仮面ライダーゼロワン ―We are Dream― 作:私だ
・迅
→皆さんご存知身体は大人頭脳は子供だったヒューマギア
滅亡迅雷.netという組織の一員であり、かつては人類を滅亡させるという目的を掲げ大規模なテロ活動を行っていたが、現在はその成りを潜めて各地を転々としている
今回の事件をいち早く察知し行動を開始していたが、どうやら彼には事件を通して何か思う所が有るらしく、それが今回の話の肝となっていく
・中須 かすみ
→虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一員
腹黒小悪魔系スクールアイドルを肩書きとしており、"可愛い"という概念に強いこだわりを持っている
それ故に少々困った癖を持っていたり持っていなかったりしており、今回はその癖が話の引き金となる
「………。」
とある昼下がり。
学校に通う生徒達が放課後、部活等で各々の実力を発揮する頃。
「コソコソ…。」
虹ヶ咲学園の生徒用玄関、そこに何やら…本人は隠れているつもりらしい…怪しい人影が。
「にっしっしっしっ…!」
その人影はとある生徒達が使う下駄箱の前に立つや、周りに誰も居ない事を確認し、付けていた変装用…のつもりらしいサングラスを外し、その素顔を露にする。
露になったその人物の正体は中須 かすみであり、彼女の前の下駄箱には、同好会のメンバーの名前が書かれている。
そして彼女の右手には、お手製のコッペパン9つが入ったバケットが。
「今甦る、あの悪夢のような日々…!」
彼女の目的は、このコッペパンを各部員の下駄箱に入れる事だ。
一体何の為にと思われるが…実はこのコッペパン、敢えてカロリーを増し増しにしている。
何も知らずに食べれば乙女にとって由々しき事態に繋がりかねない程のそれこそが、かすみの狙いなのだ。
同好会のメンバーは仲間であると同時にライバルだ…それだけ実力が拮抗している中で自らの存在を誇示する為には、そのライバル達を蹴落とすしかない。
だからこの高カロリーのコッペパンを下駄箱に仕込む事でメンバーにパンを食べさせ、体重を増やさせるのだ。
そうなれば彼女達は体型維持の為にダイエットに勤しみ、日々の練習が疎かになって練度が下がり、相対的に普段のペースをキープしている自分が一番となる。
かすみの考えた、最高最恐の作戦だ。
因みに侑の分は普通のカロリーだ。
彼女は
「た~っぷりと味あわせてやりますよ~…!」
普通に考えれば下駄箱に入っている差出人不明のパンなど誰も食す訳が無いのだが、これでも彼女は必死だ…誰もが絶対成功しないであろうと口を揃えて言う事を、絶対成功すると信じて疑わない程には必死だ。
今まであらゆる手を尽くしても達成出来なかった悲願を前にかすみの手は震え、エヘエヘと変な笑いを浮かべて…変装などいらない、完全に不審者の姿だ。
そして彼女はまず手始めに歩夢の下駄箱へ手を伸ばし、いよいよパンをその中へ…。
「…何してるの?」
「うひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
…入れようとした所で誰かに声を掛けられ、計画はあえなく未遂となる。
持っていたパンを全て地面にぶちまけ、よたよたとその場を離れ、廊下の壁に背を付いてそのまま腰を抜かして…。
「な、な、な、な…!?」
中々にオーバーな驚き方をしたかすみは、そのまま自身をこうさせた原因たる存在を視認する。
この学校では異質な、職員では無い大人の男性…黒いスーツに袖を通す、癖のある髪が特徴的なその男性は、へたり込むかすみに向かって歩み寄り、上半身だけ屈めて彼女と急接近する。
「中須 かすみちゃんだよね?ちゃんと顔を会わせるのはこれが初めてだね…これからよろしく。」
そのまま優しい笑みを浮かべる男性であるが、かすみはその笑顔に絆される事は無い。
何せこの男性の事を、かすみは全く知らないのだから。
その口振りから或人や不破、唯阿の仲間である事は察せるが、だからと言って初対面である…急に親しげに話されても警戒心の方が勝ってしまう。
そんなかすみの様子に男性は自身の事を全く紹介されていないと思ったのか、あれ?ゼロワンから話聞いてない?と首を傾げてから己の正体を明かした。
「僕は迅、滅亡迅雷.netの迅だよ。よろしくね。」
「滅亡迅雷.net…!?」
彼の名は迅…かつてこの世界を恐怖に染め上げようとした、あの滅亡迅雷.netの一員だ。
つい最近ではメンバーの1人を誘拐しかけた、世界的にも認知されているテロリスト…それが今目の前に居る事実に、かすみの身がすくむ。
向けられる態度は味方のそれ…だが彼に課せられている悪行の数々が、その態度を鵜呑みにする事を拒ませる。
そんな彼はところでさ…と言って床に散らばるパンの1つを拾い上げると、それと歩夢の下駄箱を交互に見た後にかすみに向かって問い掛ける。
「これ…パンだよね?何で下駄箱に入れようとしてたの?」
「え!?え~っとぉ…!?」
それは先程かすみが行おうとしていた一連の行動の真意について。
しかしそれは語ればただの悪戯に他ならず、どう答えても自分が不利になるばかり。
果たしてテロリストに悪戯は良くないと言及され、説教でも喰らう羽目になってしまうのか…!?というよく分からない状況を想像して冷や汗を掻くかすみであったが…。
「こういうのってさ、ちゃんと相手に渡すものなんじゃないの?僕にはわざわざ下駄箱に入れる意味が分からないんだけど…。」
そんな予想とは全く違う言葉が続けられ、かすみは頭の上に
かすみでも思い付くぐらい、普通ならばこの分かりやすい事情を察せられて呆れられるか、それこそ彼女が考えたように説教喰らうかになりそうなものだが、目の前の彼は本当にその理由が分かっていない様子。
今も散らばった他のパンを回収しながらしきりに首を傾げており、そんな姿を前にしたかすみは…。
「…あ、あっれ~~~?知らないんですかぁ?今世間ではこうやって物を渡すのが流行ってるんですよぉ☆」
何をトチ狂ったか即興の嘘を付いた。
「…わざわざ下駄箱の中に?」
「そ、そうですよ~!ほら、学校だと下駄箱って絶対行く場所じゃないですか?だからもしその中に何か入ってたら絶対手に取って見るでしょう?」
明らかに訝しむ迅に対し、かすみは若干早口で最もらしい事を言ってのける。
その内心は無論、明らかなる動揺で溢れていた。
こんなバレバレの嘘を付いてやり過ごせると思っているのか…いや、そんな事は全く無い。
悪戯に加えて嘘まで付いて、こんな事をすれば誰でもかすみに対して説教フルコースを選択する事間違い無しだ。
「成程ね、普段の生活でルーティーンになっている部分に訴え掛けるのか…。」
「そうですよぉ☆ほら、漫画とかでよくあるじゃないですか、下駄箱開けたらラブレターがドサーって!あれと同じ事ですよぉ☆」
「漫画やラブレターはよく分からないなぁ…後でラーニングしてみようかな。」
だというのに目の前のテロリストはかすみの言う事を真に受けてしまうのだからさぁ大変。
今更引くに引けず、またも最もらしい事を並べて強引に話を通していく。
と、その中で気になるワードが出てきた事でかすみの饒舌が一旦止まる。
「ラーニング…?」
ラーニング…それはヒューマギアが何か物事を学習する際に用いる言葉だ。
覚えた、や、学んだ、といった言葉と同義であるその単語は、人間ではまず使わないものだ。
それを会話の中で使うという事は、目の前の彼は…。
そんなかすみの考えを察したのか、迅はそれを肯定するかのような笑みを浮かべながら、拾い集めていたパンをかすみに渡す。
「え、でもちゃんと耳あるし…ヒューマギアって皆あの変な機械付けてるんじゃ…!?」
「僕は特別にこういう形にしてもらっているんだ。上手く人間達の中に紛れ込めるようにね。」
言われてみれば、彼の左耳にはヒューマギアモジュールと同じ光と音を放つアクセサリーが付けられている。
しかしそれは教えられなければ気づかない程日用的な小物と見紛う見た目をしている。
元々ヒューマギア自体、耳周りさえ気にしなければ本当に人間と遜色無い見た目をしている…彼の言う通りこのままの状態で人混みに紛れてしまえば、傍目では完全に見分けが付かないであろう。
それを単純な技術の成果として見るか、それともそれを応用してテロ活動を行い、今まで世間にその名を馳せていたと見るか…かすみの純粋な心は半々といった具合でそれを捉え、結果としてより強く彼を意識する事となる。
「それにしても、今流行りのプレゼントの手渡しか…そういう事情だったんだね。ごめんね驚かせちゃって、お詫びに手伝おうか?」
「え?…い、いや良いですよ!かすみん1人で出来ますから!あっち行っててください!」
そんな彼が興味津々といった様子で近付いてくるものだから、かすみは慌ててその場を立って彼から離れる。
しっしっとあしらわれ、それ以上の関わりを拒絶された迅だが、彼は変わらぬ笑顔でそれを気にしている様子は無い。
「迅。」
「あ、滅。どうだった?」
「問題ない、部室までの道のりは把握した…行くぞ。」
と、外の方からまた1人男の姿が。
その男は先日東雲学院のライブの際に現れた人物であり、
抑揚に欠ける、あまり人間らしくない言葉のイントネーションから、恐らく彼も目の前に居る迅と同じヒューマギア…それも呼ばれた名前から、滅亡迅雷.netに所属する者であろう事が分かる。
そんな彼は迅に長居は無用と言い、本来の目的への同行を促した。
どうやらこれから部室…恐らくスクールアイドル同好会の…そこへ向かうらしい。
「分かった、じゃあ僕は行くね。それと…改めてこれからよろしくね。」
「わ、分かりましたから早く行ってください!それと私が今やってる事、誰にも言っちゃ駄目ですからね!秘密にするのもこれの大事な所なんですから!」
「へぇ~、そうなんだ。じゃあ誰にも言わないでおくよ。」
ヒラヒラと手を振り、先を行く滅の後を付いて校内へ姿を消していく迅。
それを見送ったかすみは、も~、何なんですか一体…と深く溜息を吐く。
急に話し掛けられたと思ったらそれが世界的に有名なテロリストたる滅亡迅雷.netの一員であり、しかし話してみたらまるで何も知らない子供のような一面を見せて…。
そんな感覚の掴みにくい者の相手をしていたら、誰でもこんな風に疲れるものであろう。
「でも…。」
悪戯作業を再開し、だがその中でかすみは彼に対し1つだけ確証が得られた感覚があったとして、その口角を怪しく上げる。
「ヒューマギアって…案外チョロいかも?」
問題は確証を得たそれが、あまり褒められたものではないという事だ。
「スクールアイドルフェスティバル?」
「はい!前に私達で開催した、スクールアイドル皆が集まるライブです!」
一方同好会の部室では、或人が同好会のメンバーからとある行事についての話を聞いていた。
"スクールアイドルフェスティバル"…それはかつて虹ヶ咲学園が中心となり開催された、各地のスクールアイドル達が一同に会する大きなイベントだ。
スクールアイドルが集うイベントと言えば既に"
「へぇ~良いね!まさに夢の共演って感じだね!」
「そうなんです!前は私達と東雲学院、あと"
どうやら前回のフェスがそもそも初めての開催であったらしいのだが、その成果は大成功という事でスクールアイドル界隈でも瞬く間に話題になったらしく、となれば第二回の開催…それも大幅にアップグレードした規模で行いたいと思うのは自然な事であり、或人もそれを否定しようとしなかった。
―関東圏内のスクールアイドルと呼ばれる学生達が、突如奴等に襲われ始めた。
―運良く軽傷で済んだ子も居るけど…大抵は生活に支障をきたす程の重体。中には命を落としてるなんて子も決して少なくない。
「社長さん?どうかしました?」
「えっ…あ、ううん何でもない。そっか、皆は今それに向けて練習してるんだね。」
「はい!まぁまだいつ開催するかは全然決まってないんですけど…。」
しかし途端に或人の脳裏に過ったのは、先日の滅と迅との会話であった。
狙われているのは決して虹ヶ咲の少女達だけではない…他のスクールアイドル達も狙われている。
そんな中で合同イベントとなれば、それは各地に散らばっていた餌が一点に集まる格好の場所となる。
これ見よがしに戦火も集中し、その分被害も増えるかもしれない。
普通に考えれば少女達の身を案じてフェスの開催を止めるよう進言する所であろう。
「良いよ、俺も何か手伝える事があるなら手伝うよ!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
しかし或人はその意思を曲げなかった。
少女達の事は必ず守り抜く…フェスの開催が彼女達の夢であるのなら、それも守ってみせる。
人とヒューマギアの夢の為に戦う…それが飛電 或人、仮面ライダーゼロワンなのだから。
「お邪魔するよ。」
と、部室のドアが開き、室内に居る者に来客を告げる。
しかしその来客が発した声色が男性のものであった事に皆首を傾げた。
この部屋に男性が来るなぞ珍しい…最近では確かに或人や不破が来る事も多いが、今の声はそのどちらのものでも無かった。
同好会の中にはそもそも男性は居ないし、ならば一体誰が、とドアの方を見てみると…。
「滅!?迅!?どうしてここに!?」
そこには意外も意外、あの滅亡迅雷.netの2人が立っていたのだ。
「言ったでしょ、近い内に会いに行くって。一応この娘達への挨拶も兼ねてね。」
どうやら先日の用件を果たすのと同時に虹ヶ咲の少女達と面識を持つ為にここまで来たらしく、まず迅が一歩前に出て自らの名を少女達に向けて聞かせる。
「始めまして、虹ヶ咲学園のスクールアイドルの皆…あぁ、
「一応…?」
「迅、そんな不安にさせるような事…。」
優しく、笑みを崩さず、まるでテロリストである事を感じさせない柔和な雰囲気。
しかし言葉の節々がやけに不安を煽るようなものであり、少女達に悪印象を与えかねないと注意しようとする或人。
しかし迅はそれを故意に言ったものであるとし、どうかな?と言って或人と向き合う。
「僕達はあくまでヒューマギアの為に戦ってるからね。今回の事件がまだどんな背景で動いているのか分からない以上は皆の味方で居るつもりだけど、もし今回の事件がヒューマギアにとって理がある事だとしたら…ね?」
「迅…。」
仮面ライダー…それは或人達を象徴し、また彼等を繋ぐ言葉であるが、その言葉をどのように定義しているかはそれぞれ異なる。
人とヒューマギアが共に笑い合える世界を作る、その為の力だと定義している或人。
街の平和を、そしてそこに生きる命を守る為の力だと定義する不和。
人もヒューマギアも関係無く、心有る者を守る為の力だと定義した唯阿。
この3人の思想は多少の違いこそあれ、いずれも共通して人を守る事が絶対として視野に入っている。
しかし滅と迅、この2人は違う。
ヒューマギアにシンギュラリティを促し、彼等に自由を与える…それが迅の定める仮面ライダーの定義であり、滅は二度とこの世界に強大な悪意が生まれぬよう世界の監視を行うものとして仮面ライダーを定義した。
2人もまた、その思想に多少の違いこそあれ、共通して人間を守るという事を絶対として視野に入れていない。
2人にとって絶対としているのは、人間では無くヒューマギアなのだ。
だから必要とあらば、人間達の命に手を掛ける事を厭わない。
ヒューマギアの安息の為ならば、誰と敵になろうが構わない。
長い付き合いで勝手も知っているが、彼等は決して"仲間"では無いのだ。
改めてその事実を突き出され押し黙ってしまう一同を前に迅は構わず、次は滅の番だよと言って話の流れを渡した。
「…滅だ。」
……………。
「…いやそれだけ!?もっと何か無いの滅!?」
「無いな。」
そしてそのあまりにも淡白な態度に、或人は思わずその場でずっこけてしまう。
迅は迅でだいぶ割り切った態度だったが、滅も滅で馴れ合う気ゼロという。
一応とて味方だというのに、2人して困ったものだ…少女達もどう反応して良いやらと困惑している。
そんな第一印象最悪の2人を前にして肩を落とす或人…すると再び部室のドアが開き、さらなる来客を室内に居る者に示唆する。
「おっ邪魔っしま~す☆すみませ~ん、かすみんちょ~っとだけ遅れて…げっ、まだ居た…!」
入ってきたのはかすみ…彼女はドアを開けるや早速きゃるんきゃるん♡と猫を被った仕草を取るが、目の前に居る滅と迅の2人を見て早々に被った猫が引っ込んだ。
「あれ、かすみちゃんとはもう会ってたんだ?」
「うん、さっきちょっとね…大丈夫だよ、さっきの事は誰にも言ってないから。」
「へっ!?」
さらにその一足早い出会いについて聞いてみれば、何故かかすみは目を白黒させながら迅に詰め寄る。
「ちょっ、何言ってるんですか!?そんな事言ったらかすみんのいたずrゲフンゲフン…かすみんが変な事してたって思われちゃうじゃないですか!?」
「さっきの事?」
「い、イヤナンデモナイデスヨ~…。」
さらに口を開けば怪しい素振りを見せて…かすみの事を良く知る虹ヶ咲の少女達からすればあぁまたかと、逆に彼女の事をあまり知らない或人からすればどうしたのだろうかと詮索したくなるが、そうして身を乗り出そうとした所を滅に肩を掴まれて防がれる。
「飛電 或人、話がある…付いて来い。」
滅はそう言うや、足早に部屋を出ていってしまう。
彼等がここに来たのは以前言っていたヒューマギア製造リストの閲覧の為だ。
滅の性格上、恐らくさっさと用件を済ませようという魂胆なのだろうとは思ったが…。
「この娘達は僕が面倒見ておくよ。あぁ、僕の事はゼロワンと同じように気にしないで。」
「なっ!?そんな面倒見てもらうような事なんて無いですよ!」
それにしてはわざわざ別の場所に行こうというその提案が分からない。
確かにリストは機密情報ではあるが、何もそこまでする必要など…。
しかし滅はもう部屋の外で或人が来るのを待っている…或人は事情を追及したい気持ちを一旦抑え、気と足の早い彼の後を追い掛ける事にした。
「それで、話って?リストの事なら迅も呼んで…。」
「それとは別でな。」
虹ヶ咲学園の屋上…と言っても学園の屋上自体が特殊な造りをしている為、実際には屋上下のテラスと言うのが正しいか。
公的使用には生徒会への申請が必要な為、校内でも比較的人が居ない場所である…何か秘密を有するならうってつけの場所だ。
そんな場所にやってきた或人と滅は数歩距離を置いて互いに向き合う。
「部屋に入る前に聞こえたぞ、スクールアイドルフェスティバルだったか…まさかやらせるつもりではないだろうな?」
向き合った2人の間に流れる空気…それは今平和である筈の学園の中で唯一と言っていい程に剣呑なものに包まれていた。
ともすれば一触即発とでも言うようなその中で、2人は互いに視線を外さず対峙し続ける。
「前にも言った筈だ、今は関東のスクールアイドル全員が狙われていると。今後の次第では、その範囲が全国にまで拡がるかもしれん…そんな状況で奴等の好きにさせていたら、奴等の命が無いぞ。」
そんな中で紡がれた滅の意見、それは至極最もなものであった。
放置しておけばヒューマギアの存在意義にも関わりかねない事態とはいえ、それこそ普段人間を第一に考えていない滅がその考えを曲げる程にまで状況を冷静に、そして現実的に見ている。
その真っ当な意見の前では、或人がこれから語ろうとしている事など理由にすらならないであろう。
「でも、あれは彼女達の夢なんだ…なら俺はその夢を叶えさせたい。」
「それで大勢の人間が犠牲になるとしてもか?」
「そんな事はさせない、絶対に…俺が守ってみせる。」
それでも、心に決めた事がある。
人間とヒューマギアが共に心から笑い合える、そんな世界と夢の為に戦う…初めて仮面ライダーという力を手にした時から決意していた、今までもこれからも変わらない想い。
これまでの関わりから滅もよく知っているそれを改めて提唱し、理解を得てもらおうとする或人。
「…変わったな、飛電 或人。お前はそんな事を言う奴ではなかった。」
「っ…。」
しかし滅はそれに対して理解を示さなかった。
或人の発言に落胆したような表情を浮かべた滅は、しかし途端にいや…と先の発言を訂正した。
「ある意味変わっていないのかもしれないな…何れにせよ、今のままではまたあの時と同じ様に失う事になるぞ。」
そう言うや、話はそれだけだと言って滅は踵を返して屋上から姿を消した。
或人はその後を追う事無く、その場で滅から与えられた意見に打ちひしがれていた。
「あの時と同じ様に、か…。」
それは目を閉じずとも鮮明に思い起こせる記憶。
伸ばしたこの手が届かなかった感覚も、決して忘れていない。
忘れてはならない、戒めの記憶。
あの時と同じ様になど…。
「そんな事…。」
絶対にさせない。
そう発した筈の言葉は、しかし声になって溢れる事は無かった…。
迅とかすみ、どう頑張っても相性悪い組み合わせ
だが後悔はしていない