虹色の背景色がうごめく空間の中、私は椅子に座っている。
そして向かいにあるのは4つの椅子。他は本当に何もない。なぜならここは天界でもなく、現世でもない空間だからだ。
これから集まる4人を迎えるために私がこの場所を用意した。これから始まるゲームにはなくてはならない存在だ。別に歓迎するほど会いたくて会うわけではない。というより、はっきり言って全員消し飛ばしてしまいたいくらいでもある。
しかし、それはそれで気に入らない。
彼を最も愛しているのは私だ。彼が私を見てもおそらくわからないだろうが、あの時の暖かさ、優しさ、そして幸福感は永遠に忘れることはない。
天使としての力を使って邪魔者を排除するだけなら、所詮、力でゴリ押しているだけに過ぎない。彼を誰よりも愛しているということを愛をもって証明してこそ価値があるのだ。
私だけが彼を救い、私が一番彼を愛することができる。私が天使だからではなく、私が私だからだ。私は気を紛らわす意味でも、そしてほんのわずかな幸せな時間を思い出すために、すべての始まりを思い返していた。
_____________________________________
当時の私は本当に愚かだった。
人間に全く興味がなかった私は神の使いであることもすっかり忘れ、あちこちに遊び惚けていた。
力が弱くても人の意思や物理法則を少しぐらいじることなんてどうってことない。たびたび現世におりたっては人間にまぎれて彼らの娯楽や仕事を学び、時に壊し、時に進めた。
天使の役割など私にはどうでもよいものだった。
人に愛を伝え、人に幸福を教え、世界のために生きる。
他人が掲げたスローガンほどつまらないものはない。私はただ、私のために、私の気が赴くままに私の力を使い、運命を捻じ曲げて遊んでいた。
私のせいでおそらくは多くの人間が不幸に陥ったのだろう。まあ、幸福にした人間もいたかもしれないが、私が変えたということが問題になったのだ。
そして、怒ったお父様……最高神に数年間、地上で弱きものとして暮らせと声が響くと同時に地上に落とされた。
気が付いたときは固い地面に冷たい風が吹き荒れる道の真ん中で倒れていた。ろくに体を動かせない状態で体を引きずった結果、私は黒く、小さく、弱く、汚いという私から見れば醜い獣になっていた。
自分の姿が猫というものに変えられていたことに時間はかからなかったが認められず、少し唖然としていたのを覚えている。
しかし、おなかは減るから必死であたりをさまよった。犬に追い回され、鳥につつかれ、人間の子供に石を投げられもした。
周りが敵だらけという状況はこんなにもつらいものなのか。
気が付いたら倒れていた。
死んだら私はどうなるのだろう。また別の罪を背負わされるのだろうか。まあ、どっちでもいい。天使として生きていようが、ほかの何かで生きていようが、ただ退屈なだけだ。
しかし、ふと不思議な感覚を覚えた。
「大丈夫かい!?」
やさしい声とともに、引き上げられる。目を開けられないので顔も見えないが、なんだか心地よい。猫の体になってどころか、天使でいたころさえ感じたことがなかった。
「(暖かい)」
目をつぶっていても確実にわかるその温かみは、限界だった私の意識を簡単に手放した。
ただ、絶望感で満ちていたはずの私の心に、何かがしみわたっていったという感覚だけははっきりと覚えている。
____________________________________
ふと気が付くと猫から見ても小さめの部屋にいた。消える直前まで一緒にいた暖かい感覚が消え去ったことにひどく不安を覚え、必死で声を上げていた。もっとも自分の耳に入るのは猫の鳴き声だけだったが。
寂しい。心細い。誰かにいてほしい。
すぐさま、願いが叶い、扉が開いた。天使としての力なんて何も使ってないのに、困った顔をした彼は私の願いをかなえてくれた。
「お小遣い、減っちゃうな……」
当時彼がつぶやいた言葉だった。短い言葉でも私を助けてくれた人間のものだと分かった。
そしてあとから分かったのだが、彼は私を飼うか否かで両親とだいぶもめたらしい。そして、私の食費はすべて彼が負担すること、もちろん世話はすべて彼がやること、成績が下がったら飼育をやめること。という条件で承諾させたらしい。
「いいよ、お前は何も心配しなくていいからね」
私の頭をなでてくれた。ついついボーっとしてしまいそうになる。顔立ちはいろいろな人間の顔を見てきたが普通の少年のようだった。
しいて言うなら、顔から優しさとそして、ちょっと弱弱しい感じはした。天使の姿の時だったら鼻で笑って一瞬で興味をなくしてしまったかもしれない。
「僕でよかったら、友達になってほしいかな?」
その寂しげな声と暖かくて手から伝わる優しい彼の熱が再び私を包み込んだ。
意識を手放しそうなぐらい心地よい感覚と、永遠に感じていたいという矛盾めいた幸福感だった。
「僕はユウ。よろしくね」
ユウ……ユウ様……誰かに様付けするなんて考えたこともなかったが、私は彼のことをそう呼びたかった。
「そうだ、名前をつけてあげないとね」
私の名前は、と声に出そうとしてもミャアミャアという鳴き声しか出ないことをわかっていても必死で伝えようとした。しかし、やはり声はろくに出ない。
「そうだな……君の名前は」
私の名前は、私の名前は。
(ユマです)
「ユマだ」
はっきりと運命を感じた瞬間だった。
______________________________
それから月日は流れた。私の中で彼の存在はどんどん大きくなっていった。
自分でも醜いと思っている姿を彼はとてもやさしく整えてくれた。毛並みをヘアブラシで整え、私のために必死で猫のための料理を作ってくれて、いろいろな景色を見せてくれた。
おそらくろくに生物の世話なんてしたことがなかったのだろう。それでも私のために一生懸命やってくれる彼に愛おしさがあふれて止まらなかった。
猫のえさを食べるのに抵抗がなかったといえばうそになるが、必死で彼が選んでくれたことを考えたらどんなものでもおいしく感じられた。
彼の気をひくために、なんとなくいたずらをしてしまったこともあったが、彼は怒りながらも最後は優しく許してくれた。
わかっている。
彼が愛してくれたのは猫の姿の私であって天使としての私ではない。
でもここまで愛されて、ここまで大切にされて、何よりここまで私のことを理解してくれた人はいなかった。私の寂しさを埋めてくれた人はいなかった。
私の中で暖かい感情が沸き上がっていた。もう2度手放したくない。永遠に彼の暖かさに包まれていたい。もうずっと猫のままでもいいぐらいだ。
いや、それじゃだめだ。
私を拾った時から今までずっと続く彼のさびしそうな目が忘れられない。私を拾ったのもきっと優しさと寂しさを合わせた感情があったからだろう。
優しさ以上にその寂しさに惹かれたのだ。私がかつて天使でありながら責務を全うしなかったのもどこか寂しさを覚えていたから。
元の姿に戻り、私の力をすべて使ってでも、彼のことを幸せにしたい。
世界を遊びまわっていた私だが、人にここまでの感情を感じたのは初めてだった。「好き」だの「愛してる」だの言いあっている男女を何度か見てきたがどこか冷めた目線で見ていた。どうせすぐ分かれて終わりだ、とか胡散臭い詐欺みたいな言葉だ、と。
ああ、私は愚かだった。本当に愚かだった。
こんなにやさしい人間がいたというのに、こんなに幸せな感覚を教えてくれたというのに、気づかなかったなんて。
やがて私の刑が解かれるその時まで、私はただただ幸せだった。
そしてどこまでも愚かだった。
一緒にお風呂に入り、彼の肌を見もせず、ただ彼と一緒にいる幸せだけを感じていた。
彼の傷が増えていっていることに気づきもしないなんて。
実はこの小説はとある方が書いた小説を判別不可能なほどアレンジして作ったものです。
そっちの投稿が続くの期待しているんですけどね……。