ようこそ天与の暴君のいる教室へ   作:うたたね。

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長くなりすぎたので分割。
今回はあまり話は動きませんが、次話から龍園たちと本格的に関わることになります。

あと、なんとこのSSにも色が着きました!ほんとに皆さんありがとうございます!


第三話 クラスメートとの交流

「ええ、つまり、先ほど使った公式を——」

 

 数学の授業。坂上が丁寧に数式の解説を行い、授業を進めている。

 そんな興味のねぇ授業を聞き流しながら、俺はこの1週間のことを振り返っていた。

 

 今日は月曜日。俺がこの世界にやってきて2週間、学校生活を始めて1週間が経つ。

 生前、禪院家で基本的なこと学び、学校なんぞに通うことのなかった俺にとって、この摩訶不思議な事象によって入学したこの学校が初の学校生活ということになる。

 こうして一週間通ってみて思ったが、かなり新鮮な気分だ。あの家のように不快な視線もなく、警戒を常に振りまく必要性もねぇ。環境としては文句の付け所のねぇし、いいこと尽くしだ。 

 ただ、困ったことはある。

 禪院家を出てからは『あいつ』に出会うまでは好き勝手に生きてきた。依頼がない日は好きな時間まで遊び惚け、好きな時間に寝ていた。1か月くらい昼夜が逆転していた時もあった。『あいつ』に出会ってからは、生活リズムはかなり端正されたが、死んでからはまた元通り。

 ルールによって時間を縛られている学校とやらは性に合わねぇんだよな。

 

 あとは、授業がクソほどつまんねぇってことくらいか。

 興味のないことを俺は楽しめるたちじゃねぇ。手前で言うのもなんだが、俺はそれなりに博識な方だ。というよりは、一定層の呪術師、呪詛師はそういう傾向が多いんだよな。

 理由は単純。術式のメカニズムが数学や化学に基づいているものが多くあるし、呪霊や呪物の発端が歴史の出来事に関係している場合がある。つまるところ、戦闘においてそういった座学が術師にとって必要な場合が多いのだ。

 特に俺は術師専門の殺し屋を担っていたから、そういった些細な情報を取り入れるのには貪欲だった。

 だから、基本的に今みたいに授業中はボーっとしていることが多い。

 そんな俺の授業態度がどれだけ評価されているかはわからねぇが、延々とくっちゃべっているバカよりはまあマシだろう。当てられたら答えてはいるし、その辺りは問題ないはずだ。

 

 現状、授業を真面目に聞いているのは半数か6割くらいだ。

 残りのバカどもは見渡す限りだと、喋っている奴と寝ている奴が4割ずつ、スマホを扱っている奴が2割くらいの配分。

 普通の学校に通ったことがねぇから分からねぇが、授業を放棄している生徒の割合は多い方だと思う。

 本当に政府が運営している高校なのかと疑いたくなる光景だ。

 

 だが、それを助長しているのは、()()()()()()()()

 

 別に授業が面白くねぇから、とかそんな理由ではない。寧ろ、教え方は非常に分かりやすく、飽きないような工夫もしている。

 じゃあ何故か? 簡単な話で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから、こういった授業風景になっている。

 こりゃ、五万は切っちまうかもな。

 

 そして、意外なことに龍園は真面目に授業を受けていた。おそらくは今後のための布石だろうな。結果のためなららしくもねぇことでもとことんやる奴らしい。

 

 あの日以降、俺は龍園と会話を交わしていない。俺は必要ないし、龍園もおそらく同様だ。

 ただ、俺とは違い、何やら水面下で企んでいるらしく、たまにコソコソと学校内や町中を探索している姿を目にする。

 

 もしも、俺と龍園が考えていることが起きれば、まあ間違いなく龍園がリーダーとして抜擢されるだろうな。

 俺たち以外にも気づいている奴がいるかもしれないが、まぁ年の功って奴だ。そういうのは何となく分かる。それに、どうせその時が来たら本人から名乗り出るさ。

 

 その時が来たら、一体どうすっかな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、面倒なことが多そうだ。この学校生活の先ではなく、()()()()()()()()()()()()は、こうして唯一の手がかりであるこの学校に通い続けるしかねぇ。

 何か分かるまでの暇潰し程度にはなるかもしれねぇが、だからっつって、タダ働きはゴメンだ。

 

 龍園がリーダーになれば、確実に俺に接触してくる筈だ。

 だが、俺を使うなら、それ相応のメリットは用意してもらうぜ、龍園。

 

 なんてことを考えていると、程なくして授業は終わりを迎えた。

 坂上が号令を行い、解散となる。

 午前の授業はこれで終わりだ。これからは昼休み。時間にして1時間のリフレッシュタイムだ。

 

「やっと終わったー!」

 

「あー、疲れた。腹減って死にそうだぜ」

 

「ねぇねぇ、最近昨日言ってたカフェに行ってみない?

 

 授業という檻から解放されたガキどもが喧騒を生み出しながら、ゾロゾロと教室外へと出て行く。

 ここ一週間見てきて、分かったことがある。このクラスの連中は外食が多い。

 10万円という大金を手に入れたからだな。自分で作るという手間を省けるし、美味い飯も食べれるんだから、そりゃそっちを選ぶわな。

 龍園も外食派らしく、授業が終わるなりさっさと出て行ってしまった。まぁ、アイツがあの(なり)で自炊なんざしてたら笑えるな。

 

 さて、じゃあ俺も飯を食べるとするか。

 今から行く、とだけ連絡を送り、教室を後にした。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 午後の授業は水泳の授業だった。まだ4月だが、流石は国内トップクラスの高校というべきか。きちんと温水プールになっており、季節違いで風邪を引かないように配慮しているらしい。

 つーか、道理で朝から男どもが騒がしかったわけだ。水着姿の女子が見れる──まぁ、思春期のガキなら分からんでもねぇ感情だ。そういう時期は誰でもあるからな。

 それはそれとして、声のボリュームには気を使ったほうがいいと思うが。何人かの女子がドン引きしてたぞ睡眠ゴリラ。

 

 更衣室で服を脱ぎ、水着に着替える。

 水着なんざ履くのはいつぶりだ? 少なくとも、2〜3年は履いた覚えがねぇな。

 授業で使われてる水着は、スクール水着であり、ピッタリと肌にくっつく形になっている。トランクスタイプなら覚えがあるが、こういうタイプは初体験だな。

 

 パッと見渡してみると、やはりこのクラスは鍛えている人間が多い。

 睡眠ゴリラこと石何とかや龍園は日常的に体を鍛えているのか、特に目立つ。部活動もやってない(たぶん)にしては、十分な鍛え具合だといえる。

 

 ただ、単純な筋肉量だけで見るなら、Cクラスでもぶっちぎりの奴がいる。

 俺はそいつに視線を向ける。

 

「うおおお、アルベルトスゲェ……!」

 

「まるで丸太だな」

 

「黒人遺伝子ヤバすぎんだろ」

 

 数人の男子に囲まれている、2mはあろうかという巨体の黒人──アルベルト。

 フルネームは知らねぇが、聞くところによると日本人とアメリカ人のハーフらしい。

 単純なフィジカルだけなら、俺を除けばアルベルトがぶっちぎりの一位だろう。それはおそらく、この学年だけでなくこの学校においても。

 それくらい、人種によるパワーの差というのは激しい。

 

 そして、俺はアルベルトに注目が浴びている間にささっと着替え、更衣室から出ることにする。

 自慢じゃないが、俺の肉体も相当に鍛え上げられている。男に群がられるなんざ勘弁だ。

 アルベルトの周りで盛り上がっている奴らを尻目に、階段を下り、集合場所へと向かう。

 

 下のフロアに着くと、広々とした空間が広がっていた。

 往復50mのコースが10層近く存在し、高い天井がより一層その広さを際立てている。大したもんだ、と思わず感心してしまうほどには。

 

「クク。アルベルトの奴も中々だったが、テメェも大概だな伏黒」

 

 俺がプールの広さに感心していると、背後から特徴的な笑い声が聞こえてきた。振り返ると、そこにいたのはやはり龍園だ。

 

「龍園か。ハッ、似合わねぇな」

 

「その台詞、そのまま返してやるよ」

 

 互いに笑いながら、軽口を叩き合う。

 

「で、何が大概なんだ?」

 

「分かりきったことをわざわざ聞き返すな。

 テメェのその筋肉のことだ」

 

 フン、と鼻を鳴らす龍園。

 

「石崎や他の有象無象みたいに、がむしゃらに鍛えただけの筋の付き方じゃねえ。アルベルトはどちらかというと、ボディビルダーみたいに見せる付け方だ。テメェの場合は機能性を重視して鍛え上げたもんだろ」

 

「筋肉マニアか何かか?」

 

「バカか。それなりの知識がありゃ誰でも分かることだ」

 

 龍園の言っていることはあっている。

 筋肉はただ鍛え上げればいいというものじゃねぇ。

 どういう意図で使うのか、どれだけの出力を目指すのか──自分がどれだけより良いパフォーマンスを行えるかを考えて鍛えなきゃいけねぇ。

 俺は天与呪縛で最初からバカみたいな筋出力があったが、それに(かま)けることはしなかった。

 より巧く、より強く、より速く体を動かすには、体作りは絶対に必要なものだった。

 完成されている、とは言わねぇが、理想系の一つではあるだろう。

 

 そして、そういう龍園自身もしっかりと思考しながら鍛えている体つきだ。ただ、龍園の場合は筋肉云々よりも、所々にある傷痕の方に目が付く。

 学生なりに、それなりの修羅場は潜ってきたということだな。

 

「クク。テメェは攻略し甲斐がありそうだぜ」

 

「男に気はねえよ。石崎なんてどうだ? オマエとは相性がよさそうだぜ」

 

「誰がホモだ殺すぞ」

 

 青筋浮かべながら龍園が睥睨する。

 ただ、暴力は振るってこない。監視カメラもあるし、何より近くに教師がいる。この環境では下手に手出しは出来ない。

 

「チッ……まぁいい。そうだ伏黒、テメェに聞きたいことがひとつだけあった」

 

「あん?」

 

「現状、俺が知る中でこの学校のシステムの一端に気づいてるのはテメェだけだ。あれから一週間が経つ──なぁ、()()()()()()()()()()()?」

 

 えらく抽象的な問いだ。具体的に話す必要性もないと言ったところだろうが。実際に伝わっているから問題はねぇ。

 正直なところ、答える義理はねぇが、まぁこんなものは交渉とも呼ぶに値しない雑談だ。真実に近づくわけでもねぇし。

 

「俺の想定通りなら二通りだ。9割近くは団体戦になるだろうがな」

 

「だろうな。()()()()()()()()()()()その可能性が最も高い」

 

 なるほど。

 凄まじい行動力だな。

 

「その時は、テメェにも働いてもらうぜ伏黒」

 

「報酬次第だな。俺はメリットがないことに動くつもりはねぇ。少なくとも、タダで俺が働くと思うなよ龍園」

 

 タダ働きはゴメンだからな。

 これまでもこれからも。それはずっと変わらねぇ。

 

 そんな俺の発言に龍園は怒ることなく、ただ愉しそうに笑うばかりだ。

 

「だったら力づくで従わせるだけだ。テメェは骨が折れそうだが、それでも最後に立ってるのは、俺だ」

 

「言ってろクソガキ」

 

「その減らず口が叩けなくなる日が愉しみだ」

 

 そう言って、龍園は去っていく。

 そして、ちょうどそのタイミングでアルベルトたちが降りてきた。きちんとタイミングは見計らっていたようだな。

 龍園は少し離れた場所で彼らをバレないように観察していた。奴らの人となりを調べているのだろう。いずれ、自分の駒として動かすことになる人材だ。相手の性格は知っておいて損はねぇ。

 術師でも何でもねぇただの高校生のやることじゃねぇとは思うがな。

 

 龍園の行動に呆れと関心を孕んだ感情を抱きつつ、授業が始まるのを待っていたその時だった。

 俺は背後から誰かが忍び寄る気配を察知した。ただ後ろにいるだけじゃねえ、確実に目的は俺だ。視線を強く背中に感じる。

 

 振り返ると、1歩先辺りの距離に誰かが立っていた。

 黒髪のショートカットに、気の強そうな目つき。微笑むというより、なんか高専的な笑みが似合いそうな女──伊吹がいた。

 

「アンタ、なんか武術やってたの?」

 

「はぁ?」

 

 突然、なんだこの女は──って、そうか。

 伊吹の立ち姿を見て納得する。

 スレンダーな体型だが、筋肉の付き方が武道を嗜んでいる奴のそれだ。それに、重心のブレも少ねぇ。それなりの期間、武術をひたすらにやって来たんだろうな。

 ある程度やってると、他人が素人かどうかは見分けられるようになる。

 伊吹の疑問はそういうことなんだろうな。

 

「ああ、つい最近までな」

 

「やっぱりね。何やってたの?」

 

「特に流派があるわけじゃねぇよ。家庭の事情で、色々と注ぎ込まれてただけだ」

 

 躯倶留隊。

 術式を持たねぇ禪院家の男どもが強制的に入隊させられる、柄の下部組織。日夜武芸を叩き込まれ、俺も一時期はそこに身を置いていたことがある。

 大抵の武術を俺はそこで学んだ。俺の場合、そこで学んだものを更に殺しに特化させたものだけどな。

 

「それだけか?」

 

「それだけよ。何か悪い?」

 

 悪くはねぇが。

 ついでに聞いておくか。

 

「入学初日、オマエめっちゃ俺のことを見てビビってたからな。話しかけられることはねぇかと思ってたんだよ」

 

「はぁ?」

 

 訊ねると、伊吹は眉を怪訝に顰める。

 一気に雰囲気が変わる。不機嫌そうな感じだ。しかし、思い当たる節があったのか、すぐさま霧散した。

 

「誰がアンタなんかに──ああ、あの時か」

 

「心当たりがあったか?」

 

「まぁね。そりゃあ、後ろに殺し屋みたいなツラした奴がいたらビビるでしょ」

 

「……」

 

 なるほど。

 否定はしねぇ。目つきが悪いとはこれまで散々言われてきたことだ。しかし、殺し屋な。

 偶然と呼ぶ他ねぇが、中々良い線言ってるじゃねぇか。

 

「アンタが『強面な男ランキング2位』に堂々とランクインしてるのも納得よ」

 

「んだそのランキング。高校生ってのは暇なのかよ」

 

「作った奴が暇人ってのは同感だけど、アンタも高校生でしょ」

 

 おっと。

 また悪い癖が出ちまった。未だに慣れねぇんだよなぁ。俺が学生っていう自覚が未だにねぇ。

 つーか、1位は誰なんだろうな。俺みてえな悪人面よりやべーって相当だぜ?

 あとで目を通しとくか。いい暇つぶしになりそうだ。

 

「オマエは素直じゃねぇ女ランキングにランク入りしてそうだぜ伊吹」

 

「……は?」

 

 いるんだよなー、気が強い反面自分を愛して欲しい欲求が強いやつ。コイツがそれに当てはまるかは別として。

 

 伊吹が噛みつこうとしてくるが、その続きを口することはなかった。

 プールに響き渡った新たな声がそれを掻き消したからだ。

 

「よーしおまえら集合しろ!」

 

 如何にも体育会系と言わんばかりの筋肉質な男──体育担当の教師だ。熱血漢、俺はああいうタイプは苦手なんだよなぁ。駒としても扱いにくいタイプだ。

 

「じゃ、授業が始まったんでな」

 

「……」

 

 伊吹は最後まで俺を睨んでいた。

 

 

 

 ちなみに『イケてる男ランキング』では1位だった。

 

 

 




懐玉編-拾壱- 原作75話の扉絵を見て貰えれば分かると思うんですが、パパ黒の筋肉すごいんですよね。好き。
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