ようこそ天与の暴君のいる教室へ   作:うたたね。

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水泳描写は適当にカットさせていただきました。
まぁ、書いててもパパ黒すげー!にしかなりませんし。


第四話 Sシステムの真相

 水泳の一件から早くも三週間が経つ。

 あの後、担当教師の提案で50m自由形で俺たちは競走することになった。そこで優勝した奴が5000ポイントを獲得という流れに。

 当然、俺は優勝を果たしたが、水泳部の奴らに目をつけられ、ここ二週間は辟易とした日々を過ごしていた。

 俺が水泳部に入る兆しがないと漸く分かったからか、顧問や生徒からの勧誘はほとんど鳴りを潜めた。

 どのみち、水泳部に限らずに俺が部活動をしたところで長続きするとは思えねぇ。俺にはスポーツに対してやる気はねぇ。そんな奴を入れたところで不和が起こるに決まっているからな。

 

 そんなことより、今日は5月1日だ。それが示すのは、ポイントの振り込み日だということだ。

 昨日のクラスメートや他クラスの生徒の反応を見るに、Sシステムの真相に気づいた奴はほとんどいねぇ。どいつもこいつも毎月10万ポイントも貰えると勘違いしてやがる。

 少し頭を回せば分かることだ。無料商品コーナーなんつうヒントもあったしな。ま、こんな名門校に進学出来たっていう達成感から、マトモな思考を奪われちまっても仕方ねぇか。

 

 今朝、振り込まれたポイントを確認したところ、やっぱり10万ポイントは振り込まれていなかった。どころか、5万を切って4万9000ポイントしか獲得出来ていない。

 

「ねぇねぇ、ポイント振り込まれてたー?」

 

「いや、振り込まれてない。私、もうポイントほとんど残ってないから、早く振り込んでもらわないと今月遊びに行けなーい!」

 

 階段を登っている途中、そんな会話が俺の耳に入ってきた。

 視線を少しそちらにズラすと、金髪ポニテのギャルとその取り巻きらしき女がいた。

 如何にも頭が弱そうな奴らだ。確かDクラスの生徒だった気がする。名前は忘れた。

 が、そんなことよりも気になったことがひとつ。

 ポイントが振り込まれていない?

 

「……マジか」

 

 流石の俺も呆れて思わず言葉を溢した。

 俺の推測通りなら、奴らはこの1ヶ月で10万という学校から与えられた評価を全て使い切ったということになる。

 Cクラスで5万近くも残っていると考えれば、Dクラスがどれだけヤバい奴らの集まりなのかが悟れた。

 もしもこれから先敵対することになったとしても、奴らは相手にならねぇだろうな。

 配属先がアイツらと同じクラスじゃなくて良かったとつくづく思う。

 

 教室に着くと、想像通りざわざわと喧騒に包まれていた。とはいえ、大体朝はこんな感じだ。ただ、今日は雰囲気が大きく変わっている。いつもは楽しげな感じだが、今は不安と困惑、焦りに満ちている。状況を把握出来ていないのだろう。

 そんなクラスメートを観察しながら、席に着く。すると、隣に座っていた龍園がこちらを見ずに話しかけてきた。

 

「クク。想定通りだったな伏黒」

 

「まぁな。オマエは何ポイント残ったんだ?」

 

「さて、な。ま、多少の浪費はあるがそいつは必要経費だ。()()()()()()()

 

「なるほど」

 

 この1ヶ月、敷地内をくまなく探索していた龍園。ポイントはおそらくその情報収集のために使ったに決まっている。

 他のクラスの動きは知らないが、おそらく今現在一年でこの学校のことを知り尽くしているのはコイツだ。

 性格に似合わず、地道な作業を行うのに躊躇いはないらしい。

 

「テメェはどうなんだ? あと何ポイント残ってる?」

 

「自分が教えてねぇくせして他人に聞くんじゃねぇよ」

 

「ケチィ奴だな。嫌われるぜ?」

 

「男に奢る気はねぇんだよ」

 

「ねぇ、アンタらさっきから何の話してんの?」

 

 俺と龍園の会話が聞こえていたのか、前の席の伊吹が振り返り俺たちを訝しげに見つめてくる。

 龍園はそんな彼女を鼻で笑う。

 

「これから分かることだ。見抜けてねえ間抜けは黙ってろ」

 

「は? アンタ、私が女だからって舐めてない?」

 

 伊吹の堪忍袋の尾が切れた。龍園を強く睨みつけるが、当の本人はそれを見て嘲笑するだけだ。

 伊吹はその態度に更に苛立ちを募らせるが、流石に教室内で暴れるのはマズイと分かっているのだろう。特に大きな動きは見せない。

 

「安心しろ。性別云々関係なく、俺にとっちゃ全員雑魚だからよ。身の程を分からせてやってもいいんだぜ?」

 

「……上等じゃん。泣いて謝っても許さないから」

 

「うるせぇなオマエら」

 

 目の前でばちばちと火花を鳴らす二人に俺はため息を吐く。

 とはいえ、揉め事なんてのは見てる側からすると良い暇潰しにはなる。やるならやるで、人気(ひとけ)のない場所で観戦したいもんだ。

 

 一触即発の雰囲気──しかし、その終わりを告げるようにして、チャイムが鳴る。同時に坂上が教室に入ってくる。伊吹は舌打ちをして前を向いた。

 こりゃ、昼休みか放課後辺りに一悶着ありそうだな。

 

 坂上は教壇に立つと、俺たちを見渡した。一度、視線が俺と龍園の位置で止まったが、それ以外に気になる点はなく口を開く。

 

「さて、皆さんおはよう。これより朝のホームルームを始める、が。その前に何か質問はあるかね?」

 

 その問い掛けは、俺たちに質問があって当然と言った口ぶりだ。実際、手を挙げた生徒はいた。

 

「では西野」

 

 西野と呼ばれたサイドテールのギャルが指名された。

 

「今朝、ポイントが5万近くしか振り込まれてませんでした。理由があるなら、説明してもらえますか?」

 

「ふむ。君の疑問も尤もだ。おそらくはこのクラスの殆どの人が君と同じような疑問を抱いていると思う。

 では、何故君たちに4万9000ポイントしか支払われなかったのか──その疑念から解いていくとしよう」

 

 眼鏡を押し上げ、坂上が説明を始める。

 

「まず、前提として毎月10万ものポイントが支払われる──これは間違いだ。君たちの勘違いと言ってもいいだろう」

 

「はぁ!?」

 

「あ、でも確かに毎月10万って……」

 

「私はそんな風に説明した覚えはない。まぁ、そう受け取ってしまうように語ったのは否定はしないがね」

 

 坂上はクラスのどよめきに臆することない。当然、彼らの反応も予測出来ていたんだろうな。

 ポイントの説明に関しては、坂上の言う通りだ。坂上は一度も毎月10万が支払われるなんて言ってないからな。

 

「入学式の日、私は君たちにこう言いました。『この学校は実力を測る。入学を果たした君たちにはそれだけの価値と可能性がある。これはそのことに対する評価』──とね。

 ふむ。どうやら薄々勘付き始めた生徒がいるみたいだね。例年と比べ、やはり今年のCクラスは優秀らしい」

 

 坂上は薄く笑う。

 

「時間も限られている。本題に入るとしよう。10万ポイントは入学時点での君たちの評価──そして、今君たちの手元にある4万9000ポイントは4()()3()0()()()()()()()()()()()()ということだ。

 つまり、授業中の私語や携帯の使用、あるいは遅刻欠席や学外での違反行動──それらがポイントに反映される、ということだ」

 

 推察通り、だったな。

 ちらりと龍園を見ると、楽しげに口角を吊り上げていた。

 

「理解出来たかな? では、次の説明に入ろう。これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。きちんと聞いておくように」

 

 そうして、坂上は手に持っていたポスターのような筒を広げ、ホワイトボードに磁石で固定する。

 そこに記されてあったのは。

 

 Aクラス──940cp

 Bクラス──650cp

 Cクラス──490cp

 Dクラス──0cp

 

「──各クラスの成績、か」

 

「伏黒の言う通り。これは各クラスの成績だ」

 

 俺の呟きを坂上は拾う。

 

 クラスの成績。どのクラスも大小の差はあれど点数が下がっていることが分かる。

 そして、同時に見える奇妙な点。

 それはクラスのポイントが上から順に綺麗に差が生じていること。これは普通ならあり得ない現象だ。

 普通の学校は、例外はあれど大体同じような成績の生徒が集められる。そのため、クラスごとに多少の差は生じたとしても、ここまで大きく差は開くことはねぇ。

 水泳の時の龍園の言葉、今朝のDクラスの生徒の会話、そしてこのクラス表。

 俺の推察が正しかったことが証明された。

 

 つまるところ、この学校のクラス分けというのは──

 

「もう既に気づいただろう? この学校のクラス分けの仕組みが。

 この学校では優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、と。

 君たちは学校の査定により、この学年で3番目に優秀な生徒──言い方を変えれば、2番目に劣っている、と評価されたことになる」

 

 そう。

 これがこの学校のシステム。

 成績により生徒を詳細に評価し、各クラスに振り分ける。その結果、俺たちはCクラスに相応しいと評価されたということだ。

 

「ただ、だからといって今後ずっと君たちがCクラスというわけでもない。

 クラスポイントは何も毎月振り込まれる金と連動しているだけではない。このポイントの数値はそのままクラスのランクに反映されるということだ。つまり──」

 

「──つまり、俺たちが現段階で940ポイントよりも上の成績を取ってりゃ、Aに上がれたってことだろ?」

 

「ああ、そうだ龍園」

 

「クク、なるほどなるほど。そいつはいい話を聞いた」

 

 龍園の考えていることは分かる。

 おそらく、今後ポイントが大きく左右される『何か』が行われる可能性がある。

 クラス同士の戦い。俺と龍園は既にその可能性を視野に入れていて、今日この日確信に至った。

 

「坂上先生、ひとついいでしょうか?」

 

 そう言って手を挙げたのは、マッシュ頭の生真面目そうな、陰気そうな男子生徒だ。

 坂上が了承すると、丁寧に感謝の言葉を口にし疑問を投げる。

 

「今回、我々が減点された項目ですが──その詳細については教えていただけないのでしょうか?」

 

「いい質問だ金田。しかし、人事考課、規則上それを教えることは出来ないんだ。ただ、そうだな。とりあえず授業を真面目に受けたとしてもポイントが上がることはない。出来て当たり前のことだからな。が、逆にそれが出来ていれば減点はないということだ」

 

「ありがとうございます」

 

 金田はくいっ、と眼鏡の位置を調節し着席する。

 

「さて、では最後にもうひとつ伝えなければならないことがある。これは君たちにとっても残念なお知らせだろう」

 

 坂上は持っていたもう一枚のポスターを手にし、クラス成績の横に貼り付ける。

 そこにあったのは、先日行われた小テストの結果。

 成績の高い順から名前と点数が並べられており、クラス全員の点数が記載されている。

 ちなみに俺は上から10番目くらいだ。

 そして、坂上は下の成績の一定ライン──正確には31点以下の点数を取っている生徒の境目に赤線を引く。

 

「先日に行った小テスト。あれは成績には反映されないが、本番の中間テスト、期末テストで赤点を取れば問答無用で退()()()()()から気をつけておいてくれたまえ」

 

「はぁぁぁぁああぁぁあ!!??」

 

「嘘だろ!?」

 

「た、退学って……追試とかないの……?」

 

 今回、赤点を取ったのは石崎と男子生徒一人と女子生徒一人の三人。もしもあのテストが本番だったら、このクラスから3人の退学者が出たことになる。

 流石に俺も驚いた。まさか一発退学とはな。

 

「そして、これが最後だが──この学校は希望する就職先、進学先に100%

応えると謳っているが、実際にその恩恵を受けられるのはAクラスのみだ。それ以下のクラスに反映されることはない」

 

 赤点の時とは比較にならない叫び声──悲鳴が教室を包む。

 俺みたいな突然この学校に放り込まれた奴とは違い、その恩恵を目的としてこの学校の入学を試みた奴は多い──というかほとんどだろう。

 そんな奴らからすれば、坂上の語る真実は阿鼻叫喚ものだ。事実、過半数以上の生徒が狼狽えている。

 

「では、ホームルームは以上だ。もしもまた質問があれば、休み時間や放課後に遠慮なく聞きに来てくれ」

 

 そう言って、坂上は教室を後にする。

 その後の午前から午後の授業は、私語も居眠りもなく真面目に行われていたが、ほとんどの生徒に落ち着きがなかったのは言うまでもない。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 そして、放課後。

 今朝のホームルームでの衝撃が未だに抜けていないのか、殆どの奴らが焦りを隠せていねぇ。

 だが、そんな中で平静を保ち、この状況を愉しんでいる男がいた。

 そいつは午後のホームルームが終わるや否やすぐに席を空け、ホワイトボードの前へと君臨する。

 そして、バン、と強く教壇を叩き注目を集めた。

 

「よーし、おまえら。まだ帰るなよ? これからこのクラスの『王』になる男の大切な話があるからよ」

 

 龍園がある生徒に視線を向ける。その生徒は石崎とアルベルトだ。彼らは龍園の視線を受け取るや否や、即座に前方後方のドアの前に立ち塞がり、逃げ道を封じた。

 どうやら、知らねぇ間に二人を配下にしていたらしい。石崎は兎も角、黒人の血を引くアルベルトをも下すとはな。龍園の評価を上方修正しておく必要がある。

 

 異様な雰囲気が教室を包み込む。張り詰める空気。気が弱い奴は空気の変化に敏感だ。何人かは既に震え、怯えている。

 

 

「王? 何をふざけたことを言っている。おまえの戯言に付き合うほど俺は暇じゃねえぞ、龍園」

 

 噛み付いてきたのは、一人の男子生徒だ。口調、声色からガラはあまり良くない生徒だということは分かる。

 それに対し、龍園は獰猛な笑みを浮かべて答える。

 

「戯言? 俺は本気だぜ時任。俺はこれから本気でAクラスを目指すつもりだ。そのために必要なのは、まずはリーダー──つまりテメェら雑魚どもを率いる王だ。

 当然だろ。それを戯言って判断するってんなら、テメェはその程度の奴だってことだな」

 

「ンだと……!」

 

「まず前提として、俺とテメェらは互角じゃねえんだよ。俺は今日より以前から既に動いていた。その証拠が石崎とアルベルトだ。あいつらは既に俺の下に屈した」

 

 教室にどよめきが走る。

 

「俺は今日の坂上の説明以前からSシステムの真相についてある程度悟っていた──つっても、信じられねえか。ま、その辺は坂上かそこの伊吹に聞けよ。真相がどうか直ぐに分かるぜ」

 

「……確かに。私は今日、アンタが伏黒とポイントのことについて話してたのを聞いた。けど、だからって私はアンタが上とは認めない。その舐め腐った態度が気に入らないのよ」

 

 伊吹は事実を認める。しかし、同時に龍園へと強い敵愾心を向ける。今朝のことを根に持っているんだろうな。

 

 しかし、面倒なことになった。

 今の話で俺が龍園同様にSシステムのことに気づいていることがクラスにバレた。

 問題はないが、面倒事は間違いなく増える。

 俺は龍園がリーダーをやる分には構わねぇ。ただ、だからってただで軍門に下るつもりはねぇ。

 俺を動かすなら、それなりのメリットは提示してもらわなきゃな。

 

 ま、少なくとも今日この茶番に付き合っても意味はねぇ。

 とりあえず、ズラからしてもらうか。

 

 鞄を手にし、窓をガラリと開ける。そのことに気づいた奴らが一斉に視線を向けて来る。

 

「おい、伏黒。テメェ何を──」

 

「誰がリーダーやるかはさておき、俺を動かしたきゃ頭使えよ龍園」

 

 そう言って俺は──()()()()()()()()()()()

 

 天与呪縛のフィジカルギフテッド。

 本来所持するはずの呪力を排斥し、代わりに強靭な肉体を俺は得た。常人なら大怪我を負ってしまう程の行動も俺には擦り傷にすらならねぇ。

 

 つまり、3階から地面に着地しても俺は無傷で済むわけだ。

 

 ただ、流石に3階から飛び降りて無傷で着地など普通の人間に出来るわけがねぇ。

 飛び降りると同時に壁伝いに設置されてあるパイプを掴み、パルクールの要領で降っていく。

 無事に着地した俺は上を見上げると、龍園を始めとする奴らが驚愕に満ちた表情で俺を見下ろしていた。

 俺は奴らに最大限煽るようにして舌を出し、その場を去った。

 

 

 




正直、龍園をもっと早く動かせばよかったかなぁって思いました。ま、ええか。


次回
天与の暴君vs不屈の暴君


頑張って早めに投稿しますわよ。
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