが設置されており、教室全体を見渡せるようにしている。探せばまだまだ出てきそうだ。
どうやら、俺が知る学校とは、何かが大きく違うようだ。
知らされていねえ何かがある。
その何か次第では、少しは退屈しなそうだな──と、俺は思った。
それでは、気が向いた時にまたいつかとか。