ヤンデレ綾小路(♀)   作:どこはかとなくやばい人

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二ヶ月空きの更新でも過去最速とかいう悲劇


第5話

 ケヤキモール。

 カラオケやゲームセンターなどの娯楽施設、スーパーマーケット等の食糧雑貨店、果てはブティック等も網羅した、学内唯一にして最大の大型ショッピングセンターである。

 

「人多いなぁ、おい」

「まぁ、休日の昼間だからな。混んでいるのも無理はない」

 

 お互いの予定が中々合致しなかった故よりにもよって日曜の昼間という最も混んでいる時間帯に出向くことになった俺と綾小路は、現在野菜が置かれた棚の前で品物を吟味している最中だ。

 買い出しなら俺でなく他の女子に頼めば良いのでは、と思いはしたが、綾小路が繋がりを持つ女子は佐倉や王、井の頭など、皆揃いも揃って非力なメンツ。

 先日の件であまり親しくない人間に頼むのも憚られるであろう以上、俺が駆り出されたのはある種必然と言えるだろう。

 

「……それ、目で見てなんか分かるもんなのか?」

「正確ではないだろうが、なんとなくな」

「はえー、凄えなお前」

「この程度、ネットで軽く調べれば誰でもできることだとは思うが……」

「いやいや、俺みたいなタイプはそもそも調べる気すら起きねーからな」

 

 良くテレビで"いい野菜を見分ける方法"とかその手のコーナーが流れている所を目にするが、大抵翌日になればそんな知識は忘却の彼方。

 俺には、綾小路が手に取ったトマトと陳列されている他のトマトの違いなど全くわからない。

 世の主婦は良くやるもんだよなぁと、変な方向に思考が流れている俺の肩を軽く叩き、レジに向かうと声をかけてくる綾小路。

 

「あ、悪い。ぼーっとしてたわ」

「いや、私も選ぶのに時間をかけすぎていたからな。仕方あるまい」

「そーか。んで、今日の買い物はこれで終わりか?」

「あぁ」

 

 そう返事をした直後、俺の耳に入ったのは何処からか聞こえた小さく腹が鳴る音。

 スーパーとはいえ利用者のほとんどは学生、喧騒に塗れる中離れたところで鳴ったその音が聞こえるはずはない……と言うより、恐らく音の発生源は俺の前にいる少女。

 

「…………三谷」

「ど、どうした」

「今、お前は何も聞いていなかった」

「は?」

「お前が聞いていたのは周囲の雑音のみだ。他の音はその一切が耳に入っていなかった。……いいな」

「あっはい」

 

 そう鬼気迫る顔をして言われれば、俺に首を縦に振る以外の選択肢などあるわけもなく。

 赤くなった綾小路の耳という露骨な藪蛇要素を回避しつつ、買い物カゴをセルフレジの台座へ置いた。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「…………すまない」

「いや、まぁ。腹減ってたんならしゃーないだろ」

 

 レジで会計をした後、商品を袋に詰める際に再び綾小路の腹が小さく鳴った。

 このまま帰れば更なる被害拡大の危険があると判断した綾小路は、このままケヤキモール内で昼食を取ることを提案し、それを俺が受け入れたことで今に至る。

 スーパーの袋を持ってレストランに入ることは割と非常識なんじゃないか、と思いはしたが、店員が快諾してくれた為、そこは置いておくとしよう。

 

「それにしても…‥前々から思っていたが、お前はもう少し食生活に気を配った方がいい」

「ぐっ……しゃあねえだろ、野菜嫌いなんだから」

「子供か」

 

 チキン南蛮やトンカツに添えられた千切りキャベツ、ハンバーグについてくる人参、クルトンではない、粒々のコーンが入ったコーンスープ。

 常人からしたら何も思わないであろうそれらですら、俺からすれば全てが初見殺しの罠と化す。

 

「……お前さえ良ければ、偶に料理を作ることも吝かではない。リーダーの一角が栄養失調で倒れたとなってはクラスの一大事だからな」

「や、流石にそれはな。これからは俺も少し意識してみるわ」

 

 意識はするが、実践するとは言っていない……と言いたいところだが、流石に気にした方がいいか。

 食生活が祟ってぶっ倒れる、なんてことになったら周りへの示しがつかない。とりあえず、明日から1日に1本野菜ジュースを飲むことにしよう。

 

「……うえ」

「そこまでか……。そのキャベツ、もはやタルタルソースの味しかしないだろう」

 

 チキン南蛮に付属してきた千切りキャベツを一口放り込んでみるが、何とも言い難い食感に顔を歪める。

 確かに味はソースそのものなんだが、噛んでいる最中、ある程度ソースのコーティングが剥がれ落ちたぐらいのタイミングで、俺の味覚を純然たるキャベツが刺激するのだ。

 

「口に入れられるだけ、昔に比べりゃマシになった方だとは思うんだけどな」

「……そんなに酷かったのか、お前の野菜嫌いは」

「あー、まぁ、な。俺もあんまし覚えてないんだが、昔は口に入れるだけで即座に吐いてたらしい」

 

 おかげで、孤児院の職員さん達はメニュー決めに随分と苦労したらしいーーーそこまで言ったところで、綾小路が見せたのは、驚愕ーーーではなく、いつも通りの無表情。

 出生不明の……いや、これはさっき話したことからは分からないか。

 とにかく、孤児である、という誰にも話していなかったこの事実、別に隠していたわけではないにしろ、それなりのインパクトを持つ事実だとは思うんだが……。

 

「……なんつーか、驚かないんだな」

「顔に出ないだけだ。内心はかなり動揺している」

 

 とてもそうは見えないが、まぁ彼女がそう言うならそうなのだろう、と。

 俺としても不幸自慢をしたいわけでもなければ、これ以上広げる必要のある話題でもない。

 彼女が気にしないでいてくれるのなら、それでいい。

 

「……ところで、だが」

 

 ハンバーグプレートに追加で頼んだ大盛りライス、オレンジジュースをコップ数杯。

 よほどお腹が空いていたのだろう、成長期の男子高校生に勝るとも劣らない量を食べ終えた綾小路は、真剣な表情でこちらを見据え、一言。

 

「……このような空気で、これを言うのも申し訳ないんだが。追加でハンバーグを一つ、頼んでも構わないだろうか……」

 

 無表情のまま顔を赤く染める綾小路を前に、ノーと言うことなどできるはずもない。

 俺の返事に無言で一つ頷いた綾小路は、店員を呼び出して、先まで食べていたハンバーグプレートと同じものを注文していた。




目標は後二話で畳むことです。無理です。
珍しく既に次の話を書き始めてるので、何とか半年後ぐらいには投稿できそうです、多分。
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