ユメノツボミ~春夢の花~   作:ロバート・こうじ

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3話 お月見山での大騒動

ニドラン♂とコイキングの活躍で無事にグレーバッジを獲得した蕾は、次の目的地であるハナダシティに向けてお月見山を探索していた。湿地した洞窟にこうもりポケモン『ズバット』やがんせきポケモン『イシツブテ』が生息する場所である。足元のおぼつかない場所に石とイシツブテを間違えて蹴り躓いてしまい、怒らせたイシツブテに襲われた悲鳴を上げてズバットを呼び寄せて逃げるトレーナーが後を絶たない。集団で襲ってくるズバットの牙には毒を持ち、下手に刺激してはいけないのは熟練トレーナーのお約束になっている。

 

蕾も足元に注意しながら歩いていく。ニーちゃんは洞窟を出るまでモンスターボールにおとなしくしてもらっている。しかし、偶にイシツブテを素通りすると、カタカタ鳴らして出てきそうになる。そんな時は、軽く手を添えるとすぐにおとなしくなるが。

 

「トレーナーでしょ?バトルしない?」

 

立札の陰からひょっこりと女の子が現れる。濃い茶色髪に緑を強調した厚手の上着に短パン。気づかぬうちに声をかけられたら驚くが、蕾は、身体をピクリとしただけで笑顔だ。急な誘いでも、動揺している様子はみられなかった。

 

「いいよ。私もちょうど戦いたかったから!よろしくね」

 

にっこりして蕾は言い、二人同時にポケモンを出す。女の子はふうせんポケモン『プリン』に対して蕾は『コイキング』を出す。

ピンクの丸いボディに愛くるしい『プリン』は見た目と裏腹に歌唱力と肺活量はトップクラスのポケモンだ。ポケモンセンターでは子どもと女性の天敵である夜更かし防止で決まった時間にうたわせて眠気を誘う看護師ポケモンとしても活躍している。

 

勝負は一瞬だった。相手のプリンは普段から戦い慣れないのか、コイキングをぺチぺチはたくのみであり、見かねたコイキングははねた勢いで尻尾を捻り、プリンの頬を引っ叩く。頬を腫らして泣きながらトレーナーの元に帰ってしまい、互いに指示をだす前に決着がついた。

 

「ああ…もう!友達ともはぐれちゃうし、ツイてないわ」

「ふぇえ…そんなこと言われても…」

 

※蕾はとばっちりを受けた。もちろん、彼女はコーちゃんにそんな指示を出していない。

 

「いいわよ別に…あんたのせいでもないし、意外とお月見山は迷いにくいのよ。友達もすぐに見つかるから」

 

近くにあった小石を放り投げて言う。

 

「あのぅ。何でこんなにトレーナーが多いんですか?お月見山って、そんなに有名な場所なの?」

 

新人らしきトレーナーや山男の使うつるはしを持つ人の多さを、彼女は知っているのか、蕾は言った。

 

「あら、知らないの?お月見山は、最近になって『月の石』が取れるってテレビや雑誌に取り上げられたのよ。珍しいから高値でも売れるし、一攫千金で取りに来るトレーナーやマニアは多いのよ」

「そうなんだ…どおりでつるはしを持ったトレーナーがいたんだ。ずっと変だなって思っちゃったよ」

「なんかトロそうね、あんた。『月の石』を知らないなら、何しにお月見山に来たの?」

 

冷ややかに問いかける。

 

「えっと…ハナダシティに行きたくて…そこのジムリーダーに挑戦したいんだ!!」

「あんたが!?」

 

意外な声を上げてしまう。彼女は友達とはぐれた気晴らしに蕾とバトルをしたが、自分よりも幼い雰囲気で幼児体型。ポケモンジムに挑戦するにせよ、彼女は目つきが悪くて格闘家の様なマッチョ体形をイメージしていた。どう贔屓目で見ても、気弱な彼女にそんな願望を連想出来ずに否定してしまう。

 

「…そんなにはっきり言わないでよ」

「ご、ごめんなさい!悪気があったわけじゃないわ」

 

肩をがっくりと落としてしまい、目を細めてしまう蕾に彼女は慌てて言いなおす。自分を肯定したくて話したくないが、まるで言い訳みたいな言い方をする。

 

「お詫びじゃないけど、いいこと教えてあげる。お月見山は『月の石』だけが有名じゃないの。満月になるとようせいポケモン『ピッピ』がくるのよ。それに集団で踊っているのを見たトレーナーに幸せをもたらすと言われているわ」

「すごいロマンチックぅ!!私も見れたらいいなぁ」

 

※蕾は意外と俗っぽいおとぎ話は好きだった。

 

「滅多には見られないわよ。よっぽど運が良くないとね」

「教えてくれてありがとう。私はもう行っちゃうけど、友達と会えるといいね!」

 

太陽は北を向いており、日の出から半分しか経っていない。満月までの夜には何時間も待たなくてはならないも、彼女は運が良ければピッピを見たい位の気持ちでいた。彼女はリュックを左右に振り、少し速足気味でお月見山の深淵部まで潜っていった。

 

 

お月見山の最深部に辿り着いてみると、ここにポケモンたちが踊れば一つのステージになるかもしれない。陽に照らされた丸い天日に先の尖った大きな岩。夜の月明かりをスポットライトにピッピ達の踊る姿は、一層、人を惹きつけ、幸せに似た出会ったことのない様な感動を与えていただろう。

 

「ふゎあ…こんなに大きいんだ!!夜になったらきれいだろうな~」

 

ピッピ達の踊る姿を思い浮かべる蕾の瞳にシイタケ柄を浮かべた。もし、ここにお目当てのポケモンが現れでもすれば、目から『キラキラこうせん』を発動させ、相手のポケモンを一瞬だけ固まらせることだろう。眺めていると、どこからか怪物の声が聞こえた。時間はちょうど12時を過ぎている。ここにきて、ようやく蕾は空腹に気づいて、失笑してしまった。

 

「もうお昼に近いのかな?せっかくだし、ここでご飯にしよっと!」

 

時計を持ち合わせていない蕾はお腹の音で食事する時間を決めていた。

 

「今日の~ごっはんは、サンドイッチ~たまごにレタスにベーコンさーん♪」

 

鼻歌交じりに風呂敷を開いたバスケットには野菜と肉のたっぷり挟んだサンドイッチである。手作り弁当をつまめば、ベーコンの油を包んだみずみずしいレタスのあっさりとした食感。口腔に爽やかな油を残したまま、卵入りを頬れば油気は卵と混ざり、サンドイッチの最高の出来栄えに身体を揺らしていた。

 

「あともうひと箱の分も半分たべちゃおー。こんなに美味しいんだもん。残りは皆にあげるよ」

 

バスケットに手を伸ばすも、何も掴めずに空をきってしまう。振り向くと、少し離れた所でピンク色のポケモンが両手でサンドイッチを食べていた。

 

「このサンドイッチうめー!!でも、もうちっと塩気が欲しいッピね」

「うわぁ、私のサンドイッチ!なんで食べちゃうのぉ~」

「いいだろ、僕も久しぶりに人間の食べ物が欲しかったピよ。この愛くるしい見た目で許してッピ!」

 

改まって語尾にピを付けるポケモンの全体像を眺める。大きな眼に太い眉毛に合わせて、横に膨れた身体は相撲取りを思わせる。特徴は異なるも、これがようせいポケモン『ピッピ』だ。蕾の知るピッピの様な愛くるしさはなく、がさつと図々しい性格なのは一目で分かった。それ以上に一番の驚きは――人語を喋るポケモンが、いま、目の前にいることだ。

 

「――うわ!このピッピ喋ってる!!あとあんまり可愛くないよ」

「失礼な奴ッピね!!僕は腹が減ってんだ!残りのサンドイッチも寄越せっピ!!」

「ひぃ――『ニーちゃん』お願い!!」

 

まるでサンドイッチは自分のものとしている調子で襲いかかってきた。反射的に手に沿えたモンスターボールを投げる前に、ニドラン♂が飛び出す。

 

「ニーちゃん『どくばり』!!」

「ギエー!!イタタタタッ!!」

 

鋭い針を刺されたピッピが地面を転がりながら、洞窟にだみ声を響かせる。お月見山の小石で敷き詰められた地に顔ごと擦れば石がくいこむ。毒の痛みに解放されて立ち上がれば、鼻から血を出してニドラン♂をにらみつけた。

 

「なろー!!ならこっちは『工事屋の頑固親父』で攻撃っピ!」

「どこから出してきたの!?」

「これは、僕の武器ッピよ。親父さんは昨日とは違う。今日の親父さんは一味違うッピ!!」

 

ニーちゃんの身体は自分の毒を制御できずに滲ませるほど強いも、ピッピの頑固親父のヘルメットで頭突きをしたり、振り回す攻撃にニーちゃんは気後れしてしまう。蕾は毒のトゲに触れない思いがけない攻撃に、焦りから短期戦での決着を付けようとした。

 

「ニーちゃん『つのでつく』!!」

「効かないッピよ。『頑固親父のヘルメット』でブロック!」

 

頑固親父の付けていたヘルメットを外す。ニドラン♂の角をヘルメットで防ぐも、強度に耐え切れないヘルメットは角を貫通してピッピに刺さる寸前で止まった。事前に伸ばしておいたベルトをニドラン♂に巻き付けて拘束し、突き刺さったヘルメットを外そうと、首を振り回する様子を、蕾は呆れきったように嘆息した

 

「さっきからずるい攻撃ばっかり…こんなの絶対おかしいよ」

「僕は真面目ッピよ!!なら本気をみせてやる!!はぁぁぁあ――」

 

足を広げ、手に力を込めて呼吸を整える仕草をするピッピに、蕾も身構えてしまう。これまでの常識が通じない相手に恐怖を感じる。これからどんな攻撃をするのか。ピッピの動きを見つめていると、ピッピは蕾の横を通り過ぎ、バスケットに入ったサンドイッチとの距離を詰める。

 

「秘儀!!『一気食い』ッピ!!!」

「あぁ!!皆の分のサンドイッチが!」

 

大口を開けて残りのサンドイッチを一度に口に放り込んでしまう。口に食べかすを残したまま、満足げにゲップをするピッピの顔は得意顔だ。

 

「数日何も食べていない時にだけ発動する僕の必殺技ッピ」

「それはもう技じゃないよぉ…」

 

ポケモンの技とかけ離れた攻撃をするピッピに技の概念が崩壊しかける蕾は、ふいに、理不尽さと惨めさに泣いてしまう。これを攻撃と認めないピッピは激怒して頑固親父を掲げるも、ボールから出たコイキングと駆けつけたニドラン♂に進行を止められる。二匹は同時にたいあたりを行い、ピッピを頑固親父ごと洞窟の奥にふっと飛ばした。

 

「ギエー!!よくも僕をコケにしてくれたッピね…覚えてろー!!」

 

完全な闇の中でピッピの叫び声が反響する。ようやく恐怖から逃れた、というだけのことで蕾は食欲を忘れるほどに心細かった。それでも、トレーナーの義務で助けてくれたニドラン♂とコイキングをあやす。

 

「…喋る太ったピッピなんて、忘れたくても忘れられないよ」

 

喋るピッピの恐怖に落ち着くまで、蕾は、ここになってあれがようせいポケモン『ピッピ』だったのを忘れていた。あの太ったピッピが20か30匹で踊り、歌う姿を思い浮かべた光景は蕾の許容範囲を超えていた。これ以上は、胃の中身をありったけに逆流させてしまうだろう。不快さに気分が悪くならないうちに、ハナダシティへと向かった。

 

 

お月見山を無事に下山できた蕾は、両手を広げて背伸びする。洞窟に入る前とはうってかわって、また成長した様な気もした。蕾は大きく息を吐いて、喋るピッピを意識しないようにしながら道路を歩いていた。

 

「なんだが、どっと疲れちゃった。早くシャワーでも浴びて、宿屋のベッドでゴロゴロしたいよぅ」

 

歩きやすい路道を歩いているとはいえ、気分のさえない重い足取りのままでは、ポケモンバトルをする負担も大きい。大元はあのピッピの戦い方にあるだけに、今日だけはバトルはせず、気分転換に旅の準備の買い物をしたかった。

 

「ポケモンのきのみだけは探そうかな。ニーちゃんはナナの実は好きなんだよね。コーちゃんは…何の実が好きだろ?」

 

木や茂みに隠れたきのみを手探りで辺りに触れていく。バナナに似たピンクと黄色の混じったナナの実は木にぶら下がっている。たまに茂みに隠れて育っているのは完熟性が高くて美味しいのだ。

 

「多く取れたらミルクと一緒にまぜまぜ…名付けて『モーモーバナナ』!お店に出せるかも」

 

きのみとドリンクを混ぜたデザートもとぎな未知の味は、きっと甘くて美味しいだろう。奇抜さよりもシンプルな味で家庭でも馴染みやすい物を売れば、浮いたお金でおこずかいも増やせる考えをしていた。ただ旅をしている身であり、お店で売るよりかは味のレシピを作るほどで留める気でいる。

 

「あれ――これだけフワフワ?何だろう…」

 

大きな茂みに伸ばした手になでやかなふわりとした毛並みは自然な感触とは程遠い。茂みを避ければ、その毛並みの正体はポケモンだった。寝込んでいるポケモンの状態が、蕾を不安にさせた。小さく痙攣させたその身体に、炎や雷を漏えいさせ、口から水を吐いている。

 

「え!?君、大丈夫!!」

 

見たことのないポケモンであるも、炎タイプに電気タイプや水タイプ技を同時に出す症状の異常さに動じてしまう。だが、どこからか大声を出し、茂みを荒々しく薙ぎ倒す音に、その動揺さも消え失せてしまう。こんな可愛いらしいポケモンが、関係が無いとも言いきれない。何か事情があるのだろう。

 

「なんだか分からないけど…この子を助けなくちゃ!」

 

この子を探しているのかは分からない。しかし、荒々しい探り方や怒声ある殺伐とした人たちにポケモンを渡せないと考えた蕾はタオルケットに毛玉のようなポケモンを包み、上着で隠す。不自然に膨れたお腹は、山登りをする格好に大きなリュックを背負った姿から、違和感はほとんどない。

 

「おい!ここに、茶色くてフワフワした毛並みのポケモンを見なかったか?」

「何のことです?そんなポケモンは知りませんよ」

 

嘘の苦手な蕾にとっては、器用な誤魔化し方はできない。本人は声を平静に保つのが精一杯だった。眼鏡をかけた痩せ型の男はじろりと一瞥して舌打ちをする。

 

「ちぃ!――ここにもいないか」

「ほっとけ!草の根を分けても必ず探し出せ!!」

 

大人達が離れてから、改めてシャツ越しに隠したポケモンの様子を覗きこむ。身体から今度は、氷の結晶に黒い靄を澱ませ、口に伸びた蔓を吐き出していた。ただの毒や麻痺の症状であれば、どくけしやまひなおしで済むならともかく、ここまで複数の症状を診てもらえる場所は、一つしか知らない。

 

「出てきちゃダメだよ。ここは窮屈だけど少しだけ我慢して。すぐにポケモンセンターに連れて行くから」

 

と、あやしながら言う。

 

「大丈夫だよ。怖い人はいないから安心して」

 

彼女はポケモンセンターのドアを開けて声を張る。

 

「ジョーイさん!!この子をお願いします!ひどい病気なの!」

 

上着に隠したポケモンをおろして、ジョーイさんの前に診せれば、そのポケモンの痙攣は弱々しいものになっていた。ポケモンの看護に長年関わった者でさえ、瞬時に顔色を変えるも、蕾と話すときは落ち着いた顔をする。

 

「分かりました!すぐに診ますね!」

「お願いします!その子を助けて下さい!!」

 

すぐに治療室に向かうポケモンは移動式ベッドの上でも変わらずに、室内へと消えていく。蕾はエントランスから、ジョーイさんがベッドを移動させて中に姿を消すまで、じっと見送っていた。

 

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