「…………」
学年末に差し込まれた、新たな特別試験。
この一年で退学者が誰も出なかったが為、無理矢理にでも誰かを退学させる目的で差し込まれためちゃくちゃな内容のソレを前に、このクラスの雰囲気は正に地獄と化していた。
櫛田、堀北、俺が矢面に立ってなんとかクラス全体を宥めようとしたが、客観的に見てまず間違いなく退学候補からは程遠い俺たちの言葉を彼ら彼女らが聞き入れるわけもなく、敢えなく撃沈。
女子を扇動できる為、俺たちの中で空気改善に1番の頼みの綱となる平田も何やら思い詰めているらしく、話しかけたところで生返事しか返ってこない。
結果として、疑心暗鬼に塗れたこの空間が生まれた、と言うわけだ。
「……あぁ、クソ」
かく言う俺も、表に出さないまでも内心はかなり荒れていた。
それは何故か。時はこの試験の説明が終わった直後、退学者を定めるべく話し合いーーーいや、罵り合いを行っていた時のこと。
過去に散々クラスに迷惑をかけた健、単純にヘイトを集めやすい寛治と春樹、能力不足が槍玉に挙げられた佐倉や篠原、過去の騒動でクラスに迷惑をかけた健。
そんなメンツを差し置き、退学候補筆頭として掲げられたのは、現在昏睡中の少女ーーー佐藤麻耶。
曰く。
自分たちよりも、在籍しているだけで数的不利を作っている佐藤の方がクラスに迷惑をかけている。
佐藤を退学にすることで、現状このクラスが抱えているハンデである数的不利をもとに戻すことができる、とのこと。
「三谷」
「綾小路か。どうした?」
「試験に関する話し合いを、と思ってな。この試験は他クラスからの賞賛票である程度退学させる人物をコントロールすることが出来る。無対策で試験に挑むのは危険だ」
流石に平田や櫛田と言ったリーダー格を退学させるのは不可能に近いが、確かに退学候補No. 1に賞賛票を注ぎ込めば、退学候補No.2を退学させること自体は可能ではある。
「そうか、他クラスからの賞賛票を買えばいいのか」
「三谷が買う必要はないと思うが。私もそうだが、今までお前に世話になった生徒から賞賛票も入るだろうし、何より批判票が入る要素がない」
「……まぁ、そうだな」
麻耶のことだ、と。
そう言うかどうか少し迷ったが、流石に不特定多数の目があるこの場で言うべきことではない、と自重する。
俺個人が用意できるppはせいぜい200万程度、それを聞きつけた他の退学候補の面々が結託すれば容易に上回ることができるであろう額。
自分たちに対して賞賛票を散らして入れるように、という契約をされてしまえば、現状でさえトップクラスにヘイトを集めている麻耶はまず間違いなく退学になる。
「あー……クソ、やっぱダメだな。すまん綾小路、今日のところはこれぐらいにしといてくれ。俺も気持ちの整理が必要だ」
「……まぁ、そうだな。わかった、整理がついたら連絡を入れてくれ」
麻耶を護る、ということは、それ即ちクラスの誰かを切り捨てる、ということになる。
それに加えて、退学候補はよりにもよって全員俺とそれなりに親しくしている人物。
俺は、どう動くべきなのだろうか。それとも、何もせずに退学者を見送るべきなのだろうか。
「……クソが」
言葉で言い表せない感情を暴言を吐くことで誤魔化しながら、勝手な自己嫌悪に陥った。
☆☆☆☆
単なる能力不足と、数が少ないという不都合の解消。
前者を取るなら山内を、後者を取るなら佐藤を退学させるべきである、そしてそのどちらを良しとするかの結論を出すことはできなかった、と。
幾多の話し合いの末、現時点で唯一まともに稼働していると言っていいクラスのリーダー、堀北鈴音は、頭を下げてそう言った。
曰く、山内は今までの行動から今後もこのクラスの弱点になり得る。池や須藤と違い局所的に役に立つ可能性も低く、同じく能力不足の面々よりも欲に直球なところがあり、裏切る可能性すら存在している、と。
曰く、単純に数は力。今後の試験でもクラスの総合力を問われる場面があるのは想像に難くなく、その際に人数が1人欠けている、という事実が致命傷になる可能性も存在する、と。
クラスの反応はまちまちと言っていい。
松下や軽井沢、篠原と言った佐藤と仲のいい面々は山内に。須藤や池と言った比較的山内に情を持つ面々は佐藤に。
錯乱した平田が自分に投票するように呼びかけてはいたが、王やその他平田に恩のある女子生徒の様子を見る限り、仮に批判票がいくつか入ったとしても間違いなく賞賛票で帳消しされるであろうことから、彼の退学可能性は限りなく0に近い。
堀北が二択まで絞ったことで恐らく批判票の投票先もその2人に固まり、突発的な投票で他の誰かーーー例えば先に挙げられていた佐倉や池が退学になる可能性も極めて低いと言っていい。
両者とほとんど接点のない面々は、どちらかと言えば山内に批判票を入れる空気になっている、と推測できる。
合宿試験での対応を含めた日頃の行動に、極度の虚言癖。
様々な要因が重なり合った結果、彼の人望が地に落ちているが故だろう。
「……綾小路、今、少しいいか」
「三谷か。……すまない。本当に申し訳ないんだが、これから少し用事があってな。その後でいいか」
他クラスとの密会もあり得るこの状況、詳細を告げない用事など怪しさの塊でしかない。
それにも関わらず、それを許容してくれるのは、彼の甘さか、今まで稼いだ信頼のなせる技か。
先程の覚悟を決めたような顔ーーー恐らく山内に投票する決心を付けたそれを見るにどちらかと言えば後者だろうな、と、そんな自惚れた思考をしながら廊下を歩く。
「……すまないな、待たせたか」
「いえ、時間ちょうどですね。私の気持ちが逸りすぎていただけですので、お気になさらず」
待ち合わせ相手、杖を付いた小柄な少女ーーー坂柳有栖は、にっこりと微笑んだ。
真面目にそろそろ畳みたいので、ちょっと更新ペース上げます