ユメノツボミ~春夢の花~   作:ロバート・こうじ

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2話 ムノーとサイホーン

「ふわぁ~まぶしいぃ」

 

トキワシティからニビシティに向かう途中で、旅を始めた蕾は、マサラタウンで仲間になったニドラン♂と一緒に、トキワの森を抜けていた。道中に会った蟲使いのトレーナーや近所の子どもとポケモンバトルを行い、蕾はニドラン♂がどういう技を使い、どんなポケモンを知るきっかけにもなり、少しずつ自信を付けていた。

 

「ニーちゃん、今日はこのままポケモンセンターに寄ろうか」

 

 蕾の言葉に片耳を動かす紫色のポケモン『ニドラン♂』こと『ニーちゃん』は小さく鳴いて、身体を伸ばす。モンスターボールの中はポケモンにとって快適なはずであるも、何故かニドラン♂は積極的には入らず、蕾もニドラン♂が後ろからトコトコと付いてくるから、あまり気にしなくなった。何より、一人で旅をしている感じがしないのも理由の一つだ。

 ちなみに、この呼び方はポケモントレーナーとバトルで指示を出すときの呼び方から始まる。いつまでもそのままの呼び方をしては、どこかポケモンとの距離を感じてしまい、よそよそしさもあったからだ。

 

 ニビシティのポケモンセンターに到着し、ニドラン♂の健康状態を確認する間に椅子で休憩をしてると、後ろからじぃと見ていた男の人に声をかけられた。旅を始めてから、こういう事態には慣れていても、蕾の場合は自分の言葉だけに集中してしまい、相手に合わせることをおろそかにしてしまう。ようは、深い会話に慣れていない証拠だ。

 

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん。この街で見ないものだけど、旅のトレーナーかな?」

「はい!ここには来たばかりなんですよ」

「ち、ち、ち。それなら、あ・な・た・だけにいいお話があるんだよ」

「いいお話ですか?それって、どんなことです!!」

「ここのジムリーダーは岩ポケモン使いでな。戦いに有利になる秘密の水ポケモン『コイキング』がなんと、たったの1500円!!どうかな?」

 

 男の人は右手で人差し指を伸ばし、左手を広げて水ポケモンの優位性を言う。固い身体を持つ岩ポケモンと戦うにも、ニーちゃんに頑張ってもらうだけでは、可哀想な部分もある。値段はキズぐすりやモンスターボールよりも高値ではあるが、それ以上に旅はまだ始まったばかりであり、一匹でも仲間を増やしたかった蕾には悪くない話に思えた。

 

「いいんですか!!買います!」

「毎度あり!!ちなみに、ポケモンの返品はお断りだよぉ」

 

男の気前良い声に、蕾は不審に思うも、初めての水ポケモンに笑顔でお礼を言った。相手の良い所だけを見て悪い所を余り見ない性格は彼女の長所でもあり、欠点でもあった。

 

 

トキワの森には紫色のポケモンが岩のひんやりとした感触を味わいながら、蕾とコイキングの私闘に、あくびをしている。野生のポケモンであるさなぎポケモン『トランセル』と地面に跳ねているだけの『コイキング』。お互いに硬調状態で一人、あわ踊りに似た動作で指示を出している蕾は困り果てていた。

 

「えぇ…この『コイキング』って子…跳ねてばっかりだよぉ。全然、戦ってくれないし」

 

コイキングをモンスターボールに戻してから、蕾は戦ったトレーナーにコイキングのことを聞き始めた。やがて、疲れ果てた顔で蕾はニドラン♂の休んでいた岩に背もたれる。岩から降りたニドラン♂は、そっと蕾の隣に座った。

 

「ニーちゃん。他のトレーナーさんにも聞いてみたけど、『泳げない』『最弱』『似ても焼いても食えない』って…散々な言われ方されていたよ」

 

蕾は首を竦めて、岩場に寄り添う。だが、口調は落ち込んでいるように見えず、コイキングの散々な言われ方の部分を癪に触っている感じであり、視線だけは真剣な目をしていた。

 

「大丈夫、私はこの子を見捨てたくないの。私なんかね、モンスターボールを投げるのは下手くそでちっとも上手じゃないし…ママからいつもおっちょこちょいで落ち着きのない子ねって言われているんだよ」

 

ニーちゃんの頭を軽く撫でていくと、ニドラン♂も蕾の手の平に頬ずる。

 

「よぅし!!まずは仲良くなる所から始めるよ。川で遊びながら泳ぎの特訓だー!!」

 

トキワの森の付近にあった川を思い出して、目的地へ真っ直ぐに向かう。小川に着いた蕾は服を脱ぎ捨てて、その陽に緑色のビキニにフリルの付いた水着の肌を晒す。水遊びをしたくて服の中に着込んでおいたものである。

 

「行け!コイキング!!」

 

モンスターボールを開いて現れたコイキングは、川の貯水された浅瀬でバシャバシャ跳ねながら水を飛ばしていくのを、ゆっくりと身体を持ち上げて浅瀬で身体を支える。その様子を眠たげながらも、ニドラン♂は達観しながら周囲を見回していた。

 トリポケモンは上空から跳ねてばかりのコイキングを餌と認識して捕まってしまう話からニーちゃんには警戒を任せた。もちろん、水遊びもしながら楽しむのも忘れない。

 

「焦らないで…まずはゆっくりと浅瀬から水に慣れていこう」

 

水ポケモンに水に慣れてもらうのも変な話かも知れない。だが、このコイキングはどうも野生のポケモンよりも泳ぎが上手でない気がした。蕾の胸までの深さでも、胸びれと背びれを動かせない部分から、そんな感じがあるのだ。

 

「そうそう…まずは浅瀬で身体を起こして…バランスはこんな感じだよぉ」

 

コイキングのザラザラした鱗の感触は固い鎧の様であり、水で柔らかくなった皮膚では手を斬ってしまいそうであった。両手で身体を垂直にしてゆっくりと水しぶきを少なくなる泳ぎ方を教える。途端に、ニーちゃんの「キィ!」の声を聴き、空を見上げればポッポにしては身体の大きいポケモンが、コイキングを目掛けて突進してきた。

 

「この子はエサじゃないよ!!ニーちゃん『つのでつく』!!」

 

浅瀬で水遊びをしていたニドラン♂は蕾の声に反応し、水面から陸地に飛ぶ。両足を蹴り上げ、突進したポッポの無防備な横を角でくいこませた。痛みに耐えきれなくなったポッポは、そのまま逃げる。

 

「ニーちゃん、ありがとね!」

 

たまに襲いかかってくるポッポやオニスズメをニドラン♂で追い払いながらコイキングの泳ぎの練習を続けていく。その進化形体のピジョンやオニドリルの場合は、ニドラン♂が一段と甲高い声を上げてくれたお蔭で、コイキングをモンスターボールに仕舞ってからバトルを繰り広げていた。

 

 そんな時間を過ごして一週間。コイキングは中流でも泳げる様になり、新たに跳ねた衝撃でポケモンに攻撃するボディアタック戦術をくりだし、野生のポケモンと戦えるまでに成長した。

 ニーちゃんも『どくばり』から少しずつ強い毒に慣れていく戦闘を繰り返すうちに、自分より大きなポケモンにも強い毒性で立ち向かえる程にはなった。まだ自分の毒を上手く扱えずに、先から滲み出る粘着性のある紫の液体を地に零してしまう体質があり、ポケモンバトルでは『どくばり』からの直接勝負を得意としていた。

 

「…うん!これなら、次の街に向かっても大丈夫だよね。もっと、いろんなポケモンと会いたいなぁ」

 

 蕾もポケモンが強くなるのが嬉しい反面、彼らと仲良くなれていくのが楽しかった。詐欺に近い金額でコイキングを買うも、泳ぎの成長や固い鱗を工夫した戦い方の出来るこの子の可能性の高さに、苦い思い出も些細に感じた。むしろ、また会えれば男性に対して感謝を伝えたいほどである。

 だが、蕾はすっかり忘れていた。何故、水ポケモンを手に入れたかを。

 

 

「次の目的地は…う~、このタウンマップ見にくい。こっちが…北だから、えっと…」

 

ニビシティから次のハナダシティに向かう道を、タウンマップを上下左右に持ち替えながら歩いていた。

 

「そこの、君!君はポケモントレーナーだろ?」

「はい、そうですよ」

「いま、ニビシティのムノーさんが対戦相手を探していてな…ちょっとついて来てくれ」

 

考えた末、二つ返事に付いていくと¨ニビシティジムリーダー『ムノー』強くて固い石の男¨の看板がある建物まで案内される。

 

「そういえば…君はトレーナーを初めてどれくらいになる?」

「ふぇ。ちょうど二週間くらいですかね」

「それではジムバッチを一つも持っていないか。今さらだが、ムノーさんが相手をしてくれるかどうか」

 

案内役をした男性も蕾のトレーナー歴を聞き、苦笑せざるをえなかった。受付の付近にいた茶鬚を顎に生やした男は軽快に、男性と蕾の二人を見る。白いシャツに、濃い緑色の作業着のようなズボン。作業場の人の様な格好をしていた。

 

「それくらいは構わんよ。ジムリーダーが見たいのは、そのポケモントレーナーとポケモンとの相性だからな」

「ムノーさん新しい挑戦者を連れてきました」

 

ジムリーダーと聞いた蕾は、勢いのまま頭を下げてしまう。恰好がみずぼらしかっただけで、人を判断していたことは、彼女にとって恥ずかしいことでもあったからだ。

 

「いいだろう。君、ジム戦は初めてかな?」

「はい」

 

ジムのバトルフィールドはゴツゴツとした岩。上は照明の明かりが眩しく、いつの間にか観客席には見物人もいた。フィールドの端まで距離を取ったムノーと蕾。中央には赤と白の旗を持った審判の人が立会人となる。

 

「これより、ジムリーダー『ムノー』とチャレンジャー『蕾』の試合を始めます」

「ではこの二匹で相手をしよう。こい!『イワーク』」

「だったら私は…いけ!『ニーちゃん』」

 

いわへびポケモン『イワーク』の高さは8メートル以上。ニーちゃんとの体格差は圧倒的だ。初めて対峙する大型のポケモンにも、ニドラン♂は砂を足払いさせる余裕を持ってみせる。その態度が勝機は大型だから勝てない訳ではないことを、ツボミ自身も感じていた。

 

「イワーク『たいあたり』!」

「ニーちゃん『どくばり』!」

 

イワークのたいあたりを、飛び越えたニドラン♂は口からどくばりを発射する。無数の針を遠距離から放たれれば、接近戦主体のイワークは本来の力を出し切れない。全身の長さを活かしたイワークならではの方法で、ムノーは遠距離に対抗する指示を下す。

 

「イワークよ!尻尾で叩きつけろ!」

「ニーちゃん!避けて!」

 

地面を叩きつけた衝撃で小石や砂霧を舞わせるも、ニドラン♂は大きな石を壁にしてやり過ごす。イワークは全身が一つ一つの大きな石をくっついた姿をしており、尻尾を霞めただけでも相当なダメージを負ってしまう。だが、そんな体格だからこその弱点もある。

 

「ニーちゃん!そのままイワークの体を昇って!!」

 

イワークの身体を軽々と飛びながら登っていくニドラン♂。そんなイワークは小動物を振り払おうと身体を振り回したり、尻尾で小石を飛ばしながら自分の身体に当てていくも、ニドラン♂は小石を避けて頭上まで登り切る。コイキングとの泳ぎ特訓で周囲を見渡す練習が役に立った瞬間だった。

 

「今だ!!『にどげり』!」

 

イワークの顔面に目掛けて蹴り上げ、二回目は叩きつける。巨体は傾き、地面にのびたイワークの衝撃で砂埃が舞う。

 

「おぉイワーク!」

「イワーク、戦闘不能!!」

 

審判の判断でムノーはイワークをモンスターボールに戻す。まだ一匹目ではあるも、あのニドラン♂と少女には確かな信頼関係があった。イワークを昇るという発想に攻撃を避けるまでの動作。状況を判断する者と現場から判断する物。二人の相性の良さを垣間見たムノーは思わず、口元を上げる。

 

 

「ふむ…中々やりおる。ワシのとっておきを出すとするか――ゆけ!『サイホーン』」

 

とげとげポケモン『サイホーン』の高さこそイワークに劣るも、鋭い目つきと角に大きな身体は相手にプレッシャーを与える。だが、サイホーンの姿に観客席はどよめく。

 

「ムノーさん、本気かな?」「いつものポケモンじゃないのか」の声は、当然に蕾にも聞こえているが、蕾はそれどころではなかった。

 

(私のペース、私のペースでいけばいい…)

 

自分の判断とポケモンを信じる。相手がどれだけ強大でも、自分が慌ててはいけない。少ない経験でもニーちゃんの戦いを不安にさせることだけはしたくなかった。

 

「それでは、試合始め!!」

「サイホーン!『つのでつく』」

「ニーちゃん!こっちも『つのでつく』」

 

互いに駆け出したサイホーンとニドラン♂の角を突き合わせても、衝撃を相殺したかの様に駆け抜けてしまう。

 

「サイホーン!『ふみつけ』」

 

ニドラン♂にめがけて前足を振り上げるも、小回りの利く身体を簡単には捉えられずに、地面をめり込ませてしまう。その衝撃は遠くに離れていた蕾がバランスを崩してしまう揺れを起こす。

 

「接近戦は不利かな?それなら…ニーちゃん!『どくばり』」

 

遠距離でも攻撃のできるどくばりをサイホーンに与えていく。だがふみつけを避けるだけでなく、慣れない地面の揺れでの戦いはニドラン♂の疲労を蓄積させる。少しふらつきがあったのを見てから、蕾はボールを向ける。

 

「戻ってニーちゃん!――行くよ!『コーちゃん』」

 

ボールに戻したニドラン♂から入れ替えて、新たに『コイキング』こと『コーちゃん』を繰り出す。相変わらず、地面を跳ねているだけであるも、蕾はある確信めいた直感を信じて出した――が、

 

「あんなポケモンに何ができるんだろ?」「あれって、コイキングだよな。あんな弱いポケモンをジム戦で使うなんて」などの観客からのヤジが目立つ。一方のムノーは、一瞬だけ驚くも、蕾のコイキングを見る目は真剣であり、そんな気も失せていた。

 

「サイホーン!『ふみつけ』」

「コーちゃん!思いっきり『はねて』」

 

本来は一メートルを飛ぶのがやっとのコイキングでもサイホーンの高さより跳ねあがる。ゴツゴツとした背中でもコイキング一匹分の隙間はあったそう。バタバタと跳ねるコイキングをうっとおしいと思い、身体を跳ねて身体を動かすサイホーン。お互いに『はねる』勝負になるも、蕾はコイキングにエールを送る。

 

「コーちゃん!その調子だよ!そのまま、サイホーンの上で跳ね続けて!!」

「サイホーン、落ち着け!!そのまま体を横に倒すのだ!」

 

サイホーンもムノーの声で跳ね飛ぶのをやめ、身体を横にしてコイキングを地に落とす。コイキングも跳ね続けたせいか、地面で跳ねる力は弱々しいものであった。

 

「お疲れさま、コーちゃん。いっくよー『ニーちゃん』」

 

コイキングをモンスターボールに入れ替え、再びニドラン♂に交替する。

 

「いくぞ、サイホーン!『つのでつく』」

「真っ向勝負だよ、ニーちゃん!『つのでつく』」

 

二度目の衝突に会場は一瞬だけ静まり返る。数分にも感じる硬直状態の時間――サイホーンはゆっくりと前足を折りたたんで座り込む。

 

「サイホーン戦闘不能!ニドラン♂の勝ち!よって勝者、チャレンジャー蕾!!」

「やったぁ!やったよぉ!!ニーちゃぁぁん!!」

 

蕾はニドラン♂に駆け寄って抱き上げる。サイホーンに状態異常を回復するアイテム『なんでもなおし』をかけてから、モンスターボールに戻し、ムノーは歩み寄る。

 

「最初の『どくばり』でサイホーンを毒にさせ、コイキングに入れ替える作戦。見事だったぞ」

「えへへ…でも、ニーちゃんとコーちゃんのお蔭です!」

「久しぶりにいい試合をしたわ。君にはジムリーダーが認めた証、グレーバッジを進呈しよう」

「わぁ、すごくきれい…ありがとうございます」

 

バッチを事前に用意しておいた箱に大切にしまい、それをリュックに入れる。蕾はムノーと審査員の人にお礼を言い、ニビジムを後にした。

 

 

 蕾が出た後のジムは慌ただしかった。イワークで小石や地面を整備するだけでなく、サイホーンによるふみつけの跡でフィールドはデコボコしていた。いつもなら、イシツブテか二体目のイワークを出すのだが、サイホーンは滅多に出さないので難航していた。ムノーは整備員の人と一緒にフィールドの、特にサイホーンで出来た跡を奇麗に掃除していれば、審査員に茶化されてしまう。

 

「惜しかったですね。まさか、サイホーンが負けるとは思いませんでしたよ」

「ワシもまだまだということだな。いっそ、ワシも旅をしてみたいわい」

「ご冗談を…それにしても楽しそうにバトルしていましたよね」

「ふっはっは!若い者の成長を見るのは楽しいものだ」

 

彼はしばらく黙ってから、やがてこちらをゆっくりと見ると、

 

「それに、あのコイキングとニドラン♂の戦いは面白かった。コイキングはサイホーンより高く跳ねておったわ。特に、ニドラン♂だ。ワシのサイホーン相手に突き飛ばされない身体の使い方は目を見張る物がある。それにトレーナーを良く信頼した動き方をしおった。あのポケモン、将来有望かもしれんぞ?」

 

 サイホーンによるふみあとをたしかめながら、先の戦いに想いはせ、ムノーは地面を整備していった。

 

 

「ポケモンセンター、よぅし。さてと、ジョーイさんに聞いたけど、ここから近いのはハナダシティかぁ。まずは、お月見山を通って…と」

 

次の目的はハナダシティ。そこに通るまでのお月見山。そこには、どんな出来事があるのか。蕾は次の目的地に想いを乗せて、歩いていく。

 




ムノーはタケシの父親ですね。少しだけ時系列はアニポケよりもずれているイメージでお願いします。
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