【ナハトヴァール】を吹っ飛ばして万事解決―――とはいかなかった。
「クロノくん、はやてちゃんは……!?」
「彼女は魔力の消費から気を失っただけだ。リンカーコアへの侵食も止まっていて、命に別状はない」
高町の質問にクロノさんがそう答える。
【ナハトヴァール】の完全消滅が成功し誰もが安堵する中で、八神が気を失ったのだ。
幸い、ユニゾンが解けたリインフォースさんが抱き抱えたので怪我することはなかったが。その後はアースラの医務室で横になっている。
「そっか。じゃあはやてとリインフォースは大丈夫なんだね?」
「「…………」」
テスタロッサの笑みを浮かべながらの言葉に、クロノさんはおろかユーノまで無言。
まだ何かあるのかと思っていると、その答えはユーノがもたらした。
「【夜天の書】……リインフォースは現在、自己崩壊が進行しているそうだ。このまま進めば三ヶ月……長くても半年しかもたないそうだ」
「「「……え?」」」
ユーノのその言葉に自分はもちろん、高町とテスタロッサも何処か抜けた声を発してしまう。
リインフォースさんが自己崩壊?それも遠くない未来で消える?なぜ!?
『……原因は《ディバイドモード》による強制的な切り離しですね?』
スコールのその推測に、ユーノだけでなくクロノさんも頷いた。
「ああ。外部から強制的に切り離されたから、基礎構造に致命的な損傷を受けたと言っていた。【ナハトヴァール】と共に切り離された無限再生機能はもちろん、転生機能も死んでいるそうだ」
つまり、自分のせいでリインフォースさんが死ぬっていうのか!?
『契約者のせいではありません。そもそもあのまま放置すれば主は死に、周囲に多大な被害をもたらしたでしょう。むしろ契約者はバカなりによくやった方です』
スコールが慰めているようだが、慰めにもならない。
だってリインフォースさんが……【夜天の書】が消えるってことは彼女達も一緒に消えるってことだろ!?
『確かにそうなりますね。守護騎士と【夜天の書】は―――』
「いや、騎士達は残る」
スコールの言葉を否定するように、リインフォースさんと守護騎士のみんなが部屋に入ってきた。
守護騎士達は残るって……?
「主はやての覚醒に乗じて、守護騎士プログラムを【夜天の書】から独立させた。その為に、ナハトとの分断の際には損傷を受けないように全力で保護していた」
『その分、貴女にダメージがいったと……行動からして契約者の賭けに乗り気でしたね?』
「騎士達を主の下に残そうと思えるくらいにはな。だから気にしないでくれ」
リインフォースさんは自分を気遣うようにそう告げるが、自分の心は晴れない。
「リインフォースさん。【夜天の書】を直すことはできないの?」
「……もし修理すれば、新たな防衛プログラム……より強力なナハトを構築して再び暴走してしまう。本来の基礎構造の記録も喪われているから、どうしようもない」
高町の縋るような問いに、リインフォースさんは首を振って否定する。
「《無限書庫》は!?《無限書庫》には何でもあるんだろ!?なら【夜天の書】の本来の基礎構造が載ってる本がある筈だろ!?」
自分は周りに訴えるように叫ぶ。その声に高町とテスタロッサは確かにといった表情をするも、他のみんなの表情は険しいままだった。
『バカを言わないで下さい契約者。あの大量の本の中から目的のものを探すのは、相当な時間を有します。半年以内に見つけるのは絶望的です』
「なら凍結は!?凍らせたら何とかなるんじゃないか!?」
『なりません。確かに凍結封印を施せば崩壊は止められるでしょうが、完全停止することはないでしょう。主との繋がりを利用して活動の完全停止を防ぎ、逆に【闇の書】としての力を取り戻す可能性が高いと判断します』
スコールのその推測に、リインフォースさんは肯定するように無言で頷く。
時間は稼げない。逆に暴走のリスクを高めてしまうことに自分は俯くしかできなくなった。
『第一、本来の基礎構造の記録があろうと修理は不可能です。絶対に崩せない条件があるのですから』
絶対に崩せない条件……?
スコールのその言葉に自分はもちろん、高町とテスタロッサも首を傾げてしまう。
『まさか本気で忘れているのですか?いくら子供とはいえ、肝心な情報を忘れるのはバカの極みですよ』
ぐ……反論したいのに反論できねぇ!
『いいですか?
「「「あ……」」」
スコールのその指摘に、自分達はそうだったと思いながら声を洩らす。それも一因となって【夜天の書】が【闇の書】として動き続ける羽目となったのだから。
『それに修理には相応の知識も要ります。守護騎士プログラムの場合は上辺の破損だったので権限のみで十分ですが、本体の深刻な歪みは権限だけでは解決しないはずです。そうですよね?』
スコールのその言葉にもリインフォースさんは無言で頷く。
つまり、本来の基礎構造の記録があっても八神にしか修理できないから、デバイスの製作や修理の知識と技術がない八神では修理だけでもかなりの時間を有してしまうということ。
それも暴走しないように抑えながらと考えれば……【夜天の書】の修理はあまりにも絶望的だと、理解せざぬを得なかった。
『それで?貴女はどうするのです?崩壊を加速させてすぐに消えでもしますか?』
「……いや。残された時間を主の為に使う。最初はこのまま消えるつもりだったが、騎士達に主の為に使うべきだと説得されてな」
『妥当ですね。そういう訳で契約者、リインフォースの余命は改めて契約者のせいではありません。むしろ共に過ごせる猶予を作る切っ掛けとなったことを誇るべきです。それを傘に守護騎士達に鍛えてもらいましょう』
「厚顔無恥にも程があるだろ!?」
あまりにも平常運転すぎるスコールに、自分は頭を抱えてしまう。
『後、【夜天の書】の記録容量に関しての情報を貰えないでしょうか?それを下に契約者と私専用のデバイスを新造し、私が作った術式をそこに保存したいので』
「ああああああああああああっ!!」
あまりにも要求しまくるスコールに限界を感じ、スコール本体を出現させてその場でガンガン床に打ち付けていく。
『契約者、意味不明な行動を取らないで下さい。明らかな非効率です』
「お前は!もっと!相手を!気遣え!!」
自分のその行動と言葉に高町達はおろか、守護騎士達でさえ同情するような視線を向けてくる。
「……なあシグナム。あれってあんなに酷かったか?」
「私の知る限りでは、もっと機械的だった筈だ。見方次第では変わってないとも取れるが……」
「少なくとも、契約者に淡々と従っていた……と思うわ」
「あれは長年次元を漂流していたそうだ。私達と違って時代の齟齬が激しいだけだと思うのだが……」
「それを抜きにしてもあれは酷すぎるだろう」
その後、スコールの要求は嘆息と共に受け入れられることになるのであった。
それと守護騎士達の処罰は、リインフォースさんが消滅してから正式に下されることともなった。
――――――
―――『闇の書事件』から一週間。
「最初と比べれば鋭さは増しているが、まだ無駄に力が入っているな。スコールが頑丈とはいえ、それでは先にお前が息を上げてしまうぞ」
「努力……します」
自分は今日もシグナムさんの特訓を受けていた。
『やはり同じベルカ系統の者との特訓が効率的ですね。ミッドの術式は魔力攻撃に依存しているので、どうやっても契約者にアドバンテージがあるので』
不本意ながらその通りなんだよな。近接タイプのテスタロッサとアルフでさえ苦戦する始末だったし。
高町?バスターとシューターが全然効かないから、近接で割とあっさり負けて悔しがってたのが新しい記憶だ。
「それでも苦戦を強いられるがな。今は長年の経験から優位に立てているが、成長すれば我々でも敵わなくなるだろう」
『おや、弱音ですか?夜天の主を守る騎士としては情けないですね』
だからスコール、露骨に挑発するな。
「確かにそうだな。主はやてをこれからもお守りする為にも、私も精進せねばな」
シグナムさんはあっさりとスコールの挑発を流し、逆に意気込んだから良かったけど。これがヴィータならギガントハンマーで突撃だからな。
おかげで突撃技《ジェットアサルト》を使えるようになったけど。
『それを逃げる為に使ってましたがね』
「うっさい」
スコールは呆れてるが、それもお前が喧嘩売ったのが原因だからな?
「飛ぶのって、楽しいなー」
「はい……我が主」
ちなみにすぐ近くでは、八神がリインフォースさんに教えてもらいながら魔法の練習をしている。
八神の処遇はテスタロッサと同じになるそうで、来年の―――明日になれば今年だが―――春には高町達と同じ私立の学校に通うそうだ。
『契約者は公立ですから、彼女達とは別々ですがね。まっ、お金があってもバカな契約者の頭では私立の授業には着いていけないでしょうが』
……事実だけど、ホントムカつく。
それとリインフォースさんの余命の事も既に知っている。八神はそれを正面から受け止め、幸せな思い出を沢山作ると意気込んでいるから、本当に強いと思う。
「……お前達には改めて礼を言わないとな」
……またシグナムさんにお礼を言われたよ。
『これで十度目ですね。少ししつこいですよ?』
「済まないな。それでも礼を言わずにはいられないのだ。お前達のおかげで主はやては救われ、リインフォースも余命はあるが共に過ごせているのだからな」
『その見返りは既に貰っていますので大丈夫です』
相変わらずのやり取りを傍観していると、急に魔力の気配が感じられた。
『?いきなり魔力反応が現れましたが……少し妙ですね』
妙?何かおかしいところがあるのか?確かに前触れもなく現れたけどさ。
「スコール。それはどういう意味だ?」
『魔力パターンからして守護騎士とクロノ執務官のものですが、その魔力パターンが徐々に変化しているのですよ』
魔力パターンが変わってる?魔力パターンって変えられるものなの?
「反応は三つ……ここは手分けして当たるしかないな」
『妥当ですね。組分けは契約者と《剣の騎士》が単独で、八神とリインフォースは一緒でいいでしょう』
「ああ。それが最善だろう」
「せやね」
そんな訳で自分はクロノさんの魔力パターンがする方へと向かったのだが……
「……クロノさんが本当にいたんだが」
『クロノ執務官はアースラにいる筈ですが……』
若干服や髪の色が違うことを除けば、見た目はまんまクロノさんだよな。
「……それはロストロギアだな?何故君のような子供が持っている?」
「え?」
何で初めて見るような反応してんの?
『契約者。あれはクロノ執務官ではありません。解析の結果、あれは砕け散った【ナハトヴァール】のデータの集まりです』
【ナハトヴァール】のデータの集まり!?何でクロノさんの姿をしてるんだ!?
『知りません。どちらにせよご本人ではないので、サクッと倒してください』
……ヒジョーに不本意だが分かったよ。とりあえず《バリオンカノン》だ。
「いきなり攻撃か。だが―――」
クロノさんの偽物はシールドを張って受け止めようとしたが、簡易の魔力分断効果がある《バリオンカノン》を防げず、そのまま散っていった。
「……クロノさんってこんなに弱かったけ?」
『あれは魔力で強引に繋ぎ合わせた存在ですからね。本人より弱いのは当然ですし、まともに食らえばああなるのは必然です』
スコールは当然とばかりに言うが、釈然としねぇ。
『……次々と同様の反応が増えてますね。契約者、頑張って仕事しましょうか』
「……応」
ホントに釈然としないが、放置するのは論外なので此処から近い場所へと向かう。
道中でリインフォースさんからの通信で、今出ている反応が【ナハトヴァール】の残子―――通称【闇の欠片】だと確定して全員で対処することになったが。
「……今度はザフィーラかよ」
「誰だお前は?何故俺の名前を知っている?」
はい、偽物決定ー。《ワイドランサー》発射。
「ぐぅっ!?馬鹿、な……」
《ワイドランサー》を防ごうとして、見事に身体に穴を開けたザフィーラの偽物はそのまま崩れるように消えていった。
『仕事が早いですね、契約者』
「まともに戦ったら、たぶん負けるからなー」
八神はリインフォースさんとのユニゾンがあるからまだしも、自分はそうじゃないからな。実際、シグナムさんとザフィーラにはまだ勝ち星拾えてないし。
それに切り札の《ディバイドモード》はスコールが承認拒否して使えないし。
『当然です。安易に使うのは契約者の成長に繋がらないですからね』
分かってるつーの。それじゃ、次行こ次。
次の反応地点へと向かっていると、高町とばったりと出会した。
「高町、お前も―――」
「また暁くんの欠片!?レイジングハート!」
『Yes,Master』
「―――へ?」
いきなりの臨戦体勢に理解が追い付かずに固まっていると、高町はレイジングハートの先端に桜色の球体を形成する。
『Load Cartridge』
レイジングハートから薬莢が二本吐き出される。それに合わせて桜色の球体も一回り大きくなる。
「ディバイン、バスターッ!!」
レイジングハートから放たれる高町の十八番の砲撃魔法。それは自分に迫り―――
「危なッ!?」
我に返ってすぐにシールドを張ってギリギリで受け止めたが。
「ああ!?防がれちゃった!?こうなったら……!」
「待て待て待て!!マジでちょっと待て!!」
明らかに戦意マックスの高町に、自分は両手を振って必死に静止するよう言葉を投げ掛ける。
「アクセル、シュートッ!!」
高町はこちらの言葉に耳を貸さずに十以上の魔力弾を同時に放ってきた。
その魔力弾を自分は避けるが……何で問答無用で攻撃してくるんだよ!?
「マジで話聞けよ!自分は―――」
「レイジングハート!こうなったらエクセリオンモードで一気に―――」
だから人の話を聞けよ!?話し合いはお前が何時もやってることだろ!?
『バインド』
スコールがそう言った瞬間、高町は蒼色のリングで見事に縛られた。
「ああ!?」
『これで一先ずは安全ですね』
スコール、本当にファインプレイだ!幾ら相性が良くても生きた心地が全然しなかったからな!特にスターライトブレイカーを放ってきた時なんか!!
「てか高町!いきなり砲撃魔法ぶちかますとか何!?模擬戦で負けた怨みをどさくさに紛れて晴らすつもりだったのか!?」
『そんな訳ないでしょう』
スコールが溜め息でも吐きそうに呆れてるが、こうでも言わないと聞いてくれそうにないだろ!
『……Master』
「うん……」
ようやく気づいたのか、高町はめちゃくちゃ気まずそうな表情になっている。
「ねえ……暁くん」
「何だ?」
「ひょっとして……本物?」
「本物に決まってんだろ!?」
高町の半信半疑な質問に怒鳴り気味に返すと、高町は顔から分かりやすいほど冷や汗をかき始めた。
「ご、ゴメンね暁くん!!さっき暁くんの偽物と戦ったからつい……」
「つい……って、問答無用はさすがに酷いだろ!?」
せめて本物偽物の確認くらいはしろよ!マジで!!
「それはそのう……暁くんの偽物は、本当に苦戦して……ACSからのゼロ距離砲撃で何とか倒したから……」
『それで先手必勝ですか。契約者が動いてないなら有効ですか、今回に関しては悪手ですね』
「……本当にごめんなさい」
高町も申し訳なさそうに謝り、もう襲いかかってくる心配がないのでバインド解除―――
「ぶっ飛べぇええええええええええっ!!」
「今度はお前かぁあああああああああああっ!?」
しようとして今度はヴィータが襲い掛かってきた。
シールドでヴィータの一撃を防いだが……何で確認もせずに襲い掛かってくるの!?
『なのはだけでなく、《鉄槌の騎士》もですか。どれほど契約者の偽物は面倒なのですか』
「…………へ?」
スコールのその言葉にヴィータは何故か狐に摘ままれたような表情となり、そのまま攻撃を止めた。
「お前今、あたしのことを《鉄槌の騎士》って……」
『はい。そう言いましたが?前の《紅の鉄騎》が宜しかったでしょうか?』
「よくねぇよ!てか本物かよ!!本物ならなんでそいつを縛ってんだよ!?」
『彼女も貴女同様に襲いかかったので』
スコールがそう言った瞬間、ヴィータは高町に非難する目を向けてきた。
「何だよそれ!?こいつのせいであたしは余計な行動をしちまったのかよ!?」
「ええ!?私のせい!?」
『原因を作ったという意味ではその通りですね。確認せずに強襲した時点で同罪ですが』
「あーもー!全部こいつが悪いってことでいいだろ!?」
「ヴィータちゃんがそれを言う!?」
バインドが解かれた高町とヴィータは、そのままギャーギャーと口喧嘩してしまう。
「……どうすんの、これ?」
『放置してさっさと行きましょう。もう私達の事は眼中にないようですし、これ以上時間を無駄にするわけにもいかないので』
「……そうだな」
自分はスコールの言葉に素直に従い、高町とヴィータを置いて次のポイントへと向かうのであった。
ちなみにシャマルさんの偽物を倒した後、加害者が更に二名追加された。
「ジェットザンバーッ!!」
「うおりゃあああああああっ!!」
「マジでいい加減にしろよ!?」
『どれだけ先手必勝に拘るのやら』