また、今回のポケモンバトルは7割はノンフィクションであり、2割はアニポケを含み、1割はフィクションです。
ノンフィクションはダイパリメイクでのシロナ戦を参考にしています。
6話 二人の王者!栄光への挑戦!!
蕾がハナダシティを出発して数週間たっても、クチバシティは平穏で特に変わりはない。海の港に漁船の停泊した街であり、近くには山もある自然に恵まれた土地だ。恵まれた自然による森の迷路は旅人を迷わせることで有名なのはクチバシティに住む人ぞ知る豆知識である。そんな平穏な場所から、今日は場違いな声が響き渡る。
「やっとクチバシティに着いたよー!」
「キュイーッ!」
久方ぶりの建築物のある街のど真ん中で蕾とニドラン♂は両手を高く上げた。主に似てきているせいか、ニーちゃんは蕾の仕草を真似るようになり、いまでは四足歩行と二足歩行を使い分けるほどの器用さを持ちあわせている。ニーちゃんの器用さはクチバシティに向かうまでの道のりにあった。耳の大きい野生のニドラン♂はツンとした耳が敏感であり、頻繁に痒くなる。
木や小石の少ない道のりの中を歩くうちから、足場に捉われない両足立ちを練習し、手で耳を引っ張って耳裏を掻く仕草を身に付けていた。旅に適応するポケモンの進化した知識と成長の証である。実は大きな耳を均等に折り曲げて短い両手を伸ばして耳を掻く仕草は、蕾のお気に入りだったりする。
トレーナーの蕾もイーブイを預かる責任感とポケモンバトルの成長に板挟みにはなっているも、ポケモン達には自信のある指示を出しており、旅は順調だ。これまでの蕾は、漠然とチャンピオンになりたい気持ちでポケモンバトルをしていたが、時折ニドラン♂やコイキングやイーブイのお手入れをしながら反省会をする様になった。着実ではあるも、前に前へと進んでいる。
だが旅に出ているとはいえ、彼女は10歳の少女だ。性ホルモンが活発に生成される大切な時期であり、ホルモンバランスは崩れやすい。つまり、心が不安定になりやすい第二次成長期の真っ最中である。悩みや責任を抱えた少女は、ポケモン達には隠してはいるも、実は疲れていた。
(ここまで何日もかかっちゃったから、少し休むついでにママに連絡しよっと!)
傍からは元気に見える蕾は、近況報告も兼ねてマサラタウンにいるママに連絡をいれようと、ポケモンセンターへ向かった。
一
「あら、蕾じゃない。電話してくれるなんて何かあったの?」
「…うぅん。何でもないよママ。久しぶりに声が聞きたくて」
流石に、イーブイの件は言わなかった。オーキド博士にも口止めをされているし、悪い人にママやパパを危険にさせたくは無い。オレンジ色の髪を撫でながら、充実した旅をしている風を装い、母親には寂し気な言葉で返した。
「そっか、そっか。いまどのあたり?」
ママは軽い口調のまま、蕾に問いかける。
「クチバシティにいるよ。今着いたばかり」
それから旅のことを話した。ニビジムの戦いやお月見山のピッピのこと。これからクチバシティに停泊しているサントアンヌ号のパーティに参加することを。ママは軽やかにはっきりとした言葉で私を拗ねさせ、時に冗談で笑わせてくれた。ほんの少しだけ、肩が軽くなった気がした。
「大変そうね…気晴らしになるかは分からないけど、今日の13時にテレビを見てみなさい」
「何かあったっけ?」
「やっぱり、知らなかったわね。でも仕方ないか。ママも旅をしていた時は、ニュースとかには疎かったからね」
世間知らずな皮肉にも聞こえる声かけでも、力強い声で言う。パパはカントー地方を、ママはガラル地方を旅している。二人はポケモンリーグで出逢い、ライバルとして戦い、そして切磋琢磨してる間に結婚する関係になったそうだ。
「シンオウ地方で久しぶりにチャンピオン戦があるの。それもあなたと同じくらいの歳の子よ。せっかくなら、休憩のついでに視てみなさい」
「…ありがとう、ママ」
「……大変なら無理はしなくていいわ。あなたの旅は…パパもママも応援しているからね」
「うん!私、頑張るよ!!」
不意打ちに似たママの言葉を、蕾はそう宣言する。電話を切った後の母親は大きく息を吐いた。あの落ち着きのない娘と何気ない旅の土産話は、親子というよりも、ポケモントレーナーとしての成長過程のように睦まじく、穏やかに感じた。母親はソファでのんびりと聞き耳をたてて座っていた父親の隣に座り、その時の微笑みや頬を膨らました顔を、決して忘れない様に胸に刻もうと心に決めた。
まだこの時では予感でしかないも、それでも無意識の中で急に連絡の無くなることを懐いていたのかもしれない。明るく眩しい愛娘との幸福な思い出は――突然の通報で、痛みに変わるのを。
一
ポケモンリーグ。それは地方のバッチを8つ集めたトレーナーのみが集まる競演の場だ。大会のルールは二種類に分かれており、その地方で極めたポケモンを繰り出す四人のポケモントレーナーである四天王との連戦ルールとチャレンジャー同士で最後の一人になるまで戦うトーナメントルールに分かれる。そして最後の一人は、頂点に立つチャンピオンとの勝負になる。
シンオウ地方のポケモンリーグは上空を飛ぶ小型カメラを首に括り付けたキャモメとスタジアムを埋め尽くす観客の視線は、ある一点にそそがれていた。年に一回で行われているトーナメントルールではない。最も厳しい四天王との連戦ルールを乗り越えた実力者の登場に期待と熱気は高まっていた。
「さぁ、久しぶりの幕開けだー!!ここシンオウ地方は熱気で盛り上がってるぜ!!」
実況者の煽りに、観客は同調する。
「今回の挑戦者は最年少での挑戦だ!!フタバタウン出身のトレーナー『コノハ』!!!」
左右に開かれた厚い扉から現れた一人の少女は、ゆっくりとステージに移動する。青いセーターに羽織った黒色のジャケットに黄色いポケモンのワッペンを付けている。薄い水色のフリルのあるスカート。コットンの帽子を被ったツインテールが印象的な女の子だ。
「さぁ、ここでチャンピオンの登場だー!!!」
人差し指を天に向けた実況者の声が、これから来る人物を示唆する。観客やカメラに緊張がはしった。
「無敗の美女であり、追い込まれることなくチャレンジャーをいなしてきた我らがシンオウのチャンピオン――シロナ!!!」
割れんばかりの歓声を背後に横断幕の噴煙から膝まで伸びた長い金髪を下した女性が姿を現す。上下黒のスーツに胸元には灰色の雫型の飾りを付けている。下した前髪から左目を隠しているも、力強い右目は挑戦者を捉えていた。
「あらためてチャンピオン戦のルールを説明するぜ!使用ポケモンは三匹。どちらかが先にゼロになった方が負けの勝負だ。きずぐすりは使用できないが、きのみの使用や持ち物を持たせるのは認められている。相性が悪ければ、交代もありだぜ――さぁ、まもなく始まりだ!」
二
バトルフィールドに地を着けるコノハの全身は、観客席とは違う気圧に高揚感を抱えていた。四天王との戦ったバトルフィールドの様な同じ場所の類ではない。より高貴で闘争心を燃やし――全身の血液という血液が冷え――指先に神経が集まってくる触覚。それらは全てを形容すれば¨楽しい¨に言い換えられるだろう。
「あなたがこれまで感じたこと、ポケモンとの絆…私にみせて頂戴!」
「私は私の全力で戦います!いきますよ、チャンピオン!!」
互いに心情を言い、反対方向に離れていく。
「両者、バトルフィールドに立ち――今、バトル開始!!!」
審判による闘争の鐘に、コノハの心拍音、呼吸音、それと体温は一体化した。
「いけ!『ドタイトス』!!」
「天空に舞え!『トゲキッス』!!」
同時に出したボールからポケモンが姿を現した。亀にしては甲羅から巨大な巨樹を持つ、たいりくポケモン『ドダイトス』をコノハは繰り出す。シロナからはしゅくふくポケモン『トゲキッス』が現れ、宙を一回転して地上にいるドダイトスに視界を捉えた。
「相性は私が有利ね! トゲキッス『エアスラッシュ』!」
羽ばたかせた風をドダイトスに向けて扇ぎ、コノハもろとも眼を瞑らせてしまう。風にしては暴風を殴りつけるより、刀で切り刻む表現に近い。だが、ドダイトスはトゲキッスを睨み付けたまま、どっしりと構えている。
「こんな攻撃じゃあ私のドダイトスは倒れないわ!『ステルスロック』!」
口から無数の小石をばら撒き、やがて無色透明な色に変わって空気と同化した。見えない石は機雷に変わり、シロナの繰り出すポケモンや勢いよくフィールドから離れたポケモンに反応して襲い掛かる。充分にフィールドの主導権を握れたコノハは余裕の構えで『ドダイトス』をボールに戻す。
「ありがとう、ドタイトス…貴方の想いは無駄にはしない!!」
ドダイトスのボールを胸に寄せ、腰に付けたベルトにボールを引っかける。手探りで6個のボールに触れ、左から二番目のボールを取り出す。
「いくよ!『ミロカロス』!」
流れる星と水泡の弾ける演出からいつくしみポケモン『ミロカロス』の透き通った声を会場に通らせる。一瞬で荒波を穏やかな海上に戻したポケモンの出現に、シロナは微かに口を横に伸ばす。彼女も同じポケモンを持っている。だからこそ、このまま攻めては返り討ちにあう技の存在に、彼女は別の作戦を指令する。
「トゲキッス『でんじは』!」
上空から急降下したトゲキッスは、左右の羽を広げて電撃の波紋を浴びさせる。鮮やかな飛行能力からの技にも関わらず、ミロカロスの動きは機敏のままだ。艶めかしい長魚から赤い炎をチラつかせているのを、シロナは見逃していなかった。
(『でんじは』が効いていない。そう…『かえんだま』を持たしてるのね)
『でんじは』を放つまでの僅かな時間に起こった状態異常の原因を彼女は考察する。トゲキッスが上空から降りるまでの時間はそうかからない。ドダイトスによる耐久力とステルスロックを警戒するあまりに、安全域まで飛翔して起きた時間ロスにより――『でんじは』よりも『かえんだま』による状態異常のタイミングを逃した。ここまで裏の裏まで読んだ試合運びをする挑戦者の実力は、四天王を倒したと言われても納得できる。
そして同時に、コノハもミロカロスの射程範囲にある低空域に降りたトゲキッスを見逃さない。
「ミロカロス『ドラゴンテール』!」
しなやかに鱗の尾からトゲキッスをフィールドに吹き飛ばした後は、ドダイトスの『ストレスロック』が反応し、見えない小石が一瞬のうちにトゲキッスに襲い掛かる。この一連の動作に、白い羽を広げて伸びてしまった。
「トゲキッス、戦闘不能!」
審判の判定により、シロナはモンスターボールにトゲキッスを戻す。
「よく頑張ったわ。ゆっくり休みなさい」
ここは僅かながらでもシロナの失策であった。だがトゲキッスの残してくれた彼女の戦い方を、シロナは吉報と捉えていた。この程度の逆境はすなわちこちらの勝機だ。後ろに伸びた金色の髪をなびかせ、次のポケモンを繰り出す。
「鉄壁を砕け!『ルカリオ』!」
ボールからは人間と見間違うはどうポケモン『ルカリオ』が構えをしたまま、ミロカロスを見据えていた。
「ルカリオ『はどうだん』!!」
「ミロカロス『どくろをまく』!!」
上空に向かって前進でろくろを回すミロカロスに、ルカリオの青白い球弾で遮られる。空間を凝固させた弾丸に技を止めてしまう。
「ルカリオの威力が強い!『じこさいせい』!!」
「連続で『はどうだん』!!」
黒いかすり傷を瞬時に塞ぐも、ルカリオによる連撃は止まらない。だが、ルカリオとて、チャンピオンのポケモンとして数々の挑戦者と戦ってきた古い強者であった。ましてや、普段からシロナのミロカロスと組み合い稽古をしているだけに、何度も叩きこめば勝負がつくと分かっていた。
「ミロカロス、戦闘不能!」
やがて、力尽きたポケモンはバトルフィールドに横たわる。すぐにコノハはボールに戻し、次のポケモンを選ぶ。
「お疲れさま『ミロカロス』。もう一度お願い『ドダイトス』!!」
先ほどまでトゲキッスから逃げたポケモンの出現に、会場の観客から軽い野次が飛ぶ。第三者からの見解では、ただステルスロックを撒いただけかもしれない。当事者にしか分からないトレーナーの駆け引きをする二人には、観客の野次など耳には届かない。
「ドダイトス『のろい』!」
ドダイトスから紫の蒸気を漂わせ、顔に血管を浮かせる。全身の血流を遅行させて素早さを犠牲に、攻撃と防御を高める技だ。抜きんでた防御力と攻撃力を持つポケモン。耐久力を上げれば、先ほどまでの連続攻撃は通用しなくなる。
「そんな隙は与えないわ!ルカリオ『じしん』!」
バトルフィールドに渾身の拳撃を叩きこみ、大地を割る。大地を踏む両脚の力に、腰の回転、肩のひねりを相乗した、全身の瞬発力からなる攻撃。打撃音が会場に鳴れ渡り、その衝撃はドダイトスへと向かう。
「今よ!!ドダイトス『じしん』!」
大地を支配するポケモンに『じしん』の波を推し量るのは造作もない。甲羅に生えた木を目印に寸前での技は観客席にも影響を与えた。応援で直立していた観客は、外に投げ出される様な感覚に座り込んでしまう。観客の落ち着いた時には、ルカリオは仰向けに倒れ込んでいた。
「ルカリオ、戦闘不能!」
何が起きたか分からない状況に、観客は戸惑ってしまう。その状況を見ていた実況者は高らかに解説した。
「これは凄い!!ルカリオの『じしん』に合わせて、ドダイトスの『じしん』が炸裂したぞ!この技に競り勝ったのはドダイトスだー!!」
「あなたは素晴らしい戦いをしてくれたわ。ありがとう」
シロナは相性の不利をものともしない戦いをしたルカリオを労う。彼女の最後のポケモンは既に決まっている。彼女の出身地である『カンナギタウン』からずっと一緒にいる最高の相棒だ。彼女の心に反応したか、手持ちの一匹がカタカタと震えていた。
三
「私の最後のポケモンはあなたしかいないわ。いきなさい!『ガブリアス』!!」
「私はポケモンを入れ替えます。お願い!『ムウマージ』!!」
薄く伸びたエラ状の刃に尖った顔をしたマッハポケモン『ガブリアス』と紫の被りに胴体の宝石を身に付けたマジカルポケモン『ムウマージ』の登場に、観客の期待は高まる。ガブリアスは攻撃力を、ムウマージは特殊攻撃の得意なポケモンだ。しかし、シロナとコノハは落ち着いたまま別の作戦を連想していた。
「ガブリアス『つるぎのまい』!!」
「ムウマージ『わるだくみ』!!」
ガブリアスのエラに光を集め、ムウマージの目は赤く純血する。お互いに拮抗した状況にひしめく空気。先に動いたのはムウマージだ。
「ムウマージ『シャドーボール』!」
全神経を集中させた黒い球状のエネルギー弾をガブリアスに放出させた。この技はゴーストにのみ感知できる怨念を集合させた実態のない攻撃である。ムウマージに突撃したガブリアスは勢いを落とさず、鋼色まで研ぎ澄まされたエラを滑らせ、バトルフィールド外へと軌道を反らさせた。
「うそ!?シャドーボールを弾いた!?」
「ガブリアス『ドラゴンクロー』!!」
技を出した一瞬だけおきる精神の途切れたムウマージに、ガブリアスの手刀を味わう。ジェット機に負けない速さに上乗せされた手刀はどのポケモンも立ち上がれない。ムウマージはフラフラになりつつも、地上の落ちる寸前でふゆうをしていた。意識の遠のく感覚を、トレーナーと出会った場所を思い出して踏み止まっていた。
「よく耐えたね!ムウマージ『ほろびのうた』!!」
「ガブリアス『ストーンエッジ』!」
鮮麗に聞こえたコノハの声から喉の痞えに逆らいながら歌声を張り上げる。ムウマージに向かわず、地面を叩きつけたガブリアスの衝撃から呼び起こされた尖った岩が全身に突き刺さった。先にドダイトスとルカリオの『じしん』で割れたバトルフィールドによる、遠近攻撃である。
「ムウマージ、戦闘不能!!」
小刻みな呼吸音のするムウマージをボールに入れる。少なくともかなり無茶をさせてしまった。頷いて深い溜息をついたとき、次の一手を決める決定打を繰り出した。
「最後はやっぱり頼っちゃうね。大地を揺らせ!!『ドダイトス』!」
コノハのエースであるドダイトス。シロナのエースであるガブリアス。二匹のポケモンは、同時に咆哮した。
「ガブリアス『ドラゴンクロー』!」
「ドダイトス『のろい』!」
ガブリアスの鋭利な刃による連撃にもドダイトスの姿勢は崩れない。次第にガブリアスの身体に黒い斑点を目立たせ、ムウマージによる『ほろびのうた』に蝕まれる。
「もう時間がないわね…あのドダイトスはかなり固い。でもね…」
あと数分もすればガブリアスは黒い斑点に浸食されて戦えなくなる状況にも関わらず、シロナは淡々と言葉を繋げていく。
「あなたがドダイトスを信頼してるように――私もガブリアスを信じている!いきなさい、ガブリアス!!」
広げた両翼に力を込めて、ガブリアスは身体を大きく振り上げる。始まりから変わらぬ雄姿。主人をチャンピオンにして幾多の開戦を経てなお不敗。無双にして、シロナとの絆の象徴。過去現在未来を通した一人と一匹は高らかに、その技を言う。
「「げきりん!!!」」
解き放たれた竜の因子に、かき集められた感覚は閃光と化し、渦巻く放流は大地を支配した。
(これまで見たことのない桁外れの威力!それにあの鋭い刃――攻撃力を上昇させる『つるぎのまい』の影響か!)
苦々しい顔をしたまま、四本脚で踏ん張るドダイトスを見る。
(限界が近い。それでもドダイトスが諦めないなら――私も諦めない!!)
もはや、『ほろびのうた』での戦闘不能は望めない。先にガブリアスの攻撃でドダイトスの体力は尽きてしまう。だったら温存していた最後の技でガブリアスを倒す。はどうだんによるミロカロスの『じこさいせい』で水気を含み、このひび割れたバトルフィールドの条件が揃い、初めて最高出力を出せる草タイプ最強の打撃技を。
「真っ向勝負よ!『ハードプラント』!!」
割れた大地から大木のように太い蔓がガブリアスに向かう。蔓を力任せに叩き落とすガブリアスによる砂埃で観客には試合の状況は分からない。一度の打撃音から静まり返るバトルフィールド。上空からマイクを握ったまま、実況者でさえ一言も話さない。
「いい勝負だったわ。これ以上の言葉はない」
誰にも聞こえないほど小さな声で言うシロナ。砂埃の晴れたバトルフィールドには――動かないドダイトスと千鳥足のガブリアスがいた。
「遂に決まったぁー!!激戦に次ぐ激戦!!最後に勝利を手にしたのは、我らがチャンピオン『シロナ』だ!!」
ある観客は叫び、ある観客は一定の強さで拍手をして祝福する。
「シンオウ地方からチャンピオン戦をお届けしたぜ!!ここまでみてくれてありがとな!またどこかで会おうぜ!!」
テレビの中継はここで終わる。テレビ画面はニュースの報道に切り替わった。
四
「チャンピオン戦…すっごい戦いなんだね。見てるこっちもドキドキしちゃったよ」
「キィキュ~ッイ」
ポケモンセンターで飛び跳ねるニドラン♂。さっきまで蕾の隣でじぃと熱心に見ていた。
「エブィ~」
窓の隙間風に耳を揺らすイーブイ。不愛想な態度ではあるも、実はテレビの前ではかじり付くように鑑賞していた。
「コォ~ゴォ~」
何の前触れもなく寝ているコイキング。ちなみにチャンピオン戦もずっと寝ていた。最終的にニドラン♂とイーブイに胴上げをされて床に落とされてからようやく起こされた。何度も見慣れた光景であり、二匹の雑な起こしかたには苦笑してしまう。
「よし!せっかくサントアンヌ号で沢山のトレーナーと戦えるんだもん。いっぱいバトルして強くなろうね!!」
ポケモンセンターで三匹を診てもらい、意気揚々とサントアンヌ号の停泊している港へと歩を進める。街では感じにくかった磯部の香りは強くなってきた。入り口付近を通り過ぎようとすると受付カウンターで呼び止められる。
「サントアンヌ号へようこそ…ちょっとお客さん、チケットはありますか?」
「あ、そっか。すっかり忘れてました。これですよね」
蕾はハナダシティのジムリーダーから貰ったチケットを差し出す。
「はい…はい、結構です!ようこそ、サントアンヌ号へ!!」
堤防から長い通路を渡ればお目当てのサントアンヌ号の全貌が明らかになる。しばらく眺めていると、半袖姿に青いネクタイを締めた男の人に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、ここの乗客は対戦を望んでいるトレーナーもいますが、長旅で退屈している方もいらっしゃいます。船を荒らさなければ、暇つぶしになりますので積極的にポケモンバトルをして下さい」
「わ、分かりました」
男性に返事をしてから、サントアンヌ号に乗れる昇り階段を歩いていく。海辺で高いところに上がったせいか、海風の香りとそよ風は気持ちいい。船の室内に入る取っ手を握り、軽く開きかけた時であった。
「なんだかなー!!!」
油断していた蕾は、突然の大声に身体をのけぞらしてしまう。室内は広く、天井には白のガラス細工を施したシャンデリアにモンティークの本棚や蓄音機の家具。その中央では選り取り見取りの鮮やかな食事が並べられていた。
何事も無ければ華美さを強調したホテルのような内装に見惚れていただろう。ある男性が、コックに惜しげもない称賛を送っていなければの話だが。
「美味い!絶品!!最強だ!!このオクタン焼き!!!もう二パック買うぞ!」
膝まで伸びた緑色のコート。茶色のグローブに金色の髪の毛に茶色の長ズボンが男の姿を強調させている。オクタン焼きにはしゃいでいる姿よりも、男の声に驚いた蕾はあっけに取られてしまうのであった。