ユメノツボミ~春夢の花~   作:ロバート・こうじ

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5話 ハナダシティ!新たなる決意!!

新種の遺伝子を持つイーブイと出会い、ハナダシティのポケモンセンターで一夜を過ごした蕾は、食堂で朝食をとっていた。ハナダシティのジム戦を受けてから、次はどこにいこうか。地図とにらめっこをしても浮かばない考えに、途中で空腹に襲われた蕾は、ガラス越しにあるサンプル商品に誘われ、いつの間にか入店していたのだ。

 

「ん~このスパゲッティ、あっさりしてて美味しいぃ!ニーちゃんとコーちゃんも美味しい?」

 

ニドラン♂も配給されたポケモンフードを前歯でカリカリと食べて小さく鳴き、コイキングは両ヒレで身体を起こして食べていた。一般常識でコイキングの力は弱く、陸地では跳ねるのみで起き上がるのは異例である。蕾はトレーナー歴が浅く、これが異常とは気づいていない。イーブイはポケモンフードに手を付けず、腕を組んでそっぽを向いていた。

 

「イーブイ、ご飯食べないの?これ、美味しいよ?」

 

耳を立てて片目を開くも、またすぐに両目を瞑ってしまう。蕾は軽く溜息をついて、外の朝日の入る花を眺めた。

 

「気が向いたら食べれる様に持ってるね」

 

小瓶にカラカラと小気味な音を打ち、満タンに詰まった瓶の蓋を閉める。思うだけであるも、一緒に食べたいことを願ってしまう。水だけは飲んでいるのは確認したが、もしかしたらポケモンフードは食わず嫌いで食べないのかもしれない。それか、ポケモンフードが合っていないのかもしれない。とりあえずは、お世話になったジョーイさんに挨拶をしに席を立った。

 

 

 洞窟や水流の流れる大きな川にかすみの香りある道のりを、端から端まで歩くとポケモンセンターは、そこにある。緑園と鮮やかな花に迎えられる通りは美しさが顕著にされていた。だが、昨日の突風被害により計算された美しさは見る影もない。そんなポケモンセンターで蕾がイーブイを引き取ることには、ジョーイはさして驚かなかった。

 

「あなたはこの子をモンスターボールに入れないの?」

「その…イーブイが私を認めてくれたらしたいなって。無理やりゲットしちゃったら可哀想だから。この子が安心できる場所を見つけるまで一緒にいたいんです」

 

ニーちゃんを腕に抱えたまま、足元でお座りするイーブイを見る。

 

「イーブイの生息する地域は分かっていませんし、そもそもこの子を探している研究者の知らない場所に連れて行かないといけませんよ」

「…はい」

 

ジョーイは失態を宣告するように言う。

 

「でも私…この子が安心する場所を見つける力になりたいんです」

 

口調こそ弱々しい意思から、視線だけは揺るぎない真っ直ぐな眼に、彼女から少女にかける言葉は無い。だがこれからこの新人トレーナーが、ただバトルをするポケモントレーナーよりも厳しい茨の道を歩むのは明白だった。

 

「わかりました。こちらでは旅の助けになるか分かりませんが、ジョーイ専用のアドレスを教えますね」

「ありがとうございます。ほんのちょっぴりでも、この子の為にできることをしたいんですよ」

「…そうですか。もしかしたら旅の手助けになるかもしれませんね――少しだけ待ってください」

 

蕾は返事をする前に、言おうとした本人は関係者専用の部屋に向かってしまう。しばらくして現れたジョーイにミキサーの形をした持ち物を手渡された。片手で持てる程に軽く、旅をするにも十代の少女が待ち運ぶには配慮のある道具であった。

 

「ホウエン地方では有名なポケモンフードのポロックを作れるキッドです。説明書もお付けしますので、是非使ってみてください。それと…私があげたのはトレーナーの皆さんにはナイショにして下さいね」

「こんなものまで、ありがとうございます!」

 

ポケモントレーナーの中立を扱う立場にあるジョーイの役割から外れた行為。半年に一回はあるポケモンリーグの集会にて集まる情報交換で貰った物である。好きに使ってもよいとはいえ、一人だけ特別扱いをしては他のトレーナーを差別してしまう。内心とは裏腹に、蕾はリュックにある道具を出し入れしてから両手で肩ベルトを引っ張る。

 

「でもどうやってイーブイを連れて行こう?一緒に歩くわけには行かないし、抱っこするには目立つよね」

 

混じり気のない疑問に、イーブイは器用に蕾のパーカーをよじ登り、フードの中に丸くなって収まる。リュックや服に足を蹴る力から左右によろけるも、フードから茶色い耳をピンと動くたびに首筋のうなじに毛先を刺激された蕾は、慣れない感覚がより刺激される。

 

「きゃっ!くすぐったいよぉイーブイ!」

 

フードのくぼみに丸い毛玉をほぐす触り方をするも、先住民を主張して「ブィ!」の鳴き声で頑なに動かない。ひとまず落ち着ける場所としてモンスターボールの代わりに思うこととした。リュックサックに引っ掛けて歩けば、重さもない。

 

「じゃあ、行ってきます!」

「はい。お気を付けて」

 

全身の悦びを表現する直立90度まで下げたお辞儀をする蕾。フードにいたイーブイはコロリと落ちてしまい、怒った茶毛の獣は飛びかかり、布の帽子をお構いなく、怜悧な歯を頭に喰らわせる。

 

「ブィ――ッブ!!」

「ふにゃああ!!いったぁあああいいい!!!」

 

 慌てて駆け出す蕾を無視し、噛み付いたまま離れないイーブイ。しかし、ポケモン専属の医師であるジョーイからは半ば微笑ましく、半ば意外であった。人を信頼しないポケモンは勝手に離れてしまう。人間の衣類に包まり、怒っても離れようとはしないポケモンがトレーナーを嫌いになってはいないから、もうすでにイーブイは彼女に心を許しているのだ。その様子にジョーイは眼を閉じて、彼女の安全を祈っていた。

 

 

 ハナダシティのジム会場の前には人だかりができていた。彼らは看板よりも話し合っているトレーナーとジムリーダーに注目している。なぜならオレンジ色の髪の毛をボサボサにしたトレーナーに思う所があるのだ。涙目になりつつも鼻をすすり、から元気でぴょんと跳ねる少女におっとりとした様子で青い髪をした女性と向き合っている様な、対照的な光景だった。

 

「しばらくジム戦はないんです?」

「ハナダシティで原因不明の突風により、建物と民家に被害がありました。ジムリーダーの権限により、周辺住民の安全整備を行います。これにより、しばらくジム戦は臨時休業です。ジム戦の再開は日を改めてお伝えしますね」

「ありゃ、それはたいへんですね」

 

原因はあの『でんじゃらすじーさん』もとぎの『オーキド博士』によるカイリューの爆風だ。ポケモン図鑑には時速約2400kmで飛ぶこともできるポケモンと記録されてあり、それを乗りこなせるオーキド博士は規格外の人間である。知り合いと思われたくない彼女は必死に他人のフリをするが、何度も額の汗をぬぐう仕草をしてしまう。

 

(うぅ~恨みますよぉ。はかせぇ~)

 

※オーキド博士は『危険な他人・でんじゃらすじーさん』にランクアップした。夢乃蕾、心の評価。

 

そんな少女に、柔和な顔つきで紙を差し出す。

 

「お詫びでクチバシティに停泊しているサントアンヌ号の招待券を差し上げます」

「テレビでもあった船ですよね?こんな豪華な船のチケットを?」

「ご覧の通り、ハナダシティでのジム戦は行われません。代わりにトレーナーを船に集めて、快適にバトルをお楽しみできるように企画しました。これはその招待券です」

「いろんな人とバトルができるなんて…それってすぅごく楽しそう!」

 

手渡されたチケットを撫で、大切そうにズボンのポケットに折りたたむ。それまでは傍観者を決め込んでいたトレーナー達も我先へと、女性からチケットをねだり、女性の手元にあるチケットは全て完売となってしまう。

ほとんど意識することなく、ニーちゃんに目配せをする。もしかしたら、サントアンヌ号の停泊しているクチバシティで沢山のトレーナーとポケモンバトルで鍛えられるかもしれないし、そこに行けば珍しいポケモンを交換できるかもしれない。自然と足を運ぶ少女を、ニドラン♂はトコトコと付いていった。

 

 

先ほどの女性ジムリーダーはハナダシティから離れた裏庭で、辺りを慌ただしく見廻していた。誰かを待つには口元が震え、青白い顔は病気を思わせる。やがて木の陰から鋭い視線をした左の目尻に小さな傷を持つ男性の声に、長髪を振り払った。

 

「こ、これでいいでしょ!私の子ども達を返しなさい!!」

「まずまずだな…だが、チケットをハナダシティにいるトレーナーに配れたか。いいだろう。お前の子どもはハナダの峠にあるベンチに寝かしつけてあるぞ」

 

憤然な男を無視して、女性はハナダの峠へと向かう。一人になった男は小型の端末を耳に当て、しばらくすると、別の男性が機械音で呼び、電波の拾いやすい場所に移動してから一言の語気を強める。

 

「こちらA班だ。クチバシティの状況はどうだ?」

「B班だ。こちらもジムリーダーのマチスから快い協力もあり、チケットはすでに配り終えだぞ」

「…そうか。引き続き、警戒を怠るな…」

 

そこで端末を切り、落ち着いた様子でポケットに入れる。常人であれば犯罪を行う際、挙動や表情に変化はあるも、顔色一つ変えずに常人と同じ動作を行う。この男には犯罪すら普段の行動と何も変わらない様子であった。

 

「…事前にヤマブキシティの警備員を買収しておけば行動範囲など制限される。ハナダシティとクチバシティにいるトレーナーを我々の企画した船に招待すれば、必ずイーブイを隠し持った奴がいるはずだ。どんな手を使っても必ず手に入れてやる…」

 

子どもの誘拐や脅迫の意識を通り越し、全てを通り越し、男の目はここではないどこか遠いところを見つめていた。

 

 

 私は誰だろう。人が言うには私は『イーブイ』というポケモンらしい。でも私はどこから生まれたのか分からない。母親は誰なんだろう。父親は誰なんだろう。いや…もしかしたら、そんなのは初めからいないのかもしれない。

 私と一緒に居てくれる女の子は『蕾』の名前を持っている。人間と呼ばれずに『蕾』は誰かがそう呼んでいたのかな。誰かが『蕾』の存在を認めてくれたのかな。私も『イーブイ』じゃなくて『特別』になりたい。誰かにそれを認めてもらいたい。そう呼ばれたい。

 あのボールはポケモンには快適と聞こえていたけど、あの狭い中は居心地が悪そうだから入りたくない。少し揺れるけど、この中は暖かくて優しい。よく分からないけど、ここは落ち着くなぁ。

 

のどかな時間はイーブイの周りをすり抜けていくようだった。旅は道連れ世は情け。新種のポケモンを連れた蕾は、耳を動かすイーブイと後をついてくるニドラン♂とボールで寝ているコイキングと共に、クチバシティへと向かう。

 

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